| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Epico14病罹れば利あり害あり

 
前書き
病罹れば利あり害あり/意:病気に罹ってしまうと、弊害が生まれるが、利益も生まれるというたとえ。 

 
†††Sideアリサ†††

「ルシルぅぅーーーーっっ!!」

怒声をあたしは上げた。だってしょうがないでしょ。あたしの姿に変身してるルシルがまたあたしの想定外のことを仕出かしたんだから。そんなあたしに「落ち着いて、アリサちゃん!」なのはがそう言って、「そんな大声出したらダメだよ!」フェイトが注意してきて、「熱が今以上に上がっちゃうから!」そしてすずかが、ベッドの上に立ち上ったあたしを寝かそうと袖を引っ張った。

「うぁ・・・」

みんなの言うように視界がぐらぐら揺れる。あたしは大人しく座って、もう1度ベッドに横になる。すずかがあたしに布団を被し直してくれて、あたしが立ち上った時にベッド縁まで吹っ飛んだ濡れタオルを「アリサさん。大丈夫です?」リインが拾ってくれて、あたしのおでこに乗せてくれた。

「あー、大丈夫よ。ありがとう、リイン。・・・あのさ、ゴメンなんだけど、タオル濡らしてくれる? ちょっとぬるくなってきたから」

「あ、はいです」

「私がやるよ、リインちゃん」

リインからタオルを受け取ったすずかが、あたしのベッド脇にあるナイトテーブルに置かれてる洗面器にタオルを濡らした後、あたしのおでこに乗せてくれた。あぁ、冷たくて気持ちいい~。

「アリサちゃん。一応、ルシル君を呼び戻すか・・・?」

はやてがモニターに映るルシルからあたしに視線を向けてそう訊いてきた。あたしの部屋の中央に展開されたモニターには今、うちの家で催されてるホームパーティの様子が映し出されてる。
そしてルシルは、熱を出して参加できないあたしに代わって参加してくれてる。最初は、これで大丈夫、なんて思っていたけど、今となっては自分の選択のミスに頭を抱えたくなる。とりあえず「そうね。お願い」ルシルを呼び戻すことにした。

(大事なパーティだったからルシルにあたしの代わりを頼んだんだけど、こんなことになるんなら正直に不参加を選べばよかったわ・・・)

どうしてこうなったのか。それは今朝まで遡らないとダメ。

・―・―・回想よ!・―・―・

「ちくしょう。これ見よがしにイチャイチャしやがって」

シャル達4年2組の教室前の廊下でみんなで話をしてる時、シャルがある方を見ながら悪態を吐いた。そっちを見ると、男子と女子が仲良く並んで笑い合ってる。あれって確か、「あの男子だっけ、ルシルにやきもち焼いて敵視してたのって」少し前まで2組の問題になってた男子と女子。

「そうやよ。ちょう前にシャルちゃんが恋のキューピットを買って出てくれてな。そんで刀梅ちゃんと武塔君、付き合うことになったんよ」

「俺と亮介の問題は片付いたが、今度はシャルがあの2人の様子でイラついているんだよ」

「こっちは全く以って上手くいってないのにぃ~~! ああんもう! 恋のキューピットなんてやるんじゃなかった! 邪魔してこうようかなぁ?」

「やめんか」

悔しそうに頭を両手で掻くシャル。同じ2組のはやてとルシル、それになのは達が「それは困ったね~」と苦笑。そしてシャルは「ああもう! ルシル!」に振り向いて、「好き! 付き合って!」って他の生徒の目がある中で堂々と告白。あたし達も、他の生徒のようにギョッとするのが当然なんだろうけど・・・

「ほぼ毎日で堂々告白とか」

ルシルが呆れてるようにあたし達もその光景に慣れてしまって、またか、って感じ。あのはやてすらも「シャルちゃん・・・」憐みの目を向けた。ルシルは「なぁ、シャル。その一発芸、もう面白くないぞ?」なんて言う始末。

