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関西納豆

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第四章

「何で志織さんも食べてるんや」
「私ですか?」
 その志織が応えてきた、小柄で黒のショートヘアがよく似合う少女の名残が残る感じだ。目はかなり大きい。
「納豆食べる理由は」
「それ何でや?」
 真一郎はその志織に問うた。
「志織さんが納豆食べる訳は」
「ええと。お父さんとお母さんが」
「あちらの」
「食べてまして」
 それで、というのだ。
「私も」
「食べてるんかいな」
「お父さんもお母さんも京都で生まれ育ってますけど」
「それでもかいな」
「普通に食べてます」
「京都も関西やけどな」
 ここまで聞いてだ、また首を傾げさせる真一郎だった。
「食べてたんかいな」
「そうですけど」
「ううん、何でやろな」
「うちはそうなんですけど」
「京都でも納豆食うなんてな」
「奈良でもやで」
 雄太郎も言って来た、ここで。
「スーパーでもコーナーあって何種類も売ってるで」
「そういえば大阪でもやな」
 真一郎も家の近所のスーパーのことを思い出して言う。
「最近は納豆のコーナーあるな」
「ほら、皆食べる様になってるやん」
「何でや、あんなもん皆食うんや」
「食べたら美味しいからやろ」
 雄太郎は父にあっさりと言った。
「僕も食べてみて美味しいさかいな」
「食べてるんか」
「そや、それでや」
 それ故にというのだ。
「やっぱり食べて美味しいとな」
「皆食べるんか」
「納豆美味しいで」
 雄太郎の言葉は変わらない。
「そやから皆食べる様になったんや」
「納豆みたいなのがなあ」
「関西でも納豆の味がわかったから」
 里子がまた真一郎に言う、それも笑顔で。
「それでやで」
「じゃあ今まで関西は」
「知らんかったんや」
 納豆のその味を、というのだ。
「それだけのことやったんや」
「それでか」
「そやからあんたもな」
 里子は真一郎にも言った。
「食べてみたら」
「ええわ、僕は」
 真一郎はその里子に苦笑いで応えた、今回も。
「それはな」
「ええんかいな」
「そや、これからもずっと食べへんわ」
「それならそれでええけど」
「別に納豆食べんでも死なへんしな」
 嫌いな食べものに対する定番の言葉も出してだった。
 とにかく真一郎は納豆を食べなかった、そのうえでこう言うのだった。
「関西で普通に納豆食べる様になるなんてな」
「何でも変わるもんやで」
「そうなんやな」
 このことを知ったのだった、納豆を美味しそうに食べている家族を観つつ。


関西納豆   完


                        2014・10・26 
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