For your Happiness
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平穏〜tranquility〜
前書き
今回は少し長めです。
「世界は動きだすよ。その先にあるのは悲しみか、喜びか。」そうつぶやく。空を見てつぶやく。そうつぶやくのは、憲哉。
「どうだろう。あいつらが動いてるから。湊真達が。そして瑠璃姫が。」それに続けて響夜がわずかに微笑んで言う。
「でも、俺たちの邪魔はさせない。蜜羽のためにも、平和な世界を。」輝琉が言う。その言葉には、どこか悲しさが含まれていたようにも見える。いや、聞こえる。
「そうだな。あの日誓ったんだ。必ず俺たちはの手で平和で争いのない世界をつくるんだ。
もう、後戻りする気なんてない。前に進むだけだ。」聖貴が言う。それは、これ以上はない力強さを感じる言葉だった。
彼らには辛い過去があったのだ。8年前のあの日である。11歳の事である。瑠璃達と遊びに行った日の夜のこと。村に戻るとあたり一面まるで、火の海だった。戦争の被害を受けたのだ。炎はどんどん広がり、やがて彼らの秘密基地も飲み込んでしまう。逃げた。とにかく逃げた。炎から逃げた。死から逃げた。
そして、彼らは家を、金も友も全て失った。彼らは長い長い道を歩いた。必死に、歯を食いしばり、苦渋を飲み、そしてたどり着いた。この国へ。バージスに。辛い道を歩んだ彼らを国王(アルフリード・バージスド)は優しく迎え入れた。
「家が無いのか?なら城へ来るがいい。」
そう言って家の無い彼らに居場所を与えたのだ。彼らは修練を積み、やがて騎士団に入隊し国王に恩を返すために、力をつけた。四人で強くなったのだ。蜜羽とこの国のために。
〜〜〜〜〜〜〜
城の前まできた。
「瑠璃、どんな顔してるかな?」
「そういうこと言うなよ湊真。わかってんだろ?」と慶星が肩をすくめて呆れたように言う。
「まあ心配してるよね〜瑠璃姫様なら」
「おーい。湊真、慶星、昴。やっと帰ってきた。あーあ俺も行きたかったな〜」と木にぶら下がりながら柚樹が帰りを迎えてくれた。
「いや、お前は軍を従えるの下手だろ?1対多のほうが得意だろうに。」
柚樹にそれをいうと、むすっとした顔をされたので、こう付け加える。
「それに姫を守るのがお前の仕事だろ。」
すると、仕方なさげに、しかし、まだ口答えをする。
「まあな、けどどっちかと言うとそれは慧斗の役目じゃないか?」
続く会話に慶星がピリオドを打った。
「まあいいや。城にもどるか。飯食いたいからさ」と慶星がなげやりになる。
「だな、腹減ったー」と昴も同意した。
城に入ると瑠璃がいきなり抱きついて来た。後ろに倒れそうになるが、踏みとどまり、瑠璃姫の拘束をとき、姿勢を正した。
「湊真。もぅ心配したんだからぁ。先にお風呂に入る?食事?それとも…私?」瑠璃が言う。
「それは夜にお相手させていただきますので、先にお風呂に入りたいですね。食事はそのあとで。」と俺が言うと少し焦ったように、
「えっ⁈、本当にお相手して下さるのですか?」と瑠璃が顔を赤らめて上目遣いでこちらを見る。
「姫がお望みになるならば。夜が明けるまででも。」
「い、いえ、やっぱり遠慮しておきます。また今度で・・・・・。」
どうでもいい会話はこの辺にして、湊真はその場を去り、自室でしばらく休むことにした。
ベットに横たわり、日が暮れようとしかけてるとき、扉をノックする音がした。
「はい?」
「湊真さん、入ってよろしいでしょうか?」
どうやら、ノックをしたのは、穂花だったようだ。
「いいよほのか。」
ベットから立ち上がると、扉の前に行き、中に入るよう促す。
「失礼します」
恐る恐る入ってくるほのか。
「どうした?怖いか?」
「い、いえ。なんか、整ってる部屋だなぁと思いまして・・・・・。」
どうやら、自分の整っている、いや、整いすぎている部屋に入り、蹂躙してしまうと思ったのだろう。
「別に、構わないぞ。ちり一つないのは、俺がいつも掃除しているだけであって、ほのかが入ってきたとしても、ずっと人がいなかったとしてもさほどかわりはない。」
「そ、そうですか?」
再度確認をとるほのかに、
「ああ、もちろんだ。そういう、俺だって少し汚れてるからな・・・・・。そうだ、風呂入ってからでいいか?」と提案する。
すると、少し考えてから、ほのかは頬を真っ赤に染めた。
「え、えと、それは。あの、つまり・・・・・。」
間違った方に捉えたらしい。
「ほのか。一応、確認だが・・・・・違うぞ?」
「あ、すいません・・・・・。」
誤解は解けたが、勘違いした自分自身を恥じている様子で彼女の頬は真っ赤なままだ。
「じゃあ、俺は風呂に行ってくるから。」
「あ、はい。わかりました。じゃあ、私も」
場面は変わり、大浴場。
「すーばる! 久しぶりの風呂だぜー!」と叫ぶ慶星。間もなく、昴と一緒に飛び込む。バシャーン!
