エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-
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エピローグ 手紙(前)
シルフモドキが、ほんの少しだけ広くなった青空を、翔ける。
『 連絡来たぜ。俺のほうは、さして報告することはないかな。
ただ、一つだけ。母さんの葬式がようやく終わったよ。母さんの遺体、セルシウスの凍結術のおかげで、綺麗なままエレンピオスに連れて帰ってやれた。形だけだけど父さんの墓も建てて、母さんはその隣で眠ってる。
これから何をするかは未定。実は俺、スヴェント家はジランドにぶん投げて家出しちゃったんだよねー。正直、スヴェントの家督は、俺よりジランドのほうが必要としてるから。セルシウスが付いてるから死にゃしねえだろ。
んーでも未定じゃ格好つかねえな。よし。ここはいっちょ、母国のためにあくせく働く我が叔父を見習って、元アルクノアの連中のお節介でも焼いてやりますかね。
Alfred Vint Svent 』
『 ミラ様が四大様、ミュゼ様と精霊界へ発たれてからも巫子を続けている俺だが、今までの俺様とは一味違うぞ。今俺は、学校に通っているのだ!
ニ・アケリアからカラハ・シャールへの通学は面倒くさい。いつも遅刻スレスレだ。
だがシャール妹の厚意は無下にできんし、ルタスには俺がいないと駄目だからな。これも後学のため、マクスウェルの巫子に相応しい教養を備えるためだ。
学校が終わって村に帰ると、ミラ様のお社につい足が向かう。おられないと分かっているのに。あそこへ行くと、ミラ様の息吹を感じる気がするんだ。
Ivar 』
『 わたしは今、ドロッセルのおうちでお世話になってます。学校にも通っています。ドロッセルが卒業した学校で、イバルと一緒です。
おしゃべりはまだあんまり得意じゃなくて、イジワルを言われたりもします。でも、あんまり困ったらイバルが助けてくれます。「頼んでません」ってつい言っちゃうんですけど、実はカンシャしてるんです。イバルにはヒミツですよ?
イスラさんとジャオさんもマメに手紙をくれます。二人ともとっても心配性。ドロッセルと仲良くしてるかとか、カラハ・シャールで困ったことはないかとか。返事を書くわたしのことも考えてほしいです。
最近、イスラさんの手紙は「体に変なとこがあったらすぐに言うのよ」ばっかりです。何のことでしょうね?
Elise Lutus 』
『 大事なことだから書かせてね。ついこの間、ユルゲンスと婚儀を挙げました。
ユルゲンスの正式な伴侶になれたことは泣くほど嬉しい。でも、同時に、私の罪を半分彼にも背負わせてしまうことが心苦しいとも思うの。それでも彼はいいと言ってくれた。
私にできるのは、彼と、そして私を許してくれたエリーゼに恥じない生き方をすること。そして叶うなら、他の子供たちにも償いができればいいと思う。今はキタル族の医者で精一杯だけど、いつか、本当にいつか、そうしたいと思うわ。
過去が汚れていても、人は変われる。エリーゼたちがそう教えてくれたから。
Isra Kital 』
『 旦那様、いえ、新王クレイン様の即位に当たり、私はラ・シュガル宰相職を拝命しました。
まさに目の回りそうな忙しい日々です。ですが、主君が寸暇を惜しんで働いているのに、臣下が音を上げるわけには参りません。それに、これはこれで楽しくもあります。やはり、私はこう在りたい。
ガイアス王も四象刃の皆さんも、私たちとの約束が実現される日を待ち望んでいます。
エレンピオスに戻られたジランドさんセルシウスさんと協力して、焦らず、着実に歩いていきます。
Rowen J・Ilbelt 』
『 こうして筆を執るのはいつ以来だろうか。みんなと旅をしてから随分と経ったように感じるよ。ラ・シュガルの玉座に就いてからまだ日も浅いのに。
王の責務は重い。現実の難しさに潰れそうになる日もある。けれど、ローエンやガイアスも力を貸してくれているから、弱音を吐く暇もない。
何より、先王の独裁によって未だ苦しむ民のことを考えれば、僕の悩みなんてちっぽけなものだ。
それでも不意に、あの人と彼女を思い出すことがある。
僕が王である以上、彼女との約束はいつまで延期になるか分かったものじゃない。だとしても、必ずこの世界のあの人と彼女を探し出してみせる。
そして会いに行く。世界のどこかにいる、僕の親愛なる友人と、愛しい人に。
Crane K・Char 』
『 源霊匣の研究は順調だ。研究だけは、な。
何が上手くいってないかって? 源霊匣の研究開発、スポンサー集め、商品化に当たっての連日のプレゼン。いつ過労死してもおかしくねえ仕事量なんだよこっちは!
