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ヴォルデモート卿の相棒

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トロール襲来

 
前書き
VSトロール!
危機感があまり湧かないのはだいたいフラッフィーとクレスのせいだ。 

 
大広間は大混乱に陥った。
トロールの恐怖に怯え、あるいは喚き、場は収集がつかないほどに騒然とする。ダンブルドア先生が杖の先から紫色の爆竹を何度か爆発させて、やっと静かにさせた。
混乱が収まったのを確認し、真剣な表情で口を開く。

「監督生よ。すぐさま自分の寮の生徒を引率して寮に帰るように」

校長の指示を受けたパーシーはこれでもかと言うくらい張り切って、グリフィンドール生達を寮まで引率していく。
階段を上がりながらハリーは二人に話しかける。

「いったいどうやってトロールは入ってきたんだろう?」
「僕にもわからないよ。トロールって、とってもバカなヤツらしいよ。もしかしたらハロウィーンの冗談のつもりで、ピーブズが入れたんじゃないかな」
(アレクじゃねぇんだからそう簡単に手懐けられるわけねぇだろ。……それにしてもだらしねぇな、たかだかトロール一匹でよ)

ハリー達の話を聞きながら、クレスはさっきの大混乱を思い出し、やや失望する。
確かにクレスとてトロールに怯えたことが無いわけではない。クレスは4つの頃、丸腰でトロールの目の前に放り出されたときは怖くてしかたがなかった。
闘う力の無い者にとって、トロールは間違いなく恐怖の対象だ。下級生が恐怖に駆られても恥ずべきことでは断じてない。
しかし闘うための力を充分に備えている筈の上級生が我を忘れて慌てふためく……それはあまりにお粗末ではないか。ましてや教師、それも防衛術の教師であるクィレルがその体たらくなのは論外だ。彼らは、闘う力をなんのために身につけたのだろうか?

「ちょっと待って……ハーマイオニーだ」

そんなことをクレスが考えていると、突如ハリーは二人の腕を掴んだ。

「あいつがどうかしたかい?」
「トロールのこと、知らないよ」
「っ!?……まったく……世話の焼ける優等生様だなオイ!」

クレスはすぐさま進路を変え、ハリーとロンもそれに並走する。

「……ちょっと意外だよ」
「何がだ?」
「君のことだからほっとけと言うかと……」

反対方向に行くハッフルパフ寮生に紛れ込み、誰もいなくなった方の廊下をすり抜け、女子トイレへと急ぐ途中、二人はクレスに聞いた。クレスは心外だという口調で返答する。

「確かにあいつの性格は気に食わねぇし、俺ぁ他人事には無関心だ。だがな……それが見殺しにしていい理由にはなんねぇだろうが!」

そのまま角を曲がった途端、後ろから急ぎ足でやってくる音が聞こえた。ロンはその足音をパーシーだと判断し、大きな石像の後ろに二人を引っ張り込んだ。
石像の陰から目を凝らしてみると、パーシーではなくスネイプだった。そのまま廊下を渡り、視界から消えていった。

「何してるんだろう? どうして、他の先生と一緒に地下室に行かないんだろう?」
「知るもんか」
「どうでもいい。今はスネイプよりあいつだ」

ハリーが疑問に思うが、それどころじゃないと二人は一蹴する。スネイプの足音が段々と消えていく方向を耳で追って、3人はできるだけ音を立てないように身体を屈めて廊下を歩いていった。
「スネイプは、四階のほうに向かってるよ」と言うハリーを、ロンが手を上げて制した。クレスは真剣な顔をしている。

「なにか臭わないか?」
「この匂い……近くにいるな」

ハリーが匂いを臭いでみると、汚れた靴下と、掃除をしたことがない公衆トイレのような匂いが混じった悪臭が鼻をついた。
次に音が聴こえてきた。低い唸り声と、巨大な足を引きずるようにして歩く音だ。
ロンが指差した方向には、廊下の向こうの左側から何か大きな物がこっちに向かって近付いて来るところだった。三人が物陰に隠れて様子を伺っていると、月明かりに照らされた場所にその大きな物がヌーッと姿を現した。
背の高さは4メートルも有り、肌の色は墓石のような鈍い灰色で、そのずんぐりとした巨体は岩石のようにゴツゴツしていて、ハゲた頭は小さく、ココナッツがちょこんと乗っかっているようだった。短い脚は、木の幹ほども太くて、地面に触れる足の部分はコブだらけで平たくなっていて、腕が異常に長いので、手にしている巨大な棍棒は床を引きずっていた。

「でやがったな……始末しておくか」
「待って! 少し様子を見よう!」

すぐさま出ていこうとする無鉄砲なクレスを、ロンがガウンの袖を掴んで引き戻す。
トロールは、ドアの前で立ち止まり、中をジッと見た。
長い耳をピクつかせ、中身のない頭で考えていたが、やがて前屈みになってノロノロと中に入っていった。

