(仮称)問題児たちと一緒に転生者が二人ほど箱庭に来るそうですよ?
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弟子は虎と、師匠は忌み子と出会うそうですよ?
「ジン坊ちゃーん! 新しい方を連れてきましたよー!」
その声にはっと顔を上げたのは、〝ノーネーム〟のリーダー、ジン=ラッセルという少年だった。ジン達のコミュニティが崖っぷちにあるのは、子供であるジンがリーダーを名乗っていることからもわかる。
そして今日は、コミュニティの現状を打破し得る人材の確保を黒ウサギに頼んでいた。黒ウサギの後ろには、久遠、春日部、フレメダ。以上の三人が歩いていた。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの御三方が?」
「はいな、こちらの御五名様が――――て、あれ? あと二人いませんでしたっけ? ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から〝問題児〟ってオーラを放っている女性と、変わった仮面を付けて、狼と共にいた和装の御方が」
「ああ、逆廻さんなら〝ちょっと世界の果てを見てくるぜ!〟と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」
久遠の指した先には断崖絶壁がそびえ立っていた。それを見た黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて叫んだ。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「〝止めてくれるなよ〟と言われたもの」
「ならどうして黒ウサギに教えてくださらなっかったのですか!?」
「〝黒ウサギには言うなよ〟と言われたから」
「嘘です、絶対嘘です!実は面倒だっただけでしょう、お二人さん!」
「「うん」」
「そ、それではあの変わった仮面を付けてる和装の御方は!?」
『飛k――藤丸さんなら結局、〝……ちょっと行ってくる〟って言って逆廻とは違う方向に的盧さんと一緒に駆けてった訳だ』
それを聞いた黒ウサギは地面に手を付き、崩れ落ちた。そんな黒ウサギとは対照に、ジンは顔色を変えた。
「た、大変です! 〝世界の果て〟にはギフトゲームのために野放しにされている幻獣が!」
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に〝世界の果て〟付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません」
「あら、それは残念。もう彼女達はゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー? ……斬新?」
「そんな斬新な出落ちなんてノーサンキューなのデスヨ!! はあ……ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、御三方の御案内をお願いしてもよろしいですか」
「黒ウサギはどうするの?」
「問題児二名を捕まえて参ります。――〝箱庭の貴族〟と謳われる黒ウサギを馬鹿にしたことを、骨の髄まで後悔させてやります!」
そう言うと、黒ウサギの髪が紅く染まり―――
「一刻程で戻ります。皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」
―――弾丸の様に跳び去っていった。
「………。箱庭の兎は随分速く跳ねられるのね。素直に感心するわ」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。様々なギフトの他に特殊な権限を持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣に出くわさない限り大丈夫だと思いますが………」
『(……え、遅くね? あのウサギが未だ未熟とかじゃなくて? …………あ、結局、帝釈天が態と性能を低く設定した訳かぁ。あとあの兎より俺の方が強いし。てか大体、俺より強い飛鳥さんはほっといても問題ないと思う訳なんだけど)』
