魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~
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第14話 「親戚、現る」
八神堂でのスカイドッヂは、混成チームの勝利に終わった。
詳しく説明すると長くなるので簡単に言うと、俺とディアーチェがシュテルだけに任せてバックスに回り、彼女が目指すべき高みを体現していたのだが、混成チームの持てる全ての力を掛けた一撃を受け止めきれずに場外に出てしまったのだ。
高町はシュテルからライバル認定されてたし、高町を含めた小学生組は今度グランツ研究所に来いって誘われたっけ。その前にチーム名を決めないといけないとか言ってたけど。
近々あの5人がチームになるのか……良いチームになるだろうな。
アバターのタイプもバラバラであるし、やる気や不屈さも充分にある。普段の仲の良さも考えれば、近いうちにチーム戦でも活躍するようになるのではないだろうか。あのダークマテリアルズに潜在的な力は認められているのだから。
「あの子達が有名になればT&Hも活気付く。八神堂やグランツ研究所にはすでに有名な連中がいるわけだから……ますますブレイブデュエルが世の中に広まるだろうな」
そう思うとロケテストに参加し、叔母が開発に関わっていた身としては実に嬉しい。その一方で、あの子達にまでチームに入ってほしいと言われ始めるのでは……、と思うと少し憂鬱になる。
……いや、大丈夫かな。チームは5人1組だし、あの子達はちょうど5人なんだから。
そのため誘ってくるのはダークマテリアルズくらいでは、と思いたいところだが、八神堂のことを考えると人数が居ても誘ってくる可能性はある。まあT&Hはアリシア、八神堂ははやてと特定の人間だけだろうが。
ディアーチェが誘ったことはないし、レヴィもじゃれついてくるくらいでチームに入れとはあまり言わない。シュテルは共闘も楽しそうではあるが、敵対するほうが楽しいと思っていそうな奴だ。あそこのチームが1番誘ってこないかもな。
「ということは、これまでとほとんど変わらないかもな」
良いことのように思えるが、考え方によっては味わう苦労も同じということだ。素直に喜べない。これ以上考えても気分が向上するわけではないので、コーヒーを飲みながら今日の予定を考えることにした。
確かレーネさんは帰りは遅くなる、最悪帰ってこないかもしれないと言っていた。食事は自分の分だけを用意すればいい。ならいつも以上にブレイブデュエルに時間を割いてもいいかもしれないな……。
『ショウ、デュエルをするなとは言わんがきちんと食事は取らぬか! どうして貴様は時折だらしなくなるのだ!』
ふと脳裏にディアーチェが出てきてしまった。年齢的には俺のほうが少し上なのだが、昔から面倒見の良い性格だった彼女には時々説教されていたのだ。言っていることが正しいだけに反論できた覚えはない。
最近はなくなったが……こっちに戻ってきてからは食事に誘われることがあるな。あいつの料理は上手いから食べたくはあるが、あそこは人数も多いし、たくさん食べる奴もいるからな。手間を増やしたくないって思うんだよな。
これをディアーチェに言ったところで、気にせず食べに来いというニュアンスの返事があるだけだろう。しかし、俺も家事をしている身であり、日頃の彼女の家事を除いた苦労も理解できるため、あまり甘えたくはない。
「……ん?」
不意に室内に高めの音が響いた。来客を知らせるインターホンの音だ。
記憶を辿ってみても、今日誰かが来るという話は聞いていない。突発的に訪れそうな人間の心当たりはいくつかあるが……海外にいる両親が何か送ってきた可能性もある。ネガティブに考えるのはよそう。
「やっほー」
俺が玄関を開けると、来客が明るく無邪気な声で話しかけてきた。乳白色とでも言うべき肌に鮮やか赤い瞳。長く伸びたストレートの髪は紫黒色だ。背丈は同年代と比べると小柄なほうに入るだろう。
目の前にいる少女の名前は東雲悠樹。普段はユウキと呼んでいる。
彼女は俺の母方の親戚であり、幼い頃から度々顔を合わせている間柄にある。運動はあまり得意ではないのだが、ゲームにおいては天性の才能を持っており、俺よりもあとに始めたはずなのにいつの間にか追い抜かれていたということが数え切れないほどあった。
この説明から分かるだろうが、俺とユウキは知らない間柄ではない。
それにも関わらず、俺が固まってしまっているのはユウキが住んでいるのがこの街ではなく海外だからだ。突発的に遊びに来ることは考えにくい。
「久しぶり……どうかした? 僕の顔に何か付いてる?」
「いや……急に来たから」
「え?」
なぜユウキは驚いているのだろうか。……もしや
「レーネさんから聞いてないの? 今日来るって言ってあったと思うんだけど」
やはりそうか。
俺が今一緒に暮らしているレーネという人物は、天才的な頭脳の持ち主であるのだが、一度仕事を始めると不眠不休で働くような仕事中毒の一面を持っている。そのため家事全般は不得意であるし、このように連絡事項を伝え忘れることが多々ある。
現状では俺の保護者的な立場にあるはずなんだが、彼女のことを知っている人間からすれば、俺が保護者の立場にいるように見えるのではないだろうか。すでにイイ大人なのだからもう少ししっかりしてほしいものだ。
「はぁ……」
「え、僕まずい時に来ちゃった? それとも来ること自体迷惑だったかな?」
「あぁいや……レーネさんに思うところがあるだけで、お前にどうこうってわけじゃない。にしても、えらく今回は荷物が多いな」
「それはそうだよ。しばらくこの家でお世話になるんだし」
…………は?
