僕の周りには変わり種が多い
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来訪者編
第29話 別な来訪者
僕の月曜の朝は普段より遅かったが、昨日ニュースとして出ていた連続猟奇殺人事件、犯人の通称『吸血鬼』の話題でもちきりだった。そしてエリカが中心となって達也、幹比古、美月を相手にさっそくひっかきまわしているようだが、僕にも話しがまわってきた。
「ミキは、妖魔か魔物かは、わからないけど、人間じゃないような気もするって言ってるけれど、翔くんはどう思う?」
「うーん。今回の『吸血鬼』に似ているのだったらJTRかな?」
「JTR?」
「幹比古は知らないか?」
エリカが聞いてきたので、幹比古に話しをふってみる。
「ロンドン会議ででてきた話題だね?」
「そう。それ」
「一体2人で何を話しているのよ」
エリカの質問は幹比古に話をまかせることにした。一般的な古式魔法師がどのようにとらえているのか、知りたかったからだ。
「JTRっていうのは、通称ジャック・ザ・リッパー……つまり切り裂きジャックといわれた事件のことなんだけど」
「それの犯人って不明なんじゃなかったの?」
「普通はそうだね。イギリスの古式魔法師が解決したので、表の話にはなっていないよ」
「なんでそんな話を知っているのよ」
「古式魔法を伝える者たちも国際的なつながりがあって、主にイギリスのロンドンでそういう会合をおこなっているから、ロンドン会議ともいうんだけれど、JTRっていうのは、パラサイトが関連した事件なんだ」
「パラサイト(寄生虫)? そのままの意味じゃないよね?」
「超常的な寄生物がパラサイト。各国の古式魔法を伝える者で呼び方が違うから、同じ概念をもつものを、それぞれロンドン会議で定義づけしていっているんだよ。妖魔、悪霊、ジン、デーモン、それぞれの国で、それぞれの概念で呼ばれていたモノたちのうち、人に寄生して人を人間以外の存在に作り変える魔性のものをこう呼ぶんだ。国際化したからと言っても古式魔法の秘密主義は相変わらずだから、基本的に現代魔法の魔法師である皆が知らなくても当然だと思うけれど。翔は、吸血鬼事件はパラサイトが絡んでいると思っているのかい?」
「切り裂きジャックがパラサイトが関連している事例としては似ていると思う。取り付いていたパラサイトは、何が目的であれだけ分散した内蔵をとっていったのか、結局はパラサイトを退治した段階で、取り付かれた古式魔法を伝える女性も死んだから、謎のままっていうのはあるけどね」
「えーと、切り裂きジャックの犯人って医師っていう説があったけれど、魔法かぁ。確かにきれいに切り取られていても不思議じゃないわよね」
「今回も注射をつかったのではないかという話はあるけれど、魔法でも同じように細い穴をあけて、血液を吸い取るということは不可能ではないから、魔法が関連するならパラサイトが魔法師に取り付いているという考え方もできるってところで、今は情報が足りないから、そういう可能性があるっていうぐらい。事態は最悪を考えておけ。事実は常にその斜め上に行くって、前世紀の冗談だけど、それぐらいの気持ちでいた方がいいと思うよ」
エリカがあきれたように
「あなたたち古式魔法を使えるのって、本当に秘密主義よね。ミキとは長いつきあいなのに、聞いたことなかったし、翔と三高の名倉あかりとの会話は、恋愛話のようにみせかけた暗語のやりとりだったなんて」
このタイミングでレオが入ってきて
「はよッス、何の話だ?」
「今日はずいぶん遅かったな」
「あー、チョッと野暮用で夜更かししちまって……それより、何の話してたんだ?」
「例の『吸血鬼事件』のことですよ」
美月の答えにレオは顔を顰めていたが、ちょうどその時、端末に一時限目開始のメッセージが表示されたので、その意味を考える間もなく席にもどることになった。
昼食時にはリーナが留学早々なのに休んだとか、ほのかからはステイツへ留学している雫との連絡で、ステイツでも『吸血鬼事件』がある。ただし、報道規制されているというのを聞いて、情報通の生徒がどうやって報道規制をかいくぐって情報を入手したのか、知りたかったが、表にはだせないだろう。ステイツの古式魔法の関係者かもしれないが、ステイツの古式魔法の関係者って、移民が多いのもあって、グループとしてまとまっていないから、師匠に聞いても無駄だろう。
