宇宙世紀UC外伝 もう一つのUC計画
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駆け抜ける獣
前書き
はーい、あの人たちが出まーす。
ありえないことが起きまーす。お願いします!!
「カペル・グラウス、カペルスウェイト・GR!出撃るぞ!!」
黒い機影が加速して、みるみるラー・デルスから離れていく。
エイブルス中将はそれをじっと見つめていた。今回の相手はグレミー派。
エイブルスはなぜカペルが財団に亡命したかを知っている。
グレミー派はシャアの艦を潰そうと考えている。
だからこそ、カペルが裏切る可能性を考えた。そして、そうさせないために。
「君に監視役を頼んだのだよ、ユウ・カジマ大佐」
「…………わかっています、エイブルズ中将。そのための新機体もありがたく使わせてもらいます」
「ああ、行きたまえ」
ユウはデッキで起きたことを見ていた。
虹色の光。かつて、自分が見たあの蒼い宇宙。マリオン・ウェルチという少女がユウに見せた、幻の宇宙。
ユウはそれを思い返した。カペルとカペルスウェイトに。
「マリオン……お前が見せたあの宇宙は」
一体何だったのだろう?ユウはそう言って現在前線に配備されているジェガンの発展試作機である、ファステスト・ジェスタに乗って出撃した。
一年戦争と呼ばれる史上最悪の戦争から10年が経った。
U.C.83、ジオン残党、デラーズフリートの決起からスタートしたデラーズ紛争。
U.C.87、エゥーゴ、ティターンズの連邦内での対立から始まり、混迷を極めたグリプス戦役。
U.C.88、グレミー派、ハマーン派に分かれ、エゥーゴがそれに参戦する形となった第一次ネオ・ジオン抗争……。
幾多の戦いを経て、対立構造は、再び地球連邦軍とジオンに集約された。
そして今、U.C.90年。ここでは、歴史に残らぬ、一年戦争から続いた因果を断ち切る戦いが一つ繰り広げられようとしていた。
シャアの艦隊を潰そうとするグレミーの残党の艦隊。
そこは、グレミー艦隊の中心と思われる艦がある場所だった。
そこでは、ジオンの技術が練りこまれたガンダムタイプ一機と現在の新型である、青く塗装されたギラ・ドーガが、コロニーの残骸でその先にいるムサカ1隻と、数十機のザクタイプを見つめていた。中にはゲルルグ、リック・ドムなどのもいたが、現在の技術で改良してあるようだった。さらに何体かギラ・ドーガもいた。
「大した戦力だな……、およその戦力は判明した。一度戻ろう。……ん?どうした、クロエ」
青いギラ・ドーガのパイロットであるヴィンセント・クライスナーはそのガンダムタイプ、トーリスリッターに乗る少女、クロエ・クローチェに呼びかけたが、
「ヴィンセント!この子、勝手に……!ダメ!!」
ペイルライダーのツインアイが不気味に赤く煌めいた。
通信にHADES発動時の特殊な音が飛び込んできてヴィンセントの聴覚を刺激した。
まずい。
ヴィンセントがそう思って止めに入ろうとした瞬間には、トーリスリッター、いや、ペイルライダーは目標をその手で殲滅すべく動き出していた。
モビルスーツ群を駆け抜けたその機影はインコムを射出し、ビームサーベルで切り裂き、ハイパー・ナックルバスターでその群の数を着々と殲滅していった。
「クロエ、無事か!?」
「うん、多分戦闘に引っ張られただけだと思う!」
二人は協力しながらモビルスーツ達を撃墜していった。
しばらくして残るは艦のみ。クロエはインコムの一斉射撃とハイパー・ナックルバスターでビームをブリッジに撃ち込み、艦を吹き飛ばした。
「よし、退避するなら今だ!クロエ、大丈夫か!?」
「うん…………大丈夫。久しぶりだから、ちょっと疲れただけ」
連邦にいた時にされた、薬物投与などの非人道実験の数々。そして、HADESという、搭乗者が死んでも動き続けていたと言うEXAMをベースに作られたシステム。
これら全てが、クロエをずっと苦しませているのだ。
どうせなら、戦って死んでいくのが幸せではないか?