と、フレメダは内心でそんな事を考えており、飛鳥――ややこしいな。久遠は「そう。」と空返事をして、ジンに向き直ると、改めて話を始めた。
「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。御三方の名前は?」
「久遠飛鳥よ。そしてそこで猫を抱えているのが」
「春日部耀」
『オレはフレメダ・セイヴェルンだ』
「久遠さんと春日部さんにセイヴェルンさんですか。よろしくお願いします」
ジンが礼儀正しく自己紹介をすると、久遠と春日部とフレメダもそれに倣い一礼する。
「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まあ立ち話もなんだし、まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
久遠はジンの手を取り、胸を躍らせ年相応の笑顔で箱庭の外門をくぐっていく。
そして久遠、春日部、フレメダ、ジン、三毛猫の四人と一匹が石造りの通路を通り箱庭の幕下を出ると、彼らの頭上から眩しい光が降り注いできた。
『お、お嬢! 外から天幕の中に入ったはずなのに、お天道様が見えとるで!』
「………本当だ。外から見たときは箱庭の内側なんて見えなかったのに」
都市を覆っていた天幕を空から見たとき彼らに街並みは見えてなかった。
なのに都市の空には太陽がある。その状況に、久遠と春日部は首を傾げた。
「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族のために設置されていますから」
久遠は青い空を見上げながら、ピクリと眉を上げ皮肉そうに口を開いて言葉を発した。
「それはとても気になる話ね。この都市には吸血鬼や幽霊といった夜の生き物でも住んでいるのかしら?」
「え、居ますけど」
「………そう」
なんとも複雑そうな顔をする久遠。実在する吸血鬼の生態は知らないが、同じ街に住めるとは夢にも思っていなかった。
三毛猫は春日部の腕からスルリと下り、感心したように噴水広場を見回している。
『しかしあれやな。ワシが知っとる人里とはえらい空気が違う場所や。まるで山奥の朝霧が晴れた時のような澄み具合やなぁ。ほら、あの噴水の彫像もえらい立派な作りやで! お嬢の親父さんが見たら、さぞかし喜んだんやろうなぁ』
「うん。そうだね」
「あら、何か言った?」
「……いや。別に何でもない」
久遠は春日部のわざと自分との間に壁を作るような声音を聞いて、それ以上の追求はせず目の前で賑わう噴水広場に目を向ける。
噴水の側には洒落たカフェテラスがいくつも並んでいて、そのどれもが人々で賑わっていた。
「何処かお勧めの店はあるかしら?」
「す、すいません。段取りは黒ウサギに任せていたので………よかったらお好きな店を選んでください」
「あら、それは太っ腹なことね」
四人と一匹は身近にあった〝六本傷〟の旗を掲げるカフェテラスへと座る。すると注文を取るために店の奥から素早く猫耳少女が飛び出てきた。
「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」
「えーっと、紅茶を四つ。あと軽食にコレとコレと」
『ネコマンマを!』
「はいはーい。ティーセット四つにネコマンマですね」
………ん? と久遠とジンが不可解そうに首を傾げる。しかしそれ以上に驚いていたのが春日部である。信じられない物を見るような眼で猫耳の店員に問いただす。
「三毛猫の言葉、分かるの?」
「そりゃ分かりますよー。私は見ての通り猫族ですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みをした旦那さんですね。ちょっぴりサービスもさせてもらいますよー♪」
『ねーちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やな。今度機会があったら甘噛みしに行くわ。もちろんプライベートでな』
「やだもーお客さんったらお上手なんだから♪」
