ONE PIECE《エピソードオブ・アンカー》
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episode6
魚人海賊、タイヨウの海賊団が魚人島を発ってから3年。
当初から変わらず海軍たちに追いかけ回され、返り討ちにする日々。タイガーやジンベエの首を狙って、名を挙げようとする海賊たちも現れるようになった。
タイヨウの海賊団の存在は、地上の人間たちに少しずつ知られていく。アンカーの存在は、当初と変わらず“人間として”世に知れ渡っていた。本人の嘆きも怒りも世界は知ったこっちゃない。
今日も太陽が昇り、炎のように赤く輝きながら沈んでいく。
今日も、敵と戦う日々。
「ほんとに人間がいやがった...!」
「おい、女! なんでテメェは魚人の味方なんかしやがる!?」
噂を聞き、名を挙げるために攻め行った船の中で海賊たちは問う。
アンカーはそれに答えるように武器を手にした。
「ワタシは魚人だー!!」
船の上、海の上で、今日もアンカーの嘆きと怒りの声が木霊した。
新世界のとある島にて、不足になりがちの食料や武器などの調達を済ませる。
その島に住むのは人間で、誰もが恐れを抱いた眼差しを向ける。慣れてしまえばどうということはない。しかしながら、アンカーに向けられる眼差しは恐れとは違うモノを感じられた。
「魚人のおじちゃん!」
声をかけられ全員の足が止まる。
大きな荷物を持ちながら重さを感じさせない動作で振り返り、その声の主を上から見下ろした。
声の主は、子供。大人たちの制止を振り切り、汚れた顔とは裏腹にキラキラと輝いた目で見つめてくる。
「3年前はありがとう! 僕、生きて家族に会えた!」
そう言った子供のボロボロの服から見え隠れしているのは、竜の蹄の刻印。“3年前”というキーワードで、この子供もまた元奴隷だったのだと分かる。
シシシッ、と欠けた歯を見せびらかすように笑うと、子供は大人たちに連れられて去って行った。
「人間も“ありがとう”なんて言えるんだな...」
「フンッ。子供だろうが人間に変わり無ぇ。今はアレでも、大人になりゃ他の奴らと大差なくなるだろうよ」
「子供のまま大人になれる奴なんていない...か」
引きずられるように去って行く子供は、小さい手をちぎれるくらいにぶんぶんと振り続けている。その姿を、どこか寂しそうに見つめるアンカーがいた。
「ーーもし。フィッシャー・タイガー殿とお見受け致します...」
調達も終わり、そろそろ出航しようかという時にその声がかかる。
タイガーがその声の主の側まで歩み寄ると、目の前には数人の人間の大人と、貼り付いたような笑顔の少女がいた。
「この子は、3年前に貴方の起こした騒動でこの島に流されて来た子供です。既にお会いになられたとは思いますが、この島にも連れ去られた子供がおります。おそらくは、その子供と一緒に逃げ出して来たのだと......」
「何が言いたい」
「はい...。聞けば、この子の故郷は随分遠くの島にあるらしく、この辺の海には凶暴な海獣もおります。我々はこの子を故郷に帰してあげたい。だが、とても無理だ。
ーー無理を承知でお願い致します。我々の代わりに、この子を故郷まで乗せて行ってはくださらんか...」
タイガーは少女を見つめる。誰がどう思っていようと、船に乗るのはこの少女だ。少女が望まないのなら、このやりとりは全て無駄になる。
少女は、自身を『コアラ』と名乗った。
ボサボサの頭にボロボロの服。笑顔を顔に貼り付けて自ら船に乗ることを望んだ。
タイガーは二つ返事で了承する。
船員たち......特に、ジンベエ、アーロン、アンカーの3人は猛反対したが、聞き入れてはもらえなかった。
アンカーはコアラを無視。アーロンに至っては、貼り付いたような笑顔にイラつきを抑えられず暴力に走った。
それでもコアラは、その笑顔でいることを続けた。その理由は船医のアラディンが説明する。
「奴隷だった頃の習性に染まっちまったんだな。笑顔をやめた途端に殺されたり、手を休めただけで殺されたり...。そんな奴らを目の前で見てきたんだろう」
腕を組みながらしみじみと語る。その言葉には真実味があった。
それもそのはず。彼もまた、天竜人に飼われた元奴隷なのだから...。
「あの子供とは、全然違うな」
誰にも聞こえないような声で、アンカーはぽつりと呟いた。
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