そんな考えがヴィンセントによぎったが、慌てて頭の外に追い出した。
「この宙域から脱出する!」
「ヴィ、ヴィンセント……」
クロエのトーリスリッターが向いている場所を見る。
そこにはもう一隻のムサカ級。そして旧式だがチューニングされている数々のモビルスーツ達。
…………まだだ。まだ、ここじゃない。クロエの一生がここで終わっちゃダメだ。
ヴィンセントはじっとムサカ級を睨んだ。
二人一緒に生き残るために。
「チッ…………敵が多すぎる!!」
ZⅡのパイロット、ヴィンセントの父親トラヴィス・カーグラントは、二人が見つめている艦と戦闘を繰り広げていた。
サーベルで切り裂き、メガ・ビームライフルで薙いでいく。
一機のドムが、ZⅡの背後から現れ、ヒートサーベルを振りかざした。
「クソッタレが……!」
振り返ったそのとき、ドムが突然巨腕に下半身をズタズタにされ、その身を散らした。
「何だ…………!?」
「こちらえ、え〜と…………所属なんて言えぁいいんだ?ん、まぁいい!元ネオ・ジオン軍特殊技術顧問のカペル・グラウス中尉だ!これより、貴官を援護させてもらう!」
「俺たちがな!」
グレーの機体が一機のゲルルグを切り裂き、そこを狙ったギラ・ドーガを蹴り飛ばした。
「此方は地球連邦所属のユウ・カジマ大佐だ!こちらも貴官を……」
「なんだって!?あんた、カジマ中尉か!?」
トラヴィスは思わず声を荒げた。ユウは中尉時代のことを思い出し、その声の主を思い出した。
「ハッ、トラヴィス中尉か!?だが、貴方は軍を抜けたはずでは……」
「あの時ピクシーに乗ってたやつの情報で、息子がここにいると聞いてここに来た!んでもって、アンタに少し因縁がある奴もいるらしい!」
「因縁…………?」
首をかしげたユウだが、トラヴィスの一言で分かってしまった。いや、分からねばいけなかった。
「HADESだ!あんたが乗ってた機体に搭載されてたEXAMがベースになってる!!」
「バカな!?そんなものがまだ残って!?」
「HADES?つーことは、クロエの嬢ちゃんがここにいるのか!?」
カペルはクロエを知っている。
過去にそのデータを見せてもらったし、その付き添いであるヴィンセント・クライスナーと共にHADESのリスクを軽減するために話し合ったこともある。
「あんた、息子と話したことがあんのか!元気でやってたか!?」
「ああ、トーリス……じゃなかったペイルライダーのパイロットをすげぇ心配してたよ!」
「だが、話の続きは後だ!今はこいつらを落とすぞ!」
トラヴィスがそう言ったが、ユウがそれを止めた。
「いや、トラヴィス中尉、貴方は息子のところへ行け!ここは俺たちでなんとかする」
「だが……!」
「いい、行けよ!息子のところへ行ってやれ!案外子供は親を求めるもんなん……だ、ぜェッ!!」
ロング・ブレード・マグナムでビームを発射すると同時に、ビームでジオンのモビルスーツを薙ぎ払う。
「こいつぁ威力が強すぎる!!なら……」
「ファンネル!」
トラバサミのような形をしたファンネルが放たれ、モビルスーツ達の四肢をもぎ取った。
「ユウ大佐!出来るだけ撃墜さないでくれ!グレミー派でも、俺と同じ出身なんだ!」
「了解した!」
ハイパー・バズーカを撃ち、シールドのグレネードでモビルスーツの目を潰した。
ビームサーベルでモビルスーツの四肢を切り落とし、安全な方へ吹き飛ばす。
「カペル中尉!周囲のモビルスーツは大方片付けた!なら、トラヴィス中尉の方へ!!」
「了解した、行くぞ!」
二人はスラスターを噴かしてZⅡが去って行った方へ向かった。