「一発芸じゃないよ! 愛の告白だよ! 女の子の一世一代の勇気を、一発芸なんて・・・ひどい!」

「一世一代の意味を調べた方が良いな、シャル。君の人生は何回あるんだよ」

「むぅ!」

頬をぷっくり膨らませてルシルを睨むシャル。そしてルシルは「そうむくれるなよ」両人差し指で膨れたシャルの頬をプスッと刺したから当然、「ぶふー」口から空気が漏れる。あはは、って笑うルシルだけど、シャルの機嫌はちょっと悪いまま。
さすがに「悪かった。謝る。すまない」ルシルが頭を下げた。シャルのそんな態度がちょっと珍しいからあたし達は少し心配になる。けど、シャルはやっぱりシャルだった。シャルはルシルが顔を上げた際に、ルシルの唇と自分の唇が触れるような姿勢を取った。

「アカン!」

「さすがにやめた方が良いって」

肉体接触(そういう)のってルシルは嫌いだから、本気で怒られるよ」

はやてとフェイトとアリシアが制止を掛ける。ルシルがそれを聴いて、すすすと音もなく後退した後、「謝って損した」って言って嘆息。シャルは「いいじゃんか~。お互い、初めてじゃないんだし❤」なんて言うから、「!!?」周囲がどよめいた。

「おまっ・・・!」

「だよね~、ル~シル~❤」

「そういうことを、こんな場所で言うなというに!」

「いいじゃん、ホントのことんだしさ~❤」

上目遣いのウィンクをするシャルと、なんでかシャルにだけ、お前、って使う時があるルシルがぎゃあぎゃあ言い争いを始める。そんな2人をいつ止めるか、って時に「へくちっ!」くしゃみが出た。
ずずずっと鼻を啜って、「あー、なんか今日は寒いわよね・・・?」周りに居るみんなにそう訊いてみた。するとみんなは顔をそれぞれ見合わせた後、「そうでもないよ?」なのはが小首を傾げた。みんなもそうで、寒がっているのはどうやらあたしだけみたい。

「どれ、少し額を出して見ろ」

「ちょっ・・・!」

シャルとの言い合いをやめたルシルが急にあたしの前髪を押し退けた上でおでこに手を置いて熱を測ってきた。ルシルは「熱があるじゃないか。よくこれで登校しようなんて思ったな」なんて非難雑じりの声色で言った。ていうか、「いつまで触ってんのよ・・・!」ルシルの手を、首を振って払う。ほら、見なさいよ、シャルとはやてを。やきもちのとばっちりなんか受けたくないのよ。

「ぅあ・・・?」

視界が揺れた。さらに急に脚に力が入らなくなってフラッと後ろに倒れ込みそうになった。そんなあたしを「ちょっ、大丈夫!?」フェイトとアリシアが抱き止めてくれた。そんな2人に「ありがとう」お礼を言って、自分の力で立とうとしても、「あれ・・・?」とうとうその場にへたり込んじゃった。

「「「アリサちゃん!?」」」

「おい、本当に大丈夫なのか・・・!?」

「保健室に連れて行こう!」

「そうやね! ルシル君。アリサちゃんを背負ってあげて!」

はやてがそんなことを言い出したから、「い、いいわよ! ひとりで歩けるから!」あたしはそう言いながら両手を付いて立ち上がろうとするけど、思った以上に症状が重いのか立てなかった。

(なにこれ・・・? 何で急にこんな重症になっちゃうわけ・・・!?)