猫耳娘はそう言いながら、長い鉤尻尾をフリフリと揺らしながら店内へと戻って行った。
彼女の後ろ姿を見送った春日部は、嬉しそうに笑うと三毛猫の背中を撫でる。
「………箱庭ってスゴイね、三毛猫。私以外にも三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」
『来てよかったなお嬢』
「ちょ、ちょっと待って! 貴女、もしかして猫と会話ができるの?」
「もしかして……猫以外にも意思疎通は可能ですか?」
「うん。生きているなら誰とでも話は出来る」
「それは……素敵ね。じゃあ、そこに飛び交う野鳥とも会話が?」
「うん。きっと出来………るかな?ちょっと後者は試したことがないから分からないけど……ええと、鳥で話したことがあるのは雀や鷺に鴉や不如帰くらいだけど……ペンギンもいけたからきっとだいじょ」
「「ペンギン!?」」
「う、うん。水族館で知り合ったの。他にもイルカ達とも友達」
久遠とジンの二人は、春日部がペンギンと話せることに、ではなくペンギンと話す機会があったことに驚いた。
「し、しかし全ての種と会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言語の壁というのはとても大きいですから」
「そうなんだ」
「はい。猫族やウサギのような神仏の眷属として言語中枢を与えられていたり、神レベルのものなら意思疎通は可能ですけど……幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か、相応のギフトがなければ意思疎通は困難なんです。箱庭の創始者の眷属に当たる黒ウサギでも、全ての種とギフト無しで会話するのは不可能ですし」
「そう………春日部さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」
笑いかけられて困ったように頭を掻く春日部。対照的に久遠は憂鬱そうな声と表情で呟く。先程までとは違う表情に、春日部はどこか彼女らしくないなと感じた。
「久遠さんは」
「飛鳥でいいわ。よろしくね春日部さん」
「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」
「私? 私の力は………まあ、酷いものよ。だって」
「おんやぁ? 誰かと思えば東区部の最底辺コミュ〝名無しの権兵衛〟のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないのですか?」
突然2mを超える巨体をピチピチのタキシードで包む変態………………もとい、変な男が品のない上品ぶった良く分からない声でジンを呼び、久遠の声を遮った。
――――――――――――――――――――――――
そんなのフレメダ達の状況など、露とも知らぬ飛鳥はというと―――
『……こっちだな』
―――芒野原を絶賛爆走中であった。
飛鳥は、黒ウサギに連れられてコミュニティに向かう途中、ふと薄暗い森の奥の方から何人かの部下と似た様な気配を感じ取った。
ちょうど同じタイミングで十六夜が「ちょっと、世界の果てまで行ってくる」とか言って断崖絶壁の方へと走っていった。
なので飛鳥も、黒ウサギのことは残りの三人に任せて、森の中へと入ったのだ。
だが、いつの間にか芒野原を爆走中である。
ただ森の中を走っていただけなのに、突如として木々が消失。気が付けば芒野原を走っていた。
一直線に草を踏みながら進んで来たのだから、後ろを向けば潰れた草でできた『道』がある筈なのだが、何故かそれも跡形なく消え去り、あるのは背の高い芒だけであった。
『……む、気配が消えた』
辿っていた気配が突如として消えた為、走るのをやめて停止する飛鳥と的盧。そんな飛鳥の服の裾を何かが引っ張った。
飛鳥が視線を下に向けると―――
「「「………………」」」
―――先ほどまで飛鳥と的盧が辿っていた気配を放つ、三人の少女がいた。よく周りに気を配ってみると、周りの芒があらゆる気配を吸収し、隠しているのに気が付いた。その芒の所為で気配が消え、背の低い少女達に気がつかなかったようだ。