「なんだ……別方向からも一機!?」
「おーっと、撃つなよ!敵じゃない!マルコシアスのヴィンセント。そっちは……随分とゴツいけど……ペイルライダーでいいんだな」
「誰だ?」
「こちらトラヴィス……あー覚えてっかな?」
「どうして貴方が此所に……!?」
トラヴィスはコクピット内で少し笑うと答えた。
「約束しただろ?戦争が終わったら会おうって……まあ、話は後だ。敵が集まりつつある。完全包囲される前に活路を開くぞ」
「分かりました!」
「いくぞ?二人とも!!」
三機がスラスターを吹かせた。他のモビルスーツ達を倒すために。
死の騎士、幽霊、そしてブルー………役者は揃った。一年戦争から続いた因縁。
それが断ち切られる時がきた。
「ザンジバルがある。クロエ、そっちを撃墜すぞ!」
「了解!!えっと……トラヴィスさん、ムサカを頼みます!」
「おうよ!」
各自モビルスーツを撃墜としていくが、内心、トラヴィスは焦っていた。
「見栄きったのはいいけどよぉ……!」
「正直辛いねぇッッッッ!!」
が、そんな中で。星の輪を引き連れた獣と。蒼い宇宙を継いだ者が現れた。
「カジマ中、いや、大佐か!カペル中尉も……」
「おい、クロエの嬢ちゃんは!!そろそろHADESの限界だ!まじでまずいぞ!」
「カペル中尉、トラヴィス中尉!俺を、彼女のところに……HADESの所に……!」
「邪魔だ!!」
モビルスーツを蹴り飛ばしたユウは、EXAMとの戦いを思い出していた。
EXAMはニュータイプを殺す存在でしかなかったのかもしれない。
だが、俺には蒼い宇宙を見せたのだ。苦しみを与えるだけのシステムではない。
HADESもあれから作られたシステムならば…………
その可能性もあるはずだ!
ユウはクロエのいる方へ向かった。
「ペイルライダーのパイロット!よく聞け!!」
「そのシステムは痛みを与えるだけのシステムではない!」
「もっと奥へ!そこには優しさがあるはずだ!」
「カペル中尉!!」
「何だ!?」
「サイコフレームは人の思いを拡張させるのなら……頼む!」
「…………了解!」
ユウの機体とともに近づくと、ペイルライダーがこちらに向かって襲いかかってきた。
「やっぱりか……ヴィンセント中尉、撃つなよ!!」
「俺に力を貸せ、カペルスウェイト!!」
n_i_t_r_oを起動させると、ここにはいない人の意識が、カペルスウェイトを仲介してペイルライダーへと流れ込んだ。
「…………マリオン!」
ユウは再びそれを見た。あの時出会った少女で間違いなかった。
『ユウ…………』
「頼む、マリオン!!」
そして、それは。クロエを、ペイルライダーを包み込んで。暖かな光を見せた。
それは見る者の心を暖めた。ある者は戦闘をやめ、投降し始めた。
それに呼応したように他の機体も投降し始めた。
カペルは安堵し、周囲を見て帰投しようとした。けれど。
クロエとカペルは気付いた。敵意を持つ者がこの場にいることに。
「何だ……!?この憎悪の塊は!」
コロニーの陰から。ゆっくりとそれは姿を現した。
赤い、ずんぐりときた機影。それはゆっくりと。憎しみを前面に押し出して。
禁断のシステムを身に纏って、全身を赤く染めたその機体は。
「クィンマンサ……!?」
殺意を纏った怨念の機体は、スラスターを噴かしてビームサーベルを展開した。
後書き
いかがでしたでしょうか?
次回はクィンマンサ戦。カペルスウェイトとジェスタでの一戦となりそうです。
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