カンピオーネ!5人”の”神殺し
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【魔界】での戦い Ⅱ
前代未聞の大災害に襲われる東京の夜を、いくつかの影が駆ける。
ビルを駆け上がり、屋上から屋上へと跳躍しながら、それらの影は火花を散らしていた。
「クッ・・・!私がこうすることはお見通しだったのか・・・!不意打ちで一人も倒せないとは・・・!」
その内の一人が、ビルの上で止まりながら呟いた。苦々しげな顔をする彼女は、リリアナ・クラニチャール。【剣の妖精】とも呼ばれる、【青銅黒十字】の幹部の一人であった。
ガチャガチャ。
鎧を鳴らしながら、彼女を影が囲む。その数は二十ほど。男女入り混じったその集団の人間からは、一切の生気を感じない。
彼らは、ヴォバン侯爵の権能によって魂を捉えられた、過去の大騎士たちであった。
生前は、暴君であったヴォバン侯爵に戦いを挑むほどの勇者たちだったのだろう。しかし、その魂を牢獄へと捉えられた今となっては、生前の輝きなど見る影もない。ヴォバン侯爵の哀れな操り人形。それが、今の彼らだった。
さて、そんなヴォバン侯爵の奴隷とリリアナは、何故対峙しているのだろうか?
「騎士として、これ以上の狼藉を見逃す訳にはいかない。貴方たちには悪いが、ここで止まってもらおう。」
彼女は、手に持った剣を構える。既に幾度となく剣を交わらせていたので、敵の技量はある程度把握している。
(思考能力が低下している。咄嗟の判断に弱いな。本当は最初の攻撃で数を減らしたかったが・・・しかしこれなら、私でも時間稼ぎくらいは出来る)
ヴォバン侯爵の権能【死せる従僕の檻】は、強者に対してほぼ無意味だ。せいぜい大騎士程度の力量しかないリリアナでも、二十人以上を相手にして未だに余裕がある。技量などは生前と変わりないようだが、思考能力の低下が、彼らの実力を大幅に下げてしまっているのだ。
その為、この権能は人海戦術を取りたい場合や、ヴォバン侯爵には使用できない魔女の術などを使わせる為に使用されていた。
なら、今回は何の為に動いているのだろうか?それは、誘拐であった。
裏の世界では有名な、ヴォバン侯爵の起こした事件。まつろわぬ神召喚の儀式を、もう一度するのだと彼女は教えられていた。そのために、質の高い巫女を必要としていたのだ。
この国で・・・否、世界でも最高位の巫女である万里谷 祐理。彼女を誘拐してこいというのが、リリアナに課せられた使命であった。その為に、配下である従僕をお供に付けられていたのだ。とはいえ実際は、リリアナが裏切ることを予想した監視役だったようだが。
しかし、である。
(いくらヴォバン侯爵といえども無謀すぎる・・・!)
つい先日、件の彼女は【混沌の王】草薙護堂の眷属として生まれ変わった。それは、【賢人議会】によって世界中に知らされている。言ってしまえば、彼女はカンピオーネの所有物である。彼女に手を出すなど、自殺行為もいいところだ。ヴォバン侯爵はいいだろう。彼は、【混沌の王】と決定的に対立しても構わない・・・どころか、それを願っているのだ。ほんの僅かな期間で、三柱ものまつろわぬ神を倒した最新の王。最近ではまつろわぬ神にすら避けられるヴォバン侯爵にとって、手ごわい敵とはいくらいても構わない。
だが、命じられたリリアナは違うのだ。彼女には組織に対しての責任がある。わざわざ、【伊織魔殺商会】と【混沌の王】が治める日本へとやってきて喧嘩を売るなど考えられない。彼らの怒りを買えば、【青銅黒十字】のあるミラノなど、片手間で蹂躙されるかもしれない。転移を使う鈴蘭がいるのだ。今、この瞬間に国が滅ぼされても不思議ではないのである。彼女には、こうなることが分かっていてもヴォバン侯爵の側仕えをしろと命令してきた祖父が、正気とは思えなくなっていた。
そうなったとき、ヴォバン侯爵やドニが、国を守るかもしれないなどという甘い考えを彼女は持ってはいないのだ。仮に戦うとしても、それは好敵手を見つけたからであり、周囲の被害など一切考えないに違いない。
もし仮に、この国のカンピオーネが草薙護堂一人だったなら彼女の考えも変わったかもしれない。短い期間に三柱のまつろわぬ神を倒したとはいえ、三百年を生きるヴォバン侯爵とは年季が違いすぎる。護堂が彼に勝てるはずがないだろうし、それならば、周囲の人々に与える影響が最も少ないであろう手段―――つまり、万里谷 祐理の誘拐―――を選択していたかも知れない。少数を犠牲にしてでも、それより多い人を守るのが騎士としての役目だと信じて。
しかし、現状は全く違うのだ。【伊織魔殺商会】は四人のカンピオーネからなる結社だし、それに草薙護堂が協力している。対するヴォバン侯爵とサルバトーレ・ドニは過去の一件から協力するなど考えられず、バラバラに戦うだろう。いくらなんでも、5vs1vs1では、勝ち目があるとは思えなかったのだ。
この状況下だからこそ、リリアナは裏切りを決意した。元々気に食わない命令であったし、周囲の被害なども考えれば、これが最善だと判断したのである。最悪の場合は、この国のカンピオーネの庇護を求めようとすら決意していた。
【混沌の王】の眷属を守る為に戦うのだ。それは彼に味方するという意思表示になるだろう。草薙護堂という男は、酷い女たらしでドン・ファンのような男だが、それと同時に困っている人がいるなら極力助けようとする男だとも調べがついていた。無碍に扱われる事はないだろう、と彼女は予想していた。
(―――まあ、何らかの手違いで殺される事になろうと・・・このまま自分のココロを裏切って生きるよりはマシだろう・・・)
だからこそ、全力で戦う事が出来る。カンピオーネという災厄と敵対したというのに、彼女の心は晴れやかだった。
「―――さあ、どこからでもかかってくるがいい!」
ザン!
