魔弾の王と戦姫 〜戦場に揺蕩う時渡りの嵐〜 【更新停止】
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02. 『保護という名の拉致&ティグルの弓の腕前』
前書き
今話から特典を➡︎特典とルビを振ります。
目を覚ますと見知らぬ光景があった。視界には薄暗い天井が見えている。
「…ふぇ…、ここは………?」
思わず疑問を口にすると、目をこすりながら自分の置かれている状況を確認する。わかったことは、手枷と足枷はそのままだが剣は取り上げられていること、状態が衰弱から微衰弱に改善されていること、服装が簡素な女の子用の服に着替えさせられていることだけだ。
天井を眺めながら確認したことについて考察していると、不意にドアを開けて入ってくる音がした。そこには、金色の髪をした知らない女性が立っていた。
「……………だれ?」
女性は僅かな安堵の色を滲ませると説明をしてくれた。
わかったのは、ここはジスタートと呼ばれる領土のライトメリッツという名の国だということ、ボクの身柄は領主が捕虜という形で受け持っていること、3〜4日ほど眠り続けていたことを教えてくれた。
その代わりにボク自身の偽情報を話した。女性は頭が痛そうに目頭を揉みながらため息をつくと、ボクから得た情報を確認して来た。
「貴女はノエルスターク・アイゼンという名前で、没落した貴族の末の娘。何時もは人目に触れないように監禁されて過ごしていた。借金の形に奴隷として売られそうになったところを逃げて来たらいつの間にかあの戦場にいた…と」
掻い摘んだ説明にコクリと頷いて肯定すると、女性は眉間に手を当てて「とりあえず、エレオノーラ様に取り次ぎに行こう」と呟きを洩らし、「私の後についてくるように」と簡潔に言って自分の靴を履いたボクに手を差し伸べてくれた。そしてなんと呼べばいいのか困ったボクに。
「私の名はリムアーシャです。覚えてくださいね?」
そう言う彼女の声音には優しい響きで言ったように聞こえた。
▲▼▲▼▲▼
それからしばらくの間、リム(愛称を許してもらった)とライトメリッツの公宮をある場所に向けて歩いていた。それまでボクにはこの公宮にある目に見えるもの全てが昔と異なっていて、ついついキョロキョロと様々なモノを見ていたら、リムに笑われてしまったり、公宮の説明なんかをしてもらったりしていた。
「ねえねえ、どこに向けて歩いているの?」
そう言えば、何処に向けて歩いているのか聞いていないことを思い出し聞いてみたところ。
「ティグルヴルムド=ヴォルン伯爵のところに行く」
それからティグルヴルムド=ヴォルン伯爵の部屋に着くまで、リムは愚痴のようにティグルヴルムド=ヴォルン伯爵について語ってきた。曰く「戦姫様が連れてきた捕虜」で「弓の才がある」とか「戦姫様に悪影響な噂が立つようなら殺すことも視野に入れなければならない」など、弓の才は認めるがあまり好意的には取られていないことが分かった。
「ティグルヴルムド=ヴォルン伯爵を起こしてくるので、廊下で待っていてください」
そう言い残して、リムはティグルヴルムド=ヴォルン伯爵が居る捕虜の部屋に入って行った。しばらくの間は我慢していたが、待って居いる時間が5分、10分と過ぎて行く内に暇になってしまった。リムが早く帰ってこないかなぁ…。と、寂しい気持ちで、手持ち無沙汰になってしまった。暇つぶしにステータスを眺めていると、状態が微衰弱から健康へ変化していたことや特典の一覧のところで何気なく【時間掌握】と表示されている文字をタップして見た。すると、『この特典は条件をクリアすることで派生します』と表示された。あいにく、【空間倉庫】と【グロ耐性】はだめだったが【時間掌握】と【衝撃強化】が派生できる特典だったらしい。しかし、派生の条件が開示されてはいないからなにをすればいいのかわからない。多分、人を殺すことだと思うけど……。