深雪よりは話しやすいほのかの方へ向かって
「ところで1-Aでは吸血鬼事件は、どのような話になっているの?」
「ニュースの内容とあまりかわりないわよ。1-Eでは違うの?」
詳しい話は、幹比古にまかせた。2学期の定期試験の理論の順位は、幹比古が上だったからであって、多少やっかみ気分があったのかもしれない。
その2日後の朝、情報端末へエリカからのメールにレオが『吸血鬼』に襲われて、運び込まれたという内容が届いた。命には別状が無いのと、意識もあるということで、ちょっとばかり安心した。
学校の授業が終わり、警察病院へ向かったところエリカが待っていたのか1階のエレベータから、レオの病室まで案内された。そこには、レオの姉はいたが、一般人のようで、魔法師であるレオとそこまで仲はよくないのだろう。一般人の中に、魔法師がいるとよくあるケースと聞いている。そして、この部屋には盗聴器がしかけられている感じの電磁波を感じる。黙っているしかなかろう。
レオからは話の中で対戦した相手の特徴が語られた。
「フード付きコートに覆面、コートの下はハードタイプのボディアーマーで人相も身体つきも分からんかったよ。ただ……女だった、ような気がするんだよな」
そのあと幽体を調べると幹比古が言い、レオも了承したので、だまっていたがレオに精気が感じられないから、幽体をサーチするほどもなく、かなり喰われているだろうということは容易に推測できた。幹比古の術式は、感覚からすると、伝統呪法具を補助としてプシオン次元を経由して幽体を観測しているものらしいので、僕とは術具が必要かそうでないかの差だろう。
幹比古が「パラサイトだと思う」と言ったところで、それまで現実味がなかったのか
「パラサイトとか妖魔とか本当にいたなんて……」
そんなことを口走ったほのかを安心させていた達也はいたが、
「それが吸血鬼の正体か?」
「そうだと思う。でも……」
「でも?」
「……殴り合っている最中に触れるだけで、精気を吸い取れるなら、血を吸う必要なんてないはずなんだ。何故、このパラサイトは血を抜き取るなんて余分な手間を掛けているんだろう……?」
これは同じく同感で、切り裂きジャックの件でも、なぜ内臓を取り出していたのかに関しての答えはでていない。
面会時間がすぎて、警察病院を出たのは達也、幹比古、美月、ほのか、深雪に僕で、エリカは兄の寿和に用があるといっていたが、襲撃者からまもっているというところか?
そんなところで達也が幹比古に向かって口を開いた。
「さっき聴き忘れていたことがあるんだが」
「何だい?」
「妖魔とか悪霊とかパラサイトとかいうヤツらは、頻繁に出現するものなのか?」
「いや、滅多に出現するものではないよ」
「でもないよ」
僕は、ここで口を挟んだ。幹比古は「えっ?」という表情をしたけれど、
「幹比古が言う滅多に出現しないというのは、何らかの要因により無差別に人間へ悪事を働くものを指していると思うけど、術者が呼び寄せたりするたぐいのものは、それなりにいるよ。たとえば10月末の例のロボット型戦車の中みたいのとか」
「そう言われると、確かにそうだけど……」
美月、ほのかは、わかっていないのだろう。幹比古と深雪はあの人間の頭脳をみているからこちらは嫌そうにしている。元となる術は雑霊を集める術だから、幹比古の家にも伝わっているものだ。
「そして、術に失敗した時に放置しておくと大抵は悪霊化すると聞いているよ。問題は、今回の場合、自然発生したものか、どこかの術者が術に失敗して放置されたものなのか。けれど、術者本人に取り付いてしまったとかの可能性もあるよ。ただ、なんとなくレオを見た感じとしか言えないのだけど、憑依移転型のパラサイトのような気がするんだ。なぜって聞かれても勘としかいえないんだけどさ。それだと、現代の系統魔法師は対応できない。対応できるとしたら、系統外の古式魔法師か、精神干渉系魔法師のような気がする」
