【銀桜】4.スタンド温泉篇
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-おまけ-「旅行の忘れ物に要注意」
「んー」
帰りの揺れるバスの中で、新八は一人首を傾げていた。
「どうしたネ新八。ウンコでもしたくなったアルカ?」
「違うよ。てか神楽ちゃん、女の子がそんな下品なこと言っちゃ駄目だって」
「そっか。おしっこしたくなったアルカ」
「だから違うってば!!」
「じゃあ何ネ。ゲボアルカ」
「なんで下ネタしかねぇんだよ!」
神楽にツッコんでから、新八は疑問を口にした。
「いや、なんか一人足りないような気が……」
「あらそう?全員いると思うわよ」
そう言ってお妙はバスの中を見渡す。人数は揃っている。
「きっと新ちゃんの気のせいよ」
「そうかな~。銀さん誰か足りなくないですか?」
双葉と一緒に前方座席に座る銀時に聞いてみるが、彼もまた首を横に振るだけ。
「おいおい新八君。まだ怪談ネタ続ける気?いい加減にしてくんない。この長編60ページぐらいあるんだよ。無駄にダラダラ書いてたせいで一番ダラダラ文になっちゃってるんだよ。もう泣きそうな思いで書き上げたんだよ」
「いや、さりげなく作者の愚痴聞かされても困るんですけど」
メタフィクションの領域までズレてしまった話の軌道を戻して、新八は会話を続けた。
「やっぱり誰か足りませんよ」
「んなもん気のせいだよ」
「『一人だけ足りない遠足』か」
いきなり話に飛びこんできたのは、うたた寝していたはずの双葉だった。
「双葉、なんだその話」
「兄者聞いたことないのか。有名だぞ」
銀時も新八達も首を振り、双葉は少し考える素振りをして口を開いた。
「こんな話聞いたことないか」
「話されてもないのに聞かれても困るアル」
即された神楽のツッコミを無視して、双葉は話を続けた。
「昔、ある寺子屋の遠足での帰り道。その先生は迷子が出ないように人数の確認をしたんだ。一人、二人、三人と数えいった。だが十人いるはずなのに九人しかいなくて――」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て双葉!」
突然話の中に割り込んできた銀時に、双葉は不服そうな声をもらす。
「なんだ」
「え~聞くけどよ~……それって怖い話?いや俺は全然怖くないけど、神楽とか新八とか怖がんじゃねぇの?だったらやめとこうぜ」
「僕ら全然怖くないんで」
「だからさっさと話せヨ、ピザ女」
一人青ざめる銀時を横に双葉は話を続けた。
「何度数えても、何度数え直しても九人しかいない。おかしいな、全員で十人いるはずなのに……」
「お、お、俺は何も聞いてない。聞こえてない。タリラリラ~」
銀時は懸命に耳を塞いで身体を震わせる。
それとは逆に新八達は話にのめりこんでいく。
「おかしい。実におかしい。その先生は頭を抱えて悩んだそうだ。そして、やっと気づいたんだ。それは――」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
バス中に轟く銀時の悲鳴。
運転手と新八たち以外誰も乗っていないから良いものの、大迷惑である。
「銀ちゃんうっさいアル!」
「アンタ勝手に怖がってるだけじゃねぇか!」
「もうオチが聞こえなかったじゃない」
「っるせーな!たく、こんな話に夢中になるテメーらどうかしてるぜ」
「こんな話に絶叫上げる人もどうかしてますよ」
新八の鋭いツッコミの直撃を受け、銀時は口ごもった。
大人しくなった銀時を置いて、新八達は話の続きを聞きたがる。
そんな彼らに双葉は相変わらずの無表情で結末を語った。
「その先生はやっと気づいたんだ。……自分を数え忘れてることに」
場の空気が凍りつき、新八達も銀時も「え?」と声をそろえた。
だが語り終わると、双葉はまた寝入ってしまった。
妙にしんみりとしたバスの中で、新八は思い浮かんだことを口にする。
「……やっぱり……僕の気のせいだったのかな」
「そうネ。お前自分の存在忘れてどうすんだヨ。しっかりしろよ、駄メガネ」
「そうだね……ん!」
『メガネ』→『目に掛けるモノ』→『耳に掛かってるヤツ』→『グラサン』
新八の頭の中で連想ゲームのように単語が繋がってゆき――
「……長谷川さん忘れた」
今度は双葉を含む全員が「あッ」と声をそろえた。
=おしまい=
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