朝起きたときや通学バスの中は、ちょっとダルいなぁ~、くらいだった。咳も無いから、仕事疲れかも知んないって思ってたんだけど。まさかこんなヤバいことになっちゃうなんて。ルシルが「ほら、保健室に行くぞ」おんぶの体勢になる。

「・・・お姫様抱っこよりは・・・マシよね・・・」

なのは達に支えられながらあたしはルシルの背中に乗った。1階の保健室に行くために階段を降りる中、「重くない・・・?」訊いてみる。ルシルは「まさか。こう見えても男だぞ? これで根を上げるわけがないだろ」って笑う。まぁ、はやてをお姫様抱っこ出来るくらいだし、おんぶくらいなんてことないわよね。

(それよりもさ・・・。いつも思ってることだけど、ホント髪の毛サラサラよね。良い香りもするし)

思わず後ろ髪に顔を埋めてしまう。すごくリラックス出来る香りで、ついウトウト。そしてあたしは保健室に運ばれて、1時間目の休み時間まで休む。その後、あたしは早退することになった。病院で、疲れから来る風邪だっていう診断を受けて、点滴やらした後は自宅でゆっくり休養。
あたしの部屋で休んでると、「アリサちゃん。調子はどう?」なのは達がお見舞いに来てくれた。気が付けば4時近く。結構眠っちゃってたのね。

「なんとかね。熱はまだ引いてないけど、朝よりはマシになった感じ。アインスとリインもお見舞いに来てくれたんだ。ありがとね」

なのはとすずかとフェイトとアリシア、それにはやてとアインスとリイン、あと「・・・あれ? ルシルは・・・?」アイツの姿が見えない。すると「ルシル君は、廊下で待ってるんよ」なんてはやてが言ったから、「は? なんで・・・」って訊き返す。

「えっと、ルシル君が言ってるんだ。アリサちゃん・・・女の子の部屋に、男の子のルシル君がいきなり入っていいのかな?って・・・」

「アリサちゃんから入室の許可を貰ってから入るみたい」

なのはとフェイトが教えてくれた。変なところで紳士なのよね、ルシルってば。あたしは「いいわよ。パジャマ見られたくらいで騒ぐような浅い関係じゃなし」って、ルシルの入室を許可。するとリインが「呼んできますで~す♪」ふわふわと飛んで廊下へ。そして「失礼するよ」リインを伴ったルシルが入って来た。

「気分はどうだ、アリサ?」

「ぼちぼち。・・・今日は迷惑かけたわね。みんなも、ありがとう」

あたしは笑顔を見せる。それが今のあたしに出来るお礼。そしたらみんなも「うん」って笑顔を返してくれた。それから今日の授業で使ったプリントや、授業内容を書き記したノートをクラスメートのなのは達から受けとって、少しの間お喋り。
そんな中、ふと時計を見て、あたしは「あ・・・」と漏らしちゃった。今日の6時からうちで開かれるホームパーティ。パパ達が経営してる会社の重役や取引先のお偉方が参加するって聴いてる。だからバニングス家の長女であるあたしも、パーティに参加するように言われてるんだけど・・・

「(これじゃあ出られないわね・・・)はぁ・・・」

「あ、ごめんね、アリサちゃん。疲れてるよね。もうそろそろ帰るよ」

自然に出た溜息に、すずかがそう勘違いして慌てて立ち上がった。するとなのは達も「そうだね。帰ろうか」帰り支度を始めた。だから「違うのよ。今夜、うちでパーティがあんのよ」事情を伝える。参加者の子供たちとの付き合いってのがあるから、あたしも参加しないといけないことも。

「――っていうわけで、どうしようかって思って・・・」

「そうなんだ~」

「だけど、その様子じゃ出られないよね」

「どうするの?」

「治癒魔法でどうにかなんないの? ルシル」

「治癒魔法はあくまで怪我に使うものなんだよ、アリシア。だから、病気には・・・」

「そうやなぁ。やっぱり不参加するしかないんとちゃうかな・・・」

この状況をどうにかしようって考えてくれるみんなには感謝しかないわ。だから「ありがとう。パパには申し訳ないけど、不参加ってことにしてもらうわ」この話題を終わらせに掛かった。だって解決策なんて何も無いから。みんなを悩ませるようなことはしたくないもの。

「・・・あ、そうだ! 良いこと思いついた!」

急にアリシアが手をパンッと叩いた。あたし達の視線が全てアリシアに向かう。そして「何か良い方法があるの?」フェイトが訊く。アリシアは胸を張って、あの子が考えついたっていう方法を、あたし達に伝えた。その内容っていうのが・・・