「おいおい。ゆっくり浸かりたい奴の気持ちを考えろよ。」と俺が言うと続けて柚樹が言う。
「まあ、いいんじゃね?楽しいから」風呂から出ると昴が
「コーヒー牛乳飲みたいな。風呂上がりはやっぱりな。」と提案する。それに賛同する湊真達。
「やっぱコレだね~♫コーヒーぎゅーにゅ〜♬」と全員口を揃えていう。戦闘服を洗濯機に入れて私服に着替える。至福の時だ。そのまま話をしながら食事を取るために彼らの専用のルームに足を運ぶ。
「よう湊真。慶星たちも。久しぶりだな。偵察に行ってきたぜ。バージスにな。やっぱり蜜羽たちはやる気だぜ。それも、かなりの兵力だったよ。」と提出用の偵察資料を指さして説明する。
「この大陸の侵略か。止められないのかな。やっぱり。六年前のことはわかるけどさ。」と俺は言う。すると、一人の人物が部屋に入ってくる。
「晃政⁈帰って来たんだな。で、どうだったんだ?」と言う慧斗。
「ああ、今その話をしてたんだ。」と晃政が、慧斗をを呼び話を続ける。
「簡単に言うと、蜜羽達はやる気だ。そして、大量の兵士と、魔装断片を持っている。」
昴が(魔装断片)という、兵器の説明を始める。
「あれは恐ろしい。一発で1000人単位の命を奪えるんだから。他にも傷を治せる魔装断片もあったな。」
「もぅ。その話は終わりにして食事にしようよ」と瑠璃が言う。どこか悲しみを隠してるように無理に笑って言う。
「そうだな。その話は後にしよう。お腹へったし。早く飯にしよう。」俺も流石に腹が減ったと、隣のほのかに同意を求める。
「そうですね。」ほのかも笑顔で同意の意を示してくれた。
全員が席に着くと
料理が運ばれてくる。
「うぉー。久しぶりの豪華な飯だ‼」と豪快に飛びつく、昴、慶星。
湊真も飛びつきたかったが、抑えた。誰かが止めないといけないからだ。そのおかげで楽しく食事をする事が出来た。みんなが先に出て行き、俺も出ようとすると瑠璃に引き止められた。
「待って湊真。あの、今夜空いてますか?私…いきたい。」
「気持ちの準備とか必要だから、少し待ってくれ。」
それから2時間ほどが経過し、準備も整った。
ほのかとの約束は、そのあとに回してもらった。
「いくよ?後悔しないよね?やっぱり、未来のためにもここで。例え、痛みを伴っても。」「……やっぱり見たくなかったねこんな悲しいの」と8年前に焼け、そのままになっていた村を見る。蜜羽達が住んでいた村、いや、村のあった場所を見る。
「けど、これで前に進める」
「そうだね。もうこんな悲しい事を起こしちゃいけない。でも、どうすればいいの?私わからないよ。」
「でも、希望はあるよ。天下二分の計」
「えっ?私の国と蜜羽の国で?」
「ああ、東を蜜羽達が、西を俺達がだ」
「私は戦争を終わらせたい。でも、戦わなくちゃいけないんだね。」
「ああそうだ。だけど、戦いだけじゃない。同盟だってある。いくらでも道はある。」
「そうかぁ。もう、誰も悲しませたくない。」
「そうだな。」
「力を貸して。戦いを終わらせる為に」
「ああ。」そう答えて、瑠璃の肩に手を置く。帰り道、湖の水面に映る月をみる。月と水面の月、裏と表、影と光。決して混ざり合うことのないもの。
部屋に戻り、
約束の時間通りにやって来た訪問者を迎え入れる。
「ほのか。入っていいよ。」
いつもと同じように、許可を求めるまで部屋に入らないほのかの態度は、ある人物にも見習って欲しいところだ。
「失礼します。」
ほのかは、部屋のドアを閉めて俺の目の前に立つ。
「座ってくれ。」
示された椅子に座るほのか。昼間の話の続きを促すことはせず、ほのかが話し始めるのを待った。
「湊真さん」
ほのかの呼びかけに、こちらも名前を呼んで返す。
