元虐められっ子の学園生活
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第一印象と嫌悪
人の印象とは、まず見た目から決まると言って過言ではない。
この世には『第一印象』と言う言葉さえあるくらいだ。
最近では『人は見かけではない。中身だ。』と言う謳い文句が出回っているようだが、そう言っている者こそが、人の初見を見た目で判断しているのである。
判断材料は 見た目。
男性ならば、『可愛さ』『美しさ』『かっこよさ』『香り』『スタイル』。
女性ならば、『かっこよさ』『美しさ』『スタイル』『自分との比較』『香り』。
酷いときならば、心の中ではABCなどのランクを付けるものまでいる始末。
ならば人の魅力とは何なのか?
私は『個性』だと提示するだろう。
個性は人それぞれである。
また、人に言われて変わるのもまた個性。
個性とは実に揺らぎやすい物であると思われる。
周囲、環境、心境。
ちょっとしたことで直ぐに変わっていく個性は、己の感性を傾かせ、周りの人間へと浸食していくのだろう。
そうした中でも変わらないものは異端扱いされていくこの世の中は、やはり間違っているのだと痛感する他ない。
結論を言おう。
私の見た目で判断する者共、――――弾け飛べ。
「そこの君、ちょっと良いかな?」
通算6回目。
何の回数か?警備員に補導される回数だよ…。
「またか………」
「はぁ………」
雪ノ下とデパートへと連れられて数秒後に始まり、少し歩けば連絡、補導と言った具合に取り調べ室へと連行されるのだ。
最初の方では雪ノ下も弁解に付き合ってくれたのだが、何度も回数を重ねると流石に無言になってしまう。
「「はぁ………」」
憂鬱そうにしながらも警備員に着いていく俺と雪ノ下だった。
「悪かったな雪ノ下。
俺はこんな成りだから町中とかでも良く補導されるんだ」
「気にしなくて良いわ。まだ時間はあるのだし、気を取り直して向かいましょう」
取り調べから解放され、近くにあったベンチに腰を下ろす。
開口一番に俺は謝罪し、雪ノ下は素っ気なく返してくる。
「所で、何を買いに来たんだ?」
「由比ヶ浜さんの誕生日プレゼントよ」
プレゼント?雪ノ下が由比ヶ浜に?
「……何かしらその目は」
「いやいや。孤高を図ってた雪ノ下がプレゼントを送ろうとするまでに気にすることができる存在を作った事に感心してな」
「失礼ね。私にだって大切にしたい関係もあるのよ」
「ふぅん……」
関係、か。
俺の場合なんて現状維持が限界な状態なんだよな…。
「あれ?お兄さま?」
………………この最近から聞きなれてきた声は…!
「鳴滝君。貴女にご家族は居なかったと記憶しているのだけど…まさか」
「何で俺の御家事情を知っているのかは置いておくとして、義理の妹だ」
「鳴滝陽菜と申します。何時もお兄さまさがお世話になって……」
おい待て。何でそんな低姿勢で客人迎えるような言い方してるんだよ。
「はじめまして。雪ノ下雪乃と言います。
貴女のお兄さんとは……と、友達で……」
何で言葉に詰まってんの?そんなに友達の単語が嫌いなの?
それとも俺限定だったりするのか?だとしたら泣くぞ?
「友達……ですか。そうですか」
「所で陽菜は何でここにいるんだ?
