とあるの世界で何をするのか
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第三十七話 どうなったのか心配だった人たち
「そう言えば初春さん、レベルアッパー使用者が集まってるファミレスってここ?」
御坂さん達が出て行ってしばらくは初春さんや佐天さんと雑談しようとしていたのだが、初春さんが持っていたパソコンの画面の地図を見た俺は気になっていたことを尋ねた。
「ええ、そうですが」
「あらまー。ねえ、この変電所から電力を供給してる地域って調べられる?」
御坂さんが何か面倒事を起こすことは覚えていたので、ファミレス付近に電力関係施設が無いか見てみると、ファミレス裏手に大きめの変電施設があったのである。恐らく御坂さんが電撃を飛ばしてこの変電施設を停止させてしまうはずなので、その周囲は当然の事ながらこの周辺までもが停電してしまうかもしれない。
「そうですねー。あっ、この辺りも供給地域に含まれてます……」
「ん? ってことは……御坂さんが派手に戦ったらこの辺も全部停電になっちゃうって事!?」
初春さんがしばらくパソコンを操作して残念そうに答えると、佐天さんもようやく気づいたようだ。
「うん、そういう事」
「ま……まぁ、何も無いことを祈りましょう」
「そうだねぇ」
俺が答えると、初春さんと佐天さんにはすでに諦めムードが漂っていた。
「でも、この辺はバックアップに別の変電所があるので電力供給自体はすぐに戻りそうですね」
「まー、普通はそうだろうね」
「そうなんだ、良かったー」
まだ調べていた初春さんからの追加情報で、俺と佐天さんが安心する。というか、元居た世界でもそうだったが、通常の電力供給ラインはいくつか確保されているのが普通で、雷やその他の事故、故障等でどこかの施設が停止したとしても、供給ラインを即座に切り替える仕組みがあるのだ。この学園都市で、その程度のシステムが出来上がってないわけがない。
「それじゃー、ウチはそろそろ帰ろうかな」
「あれっ、神代さん。もう帰っちゃうんですか?」
俺が帰ろうとすると、初春さんから声を掛けられる。
「看病の方は佐天さんがやるみたいだし、ウチは居ても邪魔になるだけでしょ」
初春さんの世話は佐天さんが全部やってくれていたので、俺の出番は全く無かったのだ。
「いえ、そんなことは無いと思いますけど……」
「じゃーそれなら佐天さん。初春さんに夕食を作ってあげるとして、何作る? 足りない材料を買ってくるわ」
初春さんの言葉に俺がここに来てからの言動を振り返ってみるが、この部屋を会議室代わりにレベルアッパーに関する話を白井さんや御坂さんに話してただけで、初春さんの看病には全く携わっていないし、その後も雑談しかしていないのである。なので少し初春さんの役に立つこともやっておこうかと、食材の買い出しを提案してみた。初春さんの夕食は多分佐天さんが作ることになると思うので、話を佐天さんに振ったのだ。
「あ、そうだねー。冷蔵庫にある残り物でチャーハンでも作れれば良いかなと思ってたんだけど……」
「チャーハンは流石にどうかと思うんだけど……初春さんは病人なんだから、おかゆとは言わないまでも消化に良い物を作った方が良いんじゃない?」
元気な時に食べるのならチャーハンはとても良いチョイスかもしれないが、病人に食べさせる料理ということになるとちょっと疑問を感じてしまう。俺自身はそんなに料理をしないので、消化に良い献立というのが即座に頭に浮かぶ事も無く、その辺は佐天さんに丸投げという形ではあったが提案してみた。
「あー、それもそうか。ちょっと冷蔵庫見てみるね。……うーん……神代さん、大根ともやしを頼めるかな? あっ、あと玉子と牛乳も!」
「了解。じゃー、行ってくるねー」
「いってらっしゃーい」
初春さんの冷蔵庫を確認した佐天さんに頼まれた物をメモして初春さんの寮を出る。以前上条さんと一緒に行こうとして、結局木山先生に送ってもらったあの激安スーパーはちょっと遠いので、俺は普通に安めな近所のスーパーへと向かったのである。
「超見つけました」
しばらく歩いたところで路地から出てきた絹旗さんに声を掛けられた。滝壺さんと二人だけである。
「あれ、絹旗さんと滝壺さん。どうしたの?」
しばらく前から気配で分かっていたので特に驚くことも無く対応する。
「むぎのとフレンダが倒れた。明らかにAIM拡散力場がおかしくなってる」
「どうしたら良いか超教えて下さい!」
