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第三十二話 殺し合い
前書き
一月ぶりの更新ですが、相変わらず文字数は少ないです。
次は、5000字超えたいです。
言峰綺礼のもとを後にしたキリトは、何かを確信づいたかのように行動を起こし始めていた。
あの時殺されたと思われる男、カインズの友人のヨルコ、そしてそのもとギルドの仲間でもあったシュミットから話を聞き出し始めた。
その時の様子や、三人の関連性についてなど、必要な情報を余すことなく聞き出す。
かつて、三人が《黄金林檎》というギルドを組んでいたという事や、ドロップした指輪が元で、仲間内で争いが起きた事も。
そして、おそらくそれが原因でリーダーであるグリセルダが殺され、ギルドが解散した事も。
だが、聞き込みの最中に、ヨルコは襲撃を受けた。
ヨルコの背中には、黒い投げナイフが突き刺さっていて、その後窓から転落し青いポリゴンとなって消滅。
その場にいたアスナは絶句し、シュミットに至っては、ヒステリーを起こしたかのように悲鳴を上げていた。
だが、そんな中キリトは焦る事もなく、その様を見つめていただけ。
シュミットは一人宿を飛び出し、アスナもその後を追いかける。
「……」
一人になった宿の一室で、キリトは何かを考えるかのように顎に手を置く。
「何か分かりましたか?」
部屋の外で待っていたセイバーが中へと入ってきた。
キリトは一つ頷くと、真剣な表情で呟く。
「やっぱり、今回の事件は誰も死んじゃいない」
キリトはそう言うと、アスナを追うように部屋を出て行った。
セイバーもその背中を見つめ、後に続いた。
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結論から言うと、この事件の全容というのは、カインズとヨルコによる自作自演であった。
指輪が盗まれ、グリセルダが殺された真相を暴くための所謂罠である。
その結果、グリセルダの墓の前ですべての真相が暴かれた。
グリセルダの夫でもあったグリムロックの歪んだ思いによる殺害事件。
そして、その殺害を依頼したレッドギルド、│笑う棺桶《ラフィンコフィン》。
グリムロックはその真相すべてを闇に屠ろうとしていた。
シュミットは地に這いつくばり、カインズとヨルコも体が硬直し、動けなくなっている。
もうすぐにでも殺せる。
だが、そのグリムロックの思いはその中の一人の声によって脆くも崩れ去る。
「お前ら、主賓が到着するまで手を出すんじゃねぇぞ」
声の主であるギルドリーダーの《Poh》の一言によって、残り二人のメンバーも動きを止める。
何故だ。
何故殺さない。
グリムロックは彼らが何故手を出さないのか、理解出来なかった。
その時――――――――――。
一直線に何かが飛び出してきた。
その何かは、人影。
弾丸のように飛び出してきた人影は小柄な女性のものだった。
彼女の行く先には、ギルドリーダーのPoh。
「…チッ」
そのスピードに、Pohも反応できなかったのか、思わず舌を打つ。
だが時すでに遅し。
彼女の一閃は、Pohの愛剣、│友切包丁《メイトチョッパー》を叩き落とした。
「動くな下郎」
人影の主、セイバーが剣を突きつけた。
不可視の剣だが、そのプレッシャーから自分に突きつけられている物がなにか、見えなくても感じることは出来るだろう。
案の定、Pohは思わず首を引く。
「wow……ちょっと過激すぎやしないか?」
両手を上げ、降参の意思を伝えるPoh。
だが、それでもセイバーは剣を下さない。
「黙れ、貴様のような者に遠慮する意思など持ってはいない」
「……意外と野蛮だねぇ」
吐き出すように声を紡ぐ。
そのやり取りに、動けないでいた者達も一斉に思考が回復する。
「ボス!」
「敵、か……!?」
「おっと、お前ら動くんじゃねぇぞ。動いたら俺の体が半分に分かれちまう」
顔を向けずに、そのままの体勢で彼はそう言う。