飛鳥は少女達の体を見て一瞬、少しだけ目を細めたが、仮面を外して少女達に応えた。
『……なんだ?』
少女達と言っても、14歳くらいの外見で少々風変わりな服装をしている。
飛鳥はしゃがんで少女達と目線の高さを合わせる。すると、白い長髪の方の少女が話始めた
「おにーさん、私達とギフトゲームしない?」
『……ギフトゲームを、オレと?』
「うん。ルールは簡単。私達、この芒野原を少し行った所にある集落の人達に命を狙われてるんだ。おにーさんがクリアしたら、私達の一番大事なモノをあげる。……負けたら、私達と一緒に死んじゃうけどね」
『……詳しく聞かせろ』
少女の言葉に、飛鳥は嫌悪感を顕にする。勿論、集落の住人達に対してである。
命を狙われているというのは穏やかではない。
聞けば少女達は揃って先の集落の住人であったと言う。その集落に住む者は皆長寿で、老化が普通の人間より十倍近く遅い種族であったらしい。しかし、白い短髪の少女は突然変異で生まれた不老不死、加えてアルビノであるらしい。その所為で、産まれついた時から忌み子・鬼の子として身に余る罰を受けていたらしい。そして、先ほど喋っていた長髪の少女も同じく不老不死であるらしい。それを隠し通してはいたモノの、短髪の少女が監禁され、罰と言う名の拷問を受けているのを知り、監禁されていた場所から連れ出したと言う。しかし、それに気付かれ、助けた少女も忌み子として追われているらしい。
逃亡した途中で黒い長髪の三人目の少女と出会い、お互い逃亡中という事から共に逃げていたのだとか。
少女達の提示したゲーム内容は、簡単にいえば集落の住人を全て倒せばをゲームクリアになるとのこと。
それを聞いた飛鳥は、一も二もなくギフトゲームの条件を飲んだ。
自分達と違うからなどと言う理由で子供を拷問する集落を潰さないと言う選択肢を、飛鳥――魔王・黄泉軍は持ち合わせていなかった。
『ギフトゲーム名〝忌み子達による聖戦―Taboo Children Of Jehad―〟
・プレイヤー一覧
・法正
・的盧
・クリア条件
・集落の全住人の打倒又は殺害。
・敗北条件
・全プレイヤーの降参
・少女達のいずれか1人、若しくは全員を奪われる
・全プレイヤーの死亡
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
〝少女達〟印』
ギアスロールが出現したタイミングで、農具や刀剣類を持った集落の住人が現れた。
飛鳥と的盧は直観で現れたのが少女達の言っていた集落の住人であると感づき、一瞬で現れた十数人に肉薄し、首を跳ね飛ばしたり喰い千切ったりした。
その勢いのままUターンして少女達を背に乗せ、そのまま的盧と共に集落のある方向へ先程とは比べ物にならない速度で激走。そのまま集落を電撃襲撃。住人を一人残さず殲滅した。少女達は、飛鳥の風遁応用の結界のお陰で風圧を受けず、無傷である。
所要時間、大凡5分。
「………は、はは。おにーさん、凄いね」
ものの5分で集落を葬った飛鳥は、背に乗せていた少女達を下ろした。
「おめでとう。ギフトゲームはおにーさんの勝ちだよ」
飛鳥の背中から降りた少女達は心底安堵し、笑ってそう言った。そんな少女達の笑顔を見て、飛鳥はしゃがんで目線の高さを合わせ、少女達の頭に手を置いて優しく撫でながら―――
『……で、お前等はこれからどうするのだ?』
―――と、少女達に問うた。
「…………どうする、って?」
『……お前達への所業を聞いて、気に食わんという理由で、お前達のゲームをクリアした。……だが、子供が居らず、全ての住人がお前達を迫害していた住人を皆殺したが。……お前等は、あの集落外に頼る者が居るか?』
そう言われ、押黙る少女達。勢いに任せて生死を問わなかったせいで生きて行けるか分からなくなったからだ。
『……行く宛がないなら、オレと共に来るか?』
「「「…………え?」」」
『……だから、行く宛がないなら、オレと共に来ないか? ……うちのコミュニティは、お前らと同じ、忌み子として迫害されていた者が何人もいるしな』
「………………いいの?」
『……何が?』
「私達は……貴方を信じても………良いの?」
