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雪ん子

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2部分:第二章


第二章

「けれどよ、何かな」
「じゃあ遊んでくれないの?」
 にこりとした笑みをすっと消して英行達に問うてきた。
「それじゃあ私もいいけれど」
「いや、そんなことは言わねえよ」
 英行はそれは否定した。別に意地悪をするつもりはないし彼にしろ誰かを仲間はずれにすることは好きではないからだ。これは彼の性分であった。
「一緒に遊ぼうぜ。ただな」
「ただ?」
「気になっただけなんだよ」
 また腑に落ちないといった顔で述べる。
「御前が雪が好きだって理由がな」
「そうなの」
「好きだから遊ぶのか?」
「ええ」
 女の子はまた頷いた。にこりとした笑みがもう戻っていた。
「そうなの。じゃあいいわよね」
「ああ。じゃあ入れよ」
「うん」
 こうして女の子は英行達と一緒に雪遊びをすることになった。それはこの冬の間ずっと続き英行達は楽しい時を過ごした。冬が終わり雪がなくなると女の子は自然に何処かに消えていた。彼等はいなくなった女の子のことを新学期になって話をした。
 教室だった。クラス分けで分かれたがそれでも皆英行のいるクラスに集まって話をした。皆どうにも腑に落ちないといった顔であった。
「あの娘どのクラスにもいなかったよな」
「ああ」
 皆英行のその言葉に頷く。
「それどころか街にもいないぜ」
「そうだよな。家とか聞いたか?」
「いや」
 皆英行のその言葉に首を横に振る。スポーツ刈りにした尚志が言う。
「実はさ、俺あの娘の家が何処か知りたくて雪合戦の後こっそり後をつけたことがあったんだ」
「それでどうなった?」
「それがさ、おかしいんだ」
 彼は言う。
「道に迷ったんだよ。いつも通ってる街の道なのにさ」
「道に迷った!?」
「ああ。気付いたら駅の前だった」
 尚志はいぶかしむ顔でそう皆に述べた。
「おかしいよな、やっぱり」
「おかしいなんてものじゃないぞ」
「御前どうやって駅まで来たのかもわからないのかよ」
「ああ、全然だ」
 また皆に答える。
「何処をどうやって来たのかもな」
「そうか」
 英行は尚志からその話を聞いて腕を組んだ。そのうえでまた言うのだった。
「それでもこの学校のことかなり知ってたよな」
「校長先生だけじゃなかったしな」
 眼鏡をかけた隆明が言う。
「佐伯先生のことも知ってたよな」
「あの先生の旦那さんが大阪の人だって話だよな」
「そうそう、それそれ」
 隆明は英行と皆に対して応える。
「他にも街のこととかな」
「絶対この街にいる筈なんだけれどな」
「けれど。何処にいるんだ?」
 皆それを不思議に思った。
「家もわからないしそれどころか道に迷う」
「おかしいだろ」
「あのさ、それでさ」
 ここで茶色い髪の勉が言う。彼等の中で一番の優等生でもある。
「俺考えたんだけれど」
「何だよ、勉」
「御爺ちゃんに聞いてみようと思うんだ」
 彼はそう皆に言ってきた。
「御前の御爺ちゃんにか」
「ほら、うちの御爺ちゃん生まれてからずっとこの街にいたし」
 彼は言う。
「学校の先生だったしさ。だから」
「そうだな」
 英行は腕を組んで難しい顔をしたままだったがその言葉に頷いた。
「御前の御爺さんならわかるかもな」
「ああ。じゃあ今日俺の家に来てくれよ」
 勉はあらためて皆に言う。
「それでわかるかも知れないしさ」
「よし、じゃあそうしよう」
 英行が言った。強い声で。
「皆それでいいな」
「ああ」
「じゃあそうしようぜ」
 尚志も隆明も頷く。こうして彼等は勉の祖父に話を聞くことにしたのだ。

 勉の家の奥の間に彼の祖父はいつもいた。穏やかな顔の老人で髪の毛は薄く真っ白になっている。畳の間に座布団を敷いて正座をしていた。その姿で四人の話を聞いていたのだ。
 
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