一つでも不審な真似をすれば、体を真っ二つにされるだろう。
そう直感で感じていた。
全員が硬直したように動かない。
「……来たか」
突如、Pohが口を開いた。
そう発した後、口が笑みを作る様に吊り上がる。
セイバーが目を鋭くするが、そんなもの関係ないと云うようににやけた面を直そうとはしない。
Pohの言葉通り、一つの影が漆黒の闇の中から姿を現した。
「すまないセイバー、少し遅れた」
「いえ、その判断は正しかったようです。私を先に行かせていなければ、彼等はどうなっていたか」
キリトの言葉にセイバーが剣を下ろすことなく答える。
「……よう、Poh相変わらず趣味の悪い恰好だな」
「ハッ―――――貴様には言われたくねぇな」
Pohは相変わらず笑みを崩さない。
それどころか、先ほどより楽しそうだ。
「……黒の、剣士、殺す!」
「待てよ、ザザ。動くなっつったろーが」
赤眼のザザが、殺気を隠すことなくキリトへ詰め寄ろうとするが、それはPohに止められる。
「……ずいぶんと警戒してくれるんだな」
「当たり前だ。状況がこうじゃ手も足も出ねぇ」
「そうかい。なら大人しく、黒鉄球に行ってくれると助かるんだが」
キリトはそう言うと、懐から転移クリスタルを取り出す。
それを見て、ザザ。そしてジョニーブラックが殺気を強めて唸り声を上げる。
だが、それでもPohは態度を変えない。
一瞬真顔に戻ったのだが、すぐに口角を吊り上げた。
「黒の剣士。まさか、俺がただの殺人プレイヤーだと思ってたのか?」
「なに?」
「俺も……お前と同じ穴のムジナなんだよ!!」
Pohはそう言い、左手に巻かれていた包帯を千切る様に外した。
そこには……
「まさか……!?」
キリトが驚愕する。
そこに赤く光る三画の紋様。
「そのまさかだよ。黒の剣士!!」
―――――――セイバーが剣を引いて、バックステップでその場から飛びのいた。
その瞬間、セイバーのいた場所に黒い影が飛び出してくる。
「ッ!!」
後一瞬でも遅かったら、確実にセイバーはやられていただろう。
それほどの一撃を影の主―――――――バーサーカーは放っていた。
「……Poh、まさかお前が」
キリトが信じられないようなモノを見る眼でそれを見つめていた。
その姿を見て、さらにPohが笑みを深める。
「さぁ、It’s show time!!」
その言葉と共に、バーサーカーはセイバーへと襲い掛かった。
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「まずいな」
キリト達がいた場所から1kmほど離れた巨木の上で、アーチャーが呟いた。
「まさか、バーサーカーのマスターって……」
その隣でアーチャーと視覚を共有し、様子を見守っていたアスナが、顔を青ざめながら声を出す。
彼等は、キリト達の指示で遠方からの射撃で援護する役割に居た。
万が一、ラフコフや他のプレイヤー達が何か変な動きをしたら狙撃し、戦闘不能にするつもりでいた。
だが、その目論見も一瞬にして消え失せた。
突然のバーサーカーの乱入。
それにより、アーチャーは狙撃のタイミングを完全に無くしてしまった。
もし一か八かでバーサーカーへの狙撃を試みても、掴み取られ、敵を援護する形になってしまう。
ならば…と思い、アーチャーは狙いを変えた。
狙いはPoh。
彼を一撃で絶命させる事が出来れば……。
アーチャーはそう考えを巡らせた。
幸い、他のラフコフメンバーのザザとジョニーブラックはすでに転移結晶でその場を離れ、人質状態であった三人もその場を離脱したのか姿がない。
これで邪魔者はいない。
人質を盾にすることも、仲間を身代わりにすることも出来ない。
だが、それでも百パーセント成功するとは言い切れない。
弓に番えた剣を放った瞬間、もしバーサーカーがそれに気づけば、それを掴み取るなり叩き落とし、もう二度と狙撃は成功しないだろう。
それでも、アーチャーはそれに賭けた。
バーサーカーからPohまでの距離は約五メートル。
ギリギリでいける……!
