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映画

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13部分:第十三章


第十三章

「何度も生まれ変わってそのうえでみたいな」
「そうですね。そんな筈はないのに」
 夕菜はそこまでは思わなかった。だが感じる者はあるようだった。
「それでも。本当にそうしたふうに」
「思えるね」
「そうです。けれどもう」
「一緒になれる」
 朝香は今度の言葉は一言だった。
「ずっと。一緒に」
「私でいいのですね」
 夕菜は朝香に対して問うた。
「私と。ずっと一緒で」
「貴女でないと駄目だ」
 これが朝香の返答だった。
「そして貴女も私で」
「貴方でなければなりません」
 夕菜の返答も同じであった。
「私は。貴方でなければ」
「そう。それじゃあ」
 これ以上の言葉はいらなかった。二人は廃虚の中で抱き合うのだった。これが映画の最後のシーンだった。上演が終わった時観客達は恍惚となっていた。
 その中には夕菜もいた。だが彼女の顔は恍惚とはなっていなかった。それどころか驚愕したものであった。
「嘘・・・・・・」
「どうしたの?夕菜ちゃん」
 映画を観て驚いた声をあげる夕菜に隣の席にいたマネージャーが声をかける。二人は今映画館にいる。実はこの監督は映画の試写もせずいきなり上演するのだ。秘密主義というわけだ。
「嘘って」
「こんな撮影したんですか!?」
 こう言うのだった。
「何時の間に」
「何時の間にって覚えてないの?」
「はい、全く」
 マネージャーに対してこう言うのだった。
「こんな撮影していたなんて」
「!?そういえば私も」
 マネージャーも夕菜の言葉を聞いて気付いたのだった。
「覚えてないわ。撮影の間夕菜ちゃんに何をしたのか」
「そうなんですか」
「ええ。全くね」
 彼女もそうなのだった。
「覚えてないわ。というか撮影の間何があったのか」
「何か毎日監督さんのお家に行って寝てそれで起きて」
「それで一日終わってばかりだったわよね」
「それで一月」
 過ごしただけなのだった。
「朝に行って夕方に帰って」
「けれど撮影したっていうのは実感していたわよね」
「はい」
 その実感はあったのだ。これは彼女だけではない。しかしであった。どういった撮影をしたのか、どんな場面だったのかは観た今で本人もわかるということだったのだ。
「どうして。こんな」
「ううん、これって」
 マネージャーも首を傾げるばかりだった。観客は歓声さえあげている程絶賛しているが彼女達は違っていた。席に座ったまま首を傾げていた。
「どういうことなのかしらね」
「謎ですよね」
「謎なんてものじゃないわ」
 マネージャーは今度はこう夕菜に返した。
「撮影の内容を主演が全く覚えていないなんて」
「幾ら私でも」
「有り得ないわ」
 これは夕菜だけではなかった。何と朝香にしろ他の俳優達も実際に映画を観てはじめてどんな映画だったのかわかったのだった。誰もがそうであった。そしてそれはスタッフ達も同じだった。だが一人だけそうではない者がいた。それが誰なのかというと。
「よしっ」
 自宅の試写室に彼はいた。
 
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