戦国異伝
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第二百一話 酒と茶その十
「気付かれればすぐにこちらを見ておられた」
「我等を」
「じかにですか」
「しかしそれがなかった」
だからだというのだ。
「さしあたってはな」
「安心してよいと」
「気付かれていない」
「だから」
「怯えても何にもならん」
気付かれたかと思い、というのだ。
「まあ落ち着いていることじゃ」
「気付かれぬうちは」
「そうして」
「まあ闇には気付いておられるな」
信長はそれにはというのだ。
「動きがあることを」
「しかし我等自体には」
「まだ、ですね」
「だからよい、案ずることなくこのままじゃ」
松永は余裕のある笑みのまま己の家臣達に話していく。
「織田家におろうぞ。そして」
「そして?」
「そしてとは」
家臣達は主に問うた。
「一体」
「どうだというのですか」
「織田家におろうぞ」
笑っての言葉だった。
「そうしようぞ」
「またご冗談を」
「織田家におられるとは」
「それは出来ぬことではありませぬか」
「我等は」
家臣達は松永のその言葉にすぐに顔を顰めて返した。
「我等はその闇の者です」
「それが何故織田家にいられるのか」
「ましてや織田信長は日輪」
「日輪の者ですから」
日輪とは光、そう見ている言葉だった。
「その日輪に我等は退けられてきました」
「日輪は我等にとって忌まわしきものです」
「その織田信長の下にいることなぞ」
「無理をしているのです、我等は」
「それは殿も同じ筈です」
「まあのう」
今一つあやふやな感じだった、松永の今の返事は。しかしそれを家臣達に悟らせずそのうえでこうも言うのだった。
「それはそうなるのう」
「そうです、我等は闇です」
「この青の具足や着物も不快です」
「無理して着ているのではありませぬか」
「本来の色を隠して」
「そうじゃな、しかし長年に渡ってじゃ」
松永は焦点をはぐらかしつつ述べる。
「我等は表におったからのう」
「表の世界に」
「嫌々ながら」
「まつろう世界に出ることはです」
「苦しいだけです」
「御主達はそう言うか、しかしな」
それでもとだ、また言う松永だった。
「暫くは。頃合まではな」
「潜みますか、織田家の中に」
「このまま」
「うむ、暫くはな」
「しかし殿」
「このままいくとです」
家臣達はさらに怪訝な顔になり余裕を見せる松永に言うのだった。
「織田は北条も飲み込みます」
「小田原城も陥とすでしょう」
「あの城が幾ら難攻不落でもです」
「織田信長の知恵では」
それが出来るというのだ、小田原城を陥とすことも。
「しかも兵の差があり過ぎています」
「北条は六万、それに対して織田は二十万以上の兵を関東に持って行きます」
「兵の数だけでも歴然としています」
「ここで北条を飲み込めば天下は定まります」
北条、即ち関東を抑えればというのだ。
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