確か今日は初めて出来た友達と遊びに行くって言ってたよな」
「あ、はい。さっきまで皆さんと一緒に居たのですが、はぐれてしまったようで…」
突然だが、ここで陽菜についての補足をしておこう。
その仕草から直ぐに上流階級の人間だと判断できるこの少女は、転校して早々に学校で好成績を叩きだし、スポーツもさながら学業も優秀と言った、小さい雪ノ下の様な少女なのだ。
そして――――
「もぅ、目を離した隙にどこへ行かれてしまったのでしょう…」
――――超が付くほどの方向音痴である。
俺の買い出しに着いていくと言った暁には、必ず手を繋いでいないとはぐれるレベルである。
覚えた筈の道でさえも、たまにミスって迷子になる始末。
「なら、私達が探すのを手伝いましょうか?」
そんな陽菜に雪ノ下を着かせれば相乗効果も極まって俺の場合なんて気苦労が増えることは間違いないだろう。
「待て待て雪ノ下。
まずは外見的な特徴を聞くのが先だろう。
陽菜。お前の連れはどんな感じなんだ?」
「はい。今日はその娘のお兄さんと彼女さんの合計四人で来ていました。
一番分かりやすい人だと…やはりお兄さんですかね」
どんなグループできてんだよ…。
知らない人に着いていきそうで俺怖いぞ…。
「えっと…その方は頭の天辺にピョコンと髪がはねあがっていて…髪色は黒。
身長はお兄さまよりも若干低くって…そう!目がドロッとしてました!」
「……………」
「……………」
「あ、あら?どうかされましたか?」
「なぁ、雪ノ下」
「な、何かしら」
「今言われた特徴を照合した結果…一人の知り合いにヒットしたんだが……」
「奇遇ね。私も合致したわ…」
間違いなく比企谷の事に違いない。
だとすれば陽菜の友達とは比企谷の妹の小町ちゃんで間違いないだろう。
しかし彼女とは…?
「陽菜ちゃん。貴女のお友達は比企谷と言う名字かしら?」
「その通りです!もしかしてお知り合いでしたか?」
「ええ…小町ちゃんのお兄さんとは……遺憾ながら知り合いに当たるから…」
何か差別的な空気を感じたんだが、気のせいだろうか?
「あ!陽菜ちゃーん!」
「小町さん!」
ふと、向こうの方から見知った少女が駆け寄ってくる。
「おお!雪乃さんじゃないですかー!」
「小町さん、こんにちわ」
相変わらずの元気さを出して、比企谷小町ちゃんは現れた。
「お兄さんも、お久しぶりです!」
「ああ。久しぶりだな小町ちゃん。
ところで、君の兄とその…か、彼女はどこに?」
「彼女…?
ああ!結衣さんですね!あの二人なら良い雰囲気出してもらうために残してきました!」
比企谷と由比ヶ浜が………付き合っていると言うのか!?
見ろ!隣にいる雪ノ下もまさかの事態に戦慄してるじゃねぇか!
「こ、小町さん…本当にあの二人が…その…お付き合いしているの…?」
「ふぇ?いやいやそんなまさか。
まぁ小町的にはそうなってくれると嬉しいんですがねー」
「あら、違いましたの?
私はてっきりそういう関係なのかと…」
なんだよ…陽菜の早とちりか…。
しかし、あの二人が一緒になるってことはすれ違いも上手く収まったってことなんだよな?
「君、ちょっと取り調べ室へ来てもらえるかな?」
ま た か!
何で話の最中にまで介入して来やがるんだよ警備員ども!
仕事熱心過ぎるじゃないのか!?
「あの、お兄さま?」
「あー、すまんな雪ノ下……。
後は三人で回ってくれ…。もうここまで来ると呪われているのではと思えてくる」
「……そう。弁解に付き合おうと思ったのだけれど」
「いや、いい。
貴重な時間を無駄にするのは宜しくないし…また明日な」
「ええ…また明日」
そう言って俺は再び警備員に着いていく。
後ろでは何となく残念そうにしている雪ノ下と、理解できない陽菜も小町ちゃんが取り残された。
「はぁい。鳴滝九十九君」
取り調べ室。
警備員に入るよう促された俺が見たのは何時しか見たことのある顔の女性だった。
「……どなたでしたか?
記憶に無い方の名前を覚えるのは些か難しさに苛まれるんですが」
「あれ?覚えてない?
ほら、事故のときの…」
「…ああ、雪ノ下の。
それで、どう言うことでしょうかね?
