縁側に座って、ちょっぴり肌寒い風を感じながら空を見てお茶を啜る
なんの木だろうか、風と一緒に運ばれる木の香りが鼻を
擽るのだ
その木の香りと同時に香る、甘い香り。ふわりと感じさせられる甘い香り.... シャンプー? 言わば、女の子の甘い匂いと言ったところか
って、そんな茶番は良いんだよ
「魔理沙...ちょっと、離れてくれないか?」
「イヤだぜ」
「動き辛いのだよ」
「座ってるだけだぜ?」
「いや、まぁ確かに座ってるだけだけど」
「くっつくぜ」
俺が縁側に座ってくつろいで居るのを良いことに、後ろからチョップしてきたり、耳元で息を吹きかけたりとちょっかいを出してくるのだ。挙げ句の果てに抱き着いてきやがる
そう、甘い匂いとは魔理沙のことだ...
確かに、俺も男だ
女の子に後ろから抱き着かれたら嬉しいさ。嬉しい以外に何があるってんだ。良い匂いするしよ。俺は一体何を言っているんだ
よく、好きな人にはちょっかいを出すと言うが
「魔理沙お前俺のこと好きなのか?」
「なっ! いきなり何を言うんだぜ!?」
この通りだ
「で、でも、好きじゃないとは言ってないぜ?」
「好きでもないんだろ?」
そう聞くと、魔理沙は黙りこけてしまったので、立ち上がってわざと魔理沙の頭に手をのせ、湯呑みを片付けに霊夢の元へ行った
「魔理沙ってホント不思議な奴だな」
洗い物をしている霊夢の隣に立ち、なんとなく手伝いながら言う
「私にして見れば十分、あなたも不思議よ」
「付け加える。霊夢も不思議な奴だな」
「自分でも不思議よ、生まれつき空が飛べて、変な玉が飛ばせて、巫女? 妖怪退治よ」
親とかは?
名前とかは?
聞く寸前まで、喉まで出かかっていたけど、勇気がなかったのか。言わなかった
「まぁ、あの玉を使ってやるゲームは私が考えたんだけどね。通称、弾幕ごっこ」
愛想笑いをして、慣れた手つきでお皿を片付けながら霊夢は続ける
「私が任された、巫女のお仕事、妖怪退治。妖怪は人間を襲い、人間はそれを恐れて回っているのよ。私はその妖怪を退治する、そう、退治するのよ」
意味有り気に、訴えかけるように、繰り返し、退治すると繰り返す
「それって偉いことじゃないのか? 人間達はそんな巫女を大事な存在だと思うんじゃないか?」
お皿を拭く霊夢の手が止まった
ポタリポタリと、蛇口から垂れる水の音だけが俺の耳に伝わる
何かまずいことを言ってしまったのだろうか
「長くなるけど、聞く?」
固唾を飲み
こくりと頷く
「....弾幕ごっこのことを説明するから、オマケ話だと思って聞いて」
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いつも通り、朝起きて、片っ端から妖怪を退治して行く
どれだけ幼く、どれだけ優しい妖怪でも、片っ端から退治して行く
何も出来ない人間は、妖怪を退治してくれと、困って言うわ。私達、巫女にね
もちろん、巫女は注文通りに妖怪を退治する。そう、最初も言ったように、片っ端にね
どんな悪い妖怪でも、何もしない妖怪でも、ね
でも次第に、嫌になってくるわ。酷いじゃない
何もしていない妖怪も容赦なしに片付けるのよ、それも汚れたお皿のように
妖怪を退治しろとうるさかった人間達も思うでしょうよ、巫女は最低な奴だって
妖怪にも、人間にも、嫌な視線を送られるでしょう? 退治しろって言ったのは誰よ、悪さしたのは誰よ。言わない人も居たし、悪さをしない妖怪も居た
全くどんな理不尽よ
じゃあ退治をやめれば良い?退治しなければ悪さは止まない
退治する理由の元は止まないのよ
じゃあどうすれば良いの?