「わたし達の誰かが、アリサの身代わりになればいいんだよ!」

だった。あたしに変装して、あたしの代わりにパーティに参加する。でもそれって、「出来るの? パパにも気付かれない程に完璧に」かなりの難易度になると思うんだけど。

「とりあえず。アリサの外見に合わせられそうなのはわたしとフェイトくらいだよね」

「えっ? あ、で、でも、身長を見るとアリシアじゃ足りない、よね・・・?」

「じゃあ、フェイトね。はい、けって~♪」

「ええええっ!?」

止める間もなく勝手に決まったあたしの身代わり。急に指名されたことで困惑するフェイトの髪を結ってたリボンをアリシアは解いて、フェイトの髪型をストレートにした。続けて「フェイト。アリサの声真似!」そんな無茶ぶり。

「え? えっと、アリサの声真似・・・は、その、コホン。あたし、アリサ・バニングスよ。いつかシグナムを打ち負かすんだから!」

フェイトが後ろ髪をサッと払いながらあたしのモノマネ?をしたんだけど、「ぷふっ」違和感バリバリな所為でアリシアが噴き出した。当然、「っ!?」フェイトは笑われると思わなかったからかショックを受けた。

「笑うなんてひどいよ、アリシア! アリシアがやってって言ったからやったのに!」

「ごめん、ごめん! だってまんまフェイトなんだもん!」

わーん!って半泣きなフェイトの頭をよしよしって撫でるアリシア。とにかく、アリシアの案はボツってことに・・・って思ったとき、「ルシル。お前の変身魔法ならどうだ?」アインスがルシルに振り向いた。あたし達もルシルを見る。そういや変身魔法を使えるんだったわね。しかもかなりの演技派。あたしに成り切るなんて簡単なはず。

「ルシル。あんた、あたしに変身なさい!」

熱や解決策が出た所為かちょっとテンションが上がってきちゃったわ。

「・・・アリサに変身すればいいんだな」

ルシルがスッと立ち上って指をパチンと鳴らすことで生まれた閃光が、あたし達の視界を一瞬だけ閉ざした。視界が開けると、制服を着たもう1人のあたしがそこに居た。

「これでどうだ? 外見も声も、アリサそのまんまだろ?」

あたしの姿をしたルシルがその場でくるっと1回転。なのはが「わぁ。これなら気付かれないね♪」パチパチ拍手。すずかも、あたしとルシルを何度も見比べたり触れたりして、「うん。これは私でも気付かないかも」って驚きを見せる。

「それで? あたしの着るドレスはどれよ。この状態で着替えるより、そのデザインのドレスに直接変身するわ」

ルシルがそう言って、さっきのフェイトのように後ろ髪をサッと払った。おお!って歓声が起きる。あたしも、「すごいじゃない。これなら確かにバレないわ」その完成度に思わず拍手。
それからあたしは、今日開かれるパーティの出席者について出来るだけルシルに伝える。そのほとんどが初対面であって、そうそうあたしとルシルが入れ替わってることに気付かれないって。

「でも気を付けなさいよ。うちのパパとママも参加するから」

「その辺りはちゃんと気を付けるわよ」

「ホンマに判らへんね~」

「です~♪」

とりあえず今やれることは全部やったわ。あとは時間が来て、モニターでパーティ会場とルシルを見守るだけね。時間が来るまで何度もルシルの演技の練習。徐々にテンションが上がってく所為で、「あははは、上手いわホント!」あたしも熱が入ってきた。

「――さて。そろそろ行ってくるよ。何かあったら念話で呼び掛けてくれ」

オレンジ色を基調にしたノースリーブのキャミソールタイプのワンピースと、ボレロカーディガンを組み合わせたパーティドレスを着たルシルが、あたしの部屋を後にする。そしてあたし達は、あたしの姿をしたルシルの様子を、部屋の中心に展開してる大画面モニターで視聴。
まずは、パパとママとの会話。ルシルはあたしに成りきってるおかげか2人には気付かれてない。それからエントランスへ移動して、出席者の歓迎。次々とやって来る出席者の中には、あたし達よりちょっと上かなって感じの歳と思う子供たちが何人かいる。その内の1人の男子がルシルに近づいて、『今日はお招きありがとうございます、アリサさん』ってルシルの手の甲にキスをした。

(うへぇ・・・!)