まるで俺を呼び出すためにここへ連れてくるように警備員を動かしたようですが」
入室し、この人の目を見た瞬間に解った。
相変わらずの『慢心』と『自信』。そして成功を示した『喜び』。
この女は初対面の時から嫌いだ。
この笑顔に隠された顔はどれだけ醜いのだろうか?
同じ空間にいるのも、話をするのも、俺にとっては害悪以外何者でもない。
「そんな邪険にしないでよ~。ちょっとした乙女のオチャメじゃない」
「そのちょっとしたことが俺にとって多大な災難になっているんです。
ソレすら気づかないとは……その薄っぺらい仮面がそうさせているんですかね?」
「っ!?………へぇ。そんなことまで分かっちゃうんだ?」
「寧ろわからない方がどうかしている。
そう言った奴等こそ、自分が可愛くて仕方なく、無心に巻かれてしまうことになっていると気づかない」
「ふぅん……。
ま、良いわ。取り合えず座りなよ。
色々と聞きたいこともあるしね」
「………」
俺は無言でこの人の前の席に座る。
正直に言えばさっさと帰りたい。こんな女に構っているのは一番の徒労とも言える行動だ。
「さて、まずは簡単な質問からね。
君、雪乃ちゃんのことどう思ってる?」
「誰かさんの後を追いかけるように自分を保つ哀れな存在」
即答で答えてやった。
無論、挑発の積もりで言った言葉で、本心では全く思ってもいない。
「…君、中学の時に女の子から告白されたことあるよね?」
「…だったら何か?」
「その女の子のこと覚えてる?」
「自分の利益のためだけにされた告白を覚えているとお思いですか?
真っ先に記憶から削除しました」
今では顔も思い出せないな。
「……どうして嘘だってわかったのかな?」
「言うは必要は無いですね」
「相手の目を見て感情を読み取る」
「………」
「君は面白いよね。
相手の目を見るだけで思考が読めてしまう。これ程交渉術に活かされる能力は滅多にない」
この女は何が言いたいのか?
俺の特技を看破したところで何があると言うのか…。
「私はね、君が危険なんじゃないかって思ったんだ。
このまま放っておけば何れ雪乃ちゃんに不幸が降りかかるんじゃないかなってね…」
「愉快な発想ですね。
意味のわからない言葉が俺に靡くと思ってんですか?
大体、知り合い同然の雪ノ下に俺の特技が不幸を振り撒く?
馬鹿馬鹿しくて話になりませんよ」
「へぇ…中々言うじゃない。
なら、約束できるのかしら?雪乃ちゃんに不幸をもたらしたらその場で罰を受けるって」
急に話がぶっとんだ気がした。
この女はあの事故の時もそうだった。
どんなことであれ、まずは雪ノ下の安否に始まり、過保護な対応を冷静な顔でこなして手回しをする。その反応をもう少し雪ノ下に向ければ雪ノ下も変わってくると思うのだが。
「俺は約束何てしないしする気もありません」
「……何で?」
「約束何てものは簡単に破れるし、時が経てば忘れていくものだからです」
「なら、この場合はどうするの?」
「……正直俺が雪ノ下に与える影響は極小でしょうが、誓いましょう。
誓いは約束より固く、破って良いものでもない」
最近だと『約束は破るためにある』とか抜かす輩も居るからな。
「約束じゃなくて誓い……ふふっ……あはははははははは!」
急に笑いだした雪ノ下 姉。
腹を抱え、もがくように笑うその姿は俺を更にイラつかせる。
「ふふふ…ごめんね。
うん。ならその誓い、守ってもらうからね」
「……良いでしょう。では」
俺は椅子から立ち上がり、脇目も降らずに出口へ向かう。
後ろなど見なくてもわかる。この女、雪ノ下陽乃は笑っている。
自分の玩具を見つけた子供のように。そして、これからどうやって遊んでいこうかと言う楽しみを抱いて。
やはり俺はこの女が嫌いだ。
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