「鍵穴に鍵が付いたままだ。あいつを閉じ込められる」
「名案だ」
「正直気が進まねぇが……後で教師にとやかく言われんのは確かに面倒だな」

ハリーが声を殺して言った提案に、ロンはびくびくした声で、クレスは渋々といった感じで同意した。
クレスは慎重に進もうとした二人を押し退けて何の迷いもなくドアまで近づき、鍵を掴みドアをバタンと閉めて鍵を回した。

「後は大人に任せときゃいいだろ」
「君って本当グリフィンドールらしいよね……」
「まあいいじゃないか! 早く戻らないとパーシーがカンカンになっちゃうよ」

勝利に意気揚々として、二人はもと来た廊下を走って行き、クレスもそれに続いたが、曲り角まで来た時、心臓が止まりそうな声を聴いた-かん高い、恐怖で立ちすくんだような悲鳴-今、鍵を掛けたばかりの部屋の中からだ。「しまった」と言ったロンの顔は、これでもかと言うくらい真っ青になっていた。「女子用トイレだった!」と言ったハリーも思わず息を飲む。

「……本当に、世話の焼ける奴だな!」

クレスは自分の迂闊さに腹を立てながら、右の腰に差した小太刀を鞘から引き抜く。そのままドアまで駆け抜け、刀身が紅に染まった小太刀でドアを一刀両断した。
小太刀を鞘に戻しながら、クレスは呆然とみていた二人を手招きして、三人は中に突入した。
ハーマイオニー・グレンジャーは、奥の壁にはりついて縮み上がっていた。いまにも気を失いそうな状態だ。トロールは、洗面台を次々となぎ倒しながら、ハーマイオニーに近付いていく。

「こっちに引きつけるんだ!」

ハリーは無我夢中で二人はにそう言うと、ロンは落ちていた蛇口を拾って力いっぱい壁に向かって投げつけ、クレスは杖を取り出し、ダンブルドアが先ほどやったように爆竹を鳴らす。
トロールは、ハーマイオニーの1メートル手前で立ち止まり、ドシン、ドシンと向きを変えると、鈍そうな目をパチクリさせながら、何の音だろうとその方向を見た。
そのままクレスとロンがトロールを引きつけている内にハリーはハーマイオニーのもとにたどり着いた。

「さあ、早く逃げよう!」
「ごめんなさい……腰が抜けちゃって…」

ハリーはハーマイオニーの肩を持ち、出口に向かって歩を進める。すると、二人の方に注意を向けていたトロールが、ハリー達の匂いを嗅ぎとったのか、突如向きを変え突進していく。

「ちぃ、仕方ねぇ! ……アップ」

クレスは凄いスピードでハリー達の前まで移動し、二人を庇うように立ちはだかる。
トロールは目の前に現れたクレスに向かって棍棒を振るり下ろした。最悪の事態を想像し、三人は思わず目をつぶる。





「てめぇはもう詰んでるぜ、豚肉が」

しかし、信じられないことに、クレスは棍棒を片手で受け止めていた。そのまま困惑しているトロールに近づき、片手を添える。


魔法使いは杖を用いて魔法を行使する。では杖が無ければ魔法を使うことはできないのだろうか?
そんなことはない。事実、11歳になり杖を持つ以前も、
魔法使いの素養を持った子供は魔法を発現させることがあるし、杖を持ってからも感情を爆発させれば、なんらかの変化が生じることがある。とどのつまり、杖が無くても魔法は使えるのだ。
魔法には魔力を必要とする。これは魔法に携わる者ならだれでも知っている理屈だ。では魔力とはいったいどこにあるのか? 勿論魔法使いの身体にある。その魔力を杖を媒介にして発動する-それが人間の使う魔法である。
どうしてそんな面倒な手順を踏むのか?……それは杖を使わず魔法を行使することは、杖を使う場合に比べてとても難しいからだ。思い通りに魔法を行使したければ、そ身体を循環する魔力を完全にコントロールする必要があるからだ。
現代のマグルが木を擦りあわせて火をつけることはせずライターを使うように、ほとんどの魔法使いも発動が容易である杖を使う魔法を選び、魔力をコントロールしようとはしない。小さい頃は感情的になると魔法を発動させていた子供も、杖を持ち成長するにつれ、杖を使わないで魔法を使う力を、体が忘れてしまうのだ。

しかし、戦闘に重きを置くエシャロット家の考えは全く違っていた。
戦場では何が起こるかわからない。もし戦場で杖を失えば、魔法使いとは無力な存在になってしまうのか?
また、魔力という存在そのものを何か、例えば近接戦闘に利用できないだろうか?
そのような考えのもと、エシャロット家は2つの秘術を編み出した。

2,3年の修行の末修得する、身体の中にある魔力を自由自在に操る技……【魔力掌握】!

そして、その魔力を用いた7つの体技、全ての技の修得には最低10年の歳月が必要であり、エシャロット家を最強の家系たらしめた近接格闘奥義……【魔導武闘】!

