気迫
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第一章
気迫
その年のワールドカップは酷いものだった、その開催国がだ。
自国に有利な判定、審判を買収までしてだった。
それを行わせ相手チームにはラフプレイの限りを行っていた、不可解な判定が相次ぎそれに加えてだった。
観客、サポーターのブーイングや下劣な人文字、下品な行動と枚挙に暇がなかった。その中で多くの強豪チームが開催国に敗れていった。
「この大会何だ?」
「あそこまでやるかあいつ等」
「これはもうサッカーじゃないだろ」
「徹底的に汚いな」
「酷い大会になってるな、今回」
「開催国の実力で準決勝まで行けるのか」
それは誰が見ても無理だった、だが。
相次ぐ不可解な判定の結果だ、そのチームは準決勝まで進んでいた。そしてその準決勝の相手はというと。
過去ワールドカップにも優勝した欧州のある国だった、だがこのチームについてもサッカーファン達は不安な目で見ていた。
「幾らあのチームでもな」
「今回の大会は異様だからな」
「負けるんじゃないのか?」
「ああ、また変な判定が出てな」
「それが何度も出てな」
「開催国が主力選手にラフプレイで怪我させたりしてな」
「負けるかも知れないぞ」
こう危惧するのだった。
「そして奴等が決勝進出か」
「サッカーが汚れるな」
「あの国のせいでな」
「あのチームでも」
「負けるかもな」
こう話すのだった、だが。
その中でだ、その欧州の国の看板選手であるキーパーのミシェル=ロレーヌは強い声で自国の選手達に言うのだった。二メートル近い顔に厳しい顔、目は細く鋭い。身体は全身筋肉と言うべき引き締まったものだ。
その彼がだ、こう言うのだった。
「あいつ等がどんな不正をしようともな」
「それでもですか」
「あいつ等が何をしようとも」
「ゴールには俺がいる」
ホカナラヌ彼がというのだ。
「だからだ、それこそ一点もだ」
「入れさせない」
「そうしてくれますか」
「ピーケーでも何でもだ」
それに持ち込まれてもというのだ。
「あいつ等には一点も入れない」
「そして勝つのはですね」
「俺達なんですね」
「そうだ、俺達だ」
まさにというのだ。
「俺達が勝つんだ」
「じゃあ俺達はですね」
「ロレーヌさんが守っている間に」
「一点でいい」
それだけで、とだ。ロレーヌは仲間達に答えた。
「一点あればな」
「奴等に勝つ」
「そういうことですね」
「そうだ、だから頼む」
その一点をというのだ。
「取ってくれ、奴等のシュートは全て俺が止めてみせる」
「わかりました、それじゃあ」
「ゴールは頼みます」
「俺達も何とか一点取ります」
「奴等の不正とラフプレイをかわして」
「向こうのサポーターも何してくるかわからないですけれど」
そうしたあらゆる選手の戦力以外の要素をかわしてだ、そしてというのだ。
「俺達が勝ちましょう」
「そして決勝に進みましょう」
「普通の相手にも負けないが」
ロレーヌはこうも言った、優勝を目指しているからこその言葉だ。
「あの連中にはな」
「絶対にですね」
「負けられないですよね」
「あの連中の何処がスポーツだ」
ロレーヌは忌々しげにこうも言った。
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