「何・・・!?」
リリアナのその言葉と重なるようにして、一つの影がヴォバン侯爵の従僕を襲った。リリアナすらも反応出来ないほどの速度で振るわれた剣は、大騎士の従僕を三人まとめて切り払った。鎧ごと両断されており、その切り口は、まるで熱したナイフで切られたバターのように溶かされている。
「あらリリー。楽しそうなことをしているわね。私も混ぜてもらってもいいかしら?」
瞬く間に三人もの従僕を切り捨てたのは、エリカ・ブランデッリであった。彼女は、周囲を取り囲む従僕の姿など目に映らないかのように無視し、リリアナだけを見ていた。
「ふん。ダメだと言っても勝手に暴れるんだろう。しかし、派手な衣装だな。」
元々エリカは派手好きだが、今の彼女の衣装はそれに輪をかけて派手だ。彼女が身にまとっているのは、真紅のドレスである。まるでドレスそのものが光を放っているかのように、月と星明かりしかない暗闇でも輝いていた。淡い赤色が、夜闇にエリカの姿を映し出す。
「ふふ。これは護堂との愛の証ですもの。似合っているでしょう?」
そう。まるで光っているかのように、ではなく、本当に輝いているのだ。これは、護堂の権能【炎の王国】による眷属化で生み出された衣装。権能により生み出された、神器とも呼べる代物であった。
「ところでリリー。一応聞いておくけど、ヴォバン侯爵と敵対したって事でいいのよね?」
エリカとリリアナを取り囲む従僕たちだが、彼女たち・・・特に、エリカに攻撃する隙を見いだせず、動けずにいた。護堂の眷属として生まれ変わったエリカは、神獣とも言える存在である。従僕たちも、権能で生まれ変わったという点で言えばエリカと同じだが、その格が圧倒的に劣っていた。ヴォバン侯爵の【死せる従僕の檻】は、多数を強制的に使役するという方向に能力を振り切っているので、限られた人数を超強化する【炎の王国】との相性は最悪だったのだ。
だからこそ、エリカは何の気負いもなくリリアナと会話が出来る。
「その通りだ。これ以上、何の罪もない一般市民に迷惑をかけることは出来ない。騎士として、彼らの行いを止めようとしていた。」
リリアナも、現在のエリカとの力量差を肌で感じていたが、それでも自分はエリカのライバルであるという自負から、動揺した姿を見せずに返答した。今は話されていても、いずれ追いつくという決意が彼女にはあったのだ。
「そうよね。今の状況で貴方が侯爵側につく意味がないもの。・・・ついでに尋ねるけど、ひかりちゃんも知らないわよね?」
「ひかりちゃん・・・?知らないが。侯爵に命令されたのは、万里谷 祐理の誘拐だ。あの儀式をもう一度するつもりらしい。」
「となると・・・やっぱり。」
そこで言葉を区切り、エリカは空に向かって叫んだ。
「裕理!やっぱりいるわよ!最低でももう一組!この混乱に乗じて何かをしようとしている連中が!」
大声で叫んだ彼女は、今度こそ従僕に向かい合った。
「リリー。ゆっくりしている時間はなくなったの。貴方も護堂につくつもりなら、手伝ってもらえないかしら?理由は、彼らを排除したあとに話すわね。」
「フン。いいだろう。手伝ってやる。貴方がそうやって真面目な顔をしているときは、大抵ロクなことがないからな。放っておくと更に面倒になりそうだ。」
こうして、エリカとリリアナの共闘が始まった。
後書き
むっちゃ遅くなりました。資格試験の試験勉強が忙しかったんです。それと、方向性は決まってたんですけど表現が難しくて。ただ、これ以上遅くなるとマジでエタリそうだったんで、これで投稿します。
資格試験は9月なんで、それまでは全ての投稿が遅くなると思いますが、ご了承ください。
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