1つ目の奥義は【アップ】……魔力を集中させ身体を強化する。集めた魔力に比例して強化することができる。
クレスは足に魔力を集め、脚力を強化することでハリー達の前に瞬間移動し、腕に魔力を集め、腕力と強度を強化することでトロールの棍棒を受け止めたのだ。

そして2つ目の奥義はケルベロスにも使用した、魔力を体外に放出することで衝撃を放ち、物体を吹き飛ばす……


「インパクト!」

トロールはペットボトルロケットのように吹っ飛んでいき、女子トイレの壁に打ちつけられ、地面に倒れ込んだ。
トロールはあまりの衝撃に棍棒を取り落とすが、なんとか意識は保っており、弱々しく立ち上がった。

「チッ、ケルベロスほどじゃねえが、こいつも大概タフだな」

クレスが面倒くさそうに呟く中、ロンが杖を取り出し、頭に浮かんだ呪文を唱えた。

「ウィンガ~ディアムレヴィオーサ!」

突然、トロールの近くに落ちていた棍棒が浮き上がり、空中を高く高く上がって、ゆっくり一回転してから、ボクッという嫌な音を立てて持ち主の頭の上に落ちた。
脅威が去ったことで落ち着いたのか、ハーマイオニーはトロールに近づき、生死を確認する。

「これ……死んだの?」
「いや、ノックアウトされただけだと思う」

急にバタンという音がして、バタバタと足音が聴こえたので、4人はその方向を振り向く。この後の展開を予想しているのか、クレスは若干苦い顔をしている。
まもなく、マクゴナガル先生が飛び込んで来ると、すぐにスネイプ先生が来て、その後にクィレル先生もやって来た。クィレル先生は、トロールを一目見た途端、弱々しい声を上げ、胸を押さえてトイレに座り込んでしまう。マクゴナガル先生は4人を、今までで一番怒った表情で見据えた。

「いったい全体あなた達はどういうつもりなんですか」

マクゴナガル先生の声は、冷静だが怒りに満ちていた。

「殺されなかったのは運が良かった。寮に居るべきあなた達が、どうしてここに居るんですか?」
「まあ、成り行きっす」

マクゴナガル先生はクレスをキッと睨むが、クレスはまるで動じていない。相変わらず心臓に毛が生えているかのような胆力である。

「マクゴナガル先生。聞いてください……三人とも私を探しに来たんです」
「ミス・グレンジャー!」
「私がトロールを探しに来たんです。私……私一人でやっつけられると思いました。あの、本で読んでトロールについてはいろんなことを知っていたので」

三人は思わず耳を疑った。あのハーマイオニーが、規則を破ったと教師に告げているのだ。

「ミス・グレンジャー、なんと愚かしいことを。たった一人で野生のトロールを捕まえようなんて、そんなことをどうして考えたのですか?」

ハーマイオニーはうなだれる。三人は目の前のことが現実なのかまだ信じきれなかった。

「ミス・グレンジャー、グリフィントールから五点減点です。あなたには失望しました。怪我が無いなら、グリフィンドール塔に帰ったほうが良いでしょう。生徒たちが、さっき中断したパーティーの続きを寮でやっています」

ハーマイオニーは帰っていった。マクゴナガル先生は、今度はクレス達の方に向き直る。

「先ほども言いましたが、あなたたちは運が良かった。成長した野生のトロールに立ち向かえる一年生なんてそうざらには居ません。一人五点ずつあげましょう。ダンブルトア校長にご報告しておきます。帰ってよろしい」

三人は、急いで廊下に出て、二つ上の階に上がるまで何も話さなかった。

「15点はいまいち少ないよな」
「10点だろ。ハーマイオニーの五点を引くと」
「むしろ多いだろ。たかがトロール一匹……キレたルーチェさんの方が千倍恐ろしいぜ」
「ホントにどんな人なの? すごく気になるよ……それよりさっきトロール吹っ飛ばした魔法教えてよ。マルフォイの鼻っ柱をへし折ってやる」
「企業秘密だっつってんだろ。豚の鼻」

合い言葉を聞いた肖像画がバタッと倒れ、三人は中に入っていく。談話室は人がいっぱいでガヤガヤしていた。
みんな談話室に運ばれて来た食べ物を食べている。
ハーマイオニーだけが、一人ポツンと扉の傍に立って3人を待っていた。少し気まずい沈黙の後、4人とも顔を見もせずに、互いに「ありがとう」と言った。
不意にハーマイオニーは汽車でアレクに言われたことを思い出す。



『自分から歩み寄ることを覚えなきゃ』



「ハリー、ロン、クレス!」

ハーマイオニーの呼びかけに、食べ物を取りにいこうとした三人が一斉に振り向く。

「私と……友達になってください」

その発言に三人は目を丸くし、すぐニヤリと笑い、口を揃えて返答した。

「「「僕(俺)たち、もう友達だろ?」」」

その言葉は、好成績よりも、先生からの誉め言葉よりも、ハーマイオニーが一番欲していたものだった。


 
 

 
後書き
ハーマイオニーは友達を手に入れた!

魔力云々に関しては、私が原作を読んでいるときに感じた「杖無くても魔法使えてね?」という疑問に強引に設定付けしたものです。ちなみにクレスはまだ7つ全部の体技を修得してはいません。

何かおかしい点があれば、「こんな設定原作に無い!」という意見以外ご報告下さい。


 
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