「え……麦野さんが倒れたの? フレンダのほうは何となく倒れちゃうだろうなーって気がしてたから分かるんだけど、麦野さんまでかぁ」
滝壺さんがとても簡潔に教えてくれ、絹旗さんが俺に詰め寄ってくる。少なくともフレンダに関しては予想していたのでそれほど驚かなかったのだが、麦野さんが倒れたことには驚いた。いや、アイテム4人が全員倒れたのなら多分それほど驚かなかったのだろうが、絹旗さんや滝壺さんが大丈夫な中で先に麦野さんだけ倒れたのが驚きなのである。
「何とかする方法は超無いんですか?」
「何とかするも何も、ウチだって完全に把握してるわけじゃ無いからね。それに、ここで話すにはヤバイ内容が多すぎるし」
「確かに超そうですね」
何とかする方法を絹旗さんに尋ねられるが、それに関してはこんな場所で簡単に答えられるようなことでは無い。そう伝えると絹旗さんは納得してくれたようだ。
「それで、麦野さんとフレンダは病院で寝てるの?」
「はい、今のところは暗部のほうでもどうにもならなかったので超入院させられてます」
暗部所属なので倒れた二人はどうなっているのか聞いてみると、普通に病院で寝かされているようだ。
「そっか、それなら絹旗さん達は大丈夫? もし、ちゃんと対処できてないなら絹旗さん達も倒れる可能性があると思うんだけど」
「それなら多分超大丈夫だと思います。フレンダはともかく、麦野も対処自体は超出来てたはずなんですけど……その……」
麦野さんが倒れていることから、この二人も倒れる可能性があるので聞いてみると、どうやらレベルアッパーの対処自体はフレンダを除いて上手くいったようである。対処できていたのにもかかわらず、麦野さんだけが倒れてしまった理由として考えられる可能性と言えば……。
「デュアルスキル?」
「……はい。倒れる前の麦野はそれにばかり超気を取られてる様子で、多分その方面で超何かやってたんだと思います」
俺の予想に絹旗さんがうなずく。こうなると麦野さんだけは他のレベルアッパー使用者と違う理由で倒れた可能性が出てくる。
「なるほどねぇ……、けど、今はジャッジメントやらアンチスキルが動き出したっぽいから、どっちにしても派手に動くのは難しいわね」
もう少し前の白井さんや御坂さんが動き出す前であれば何か出来る事があったのかもしれないが、すでに白井さんがジャッジメントとして動き出しているのを知っているので二人に釘を刺しておく。更に、俺がレベルアッパーを知っていることは白井さんも御坂さんも知っているので、今から俺が裏で動き出すというのも難しいのだ。
「確かに、最近AIM拡散力場のおかしな人が急激に増えてきたから、ジャッジメントやアンチスキルが動き出しててもおかしくない」
「そうですね。こっちにまで超仕事が回ってくるほどですから」
実のところ、アンチスキルのほうが動き出したかどうかは俺も知らないのだが、滝壺さんの話からどっちにしても近い内に動き出すのは間違いないだろう。しかし、絹旗さんの話に俺はちょっと引っかかった。
「ウチのほうには仕事が来ないんだけど、他の所には仕事が行ってる感じ?」
「はい、私たち以外にもいくつかの組織が超動いてるって聞いてます。まあ、無力化するだけで良いって内容で、殺すのは超ダメっていう制限付きなんですけど……」
どうやらレベルアッパーを使って暴れる輩を取り押さえるのに、暗部にまで動員を掛けているようだ。ただ、俺の所に何も来てないのが少し気にかかる。
「そうなのね。取り敢えず、ウチは友達に頼まれた買い物があるから、メインの話は夜で良い?」
「分かりました」
気になることはある物の、スーパーの前まで来たので話を一度中断する。話の続きは俺の部屋に来てもらえば良いだろう。
「それじゃー、ウチの寮で待ってるわね」
そう言って俺はスーパーへ入ったのだが、絹旗さんや滝壺さんって俺の部屋知ってただろうか……。
「佐天さーん、買ってきたよー」
買い物を終えて初春さん達の所へ戻ると、玄関で佐天さんに声を掛ける。
「おぉー、待ってました! じゃー初春、今から作るね。それから、神代さんも一緒に食べますよね?」
「あー、ごめん。途中で知り合いに会って、用事が出来ちゃったから」
佐天さんに買い物袋を渡すとその流れで夕食にも誘われたのだが、絹旗さんと滝壺さんのことがあるので名前などは出さないようにしつつ辞退させてもらった。
「あら、そうなんですか。じゃー、仕方ないですね」
「残念だなぁ。折角神代さんにも私の手料理食べてもらおうと思ったのに」
「ごめんねー。それじゃー、初春さん、お大事にー」
「ありがとうございましたー」
