生み出すもの
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4部分:第四章
第四章
描いたそばからだった。その果物達がだ。
絵から浮かび上がりそのうえでだ。そこからこちらの世界に出て来たのである。それを見てだった。
「まさかと思うが」
その果物達を手で触ってみる。実感があった。
そこからようやくわかってだった。彼は妻を呼んだのだった。
「どうしたの、一体」
「これを見てくれ」
こう言ってだった。彼女にその果物を見せたのだった。それを見た彼女は。
最初はいぶかしむ目だった。しかしすぐに驚いた目になってだ。夫に言うのだった。
「まさかそれって」
「そのまさかだ。絵はだ」
真っ白になっていた。その中にあったものがそのまま外に出てしまったからだ。
「この通りだ」
「絵の中のものが出て来たの」
「信じられるか?」
「普通は信じないわ」
まずはこう返す妻だった。
「けれど。それを見たら」
「信じるしかないんだな」
「ええ」
その通りだと夫に答える。その不思議な色の果物を見ながらだ。
「そうよ。それを見たらね」
「そうだな。俺もだ」
「あなたもなの」
「さっき街で日本人から買った筆を使った」
「そうしたらなの」
「作られてから百年と聞いた」
夫は妻にこのことも話した。
「それでだ」
「絵の中のものが出て来たの」
「正直信じられない」
スコフコスはここでこう言ったのだった。
「こんなことになるなんてな」
「そうよね。けれど」
「けれど。何だ」
「それ、どうなのかしら」
妻はいぶかしむ顔で夫に述べてきた。
「その果物。どうなのかしら」
「食べられるかどうかか」
「ええ。食べられるかしら」
「毒はないと思う」
とりあえず思ったことをそのまま妻に述べた。
「ただし味はだ」
「わからないのね」
「それは食べてみないとわからない」
その通りのことだった。それを今妻に話した彼だった。
「だからな」
「そうね。実際にね」
「食べるか」
「ええ、そうしましょう」
こうしてだった。その果物達を切って二人で食べてみる。その味は。
「色はおかしいけれどね」
「味はまともだな」
「そうね」
妻は夫の今の言葉に頷きながら返した。
「これはね。同じ味よね」
「普通の林檎やバナナの味だな」
「それは変わらないのね」
「色は違っても林檎は林檎だ」
スコフコスはその林檎を食べながら述べた。半分に切られたそれを右手に持ってだ。その変わった皮ごと食べているのだった。
色がおかしいのは皮だけだった。中身は白いれっきとした林檎だった。それを食べながらだ。彼は妻に対して言うのだった。
「それはな」
「そうね。特にね」
妻はバナナを食べていた。
「全く普通よね」
「そうだな。それじゃあ」
「ええ、普通に食べていいわね」
「それとだ」
「それと?」
「筆のことだがな」
彼がここで言うのは筆のことだった。
「とにかくこれで描けばその描いたものがだ」
「こっちの世界に出て来るのね」
「まず食べ物が出て来る」
「とりあえず食べるものには困らないわね」
「金を使わなくても食材が手に入るからな」
「ええ。それだけじゃなくて」
妻は夫の顔を見てだ。そして話すのだった。
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