確信を持って、アーチャーは番えた剣を離した。
音速を超える速度で、剣が奔る。
狙いはPohの脳天。
「ッッッ!!」
案の定バーサーカーはそれに気付いたが、Pohまでの距離は離れすぎている。
叩き落とすのも間に合わない。
殺った。
アーチャーは確信する。
だが、予想外の出来事が再び襲う。
“ギィィィィィン”
鉄と鉄の当たったような音が周囲に木霊した。
そう、決して人体が砕けた音なんかでは無い。
「!?」
アーチャーの狙撃が何者かに弾かれた。
バーサーカーではない。
現にバーサーカーはその場からほとんど動かずにセイバーと打ち合っている。
ならば誰が……。
「貴様が其方についたか……」
アーチャーがそっと呟く。
「そんな…」
アスナが絶望にも似た声で声を絞り出す。
そこに居たのは、自分たちもよく知る男。
青いボディアーマーと真紅の槍が不気味に鈍く光る。
「それが貴様の答えか――――――――――ランサー」
アーチャーの冷静な一言がその答えを現していた。
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キリトとセイバー、その場に居る一組の主従は、あまりの事態に動揺を隠せないでいた。
アーチャーの放った狙撃は、確実に敵マスターであるPohへと命中するはずの一撃だった。
だが、それを当たる寸前に受け止められ叩き落とされる。
それも、それを防いだ人物も予想外であった。
「……ランサー、何故貴方が」
セイバーの静かな呟きがランサーへと問いかけた。
「……」
ランサーはセイバー達を黙って見つめたまま、一言も声を発しない。
ひたすら無表情を貫き、鋭い眼光のみがセイバー、キリトへと注がれる。
「huuuu……流石だランサー」
Pohが軽い調子でランサーへと話しかける。
「…別にテメェがどうなろうと構わねぇが、守り通せっていう命令だからな」
「Ha……相変わらず口の悪い野郎だ――――――まあいい。ランサー、テメェは狙撃主を潰して来い。こっちは俺達がかたずける」
「――――――――――――言われなくてもそのつもりだ」
そう言い、ランサーはその場から消えた。
おそらく、跳躍してアーチャー達の所へ向かったのだろう。
「邪魔して悪かったな、黒の剣士。さあ、続きだ」
Pohが、何事も無かったかの様にキリトへと声を掛ける。
だが、あまりの状況にキリトはそれ所では無い。
「―――――――――――――Poh。なんでお前がランサーを……」
「……そいつはお前の知る必要がねぇ」
そう言うと、いつの間にかPohの右手には混乱に乗じて拾っていた、友切包丁が握られていた。
「これから死ぬような奴に、教えると思うか!」
Poh、そしてバーサーカーがキリトとセイバーに突っ込んでくる。
「……くそっ、セイバー」
「っ……はい!」
キリトは、迎え撃つため、キリトが背中から剣を抜き放つ。
セイバーが不可視の剣を構えなおし、バーサーカーの突進へと備える。
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時同じくして、アスナとアーチャーも敵を迎え撃つ準備をしていた。
「マスター掴まれ」
「アーチャー?」
「下で奴を迎撃する」
アーチャーはそう言うと、アスナを抱えると木から飛び降りる。
ランサーがこちらへ向かっている。
奴の足なら、あと十秒ほどで此方へと到達するであろう。
「――――――――投影、開始」
アーチャーの手には見慣れた中華剣、干将莫邪が握られる。
「下がれ!来るぞ!!」
アーチャーの指示と同時に、甲高い鉄の叩く音が聞こえる。
剣と槍の交差した音だ。
「……こうして会うのは久しぶりか、ランサー?」
「さあな、いちいち覚えてねぇよ」
軽口を叩き合う二人。
所々に殺気が漏れている。
「ランサー、貴様が奴等と手を組むとはな。意外だった」
「……」
アーチャーがランサーへと世間話をするように話しかける。
だが、ランサーは無反応だ。
「まあ、その事については貴様を打倒し、じっくりと聞くとしよう」
「…別にテメェに話す事なんか無ぇよ―――――――」
そう言うと、ランサーはバックステップで距離をとる。
そして、腰を落として深く槍を構えた。
「とりあえず、テメェら……」
ランサーが、力を溜めながら言葉を発した。
「―――――――ここで死んでくれ」
後書き
ああ~話が進まん。
とりあえず、ここまで。
次回、さらなる乱入者も!?
感想お待ちしています。
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