初春さんも佐天さんも相手について聞いてくることは無かったので、俺は挨拶をしてそのまま初春さんの部屋を後にした。
寮の前まで戻るとまだ夕方だというのに付近に絹旗さんと滝壺さんの気配を感じたので、そっちに向かって手を振ってからそのまま寮に入る。
「何で超分かったんですかっ!?」
「あのくらいならすぐに分かるわよ」
俺が部屋に入った後、玄関のドアが閉まる寸前に絹旗さんがドアを開けて聞いてきた。帰る時は絹旗さんと滝壺さんの気配を探りながら歩いていたので、多少広めの範囲で気配を感じ取れたというのもあったりする。
「そっちからは超見えてなかったはずですがっ!?」
「もしかして、あなたもAIM拡散力場が分かるの?」
絹旗さんは俺に気づかれないように隠れていたという自信があったのだろう。驚いたように聞いて来た時に、絹旗さんの後ろから滝壺さんが入ってきて尋ねられた。確かに、滝壺さんの能力なら同じようなことが出来るから、俺がその能力を使用したと考えたのかもしれない。
「流石にそれは分からないけど、でも気配なら分かるんだよねー」
「どこの格闘家ですかっ!!」
確かに滝壺さんの能力も使うことは出来るが、今回に関してはというか、たいていの場合は気配で分かってしまうので、そう答えると絹旗さんからツッコまれてしまった。
「まあまあ、取り敢えず上がって」
「お邪魔します」
「……超お邪魔します」
絹旗さんを宥めつつ、朝学校へ行く前の状態だった部屋を大急ぎで片付けると、絹旗さんと滝壺さんをリビングへ招いた。
「ちょっと待っててね」
そう言って俺は音響結界を張りつつ飲み物を用意する。
「それで、倒れた麦野さんとフレンダのことだけど」
「はい」
二人にそれぞれ飲み物を出してから俺は話し始めた。
「フレンダの方は多分、レベルアッパーの件が解決したら他の人たちと同じタイミングで目を覚ますと思うわ。けど、麦野さんの方はウチもちょっと分からないかな」
フレンダは他のレベルアッパー使用者と同じ扱いで良いはずだが、問題は麦野さんである。レベルアッパーに関してだけならば俺もアニメの知識を持っていたのである程度の予測が立てられたわけだが、麦野さんのようにデュアルスキルを使おうとした人はどうなってしまうのかなんて知識など俺には無い。
「超どうしてですか?」
「麦野さんがデュアルスキルを目指していたと仮定して、デュアルスキルを実現するためにはどういう方法があると思う?」
聞いてくる絹旗さんに聞き返す。麦野さんがどういう方法でデュアルスキルを使おうとしたのかは分からないが、麦野さんのとった方法によってはレベルアッパー使用者の皆が意識を取り戻す時でも、意識が戻ってこない可能性が高いのである。
「この前の話では他人の能力を超使う感じじゃ無いんですか?」
恐らくこの前の話というのは俺がホテルで話したことなのだろう。ただ、他人の能力を使うと言っても方法は色々あるのだ。
「うん、レベルアッパー利用者のネットワークがあるから他人の能力を使うことが出来るようになるかもしれない、って言うのは何となく想像できると思うんだけど……」
一端言葉を切って更に続ける。
「じゃあもし、ネットワークを介して他人のパーソナルリアリティが自分の中に出来てしまったらどうなると思う?」
「え……それは……」
「むぎのもそれで倒れたって事?」
この世界に来てからデュアルスキルが出来ない理由というのは聞いたことが無いので、かなりうろ覚えな元の世界でのアニメ知識になるのだが、確かパーソナルリアリティを二つ以上持とうとすると、脳の負担が大きくなりすぎるので理論的には出来ないはずという設定だったと思う。話を聞いて二人の顔が少し青ざめたことから見ても、俺の知識はそれほど大きく外れていないのだろう。
「可能性は少なからずあると思うわよ。他人のパーソナルリアリティが他人の中にある状態でネットワークを介して能力だけを使うなら自分には何も問題が起きないのかもしれないけど、他人のパーソナルリアリティを自分の中に取り込んでしまったらどうなってしまうのかはウチにも分からないわ」
能力開発を受けていない木山先生がマルチスキルと言って複数の能力を同時使用していたことからも、能力を使用するだけならば問題なく出来るはずなのだ。しかし、木山先生がパーソナルリアリティをどのように扱っていたのかは俺にも全然分からない。
「超どうにかならないんですか!?」
「どうにかするも何も、まずはレベルアッパーのネットワークを破壊して、フレンダやその他大勢を起こさない事にはどうなってるのかも分からないのよ。その時点で麦野さんが起きるのか起きないのかすら分からないんだから」
