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俺の名はシャルル・フェニックス

作者:南の星
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嫁と不死鳥

3人で適当な部屋に入るとそこは物置部屋だったらしく、机や椅子、あとは段ボールが置かれていた。

「少し長くなるかもしんないから勝手に座ってくれ」

置かれてる机に軽く腰を預け二人に話しかける。

「はい。シャル兄様」

「は、はっ、はぃ!」

白音はいつも通りなんだが、誠菜はすげぇ緊張してんな。

あたふたしてるし、おろおろしてるし、慌てすぎていて、いつも以上に動きが激しい。

主に荷物が雪崩れる意味で危なっかしかったが、なんとか椅子を用意し座る。

いや、椅子用意して座るだけでかなり心配したんだが。

こういうのだからほっとけないんだよな。誠菜は。

「んじゃ、昨日の話の続きな」

いきなり誠菜はポッと顔を真っ赤にしてあたふたし始める。

昨日の話であの事を思い出したらしい。

ヤバいな。虐めたい。

嗜虐思考をそそる。DV的な意味じゃないので悪しからず。

俺はS気質で言葉攻めしたいタイプだ。

物理はしねぇよ。

でも今はそんなことしてる暇はないのでやめとこう。

「ま、誠菜が何を考えてるかは置いといて、誠菜に神器があるって話をしたよな」

赤い顔のまま首を上下に振る。

「それの名はたぶん『物質創造(マテリアル・プロデュース)』
思いのままに物質を造り出す神器だ」

『魔剣創造(ソード・バース)』や『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』と同系列の神器だが、どちらかと言えば『魔獣創造(アナイアレイション・メイカー)』の劣化版のイメージが強い。

「戦闘も出来ないことはないが、かなり上級者向けだから基本生産系の神器だ。
だが、十分人を殺せる神器だな」

その言葉に誠菜は体を震わせた。

人を殺せる神器なのだ。

『物質創造』は。

昨日の夜誠菜が初めて神器を発動させた時に出した緋色の石は物を燃やす石だった。

俺が手を出していなければ、机か誠菜自身が燃えていただろう。

つまりそれを創造すれば火災なんか簡単に発生させることができ、寝静まった夜なんかにやれば一人くらいは火災から逃げ遅れて死ぬだろう。

簡単に人を殺せるのだ。

神器というやつは。

「セーナ大丈夫?」

白音が誠菜の背中を撫でながら心配そうに声をかける。

人を殺せる力、臆病で優しい誠菜には過ぎた恐ろしい力。

だから俺はそれを突きつける。

「誠菜。お前の力は人を殺せる。だから、堕天使に狙われた。いや、もしかしたらこれからも狙われるかもしれない」

堕天使の目的は神器を暴走させないように言ったら悪いが間引くこと。

過ぎた力はその身を滅ぼすからな。

だったら現状では再び殺されかけるかもしれない。

「……い……や……こ……こわ………恐い……恐いよ………しろ……白音…………ちゃん……」

「…………セーナ……」

白音にすがりつく誠菜。

悪い奴だよ。俺は。

この娘を恐がらせてるんだから。

異形存在の中ですら異形というわけでも、元々異形と関わる家だったわけでも、英雄の子孫というわけでも、復讐を誓ってるわけでも、生きるために仕方がないわけでも、死んだわけでも、チートなわけでもない。