そう言って、少女達は不安げな表情をしながら問を投げた。
飛鳥はその問いに対し、真剣な表情をしてこう返した。
『……お前らの境遇はゲーム前に聞いた。……集落の大人全員からの迫害・拷問。……親に裏切られ、咎無き冤罪の罪を着せられた。……その所為で人を信用出来ないのもわかる。……だが、今はごちゃのちゃ考えずに一先ず―――オレを信じてみろ』
力強い言葉と共に手を差し出す飛鳥。その言葉が引き金となり、少女達は飛鳥を信じてみることにし―――
「「「……よろしく、お願いします」」」
―――差し出されたその手を、涙を流しながら取った。
――――――――――――――
場所は戻って、フレメダ達の居るカフェ。
「単刀直入に言います。もしよろしければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに来ませんか?」
突然現れたガルド=ガスパー。そいつからコミュニティの名と旗印の重要性とジンのコミュニティが何故衰退したのか、その理由を聞かされたフレメダ達カフェに居る呼び出され組。
それを聞き、フレメダはと言うと―――
『(何このエセ紳士にも成れてないゴリマッチョ。もう少し大きなスーツ無かったのか? てか結局、この程度の実力しかない奴がここらで伸し上がるってのが先ずオカシイ訳だ)』
―――とまあ、見事に話半分で別な事を考えていた。
「………で、どうですかレディ達。返事はすぐに、とは言いません。コミュニティに属さずとも貴方達には箱庭で三十日間の自由が約束されています。一度、自分達を呼び出したコミュニティと私達〝フォレス・ガロ〟のコミュニティを視察し、十分に検討してから―――」
「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」
ピチピチスーツの言を遮り、まるで何事もないかのように紅茶を飲み干す久遠。紅茶を飲み干し、春日部の方を向いて、久遠は春日部に問を投げる。
「春日部さんは今の話をどう思う?」
「……別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだもの」
「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補していいかしら? 私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」
「……うん。飛鳥は、私の知る人とはちょっと違うから大丈夫かも。私のことは耀でいい」
「なら遠慮なく名前呼びさせてもらうわ。私の事はそのまま名前呼びでいいわよ」
『よかったなお嬢。お嬢に友達ができてワシも涙が出るほど嬉しいわ』
「失礼ですが、理由を教えてもらっても?」
顔を引きつらせながら咳払いして落ち着きを取り戻すガルド。しかし、あからさまに動揺している。
「私、久遠飛鳥は裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払って、この箱庭に来たのよ。それを小さな小さな一地域を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力に感じるとでも思ったのかしら。だとしたら自身の身の丈を知った上で出直して欲しいものね、このエセ虎紳士」
そうピシャリと言い切った久遠から顔を背け、ガルドは何時の間に頼んだのか知らんけどホールのガトーショコラ攻略に勤しむフレメダに問いかけた。
「…………それでは、そちらのレディは?」
『……………………………………………………んぁ? 俺か? そうだな、俺は正直どっちに入ろうがどうでもいいんだ。結局、この箱庭に来た事自体が師匠の一人に連れられて、修練の一環で来ただけな訳だからな』
「な、なら!『だがな』っ!」
フレメダは、表情を変えずガルドに対して―――
『虎の癖に男女の別も見分けられんのか? 俺は男だ。それにな、結局、拉致った人質を帰す事無く、平然と殺す奴の下に着く気なんて更々ないって訳だ。
結局、殺す度に血は洗い流しているのだろう、大して血の匂いもしない訳だし。が、俺の目にはハッキリと見えるぞ。貴様に殺されたであろう、数百を越える数の怨霊や怨念がな』
