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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第18話:納得いかない事がある。それが世の中だ!

(グランバニア城・外務大臣執務室)
リュリュSIDE

今日の特訓メニューは、
腕立て30回・腹筋30回・背筋30回……これを10セット。
その後、ウエイトを付けて剣の素振りを200回。
ランニング5キロ……最後に座禅で瞑想30分。

さて、今はどこまで消化したかというと……
全然出来てません!
お仕事忙しくて、何にも特訓出来ません!

目の前ではアルルさんが私に優しく仕事を教えてくれてます。
本当に優しくて分かり易くて大助かりなんですけど、本心は助かってないんですぅ。
特訓したいんですぅ!

何でこんな事になったのでしょうか?
思い出してみましょう……
あれは3日前の事です。

ポピーちゃんに相談して、闘技大会で優勝する為の糸口を掴んだ私は、お父さんに呼び出されグランバニアへ戻る途中、今後の予定を頭の中で考えました。
大会開催まで2年もあるのだし、例え誰も私の特訓に協力してくれなくても、一人で頑張れば強くなれる……最悪は武者修行の旅って奴に出れば問題解決ぅ♥

そう思ってたんですけど、お父さんからの用事によって打ち砕かれました。
『リュリュ……アルルが妊娠してるのは知ってるよな? このまま政務を続けるのは無理だから、そろそろ後宮に入ってもらおうと思ってる。ついてはリュリュにティミーの補佐を頼もうと思う。アルルと違って政務経験があるから秘書官というより補佐官としてだ。しばらくは引き継ぎも兼ねてアルルと一緒に仕事して貰うけど、1.2ヶ月後にはリュリュ一人でティミーを補佐して貰うから、早めに仕事を憶えてね』

何で私なんですか!?
私じゃなくても政務が得意な人は他に沢山居るじゃないですか!?
そう言ったんですよ……私は言ったんですよぉ!

『ティミーのしてる外務大臣ってのは特殊なんだ。何故特殊かというと、ティミーが王子だから……だがら他の者が勤めるより深い事柄まで処理する事が出来る。確かに政務が得意な者は他にも居るだろうけど、ティミーの行ってきた政務を熟知してるのはアルルだけだ。そして常に同行してたリュリュ……お前以外の者にアルルの後任は務まらないんだ』

はい、私見てました。
今までアルルさんの仕事ぶりを拝見させて戴きました。
ですからアルルさんに説明されなくても、仕事の内容や進め方が既に解っております。

でも今じゃなくたって良いんじゃないですか? 出産しながらだって仕事できるんじゃないですか?
後宮に入るって何ですか!? 私、一時的じゃないって事ですか!?
困ります……困ってしまいますぅ!

『リュリュ……自分のやりたい事だけやって生きて行けたら、どんなに幸せだろうか。僕だって王様なんてやりたくないよ……でも誰かがやらなきゃならない事があるんだ。そしてそれは大勢の人々の幸せに繋がっている。僕が“他人の為になんて働けるか!”と言って全てを放棄すれば、大勢の人々に迷惑がかかる。だから僕は働く……嫌だけど頑張って働くんだ。リュリュはどうだい? 自分一人の我が儘だけで生きて行くかい? 国王の娘という立場を駆使して、我が儘放題に生きて行くかい?』

いいえ……そんな我が儘は言いません。
王様の娘ですけど、その王様ってのがリュカ陛下だから、我が儘を言って生きていく訳には参りませんのですぅ……
お父さんの娘は良い()でなくてはならないのですぅ!

「……じゃぁこの書類を作成してね」
「はい」
現実に思考を戻すとアルルさんが私に指示を出してた。

簡単な書類です。
それを作って上司に提出です。
上司と言ってもお兄ちゃん(ティミー君)です。

アルルさんに仕事を教わってる私に時折視線を向けてくるお兄ちゃん(ティミー君)です。
大丈夫です、働いてます。大部分は知ってる仕事ばかりなので、焦らなきゃ問題なく行えます。
奥方の手間はとらせません。

私が黙々と作業してるのを見て納得したのか、チラリとアルルさんに目を向けてから自分の仕事に戻りました。
アルルさんも可愛らしい笑顔で旦那さんに応え視線を私の作業に戻します。
ラブラブです……目で会話できるくらいラブラブ夫婦です。

アルルさんも随分と雰囲気が変わりました。
初めてグランバニアに来た時は、ショートカットで化粧っ気も少なく、まるで男の子の様な見た目の女性でした。
それまでの人生を剣術に捧げてきてた彼女は、女性らしさと言うよりも勇ましさが勝っており、まさに異世界の勇者様です。

だけどグランバニアに来てからは、剣を捨て淑女を目指し努力してきました。
アルルさん曰く、王子様(ティミー君)の后になるのだから、女らしい事を憶えないとね。
って事らしいのですけど、リュカ家の一員になるのには無用でしょう。

ですが、国務大臣と共に外遊に出かける場合は大いに有効だったみたいです。
行く先々でティミー君は未来の后(アルルさん)の事を褒められ、好印象を大いに残していきました。
アルルさんの努力にも敬服しますけど、それを見越して常に行動を共にさせたお父さんに感服です。