絹旗さんから問い詰められるが、現状ではどうすることも出来ないのだ。そもそも麦野さんが自分の中に他人のパーソナルリアリティを持ってきたのかすらも分からないのである。
「ネットワークの破壊?」
「そんなこと、超できるんですか!?」
滝壺さんが思わぬ所に食いついてきて、絹旗さんにまたも問い詰められる。思わずアニメの知識が出てしまったが、さすがに少しまずかったかもしれない。
「今はウチの知り合いのジャッジメントが動いてるんだけど、そのジャッジメントと一緒に第三位が動いてるのよ。だから近い内にそれは出来ると思うわよ」
ネットワークの破壊から話をそらすために第三位の名前を出してしまったのだが、ここで第三位の名前を出したのは更にまずかったかもしれない。
「第三位ってあの常盤台の超超電磁砲ですか!?」
「何か御坂さんが凄い人になってる……。まぁ、その超電磁砲で合ってるはずだけど、どっちにしてもジャッジメントの二人が優秀だからレベルアッパー制作者を特定するのは近い内に出来そうだし、制作者を捕まえたら何とかする方法もすぐに分かるだろうとは思ってるんだけどね」
絹旗さんの“超”を付ける位置が何だかおかしい気もするが、この件に関してはあまりアイテムの二人に動いてもらいたくないので、近いうちに解決してしまうだろうという方向で話をする。
「そのジャッジメントにレベルアッパーのことを教えたのはこうじろ?」
「うん。ウチもレベルアッパーを聞いてしまってる以上、レベルアッパーを知らないふりしてたらいつかボロが出そうだからね。それに、それ以前に御坂さんには話しちゃってたし……あ、御坂さんって第三位ね」
滝壺さんになかなか痛いところを突かれたので言い訳する。この辺は俺もどっちのスタンスで行くか迷っていたのだが、後から使っていたことがバレると白井さんの追及が大変そうだと思ったので話すことにしていたのである。そしてタイミングを測っている時に佐天さんがレベルアッパーの話を始めてくれたので、それに乗っかってしゃべったというわけだ。
「それならこうじろは今後、そのジャッジメントや第三位と一緒に事件解決に向けて動くの?」
「うん、多分そうなると思うわよ」
「それなら私たちも超参加させて下さい!」
滝壺さんに聞かれて答えると、絹旗さんが勢いよく真剣な表情で頼んできた。隣を見ると滝壺さんの表情もいつもと違って真剣だ。二人の様子から、麦野さんやフレンダのことをとても心配していることが伺える。
「うーん、ウチの一存じゃどうにもならないんだけどね」
二人の心情は理解できるのだが、当然俺にはそんな権限などないし、白井さんは勿論のこと、もしかしたら固法さんにもそんな権限が無いかもしれないのだ。とはいえ、御坂さんのこともあるから権限なんか無くても何とかなるのかもしれない。
「超そうですね。何とかなる方法って超無いんですか?」
「知り合いとして紹介するにしても、どうして知り合ったのかっていう辻褄合わせをしとかないと……あっ!」
絹旗さんもあきらめきれない様子で聞いてくるので、俺も何かしらの方法が無いかと考えながら答えていると突然ひらめいた。
「超どうしたんですか?」
俺の様子に少し驚いたような絹旗さんが聞いてくる。そこで、俺はいくつかの確認をすることにした。
「ウチの仕事の邪魔をするためにあのレベルアッパーが流れてた施設に行ったのよね?」
「え……ええ、超そうですけど」
「施設の中に倒れてる研究者は居た?」
「いえ、施設自体はまるで超人が居るかのように稼働してましたけど、中には超誰も居ませんでした」
「それなら、さっき御坂さんとジャッジメントの人が行って、その時には何かの能力で破壊された跡があったって聞いたんだけど、それやったのって麦野さんで間違ってないよね?」
「あ……はい。超破壊してました……」
取り敢えず、アイテムの面々があの施設での殺人はしていないようだ。
「だったら……」
俺はそう言った後で、絹旗さんと滝壺さんを知り合いとして紹介するために、二人と辻褄を合わせる為の打ち合わせを始めるのだった。
後書き
お読みいただいている皆様、ありがとうございます。
アイテムの面々を出すかどうかでかなり悩んだ結果、出すことにしました。
本来ならアイテムの面々がレベルアッパーを聞いたのは、AIMバーストの強化のためだけだったんですよねー^^;
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