その光景に鳥肌が立つ。熱が出ていなかったらあたしがあの場に居ることになる。それはつまり、あのキスがあたしの手の甲にされちゃってたわけで。そう思うと「よかった、熱出て」って安堵。

「王子様みたいだね」

なのはがそんなことを言うと、「あー、うん。よく海外のドラマとかにあるね」すずかが同意する。フェイトも「ミッドでもそういう習慣あるよ。敬愛の意味を込めて」異世界情報を語った。

「でもさー。ああいうのって初見で、どうも思ってない男子にやられても気持ち悪いだけと思うんだよね~」

シャルはあたしと同じ考えで、「ルシル君以外にされてしもうたら悲鳴上げるかもしれへんなぁ」サラッと大胆発言をしたはやて。アインスは「オーディン・・・」昔の夜天の主の名前を漏らして、「むぅ?」リインは理解できずに唸るだけ。なんか可愛いわね。

『こちらルシル』

「どうしたの?」

『コイツ、ぶっ飛ばしていいか?』

「なんかごめん。でも耐えて。気持ち悪いのは解るけどさ」

『・・・了解。アリサやバニングス家の立場を悪くするわけにはいかないから』

「ありがと」

そして舞台はエントランスからホールへ。丸テーブルが幾つもあって、その上には料理は並べられてる。ビュッフェ方式の会食だ。パーティ開催の音頭をパパが取って、無事に始まった。ルシルが、パパやママに付いて回りながら大人の出席者に挨拶してくのを見守る。

「完璧やなぁ~」

「どっからどう見てもアリサちゃんだよね」

「もしかして、こっちのアリサが偽物なんじゃないの?」

「んなわけないでしょうが。ルシルが目の前で変身したうえであっちに行ったの、みんなで見たでしょ。ていうか突くな」

「アウチッ」

あたしの頬をつんつん突くアリシアのおでこにベシッとツッコみを入れる。挨拶回りが終わった後、ルシルはさっきの男子たちの相手をするようにパパに言われて、そっちへ向かった。そして男子たちと始まるお喋り。

『なぁ、みんな。俺さ、この子たちを見ているとさ。あの国民的アニメの登場キャラが思い浮かぶというか、なんというか・・・』

「国民的アニメ・・・?」

ルシルと話してる男子3人の姿をよく見る。そして「あっ!」あたし達みんなが察した。

「ドラ○もんの、の○太くん、ス○夫くん、ジャ○アンくん、です!」

リインが言うように、体が大きくて偉そうな男子、オドオドしてて気弱そうな男子、話の合間にちょっとした自慢話を織り交ぜる男子。言われてみれば確かにそうね。んで、特にその3人がルシルにちょっかい、っていうかアプローチっていうようなことを仕掛けてくる。

「ねえねえ、もしかしてこの3人、ルシル・・・じゃなくて、アリサに気があるんじゃない?」

「そうやんね! アリサちゃん、モテモテや~♪」

「モテモテですぅ~♪」

「んなっ! ち、違うわよ!」

そう否定はするけど、ルシル達の会話は将来云々って話になってきた。どこに住みたい、とか、どっちの会社に勤めようか、とか。完全に結婚した後のことを考えての会話だって判る。

『アリサ』

「え、はい、なんでしょう?」

ルシルの様子がガラリと変わったから、つい丁寧語になっちゃったわ。

『コイツら、アリサと結婚したいんだと』

「あ、うん、そうらしいわね」

『断るぞ。いいな?』

もちろん結婚相手をここで決めるつもりなんて初めっからないから「う、うん。いいけど・・・」そう答える。なんていうか、ルシル、不機嫌になってない? みんなもルシルの様子が変わったことに気付いて困惑してる。