それもこれもアルフレドが面倒事をぜんっぶ俺に押しつけたせいだ。
あのクソガキ、レティシャ義姉さんの葬儀が終わるなり行方くらましやがって。見つけたらぜってードツく。
つーわけでアルフレドを見かけたら俺に一報入れろ。元首領として命令だ。
ああ、そうそう。そういやセルシウスから伝言があったんだった。アイツ最近、俺がスイッチ入れなくても徘徊するようになりやがってよ、ったく。
「独りで抱え込むな。私もマスターもお前の味方だ」……勝手に頭数に入れんな、アホ。
まあ、何だ。俺は『審判』とやらは正直分からん。だからサポートが欲しくなった時はそっちから言って来い。いいか、言えよ? 隠すなよ?
Girandole Yull Svent 』
/Eustia
やっぱボスには敵わないなあ。
みんなの手紙を畳んで封筒に戻して、鞄に入れ直した。これで読み直すの、何度目かしら。
「――さっきから何を書いてるんだ」
隣に座るウィンガルが声をかけてきた。
「手紙の返事」
ウィンガルは呆れの色が濃い溜息を吐いた。
ちなみに彼には今、エレンピオスのスーツを着てもらってる。リーゼ・マクシアの服じゃ目立つからね。でもダークスーツにしたせいで……ソッチの筋の人に見えなくもないのが悲しいかしら。
これは非公式の訪問。世間で言うトコのお忍び旅。
ワタシとウィンガルの旅行を知ってるのはガイアスと残る四象刃だけ。
だからって別にワタシたちの仲がアレなんじゃない。ワタシと彼はとても大事な用事があってエレンピオスに来たの。
断界殻は開放されて、リーゼ・マクシアとエレンピオスは繋がった。でもそれで終わりじゃない。
オリジンの審判が、残ってる。
『 **** 手紙、読みました。元気そうで何よりです。
ワタシはクルスニク一族の使命に専念しています。とりあえず今は「道標」集め中。
具体的に述べるなら、ワタシはこの手紙を書いてる時、エレンピオスの列車(馬が要らない鉄の乗り物)の駅でトリグラフに向かう列車を待ってるとこです。
割愛するけど、残る「道標」の内一つ、「ロンダウの虚塵」はウィンガルの頭の中にあるので、取り出さなくちゃいけない。だからすっっっっごく不本意だけど、エレンピオス一の医者、クランスピア社のとある医療エージェントを頼ることにしました。彼の腕なら外科手術でウィンガルの増霊極(ブースター)から「虚塵」だけを除去できるでしょう。
そのお医者さんも一族の一員だから、どうしても、クラン社の社長でクルスニク一族総帥、ビズリー・カルシ・バクーを通さなきゃ話は進まないの。
彼らの本拠地はトリグラフだから、ウィンガルと一緒にトリグラフに向かっ 』
――「審判」に勝つためには、何はなくとも「カナンの道標」が要る。その「道標」を手に入れるために、わざわざガイアスを何度も説得して、彼の副官のウィンガルをエレンピオスに連れてきたんだから。
今、ワタシの懐(正確にはジランドおじさまの保管庫)には、4つの「道標」がある。
ワタシが分史を探索して回収した「幻魔の眼」と「心臓」。黒いミラがくれた「次元刀」。そして、「妖精分史」の叔父貴が捧げてくれた「最強の骸殻能力者」。
残るは「虚塵」だけ。
「ロンダウの虚塵」はウィンガルの霊力野に直接装着した特製増霊極の材料。コレから一部品だけを、装着者を死なせず摘出しようと思ったら、エレンピオスの発展した医療の最先端技術に頼るしかない。
そして幸か不幸か、ワタシには最大のアテがあった。
リドウ・ゼク・ルギエヴィート。
エレンピオス国内で誰もが一度は名を耳にする名医で、腕はイイけど性格がサイアクに悪い成金ヤロー。
もちろん頭蓋骨を開ける医術なんてリーゼ・マクシアにはないから、ガイアスと、あと他の3人を説得するのに骨が折れたケド。
まだ根を上げられない。トリグラフに着いたならビズリーおじいちゃまとガチンコだ。
それまでにアルたちへの返信は書き終えておきましょう。この先はバタバタしてゆっくり手紙を書くヒマなんてなくなるに決まってる。
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