少々物騒な考え事をしていたら、リムがティグルヴルムド=ヴォルン伯爵と思える少年と一緒に出てきていた。怒った声音や態度からして多分、ティグルヴルムド=ヴォルン伯爵が寝坊でもしていたのかな? そんなことを考えながら、ボクとティグルヴルムド=ヴォルン伯爵はリムの後ろについて行った。
ティグルは話してみると結構気さくな人で、子供のボクが名前を言いづらそうにしていたら、「親しい人にはティグルって呼ばれてるから、ティグルでいい」と言ってくれた。そのあと、公宮について興味深そうに見ていたティグルに、リム呆れた表情で話しているのを見て、大人しく観察を続けた。さっきも見ていたけど、詳しくみると中世の世界っぽい作りになっていることがわかる。中庭に面している側は壁ではなく列柱式になっているところや床を飾るモザイク模様なんかが少し似ている。
宮殿を出て、しばらく歩いたところでようやくリムが止まってくれる。
「ここです」
連れて来られた場所は、城壁のそばにある屋外の訓練場のような施設だった。三、四十人ほどの武装した兵士っぽい人に混ざって銀髪の美人が立っていた。青を基調とした服装で、腰に銀色の鞘をした長剣を帯びている。
「ティグルヴルムド=ヴォルン、少しでもおかしな動作をすれば……いや、むしろしてくれた方がいいですね。いろいろと手間がはぶけますから」
子供がいるが、「殺すことも視野に入れなければならない」と言っていたように変に遠慮はしてないようだ。見せつけるように、リムは腰に差している剣の鞘を鳴らす。もしかして、ボクに対する警告でもあるかもしれないと思い、変な行動はしないことにしようと思う。
「ん、来たか」
ボクたちに気づいた戦姫だと思う女性は上機嫌な様子でこちらへと歩いてくる。まずティグルに、次いでリムへ向けて、最後にボクへと笑いかけてきた。
リムの態度やティグルの緊張度、そしてさっきの光景からしてこの女性が戦姫本人だと確信がもてた。
それから、ティグルヴルムドとエレオノーラの愛称呼びが解禁された。と言ってもティグルの方は解禁されていたが。後は、ティグルの捕虜の代金が提示された。この世界のお金の価値は知らないが、結構な額のようでティグルが減額を願ったことから確認済みだ。それに、脱走を試みれば死刑だそうだ。初めて知った。ボクも捕虜という扱いだからな。注意しようっと。
「それで……俺をこんなところに呼んだ理由はそれだけか?」
金欠で苦しんでいた風体から直ぐにふてぶてしい様さえ感じさせるティグルの態度と台詞にエレンはほう、と感心したような声を上げ、紅の双眸を楽しそうに輝かせた。
「もちろん、これだけではないぞ。ティグルには是非ともやって欲しいことがある」
エレンが指を指したのは、城壁に沿って並んでいる弓の訓練用の的だった。ボクもティグルの腕前を近くで見たかったのだが、保護者が一般兵にボクを連れて距離を離す様に言った。ムゥ…過保護だ。
少し不満げにしながら、抵抗はせずにそのまま連れて行かれた。
さっきの位置から二十メートルほど離れるとそのまま兵はボクを監視する様な目線でこっちを見てくる。しょうじき、ウザいと思うよ。そんな目線はね。
悪態を心中で零しながらティグルの様子を見ると、あの弓は粗悪品だとティグルも思っていることをこの距離でもわかった。だって、ティグルが顔をしかめているし、渡したやつはニヤニヤと笑いながら見ているからだ。
「…………つまんない真似してんじゃねーよ…」
軽い殺気を発しながら渡した優男たちを見ると、途端にキョロキョロと辺りを見渡す。はんっ、見つかるわけないでしょうに、誰もこんな子供が殺気なんて出せるはずがないとでも思ってるはずだからな。油断大敵だっつーの。
心の底から嘲りながら、ティグルが弓を射ているのを見る。第一射は二百メートル付近で墜落し、第二射は失速しなかったものの、的を大きく外れて城壁へと当たった。それを見て兵士たちは嘲りの失笑や哀れみと蔑みの視線が現れる。
人のことは言えないが、あんな弓でできる方がおかしいでしょうに…。