『アリサは結婚したくないんだろ。なら俺が断ってやる。・・・アリサをコイツらに渡してたまるか』

最後のは囁き程度だったけど聞こえはしたから「え・・・?」って訊き返す。

「ちょっ、どういうこと!? なんか意味深なセリフなんだけど!」

「ルシル君、今のどうゆう意味なん!? まさか、ルシル君はアリサちゃんのことが・・・!?」

「いつ!? いつからアリサまでライバルになってんの!?」

シャルとはやてがあたしのベッドへ詰め寄って来た。もちろん「あたしにも解んないわよ!」大声で返す。こっちの混乱を引き起こしたルシルはすでに役に入ってて、こっちの声はもう届いてないっぽい。
ルシルは、『まずは、この気弱そうなメガネ少年から断ろう』そう言って、メガネのの○太君と2人きりになるように、他2人の少年を上手い具合に別のグループへと移動するように差し向けた。人を動かすのも上手いわよね、ルシルって。

『・・・あ、あのね、アリサちゃん。ぼ、ぼく、アリサちゃんが好きです! お、お父さんにアリサちゃんの写真を見せてもらった時から、その・・・』

少し2人きりで途切れ途切れの会話をした後、意を決したように顔を真っ赤にしたの○太君がモジモジしながらルシルに告白した。正直、初対面だし、タイプでもないし、結婚とかもする気もなかったけど、生まれて初めて告白されたってことにはちょっと嬉しかったかも。まぁ、されたのはルシルだけどさ・・・。

(だけど・・・ごめんなさい。今はあたしの願いを優先したいのよ。みんなと、同じ願いを)

魔法の力で困ってる人を助ける。あたし達、チーム海鳴共通の願いのために今は、誰ともそういう関係になるつもりはない。さぁ、ルシル。出来るだけメガネ君が気付かないように振っちゃって。

『ありがとう。好きだって、告白してくれて。すごい勇気が要ったよね』

『アリサちゃん・・・それじゃあ・・・!』

『でもごめんなさい。その告白には応えられないの』

『えっ、あっ、あのっ、だ、誰か、他に好きな人が居るの・・・?』

『そうなの。あたし、好きな人が居るの』

お、定番のお断りのセリフね。の○太君は『誰、なの? もしかしてあの2人のどちらか・・・なの!?』ジャ○アンとス○夫似のことかって勘ぐった。そうよね、相手が誰かってことになるけど。ま、まぁ、今日くらいはルシルが相手ってことでもいいわよ、うん。

『女子が好きなの。男子に興味ないの。つまりあなたに興味なんてないの。ごめんね』

『え・・・!? じょし・・・って、女の子のこと、だよね・・・? え、だってアリサちゃんは女の子・・・? あれ?』

『そう、同じ女子が好きなの。ごめんね♪』

『でも、女の子同士で結婚なんて出来ない、よ?』

『大丈夫。結婚だけがすべてじゃなし』

『でも、会社の事とか考えないと・・・』

『・・・・しつけぇよ。黙って言うこと聞きゃあいいんだよ』

『っ!?』

『あたしは女子が好き。男子は興味なし。Did you understand?』

『う、うぅ、うわぁぁぁーーーーん』

ルシルに詰め寄られた上でメッチャ睨まれたの○太君は、泣きながらルシルの元から去ってった。その光景にあたし達は全員絶句。そしてあたしは「ルシル。ちょっと戻って来なさい」呼び出しコールを入れる。ルシルは『あ、ああ、判った』簡潔に応じた。

「ただいま~。で、どうした、アリサ? 何か問題でも――・・・」

「大アリよ!! なによ、さっきの断り方は! 女子が好き!? しかも最後は若干脅しが入ってたし! の○太くんを泣かしてんじゃないわよ!」

戻ってきたルシル(あたしの姿に変身したまま)をビシッと指差しながら怒鳴る。ルシルは小首を傾げながら「事実だろ? 今は彼氏云々よりなのはら女友達の方が大切、だろ」って言った。