そんな訳で、今のアルルさんは“ざ・淑女”です。
黒いロングヘアーは気品に満ちており、一つ一つの動作は優雅で可憐。
4.5年前まで剣を振り回し大暴れしてたとは思えません。

少しお腹が大きくなってきた為、ユッタリとしたワンピースのドレス風な服で今は仕事をしてます。
羨ましいですねぇ赤ちゃん。
私もお父さんの赤ちゃんを授かりたいです。

「リュリュ……何か解らない事でも?」
アルルさんのお腹の中の新たなる生命から、自分の汚れた欲望へ飛躍妄想し、ままならない現実に溜息を吐くと、ティミー君が心配そうに声をかけてくれた。

「あ、いえ……仕事は大丈夫です。解らない事は今のところ無いですぅ……」
言えませんよ。お兄ちゃんの子供の事を考えつつ、お父さんとのエロを妄想してたなんて……
しかも仕事中ですからね。

「リュリュがアルルの後任になる事を嫌がってるのは解ってる……事務方の仕事は苦手なんだろ?」
「いえ……苦手というか……私は大会に向けて特訓したいと思ってただけです」
そう、大きな本音はそれだ!
私は出来上がった書類を上司(ティミー君)に見せながら、一番の希望を口に出す。

「そうか……」
そう言って受け取った書類に視線を落とし、確認作業をする上司(ティミー君)
でも書類を見てる様には見えない。

「アルル……君は何で剣術を始めたんだ?」
「私!? 私は……世界を平和にする為よ。勇者の娘として、先に旅立った父をサポートする為……幼い頃から剣術を学ばされてきたのよ」

「リュリュはどうしてかな?」
「私は……」
私は何でだったけ? え~と……そう言えば……

「私は会った事のないお父さんを助ける為よ! 生まれてから数年間はお父さんの事を何も知らないで育ったの……でも私のお父さんは凄い人だと聞き、そして行方不明だとも聞いて、少しでも役に立てればと思い剣術を始めたの」

「ふ~ん……」
“ふ~ん”って失礼だな。
聞いといて興味なさそうな答えって……どういう事?

「これ……陛下に提出する書類だから、今すぐリュリュが陛下に渡してきてよ」
そう言うと、今提出した書類を渡されて、新たな仕事(お使い)を命じられた。
一回ティミー君に見せた意味って何!?

ちょっと……いや大分不満に思いながらも執務室を出てお父さんの部屋へ向かう。
別に嫌々やってるつもりはない。
でも顔に出ちゃってるのかもしれないわ。
それがティミー君には気に入らなかったのかな?



(グランバニア城・国王執務室)

そんなに離れてないお父さんの執務室に入ると、仕事をしてるお父さんが私へ優しい視線を向けてくる。
はぅぅぅ……これよ! これが私のお父さんなのよ!
戦ってる姿も格好いいけど、書類仕事をしてる姿だって格好いい。
何をやっても様になるのよ!

思わず見取れちゃってると、手元の書類に目を移したお父さんが指招きをして書類を要求する。
私は吸い込まれる様な気分でお父さんに近付き、抱き締めてた書類を手渡した。
ちょっと強く抱き締めすぎて、書類がシワシワになってる……

A4サイズの紙に300文字ほどの文章が記載された書類……
それを10秒か15秒くらい見ると、私に視線を向け眉間にシワを寄せるお父さん。
何だろうか?

「これ作ったのリュリュ?」
「はい。アルルさんに教わりながら先程私が作成しました!」
「なるほど……形式は完璧だし、内容にも問題ない」
では何があるというのだろうか?

「ティミーには見せたのかい? 何も言ってなかったのかい?」
「見せましたし、何も言ってませんでしたよ。でもちゃんと見てくれたのかは不明です。上の空で見てた様に思えます」

「上の空なのはリュリュだろ……誤字が多い」
え……ご、誤字!?
ウソ……お父さんちょっとしか見てないのに、内容も誤字も確認してるの!?

「ご、ごめんなさい! い、今すぐ作り直してきます!」
「いやいい……あと2.3分もすればアルルが作り直したのを持ってきてくれる」
そう言うとお父さんは、私の作った書類に赤ペンで丸を付ける……誤字の箇所に。

「な、何でティミー君は何も言わなかったんでしょうか……やっぱりちゃんと見てくれなかったんですかね?」
「見たよ……だからリュリュに直接持ってこさせたんだ。まだリュリュには憶えて貰う事が沢山ある……お使いさせるよりも急務だろうからね」

(コンコン)「遅くなりました」
お父さんの言葉に困惑していると、宣言通りアルルさんが新しく作り直した書類を手に、国王執務室へ入ってきた。

「ありがとうアルル。これ、ティミーと食べて……さっきカタクールが何処かのお土産だと置いてった饅頭」
「ありがとうございます」
アルルさんは書類と入れ替えに受け取ったお饅頭を眺め、深々とお辞儀して退室して行く。

「リュリュもいいよ……」
私には赤ペンでチェックされた提出書類を返し、退室を促してくるお父さん。
怒ってはいないけど寂しそうな瞳が堪えられない。

リュリュSIDE END



 
 

 
後書き
次話、ラングストン出すよ。 
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