リムは苛立たしげな声をティグルにかけ、気遣うような目線をエレンに向けて、エレンは困った顔をしている。兵士たちも陰口をたたく。正直煩わしくてたまらない、今すぐにでも陰口をたたく兵士を締めたい。
イライラしながらティグルの方を向く。すると、ティグルが気分転換でもするように首をぐるりを回したその時、ある一部の場所を凝視した。気になってその地点を見る。
後もう少しでわかりそうになった時、ティグルがエレンへ叫んだ。
「伏せろっ!」
ようやくわかったのは、機械仕掛けの弓を持った人影が城壁上にいること、その人影が戦姫を狙っていることだ。
機械仕掛けの弓から矢が放たれると、風を切り裂くような唸りを上げて直線にエレンへと飛んで行った。しかし、当の本人はうろたえず、その場から離れようともしない。
「ーーー アリファール」
呪文のような呟きをエレンが零すとともに、腰に帯びている長剣を抜き放ち一閃させた。切り裂かれた大気に白い軌跡が刻まれ、銀の粒子が撒き散らされる。刹那、刻まれた大気が膨れ上がり、軌跡を中心に暴風となって吹き荒れた。エレンの目の前で矢は暴風に絡め取られて軌道を大幅にずらされ、何もない地面に力なく突き立った。
ボクが唖然としながらエレンの持つ長剣を見つめていると、リムが賊を捕らえるように言ってようやく元の意識に戻った。リムの叫びに兵たちも行動を始める。ボクも特典の中の一つにこの状況で役に立ちそうなものがあったので近距離で監視的なことをしている兵士に尋ねる。
「おじさん、槍貸してくれない?」
「おじっ……まあいい。ほらよ、何に使うんだ?」
「ちょっとしたことだよ」
訝しげになりつつも、此方の要望に応えてくれた兵士から短槍と呼べるような槍を貸してもらうと槍の重さに耐えつつ特典を発動させる。
「【衝撃強化】」
先ほどのエレンのように呟くと、ボクの武器を持っている方の手の甲に魔法陣のような六芒星が浮かび上がる。さっきまで感じていた短槍の重量が消え、鳥の羽でも持っているような軽さに変化した。その重さに慣れるために軽く縦横に振っている。
ボクがなにをしたいかというと、あの賊にこの槍を当てること。若しくは、ボク自身が兵士たちに舐められないように力を持っていることをわからせるためだ。
短槍の重さにも慣れたところで漸く集中を高め始めた。目標は賊の生け捕りだから、機動力を狙う。呼吸を静謐にし、息を吸って、吐いてを繰り返して照準を定める。そして、目標とする地点に的(あんさつしゃ)が差し掛かった瞬間にボクは身体を弓のように弾き絞り、
「………シッ!」
某赤枝の騎士の宝具のように引き絞った力を余すことなく短槍に伝えて投擲した。
投擲した体制のままで結果を見ると、ティグルもボクと同じように賊を生け捕りにするために足を狙ってあの弓で命中させたらしい。そして、ボクの投擲した短槍だが足へと命中“は”した。しかし、威力が強すぎたのかティグルが射た矢の反対の足を命中した部分と、そこから下を切り離すという結果だったが。
実際、力を示すという目標と命中させる目標は達成したがもう少し抑えようと決意する切っ掛けになった。理由としては、兵士やリム、ティグルが畏怖。エレンは若干好奇心が混ざったような笑みを浮かべていたことがその理由だ。
やっぱり、【威力強化】の検証を勧めないとな。と思う、今日この頃です。
後書き
チートのタグが示す通り、魔強化されている少女。
愛でられてばかりではないし、毒も吐きます。でも、今回は苛ついていたために特典が呼応するように威力が上がりました。【威力強化】は基本、あれほど威力はありませんので。
それと、基本的にノエルは愛でられます。しかし、チートさんです。自重しません。
こんな作品ですが、読んでいただけるとありがたいです。
最後に、感想はいつでも募集中ですので送ってくれると、次の作品のクオリティが上がったり…なんて変なことは言いません。
ではでは、次の後書きにでも会いましょう。以上、如月和でした。
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