「っ!」

「ひょっとして、勘違いしたか? 恋愛感情とかの好きだって思ったのか・・・? なに、そういう気の女子もいるっていうし。恥ずかしが――」

「~~~~~っ!!! あちょお~~~~っ!!」

「ぐはぁ!!」

あたしはベッドの上から跳び上がって、ルシルにドロップキックを喰らわす。

「うっさい、うっさい、うっさい! しょうがないでしょ! 告白の話してた時に女子が好きって話になれば、そう思ってもしょうがないじゃない!」

「アリサちゃん、熱が上がっちゃうよ!」

「ルシル君、えっと、会場にそろそろ戻ろうか!」

「ほら、アリサはベッドに戻って!」

「タオル、タオル、吹っ飛んだタオルはいずこ~?」

なのはに追い出され気味に会場へ戻ったルシルを見送り、あたしはベッドに戻った。ああもう、どっと疲れたわ。それからまたあたし達は会場をモニターする。ルシルは『次は、あの図体の大きな少年だな』ジャイ○ン君をターゲットにした。またさりげなくターゲットと2人きりになるように仕組んだ。

『豪快な食べっぷりね。見ていて気持ちが良いわ』

『おう! 男は漢らしくだからな! スポーツだって格闘技だって、おれは一番だぜ!』

『そう。そういうの、なんか良いわね。漢らしい』

『だろ? 男は漢らしく! 女は女らしく! それがうちの家訓だぜ!』

『あー、じゃあ、あたしとあなたは合わなさそうね』

『え?』

ルシルが、あたしの・・・あたしの姿をしたルシルが・・・片手で大皿を持ち上げて、そこから直接パスタをずるずると大きな音で啜って頬張った。あたしのイメージ総崩れ。ジャ○アン君が唖然とする。
それでもルシルの手は止まることなく、別の大皿から肉団子をこれでもかってくらいたくさん口に入れて、くちゃくちゃって音を立てて汚らしく食べた。そして食べた後は派手に垂れ流しながらも水を何杯と飲み干して、最後は口に含んだ水でうがいして、コップに水を吐き戻した。ジャ○アン君はもちろん、あたし達もドン引き。

「アカン。ルシル君、やり過ぎや!」

「あんの馬鹿・・・! ルシル! 今すぐ戻って来なさい! 」

怒りのボルテージが限界突破。うがぁーっとあたしは咆えながら立ち上がる。

『ん? 何か問題で――』

「あるわよ、ボケッ! 今すぐ来なさい! Harry, Harry, Harry !」

ルシルを呼び戻す。そして「そうそう何度も呼ばないでくれないか? 怪しまれるから」そんなことを言いながらルシルが戻ってきた。あたしは「言いたいのはそれだけ? ねえ、それだけ?」訊き返す。すると「??・・・あ、スイーツが欲しかったんだな。美味しそうだったからな」見当違いのことをぬかしやがった。

「よーし。とりあえずアンタを1発殴るわ。歯を食いしばりなさい」

パジャマの袖を捲り上げたうえで魔力を拳に込める。それを見たなのは達が「落ち着いて!」あたしを宥めてきた。ルシルは「スイーツくらいで大袈裟だなぁ」って苦笑。イラッと来た。そんなレベルじゃないんですけど、この怒りは! そんなルシルに、「は、はよ戻らなアカンな、ルシル君!」はやてがそう言って、ルシルの背中を押して部屋の外に出そうとする。

「ルシル君。さっきのは汚なさ過ぎです! 猛反省してくださいです!」

「あ、ああ。了解だ」

あたしの代わりに怒ってくれたリイン。ルシルはプンプン怒ってるリインにたじろぎながら会場に戻った。あたしは「ありがとう、リイン」お礼を言う。はやてとアインスも「よしよし」ってリインの頭を撫でて褒めた。