つまり、今いるメンバーでは、幹比古、深雪、僕だけしか対応できない気がすると言っているから、達也にとっては不本意で、美月やほのかにとっては、怖い存在であることを強調してしまった。
「とりあえず、今のところ夜の外出を控えれば、大丈夫みたいだから、そうした方が良いと思う」
フォローはしたが、重い雰囲気はプラットフォームで別れるまで続いていた。
その翌日は、平日なのに久々に道場に寄ってから、帰ることにした。
大亜連合が、ちょっかいをかけてくるのをやめたので、まっすぐに家へと帰れるようになったのだが、今日は三高の名倉あかりとしてではなく、『魂眼』の名倉あかりとしてメールがとどいていた。電子精霊を経由させててだ。
彼女とのメールのやりとりは面倒だ。『魂眼』としてメールがきた時には、電子精霊にのせてくるは、特殊暗号化されたメールは、暗号化されたまま、それを電子データ的に破壊させて、それから情報端末のメモリはすべて破壊してしまわないといけないことになっている。だから新しいメモリはつねに持ち歩いていないといけないのと取り換えるのが面倒くさい。
自宅にメモリを破壊できるような設備はないので、円明流合気術の道場へ持っていき、このことを知っている師匠か一部の高弟にといっても、智之さんか高橋さん――じゃなくて結婚して不破と苗字を変えた不破香織さんに預けることになる。今回は、智之さんがステイツに行ってるから、新婚なのに可愛そうだとも思うが何もしてあげることはできないからな。
それで師匠には、
「裏賀茂の名倉あかりが『魂眼』としてメールを送ってきています。その中身は十師族の師族会議からの『吸血鬼借り』チームの組織を作るにあたっての通達と、『吸血鬼借り』チームが『吸血鬼』を見つける前に、追っかけているUSNA(ステイツ)の魔法師と『吸血鬼』と呼ばれているパラサイトの戦いを撮影してきてほしい、ってきているんですけど。しかも師匠宛にも連絡が行くようにしているそうです」
「できたら、その依頼は受けてほしいのだが」
「なんか、リユウカンフウの時と態度が正反対じゃありませんか?」
「まあ、そうなんだけどね。『魂眼』が絡むとややこしいことになるんだよ。ちなみに『魂眼』についてどれぐらい覚えているかね?」
「魂を直接視ることができる眼を持つ者。僕たちプシオンを中継して魂を見る、現代魔法に定義づけられた偽りではない、本物の霊能力者ぐらいですけど」
「そうだね。今の現代魔法ではプシオンが霊子といわれて、地縛霊を観れるものが霊能力者と定義づけられているから、基本はだいたいあっているけれど、あとは霊体を観れるというのが、僕らの間では一般的だろうね」
「そうですね。僕は霊体をなんとなくは感じられますが、観ることはできませんからね」
「そういうことで、その戦いの撮影をしてきてほしいんだが」
「そういう調査系って、裏賀茂とかあるいは西の古式魔法師である伊賀とか甲賀の忍者が専門でしょう?」
「現在、日本にいる者では手が負えないから、君に直接依頼を投げてしまったのだよ。あの『魂眼』は」
「あのー、今の状態の僕って移動している妖魔や、水妖系の調査が苦手なのは知っていますよね?」
霊能力として火の系統が強い分、水の系統に弱い傾向が僕にはある。他にも理由はあるのだが。
「もちろん。だけど、これからある音声を流すから聞いてもらえないかな?」
「とりあえず聞くだけなら……」
そういうと師匠は端末から音声を流し始めた。
「Stop, Alfred Formalhart Lieutenant! ……」
英語だが、比較的若い感じがする。ただ、なんとなく聞いた気もする。音声を流し終えた師匠からは、
「これがステイツのスターズ総隊長『アンジー・シリウス』の声で、この音声の特徴が一致するのは、君の身近にいるよ」
それって、多分リーナのことだろう。直接言えないのは、この音声機器に契約精霊がついているからか?
しかし、リーナはスパイに来ているとは思っていたが、そこまでの大物だとは思っていなかったぞ。
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