「なんだい?ほのか」
真剣な眼差しを向けるほのかに、少々気恥ずかしさも感じる。
「湊真さんは、どう考えますか?」
何をどう考えているのか?という大事な部分が抜けているため、答えようにも答えられない。
「それは、どういうことだい?」
「天下を二分するとうい事です。」
ここでやっと、質問の意図をを察した。
それは、可能かどうかということだろう。
ほのかの単刀直入な質問に、こちらも本音で答える。
「正直、不安しかない。相手の出方がわからない以上、どうすることもできないかな。
でも、諦めるつもりはないよ。」
「そうですか・・・・・。わたしは、、、」口ごもるほのかを遮り、続ける。
「手伝ってくれるか?」
その言葉を待っていたかのように、ほのかは笑顔で、
「もちろんです!」と答えた。
どうやら、ほのかはこのために部屋に来たようだ。自分の意思を伝えるために。
本題は終わったようだが、ほのかとのおしゃべりはこのあと一時間ほど続いた。続いたと言うよりは始まったというべきか。少なくとも最初の話はおしゃべりではなかった。深刻な話におしゃべりというのは申し訳ない。
「湊真さんは、好きな人とかいるんですか?」
おしゃべり、は突然に終わりを告げ、がらっと空気が変わった。それは、10代なら誰もがする質問だと思う。少なくとも、自分の知識上はそうである。
さて、どう答えたものか。目の前のほのかは、少し恥ずかしげにし、目線を合わそうとしない。
「ほのか。その質問だが、、今はまだ。自信がない。」
必死に切り出した答えにほのかは、疑問の表情を浮かべる。
「へ?」
「俺には、その人を守る自信も、幸せにする自信もない。まだ、伝える資格もないんだよ。だから、それを言っちゃいけない気がして。」自分の目標にしているのだ。強くなり、一人でも守れると確信した時にこそ、ずっとそばにいて欲しいと伝えるために。強くなろうとしてるのだ。だから、それまでは伝えないと決めている。
「・・・・・・・・・・。私は、湊真さんが好きです。」しばらくの沈黙のあと、口から飛び出したのは、想像もしていなかった言葉。
もちろん、ほのかが好意を寄せていることは知っていた。しかし、ここで出てくるとは想像もしていなかったのだ。
「ほのか。君の気持ちには答えられそうもない。」この言葉がほのかを傷付けてしまうのはわかっていた。
それでも、これ以外にどうすることもできなかったというのは甘えだろうが、こうする以外には思いつかなかったのだ。仕方なかった選択だと思っている。
俺の言葉を受け止めたほのかは、悲しげな表情を浮かべる。けれど、それほど落胆しているわけでもなく、すぐに笑顔に変わる。それは、100%本物とは言えないが、あらかた無理して作っているわけではないと感じられる。恐らく、伝えられてよかったと、嬉しい気持ちも入っているのだと確信した。
「湊真さん。私、ずっと好きでいてもいいですか?」前向きすぎるほのかの肩を抱きしめたいという衝動に駆られたが、それはかえってほのかを傷つけることになるため、優しく答えるだけにした。
「いいよ」
すべてが解決たところで時計を見ると既に11時を回っていた。
「ほのか、そろそろ寝る準備をした方がいい。」部屋に戻るようほのかを促す。
「そうですね。じゃぁ、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
部屋を出るほのかを見送り、湊真も布団に入る。
その日の夜は、静かな夜だった。
悪く言えば、嵐の前の静けさだったのかもしれない。
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