この家に世話になる? つまり泊まるってことか。まあ親戚だから問題ないと言えばないわけだが……しばらくって言葉が気になって仕方がない。
「しばらくって……いつまでだ?」
「僕の父さん達がこっちに来るまでだね」
「……いつ来るんだ?」
「うーん……分かんないや。できるだけ早く来るって言ってたけど」
ユウキがここに来た経緯が上手く理解できない俺は素直に事情を説明し、詳しいことを聞いてみた。
ユウキが言うには、彼女の父親が転勤でこの街に来ることになったらしい。ただ残っている仕事があるため、すぐには行けないとのこと。ならば一緒に来れるまで待てばいいのではないか、と思い言ってみると――
「だって暇なんだもん。ショウもシュテル達もみんなこっちに行っちゃってたし。それに2学期からショウと同じ学校に通う予定だからね。この街のこととか勉強とかしとかないといけないから」
「……最大の理由は?」
「ブレイブデュエルがやりたいから!」
だろうな……それでこそ俺の知るユウキだ。
ってことは、俺はユウキの両親が来るまで彼女の面倒を見なくちゃいけないってことか。期間は最長で2学期が始まる前まで。いくらレーネさんも一緒だからって、ほとんど仕事でいないわけだし。年頃の男女が長い時間一緒に暮らすのはまずいだろう。
かといって、すでに話は通っているようなのでユウキを帰すわけにもいかない。レーネさんにはあとで説教しておくとして、とりあえず家に上げよう。いつまでも玄関で話すのもあれだ。
「お前が来た経緯については分かった……まあ上がれ」
「うん……その手は何?」
「荷物をよこせってことだよ。運んでやるから」
「いいよ別に」
「いいから」
俺は半ば強引にユウキから荷物を受け取った。普通このような真似をすれば怒られたりするだろうが、まあ俺とユウキには多少なりとも血の繋がりと共に過ごした時間がある。それに彼女は最近は聞いていないが、昔はよく体調を崩していた。それだけに重たい荷物を持たせたくない。
「僕も一応女の子なんだけどな」
「安心しろ、お前くらいにしかしてないから」
「それって僕だけ特別扱いしてくれてるってこと?」
からかうような笑みを浮かべているユウキの額に、俺は無言で振り返るとでこピンを入れた。なかなかに良い音がしたので痛かったらしく、彼女は両手で額を押さえる。むすっとした顔をこちらに向けてきたが、相手にしないことにした。
「もう、そういうところがショウの悪いところなんだよ。だから彼女が出来ないんだ」
「あいにく自分を偽ってまで作りたいとも思ってない。長続きはしないだろうし、作ったら騒ぎそうな人間がいるしな」
「ふーん……ま、ショウらしいね」
興味なさそうな返事だな。お前の興味はブレイブデュエルのほうに行ってるわけか……まあ追求されるよりはマシだけど。親戚の異性と恋愛について語るなんて考えただけでも無理だ。
「そういえば、こっちに戻ってきたから新しい友達とか出来た?」
「ん? まあ……仲良くなった子は何人かいるな。店の手伝いとかで初心者の面倒とか見たりすることがあるし。最近だと小学生達と親しくしてたかな」
「女の子?」
「そうだな」
「……ショウってロリコン?」
何で小学生と親しくしてただけでそうなるんだよ。俺だってついこの間まで小学生だったし、低学年と親しくしているわけじゃない。歳の差はあまりないんだぞ。
「ユウキ、お前俺に恨みでもあるのか?」
「別にないけどさ、やっぱり小学生の異性とって聞くと……」
「お前と一緒にいるのをはたから見られれば、同じように思われると思うんだがな」
「僕はそんなに小さくないよ!」
「はいはい、そうだな。ユウキはまだまだこれからだもんな」
「もう伸びないというか、小さな子供をあしらうような言い方しないでよ。僕、ショウと同い年なんだから!」
そうなんだよな……こう見えてユウキって俺と同い年なんだよな。シュテル達のような年下がいるせいか、年下のように思ってしまうのが現状だけど。言葉遣いもレヴィに似たところがあるし……これが最大の理由かもしれない。
「分かった分かった」
「もう、適当な返事ばかり……」
「グダグダ言ってないで、さっさと荷物片付けるぞ。ブレイブデュエルしに行きたいだろ?」
「え、あぁうん!」
こうやって話題がすぐに逸らせるあたり、やっぱりレヴィに近い感覚を覚えてしまう。まあ異性に対する意識はきちんとあるので心配はしていないが。
……1番の心配はブレイブデュエルの腕だよな。こいつの才能からすれば、圧倒的な速度で全国ランカーに匹敵するレベルに上り詰めそうだし。過去の戦績だとユウキに負け越してから……今まで以上に頑張らないとやばいかもしれない。
今度……ブレイブデュエルの総本山であるグランツ研究所に行ったほうがいいかもしれないな。
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