―――と、言い放った。固まるのはやはりと言うべきか、フレメダ以外のその場にいる話に耳を傾けている者全て。
『貴様がギフトゲームに勝ってコミュニティを強くしたのはわかった。だが大体、ギフトゲームをするには両者同意が必須な訳だ。先程のお前の説明で名と旗印は自分のコミュニティにとっての全財産であると云う事も分かった。結局、それを簡単に賭ける等、誰がどう考えてもおかしい訳だ。それこそ、箱庭に呼び出されて半日所か三時間も経っていない俺や久遠達でも分かる程にな。それだけ追い詰められていたのか、強制されたのか、自分達の力を過信していたか、大体、他にも挙げようと思えば理由なんぞ幾らでも挙げれる訳だが、結局、恐らくは大体がその何れかな訳だ。
それを踏まえた上で聞く。貴様、結局、どうやってコミュニティ――フォレス・ガロ、だったか? それの名と旗印を上げた訳だ?』
「・・・・・・・・・・」
黙秘するガルド。しかし、この場に於いて黙秘は悪手もいいところであった。
『結局、この場に於いて沈黙は悪手って訳だ。口を開かないなら俺が当ててやる。ゲームをするコミュニティに所属している女子供を攫って人質にし、強制的にギフトゲームに参加させ、それで勝利した。と、結局、そんな所って訳だ』
「……ちょっと待って。どうして誘拐だってわかったの?」
『オイオイ春日部、俺は今しがた言ったばかりだぞ? そこに居る虎人間の周りに数百の怨念が見えるとな。それにな、結局、こんな小物が伸し上がるにはソレが一番堅実で確実な方法な訳だ。勝つだけなら他にも色々方法があるだろうが、ゲームに勝ったあともそのコミュニティを支配しなければならん。だからこそ、女子供を攫い監禁したほうが効率がいい』
尤も、それだけで済むなら苦労はしないんだがな。と、心の中で付け足しつつ、フレメダは話を区切った。
「証拠は。………そこまで言うのでしたら証拠はあるのですか?」
『だぁから、お前等の耳は飾りか? 脳みそ腐ってるのか? 貴様の周りに無数の怨霊や怨念が見えるとさっきから言ってるだろ? 大体、コレでも俺は様々な魔術や魔法、呪術、気功術等を修めている訳でな。その中には当然、死霊魔術なんて云う、死霊や死体を司る魔術も含まれている。怨霊の話を聴くくらい容易いんd「話が長ぇんだよ!」……なんだ、セタンタ。何か文句でも?』
「おう。文句しか無ェよ。さっきから俺含めた色んな奴がその虎をどうにかしろって喧しいんだ。お前も分かってるんだろ? どうにかしろよ。てか、今の会話殆ど青髭とジャックが言ってたこと丸パクリしただけじゃねぇか」
『仕方ないだろ? 結局、今でこそ冥府や冥界の関係者達の主張がデカイが、さっき迄その二人の主張がトンでもなくデカかった訳だからな』
「ま、ソレは分かるがよ」
突如、フレメダの背後に現れる全身青タイツに紅い長槍を持った男。急に現れたその男の存在に驚き、固まるフレメダとセタンタ以外のその場にいる全員。
少しして硬直から脱した飛鳥がおずおずと質問をする。
「あ、あの、フレメダさん? そちらの方は?」
『ん? ああ、初顔合わせが三時間前だったから知らないのも無理ないか。コイツはセタンタ。俺に憑依している英霊の一人だ。そうさなぁ、クー・フーリンと言えばわかるか?』
「「「「「クー・フーリン!?」」」」」
「おぉう?そんなに驚く事か?」
『ハァ、だからお前はクランのホットドッグとか、必中を当てられない狗っコロとか、必中武器の外し方教えて下さいよ(笑)とか、必殺武器使ってるのに殺せないとかm9(^Д^)プギャー!! とか、ランサーが死んだ! この人でなし! とか言われるんだ』
「おいちょっと待て! 何だその瘡蓋剥いだ場所に塩を揉み込む様な罵倒は!? 泣くぞ!? いい大人が恥も外聞もかなぐり捨てて泣き喚くぞ!?」
そんな遣り取りを見て、先程とは違う理由で固まるフレメダとセタンタ以外のその場にいる全員。ある者はイメージしていた英霊像が音を立てて崩れていき、ある者はタダタダ唖然としてた。
『煩いぞセタンタ。其処でホットドッグでも食っとけ「巫山戯んな!!」じゃあ戻っとけ』
「わぁーったよ。ったく」