ただの優しくて恐がりな一般人を。

俺はこっちの世界に引き摺りこもうとしているのだから。

俺は罵倒されてもいい。

否、されなくちゃいけないだろう。

でも、白音はこっちの世界の住人であり、俺がしてくれてることを分かってくれるから罵倒してはくれない。

誠菜は心優しいから罵倒なんかはしない。

一誠を連れてこれば良かったな。

あいつなら、ぶん殴ってくれるはずだ。

でも、この場にはいない。

誰も贖罪させてはくれない。

だから、俺が背負うしかない。

「誠菜。よく聞いてくれ。
君はこのままだと駄目だ。
いつか破滅してしまうだろうから」

告げる。

事実をありのままに。

誠菜の体の震えが増し嗚咽が聞こえる。

白音は何も言わずただ誠菜を抱きしめる。

「だから、俺は君に道を示すよ。
道は3つ。
このままでいること。
力を学ぶこと。
そして、俺の眷属になること。
よく考えて決めてくれ。
俺は外で待ってるから」

慰める役は俺じゃない。

白音の役だ。だから

「任せた。白音」

「はい。シャル兄様」

そっと二人の頭を撫でてから俺は部屋から出ていった。



◇◆◇◆◇

何十分過ぎただろうか。

まだ青かった空は朱色に染まり始めた。

俺はそれをただ眺めてる。

俺は空が好きだ。

でも前世の頃は嫌いだった。

何故だろうか。

何故昔は嫌いだったのだろうか。

何故今は好きなのだろうか。

意味もなくただ考える。

いや、今考えるべきなのはそんなことじゃない。

誠菜のことだろう。

破滅の道は論外としてどちらの道を選ぶのだろうか。

俺としては眷属になって貰った方が融通が利いて助かる。

人間のためより眷属悪魔のための方が周りを納得させやすいからだ。

その分早く動けるし、守りやすくなる。

だから俺としては眷属になって欲しい。

でもそれは俺のエゴだ。

人間でいれば、狙われるのは堕天使からだけだろう。

それだけならまだ守れなくもないし、この世界ではどうだか分からないが同盟さえ結ばれればどうにかなる。

だが、悪魔となればその後の闘争に巻き込まれるだろう。

禍の団は存在してる。

束のおかげで尻尾を掴めたのだ。

だから、争いは逃れられない。

主人公(一誠)がいるこの場所ならば絶対に。

人間のままなら、1歩引いた所にいられる。

でも悪魔なら渦中に身を投じなければならない。

いや、人間でも同じかもしれない。

主人公の妹。

それだけで巻き込まれる要素は十分に揃ってる。

なら、どうすればいい……?

いや、俺が決めることじゃないか……

彼女が決め、俺が手伝う。

ただそれだけ。

それだけしか俺には出来ないのだ。

空から目を離し振り返る。

そこには覚悟を決めた誠菜がいた。

いつものようにオロオロしていない自分を確立させてる様は格好いいと感服した。

「答え、決まったんだな」

「はい」

決して大きな声ではないが響くような声だ。

「教えてくれるか?」

「はい。私を貴方の眷属にしてください」

フワリと誠菜は可憐に微笑んだ。

意志が感じ取れる強い笑みだ。

誰もが見惚れてしまいそうな笑みだ。

お兄さん風に吹かれた訳じゃないが、臆病で縮こまってたのに成長してたんだなって感服した。

一誠なら感涙して男泣きするだろうな。

それでも俺は訊こう。

「悪魔になることがどんなことになるか分かってるんだろうな?」

「はい。お父さんやお母さんや友達より永く生きること。争いに巻き込まれるかもしれないこと…………そ……それと……」

「それと人を殺すかもしれないことだ」

言いにくそうにしていたことを俺が言ってやる。

「いや……だけど……
私はもう守られたくないです……から。
背も小さいし、弱虫、泣き虫だし、臆病だけど……もうお兄ちゃんにもシャルル先輩にも……守られるだけは…………いや……です!」