ゲームをしましょう。誰も傷つかないようなゲームを。そう、弾幕ごっこ、スペルルールを
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「退治をして嫌な目線を送られていた私の先代。先代の博麗の巫女。このままじゃループでしょう? そこで私は弾幕ごっこを作った」
「霊夢は、今までの異変を全て弾幕ごっこで解決してきたのか....?」
「そう、前にこの幻想郷の空を真っ赤な霧で覆った吸血鬼も居たけど。そいつも弾幕ごっこで退治した」
霧で覆って外に出たかったのか、その吸血鬼は
可愛い異変だが大規模な異変だな、それ
「でもね、玉だけじゃつまらないからもう一つ考えたのよ。スペルルール」
そう言って霊夢は一枚のカードを挟み出した
金色に光る縁。二重結界と書かれたそのカード
「簡単に言えば技みたいな物。どれだけ相手を感動させるか、弾幕の魅力を引き立てる為にも必要なのよ」
そのカードに浮かび上がる、四角く渦巻いた線は結界。二重結界だ
「もちろん当たれば痛い。使いようによっては凄く綺麗な物になる。だって、花火は綺麗だけど、あれに当たったら痛いじゃ済まないでしょう? それと一緒。まぁ、中には本気で焼くつもりになってスペルカードを使うお馬鹿さんもいるみたいだけどね」
俺の後ろの方。つまり魔理沙の方を見て霊夢は言った...
流石魔法使いですわ
「ってことは、そのスペルカードは能力を発揮して使うことも出来るのか?」
「ええもちろん。そこの馬鹿は魔法を使うし、何処かのスキマの妖怪なんて電車を呼び出すからね」
そこの馬鹿... 魔理沙の能力は魔法なのか。まぁ、魔法使いだからな
っと言うか紫のあの電車はスペルカードだったのね
「そう言えば、琥珀の能力ってなんなの?」
ああ、言ってなかったな
「俺の能力は」
毎度毎度、この途中まで言って言えなくなるタイプの多い八雲琥珀でございますが。今回はですね
「八雲さぁ〜んっ♪」
後ろからドカンっと飛んで来る者の力は想像以上で、地球の重力とその者の力は俺の足で支えられる力を遥かに超えて居た。もちろん、その支えられる力を超えていると言うことは、支えられなくなったと言うことだ。支えられなくなったと言うことは.... その場に倒れると言うことだ
何を思う、自分に広がる優しく甘い香りが包み込んでくれようぞ。嬉しくないのに嬉しい、いや。嬉しいのに嬉しくない、の方が正しいのだろう
台所の角に頭をぶつけぬよう、気をつけながら重力に身を任せ、倒れてやった
なお、後ろから飛んできた者の力は計り知れなく、一瞬にして俺はくるりと回ったのだった
つまり、うつ伏せに倒れたのではなく仰向けになった状態だ... 後ろから飛んできた者は、俺の腰の辺りに乗り、馬乗りの状態になる。ラッキースケベとはこのことなのであろう。だが、痛みの方が大きかった俺には今を素直に喜べないのだ
と、言うか
「あぶねぇよっ!! 状況を確認しろこの馬鹿ちんがぁ!!」
■■■
後ろから飛んできた者... 俺を八雲さんと呼ぶ者、博麗霊。博麗ちゃんは俺にピースを送る
腰をおかしくして叩いている俺を見て、笑みを浮かべながらピースを送る
君は何故、君は何故にも、そんなしてやったぜと言う笑みでピースをしながら俺を見るのだ
俺が来て嬉しかった。そこまではわかるが...状況と場所を考えてしてくれ
地面が芝生の広場だったら、俺もあのままであははあはは言っていたが... 霊夢も何か言ってくれないだろうか
「本当に好きなのねぇ〜 若い者はいいわ」
このざまだ
若い者、俺よりはお前の方が若い者だろうが、と言うツッコミは無しとしても、先ほどまでのシリアスを全て無かったかのように振る舞う霊夢にツッコミを入れたくなる。むしろ怖い
一部始終を遠目で見ていた魔理沙は、何やら頬を膨らまし、俺を見たり博麗ちゃんを見たり、だ
さて、と
おかしくした腰をバキバキと鳴らし、博麗ちゃんに近づく
「今日は何をする?」