仮面の戦士
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第四章
「いや、強い」
「あれなら優勝か」
「優勝出来るか」
「いや、あの騎士がいるぞ」
ここで一人の観客がこう言った。
「あの騎士がな」
「仮面の騎士か」
「あの騎士か」
「そうだ、やはりあの騎士は強い」
今回の競技にも出ていて、というのだ。
「相当な強さだ、やはりな」
「ううむ、そういえばな」
「確かにあの騎士は今回も相当にな」
「強いな」
「そうだな」
こう話されるのだった。
そしてだ、ある者がこんなことを話した。
「そういえばな」
「そういえば?」
「何かあるのか?」
「あの仮面の騎士はヴィッテルギス侯爵に仕えているが」
このことがここで話された。
「侯爵は流石にあの騎士の正体をご存知だと思うが」
「侯爵はそのことについてだな」
「お話されない」
「誰にもだな」
「そうなのだな」
「流石に王にはお話されていると思うが」
主君だからだ、それはというのだ。
「侯爵は忠義の方だからな」
「王に誠心誠意お仕えしているからな」
「王には話されているだろうが」
「王も話をされぬ」
観客達は競技場のロイヤルボックスにいる王を観た、見ればそのすぐ後ろにはその侯爵が立って供をしている。
その二人を見つつだ、彼等はさらに話すのだった。
「流石にな」
「王と侯爵はご存知だろうが」
「それでもな」
「ご存知なのはお二人だけだ」
「他の誰もな」
「知らない」
仮面の騎士のことはというのだ、競技場にその仮面の騎士が来た。兜と一緒になっている仮面を被っており甲冑で身体を覆っている。長いブロンドの髪がその仮面の下から出ている。
騎士は右手に持った剣で相手を瞬く間に倒し勝った、相手は倒れたまま呆然となっている。
その騎士を見つつだ、観客達はさらに言った。
「しかし強さはな」
「ああ、相当だな」
「間違いなくな」
「鬼の様に強いぞ」
「強いだけでなく謎に包まれている」
素顔が見えない、まさにそのことでだ。
「一体誰だ」
「何者なのだ、一体」
「ご存知なのは王と侯爵だけ」
「全く以て謎だ」
「そうだな」
「しかも近頃な」
ここでだ、また話題が変わった。今度の話題はというと。
「侯爵のご息女だが」
「うむ、侯爵のな」
「跡継ぎの方の次のな」
「長女殿だな」
「お姿を観ないな」
「どうしたのか」
侯爵の娘の話に移ったのだった、次の試合の合間に。
「噂では相当にお奇麗でな」
「しかもかなり聡明だという」
「そろそろお相手をという年頃だが」
「一体どうされたのか」
「病なのか」
それで出られないかというのだ。
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