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母の想い

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3部分:第三章


第三章

「本当にね。清音にも妹ができたかな」
「妹!?」
「そう、妹だよ」
 笑顔で娘に語る。
「御前の妹だ。絶対に虐めたりしたら駄目だぞ」
「私そんなことしないよ」
 このことははっきりと否定する清音だった。
「絶対に。何があっても」
「そうだな。絶対にそんなことするなよ」
「ホワイトは家族じゃない」
 たまたま自分の側に来たホワイトを抱き抱えて父に答える。この時もホワイトは穏やかで賢そうな顔をしている。抱かれながらもその身体を清音に擦り寄らせている。
「何で虐めるのよ」
「家族でも誰でも虐めたりしたら駄目なんだ」
 そこは父として念を押すのであった。
「絶対にね」
「わかったわ」
 ホワイトの温もりを感じながら父に答えるのだった。
「私虐めなんて絶対にしない」
「うん」
「何があってもホワイトを大事にするのと同じ位皆を大事にするわ」
「そう、絶対にそうしないと駄目だぞ」
 またしても娘に念を押す父であった。
「そして強い人になるんだ」
「強い人に?」
「そう、強い人にな」
 このことを何度も言うのだった。
「絶対にね。いいね」
「強い人って?」
 だが清音は今の父の言葉がわかっていない感じだった。きょとんとした目になっている。
「どういうことなの?それって。男の子みたいに喧嘩が強くないと駄目なの?」
「あんなのは本当に強さじゃないんだよ」
 ここでどういうわけか清音の手の中にあるホワイトが鳴いた。抱かれながらも彼女の顔を見上げて一言。静かな響きで鳴いたのであった。
「本当の強さはね」
「うん」
「優しいことなんだ」
 こう娘に教える。
「優しいことが本当の強さなんだよ」
「そうなの」
「そうだよ。清音、強くなるんだ」
 そしてまた強さを彼女に告げるのだった。
「お母さんみたいに。いいね」
「わかった。私お母さんみたいになる」
 母のことを言われるとすぐに応えるのだった。殆ど覚えていないがそれでもだった。母のことが出るとそれだけで違うようになっていたのだ。
「お母さんみたいに優しい人に。強い人になるわ」
「じゃあまずはホワイトの世話をすること。いいね」
「うん。じゃあホワイト」
 ここでホワイトに顔を向ける。ホワイトも彼女を見上げていた。
「私頑張るから。いいわね」
 ホワイトは今度は鳴かない。ただ清音を見上げているだけだ。だがその口元と目元が笑っているように見えた。彼女の小さな、それでも強い決意を見て。
 それから清音は何時でも忘れずにホワイトの世話を続けた。ホワイトは賢く殆ど手間がいらなかったがそれでもやることはちゃんとし続けた。そういうことをずっと繰り返し何年も何年も続けた。そのうちに清音もお父さんも大きくなり歳を取っていった。清音は小学校六年になった時ふとお父さんに言った。ホワイトに御飯とミルクをあげながら。
「そういえばお父さん」
「んっ!?どうした?」
 お父さんはこの時リビングのテーブルで本を読んでいた。仕事から帰ってお風呂と夕食を済ませてほっと一息ついている時間だった。
「三年だったわね」
 ふとこう父に言うのだった。ホワイトの食器に猫用のミルクを入れながら。
「ホワイトがお家に来たのって」
「三年?」
「ほら、お母さん言ってたって言ってたじゃない」
 お母さんのことも話に出した。
「三年経ったら帰って来るって。言ってたんでしょ」
「ああ」
 言われてそのことを思い出した。あの時ははっきりと覚えていたがずっと忙しくて忘れていた。しかし娘に言われて今そのことを思い出したのだ。
 
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