そんな遣り取りの後、クー・フーリンは光の粒子となり、その粒子はフレメダに吸収された。
『ふぅ。途中で邪魔が入ったが、一先ずおいておこう。まぁ結局、取り敢えずお前が女子供を人質にするのは証拠を聞いてくるのでわかる訳だし、その人質を躊躇なく殺す下衆の極みだと言うのは怨念や怨霊が周りにウヨウヨいるのを見れば確定的に明らかなんだよ』
「怨霊?」
『ああ。この世に未練を遺して死んだ者の魂が堕落・腐敗した存在だ。大体、ここで重要なのは、怨霊や怨念は野生動物に殺された程度じゃあ限りなく生まれにくい点って訳だ。例えば、そこの虎人間が虎人間になる前。つまり、虎であった頃に殺した者はどれだけその虎を恨んでいようが、怨念や怨霊にはなりにくい。百人殺して怨霊一体生まれるかどうかのレベルだ。しかして、人の霊格を得て虎人間となり、且つ殺した相手の魂の格が最低限度あった途端に殺した者が恨みを抱けば怨霊は産まれる。よほど魂の格が低すぎなれば産まれはしないがな。
まあ結局、早い話が人の霊格の有無と対象の魂の格で怨霊が生まれるかどうかが決まると言って過言じゃないって訳だな。この法則がある時点で非道な殺しを少なくとも怨霊の数以上こなして来たというのは物事を考えることが出来る者ならわかるだろ。ウチの師匠連みたく、永劫破壊みたいな業でも習得して殺した対象の魂を自身に隷属化させていたら分からなかったがな。
そんなことも分からない様なら貴様は唯の獣畜生だよエセ紳士。あぁ、それとな、結局、貴様の髪の襟足とそのタキシードの襟元、僅かだが血が付いているって訳だぜ』
「ッ! バ、バカな!? ガキどもの返り血はちゃんと……ッ!」
次の瞬間、目を見開き驚愕するガルド。そこで初めて気づいた自分の失態。
『流石に今のを聞気逃すほど間抜けじゃないよな? 久遠、春日部、ラッセル』
「ええ、しっかりとこの耳で聞いたわ。流石は人外魔境の箱庭ね」
「私もしっかり聞いた」
「僕もです」
同意する久遠達に対しても怒りを顕にし、体を震わすガルド。
「て、てめえ、カマをかけやがったな」
『当たり前だ。結局、証拠がオレや師匠連にしか見えないような怨霊や怨念しかないなら他の奴等にも分かるような証拠を作ればいい訳なんだわ。大体、霊的な存在を目視できる存在に怨霊を引き連れて会う時点で自殺行為ってヤツな訳だぜ、阿呆のエセ紳士」
「こっ……このガキがァァァァァ!!」
雄叫びと共にタキシードが弾け飛び、身体が虎人間のソレに激変した。
「テメェ、どういうつもりか知らねえが……俺の上に誰か居るかわかってんだろうなァ!? 箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!! 俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!」
と、怒鳴り散らすガルドを無視し、フレメダは紅茶を飲み干す。
『結局、魔王は基本的自己中心的。だったらお前に喧嘩を売ったところで魔王が来る可能性は限りなく低い訳だな。それと、ラッセルのコミュニティの最終目標は〝打倒魔王〟。そんなコミュニティに魔王の名を出したところで怖がると思うか? それと大体、たかがノーネームに喧嘩を売られて負けたとしてもその程度だったって訳だ。それで魔王は済ますだろう。俺が魔王ならそうするな。それと、こういう形で名を出すのは嫌なんだが、結局、俺の師匠連もこの箱庭の魔王な訳でな。六六六外門を守る魔王? そんな程度の奴なら俺一人でも倒せるっての』
「こんの、クソガキがぁぁぁぁぁぁ!!」
爪を突き立て、フレメダに切りかかろうとするガルド。が、ガルドの爪がフレメダに届く事はなく、ガルドは突如現れた巨大な狼に押さえつけられた。
「な、なんなんだこの狼は!?」
『……ふむ。……オレの愛狼だが。……猫風情が、オレの弟子に何か用か?』
後書き
長くなりそうなのでこれくらいで。
今のところ十六夜以外はTSしてません。でもさせるとしたら蛟劉辺りかな。
ジン君? サンドラ辺りとイチャイチャしとけばいいと思うよ?
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