「そうか。
言葉は訊いたから行動を示してくれ。
今から10秒間だけ、恐怖に勝っていろ。
それが最終試験な」

生半可な気持ちだったら後悔するだろうから俺は試す。

「はい……!!」

返事を訊いた瞬間、覇気を闘氣を殺気を爆発させる。

「10」

一瞬にして誠菜の顔が青くなり、ガタガタと震えだす。

そして少し離れた所から慌てたような物音が聞こえる。

リアス達が気づいたらしい。

「9」

静かに告げる。

部屋から白音が心配そうに顔を覗かせる。

複雑そうな顔だ。

誠菜の意思を尊重したい。

けれど、悪魔にはなって欲しくない。

そんな顔だった。

「8」

ドタドタと走る音が聞こえる。

リアス達がこちらに向かってるようだ。

「7」

未だに誠菜は恐怖に抗う。

目から止めどなく涙が溢れ、息は荒い。

「6」

辺りはリアス達が走る音、誠菜が震える音しか聞こえない。

「5」

半分を切った。

「セーナ!!シャルルてめぇ!!」

どうやら一誠が現状を鑑みて俺が誠菜に危害を加えていると認識したらしい。

まぁ、事実だけどな。

そして、誠菜の震えが小さくなっていく。

一誠が来たからか?

「4」

それにしてもすげぇな。

一応、誠菜に向けているので精々誠菜の半分以下しか受けてないだろうが、それにしても一般人なら足が竦んで動けなくなるほどであると思うんだが……

流石主人公と言うべきか、シスコンと言うべきか。

けれど、俺は誠菜から目を離さない。

試験を途中で投げ出す訳にはいかないからな。

それに今面白いことが起きてるからな。

誠菜の震えが止まったのだ。

一応、気絶してもおかしくはないほどなんだがな。

「そこを退いてくれ!
白音ちゃん、朱乃さん!」

「退きません。絶対に」

「邪魔はさせませんわ」

どうやら朱乃と白音が抑えてくれているらしい。
感謝だな。邪魔されたくないし。

「3」

震えが止まった誠菜、その足が少し動いた。

前へと。

「2」

誠菜は制服の袖で涙を拭った。

強い。本当に強い。

体や力ではなく心が。

いいなと羨望するし、凄いと敬服する。

俺にはない強さだからな。

「1」

1歩前に足を踏み出した。

「0」

全てを抑える。

険難な雰囲気は消え去り、静寂が場を支配する。

フラッと誠菜が倒れそうになったので、受けとめる。

「負けだ。完敗。
合格な」

流石に前に踏み出されるとは思わんかった。

「……こわ……恐か……った……です……」

今になって思い出したかのようにぶるぶると震えだす。

その姿は今までと一緒で、小動物みたいで可愛かった。

「ごめんな。既に巻き込んでるとは言え、面白半分で踏み込んでいいような世界じゃないんだよ」

悪魔の世界は力がものを言う世界。

当然弱者は淘汰される。

だからこそ強く在らねばならない。

覚悟がなければならない。

「……い、いえ……わ……わかって……ます……から……」

震えながら言う姿は気丈で可愛らしく愛らしい。

その姿に俺はいつの間にか誠菜の頭を撫でていた。

「はははっ、愛(う)いい奴めっ」

「…………あぅ……」


そこで二人して気づいた。

じとーっとした視線に。

あー……取り合えず、言い様のない雰囲気に頬を掻いた。

誠菜は顔を真っ赤にして俯いた。恥ずかしいらしい。

何故かポクポクポクと木魚の音を幻聴した。

「…………帰りましょう」

嫌に静かな時間が数十秒続きリアスは言った。

他の皆もそれに頷き、何も言わずリアスの後を追った。

白音まで。

いや、一誠は「明日覚えてろよワレェ」みたいなことを視線で送ってきたが。

さて、済ますこと済ますか。

「ご両親の時間がある日知ってるか?」

そう俺が訊ねると、誠菜は俯いていた顔を上げた。

綺麗な鳶色の瞳で俺を見つめてくる。

「……あ……ぇ……ぇっと…た、たぶん………あし………た……」

か細い声で誠菜は言った。

「じゃあ、明日の授業が終わって1時間後くらいに伺ってもいいか?
ご挨拶しないといけないからな」

ボフンと湯気が出てきそうなほど顔を真っ赤にする。

「い、いい、い、はは、はいぃ!」

あわっあわあわ、と慌てていたので体を離す。

うん、まぁ、今日は送ってこうか。

護衛の意味も含めて。

 
 

 
後書き
ヤバい駄文臭い。泣きたくなってきた。

 
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