関西納豆

「きな粉かてそうやし他にも一杯お豆使ったものあるわ」
「そっちを食べるんやな」
「これまで通りな」
「それでも納豆だけはなんや」
「食べへんわ」
　やはりその言葉は変わらない。
「何があっても」
「何で関西人ってそう納豆嫌うんやろな」
「というか何で九州では納豆食うねん」
「九州だけやなくて他の場所もやで」
　それこそ関西以外の、というのだ。
「特に関東はや」
「愛知の三河のところとか茨城とかやな」
「水戸黄門さんも食べてたわ」
「あの人はラーメンとかチーズやろ」
　文献によればそうしたものをわざわざ作らせて食べていた、それを町に出して民達にも食べさせていた。
「納豆も食べてたんか」
「そら茨城やから食べてたやろ」
「そうなんか」
「そやからや、納豆は食べてええんやで」
「僕はいらん」
　とにかく拒否する真一郎だった、雄太郎をそのまま大きくさせた様な如何にも真面目そうな顔を強張らせて。
「御飯はおかずで食べるわ」
「カレイの煮付けでやな」
「それで充分や」
「ほんまに納豆嫌いやな、関西の人は」
　やれやれといった顔で言う里子だった、しかし真一郎はあくまで納豆を食べなかった。そしてこれは彼だけではなかった。
　里子も周りもだ、誰もがだった。
「納豆！？ちょっとな」
「私食べへんわ」
「うちもや」
「うちの家族誰も食べへんで」
「うちもや」
　本当に誰も食べなかった、関西出身だとだ。
　それでだ、里子は困った顔で真一郎に言うのだった。
「ほんま関西人って納豆食べへんな」
「当たり前や」
　トランクス一枚で枝豆にビールを楽しみながらだ、真一郎は里子に返した。
「納豆だけはあかんのや、こっちはな」
「枝豆かてお豆やん」
　こう反論する里子だった。
「同じやん」
「同じちゃうわ、納豆は糸引いてるやろ」
「そやからやねんな」
「しかも匂いも剣道の小手の匂いするし」
　まさにそのままの匂いだというのだ。
「僕剣道部やったからよおわかるわ」
「剣道の小手かいな」
「そのまんまの匂いや」
　まさにそれだというのだ。
「そんな匂いのもん絶対口に入れんや」
「食べたことあるん？納豆」
「ないわ、食卓に出たこともないわ」
　真一郎の実家では、というのだ。
「納豆いうたら甘納豆や」
「それかいな」
「そや、他知らんわ」
　まさに他の納豆はというのだ。
「あんな納豆はな」
「知ってるやん、今こうして話もしてるし」
「食べたことないっていう意味や」
「そういう意味かいな」
「そや、あんなの何でな」　
　真一郎は実に嫌そうな顔で言うのだった。
「食うんや」
「食べず嫌いもそこまでいくと凄いな」
「僕だけちゃうで」
「そこが不思議や。関西って食べもの有名やん」
「特に大阪はな」
「その大阪が特にな」
　里子は枝豆とビールを楽しむ夫に言った。
「納豆嫌いやな」
「それはその通りやな」
「お豆腐はよお食べるしそれにな」
「今食べてるこれやな」
「枝豆も食べるのに」
　それなのに、とだ。里子は首を傾げさせつつ言うのだった。