『じゃあ最後。自慢しいの少年だな』

ルシルが仕掛けるその前に、「ちょっとルシル。これ以上、あたしのイメージを崩す真似はしないでよね」注意しておく。ルシルは『解っているよ』って言ったけど、解ってないからこそこっちに呼び戻してんでしょうが。
ルシルはス○夫君と2人きりになって喋り始める。すると早速、ス○夫君はさりげなく自慢話を始めた。どこに旅行に行ったのか、旅先で何があったのか、ホントどうでもいいようなことをベラベラと。ス○夫のニックネームが伊達じゃないって感じ。

『そうです、アリサさん。以前うちから贈った松茸どうでした? 僕の松茸、美味しかったでしょう? いやぁ、親戚からたくさん送られてきて、あまりに余ってしまったんですけど、良かったです、喜んでもらえたのでしたら!』

あたし、アレあんま好きじゃないんだけどね。しかもス○夫君、ルシルから返事も無いまま喜んでるって勝手に決めつけちゃってるし。ルシルもルシルでイライラしてるし。これはまずい。絶対にあたしのイメージを崩す返しをまたするわ。

「ルシ――」

『女の子に向かって僕の松茸美味しかったかなんて、これはセクハラかしら~? きんもーい。あなた御自慢の松茸はもうとっくの昔にあたしの体から汚物として排出されて、トイレから下水へと流れて行ったわ~』

『おぶ・・・っ!?』

「ルシルぅぅーーーーっっ!!」

生まれてからこれまでにない怒声をあたしは上げた。

・―・―・終わりったら終わりよ!!・―・―・

はやてに呼び戻してもらったルシルが「あのさ、今度はいった――」言い切る前に、「フレイムアイズ!」を起動して斬りかかる。

「すぐ死んで、早く死んで、いま死んで! お願いだからもう死んでぇぇ~~~~!」

「うおおおおおお!!?」

「「「アリサちゃん!?」」」「「「アリサ!?」」」

「アンタを殺してあたしも死ぬわぁぁぁーーーー!!」

“フレイムアイズ”をぶんぶん振り回す。あたしのイメージを崩すな、って言ったのにあんな言い回しをしてくれたルシル。つまりあれがあたしのイメージってわけ? 信じられないんだけど!
みんなに落ち付くように言われ続ける中、これまでのストレスで熱がさらに上がったことですぐにダウン。アインスにお姫様抱っこしてもらってベッドに戻してもらう。
それからパーティが終わるまでルシルは大きな問題を起こすことなく、あたしの身代わりを務めてくれた。ま、男子数人にはトラウマを与えたけどね。

「そう言えばさ、ルシル。さっき、アリサをコイツらに渡してたまるか、とか言ってたよね。あれ、どういう意味?」

シャルがそう話を切り出すと、はやてがピクッと反応した。あたしも気になってたから、休む前にしっかりとそのもやもやを晴らしておきたいわ。変身を終えて元の姿に戻ってるルシルは、「ん?ああ、あれか」そう言ってあたし達を見た。

「ほら、アリサは俺たちにとって大事な、同じ願いを持つ仲間だからな」

「あ、やっぱそういう・・・」

「そっかぁ。よかったぁ」

ホッとしてるシャルとはやて。そしてあたしも「ま、アンタはそういう奴よね」ホッとした。そんなこんなで終わる今日という1日。みんなが帰ったことで静まり返る部屋でひとり「なにはともあれ、ありがと、ルシル」あたしを助けてくれたルシルにお礼を言った。

 
 

 
後書き
グ・モロン。グ・デイ。グ・アフドン。
今話は丸々アリサにスポットが当たってしまいましたね。学校生活編では苦労しますが、学校外編ではそれなりに筆が動きます。そう言えば、「ハコにわ生徒会」でも外での話が多かった気がします。
さーてさて。作中の時期はもう5月の終わり近くという設定なので、近々、彼女の離脱ストーリーを考えねばなりませんね。お別れの日まで残り僅か。あー、憂鬱です。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