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戦国異伝

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第二百一話 酒と茶その十二

「それからじゃ」
「いよいよ、ですな」
「天下を定めますか」
「いや、関東を抑えても天下は定まらぬ」
 信長は家臣達に落ち着いた声で答えた。
「それはまだじゃ」
「では、ですか」
「奥羽と九州を抑え」
「そうしてこそですか」
「そこまでしてこそじゃ」
 ようやく、というのだ。
「天下が一つになるのじゃ」
「つまり全て果たしてから」
「それでようやくですか」
「天下を定めた」
「そう言えるのですね」
「その通りじゃ、北条との戦を終えてもな」
 そして関東を手に入れてもというのだ。
「まだ天下は定まってはおらん」
「そういうことですか」
「ではまだ、ですか」
「油断せずに」
「進めていきますか」
 天下統一への動きをというのだ。
「これからも」
「そうしていきますか」
「そういうことじゃ、だからな」
 それで、というのだ。
「北条を降しても油断するでないぞ」
「はい、わかりました」
「ではそれからもですね」
「政もし」
「天下布武を進めていきましょうぞ」
「そのことはよくわかっておることじゃ」
 信長は強い声でこうも告げた。
「ではよいな」
「はい、相模に」
「いざ小田原に」 
 家臣達も信長に応える、そしてだった。
 織田家の大軍は徳川家の軍勢をそのまま含めてだ、そのうえで川中島から相模に向かったのだった。戦はまだこれからだった。
 謙信は春日山に戻った、その時に織田家に入り相模に向かうことになった兼続に対してこう言ったのであった。
「それではです」
「はい、これからは」
「天下の剣となるのです」
 こう兼続に言うのだった。
「上杉の剣ではなく」
「天下のですね」
「真田幸村と共に」
 彼の宿敵であるこの者の名前も出すのだった。
「宜しいですね」
「さすれば」
「わたくしは越後に戻ります」
 謙信は、というのだ。
「しかし貴方は」
「真田殿と共に」
「天下の戦いを続けるのです」
「そしてこの天下を一つにする為に」
「勝つのです」
 そうせよというのだ。
「宜しいですね」
「さすれば」
「わたくしが貴方に望むことはそのことと」
「そしてですね」
「武士、漢であることです」
 このことも望むというのだ。
「曲がったことはせず」
「武士の道を歩み」
「そうして進んでいくことを望みます」
「真田殿と共にですか」
「二人で共に進むのです」
 まさにと言う謙信だった。
「宜しいですね」
「ではその様に」
 兼続も応えた、謙信はその彼に告げることを全て告げると馬を越後に向けた。そうして今は振り向かなかった。
 兼続は幸村と共に信長の傍に仕えることになった、そこでだった。
 幸村と共にいてだ、彼を見てから家臣達に言った。
「真田殿だが」
「はい、一見しただけで」
「素晴らしい方だとわかりますな」
「それも実に」
「見事な方です」
「あの御仁はじゃ」
 兼続は言うのだった。
「天下を救えるであろうな」
「この天下をですか」
「それが出来る方ですか」
「うむ」
 確か声での返事だった。
「だからな」
「それでは」
「これからは」
「わしは天下の為に働く」
 謙信の言う通りというのだ。
「ではよいな」
「はい、さすれば」
「我等もその殿にお仕えします」
 家臣達も応える、そうしてだった。
 兼続もまた小田原に向かうのだった、織田家はまた一人掛け替えのない人材を手に入れた。


第二百一話   完


                          2014・10・10 
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