ルドガーinD×D (改)
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三十七話:悲しみ後に覚悟
三勢力の間での和平も無事に終了し、それを邪魔しにやってきた『禍の団』を退けることにも成功した。しかしながら、ここオカルト研究部の部室の空気は酷く重かった。ここにいる誰もが思い悩み、笑顔を浮かべている者など誰一人としていない。そんな、重たい沈黙の中ことさら重い空気を纏っているのは黒歌とルフェイであった。
なぜ、この二人が誰よりも重い空気を纏っているかというのは酷く単純な理由である。二人共置いて行かれたのである。黒歌は最愛の人から、ルフェイはたった一人の兄から。
そもそも、オカルト研究部がこうも重たい空気に包まれるはめになったのはルドガーがヴァーリ、アーサー、美候と共に失踪したからである。
黒歌がそれを知ったのはルドガーが出て行った次の日の朝であった。ベッドがもぬけの殻になっていたことに嫌な予感がして部屋を飛び出すと同じように兄を探して回るルフェイと出会い、そこで全てを察したのだ。勿論すぐに仙術を用いて探せるところは全て探して周った。
しかしながら、空間を切り裂いて移動できるアーサーに同じ仙術使いである美候が一緒について行っているのだ、黒歌の仙術で探れる範囲をとうの昔に出ていたばかりか用意周到に自分達の気を隠して逃げているのだ。これではさすがの黒歌でもどうすることも出来ない。
黒歌はここ数日、置いて行かれたショックで何もするわけでもなくただ、ルドガーの匂いが残るベッドの上で泣いて過ごしていた。
ルフェイの方は元々失踪していたアーサーを追って『禍の団』に入ったのもあって黒歌よりもショックは少なかったが、折角追いついた兄にまたも置いて行かれたのは精神的に堪えていたので兵藤家で手厚い保護の元で世話になっていた。
そして今回、そんな状態であるにも関わらずオカルト研究部に集合しているのにはわけがある。それはある人物に呼び出されていたからである。それは―――
「おっす、待たせたな」
「……私達を呼び出して何が聞きたいのかしら? アザゼル、いえ、アザゼル“先生”と言った方がいいかしら?」
堕天使総督であると同時に諸々の事情によりグレモリー眷属をフォローするためにここ駒王学園に赴任し、オカルト研究部の顧問となったアザゼルである。そんなアザゼルに対してリアスは未だに信頼を置くことが出来ないのか胡散臭そうにアザゼルを見る。アザゼルはそんな視線を気にもせずにまるでこの部屋の重い空気を壊すかのように軽い調子で言葉を続ける。
「アザゼルで構わねえぜ。堅苦しいのは嫌いなんだよ」
「そう……じゃあ、アザゼル、私達に何の用かしら?」
「分かりきったことを聞くぜ……ルドガー・ウィル・クルスニクについての事を聞いておきたいんだよ」
その言葉にオカルト研究部にいる全員の視線がアザゼルに集中する。アザゼルの顔つきは先程までとは打って変わり真剣なものになっていた。そのことがこれから始まるであろう話の重要性を高める。アザゼルは、まずはゆっくりと全員を見まわして反対の意見が無いかを確認した後に口を開く。
「あいつの過去を知る手がかりがあるなら何でもいいから言っていけ。あいつにしろ、ヴィクトルって奴にしても謎が多すぎる。これからどうするにしても今はとにかく情報が必要なんだよ」
アザゼルの言う通り、ルドガーもヴィクトルも謎が多すぎるのだ。このままでは行動の指針も立てられずに今のまま沈み込んでいる事しか出来ない。だからこそ、アザゼルはこのタイミングで全員を呼び出して話を聞こうとしているのだ。
祐斗はアザゼルの言葉に気乗りしないものの、何とかルドガーとの記憶を掘り起こす。真っ先に出てくるのはトマト好きということだが今回欲しいのはその情報ではないのでそれを頭の片隅に追いやり別の情報を捜し、見つけ出す。
「僕が知っているのは、彼は誰かを守る為に戦ってきたことと、大切な者を失った経験があること……かな」
「そいつらが誰かは分かるか?」
「そこまでは知らないよ。それに、後半は彼から直接聞いたわけじゃないからね」
祐斗の返事に軽く頷いて別の意見を待つアザゼル。祐斗としてはもう少し深く突っ込まれるかと思っていたので意外そうな顔をするがすぐに意見が出やすいようにするためにプレッシャーをかけないようにしているのだと気づき少しだけアザゼルの評価を上げる。
その様子を見ていたイッセーも何か少しでもルドガーの手掛かりになることはないかと懸命に頭をまさぐって情報を見つけ出そうとする。そして見つけ出すことに成功して早口で見つけた情報を言いあげていく。
「“選択”って事に凄いこだわりを持っていた」
「選択?」
「ああ、ライザーに対してブチ切れながら言っていたからよく覚えてる。後……“審判”とか言っていた。俺に分かるのはそれ位だな」
「選択に審判……何なんだよ、一体?」
謎の言葉にアザゼルは首をひねり自分の長きにわたる記憶の中から該当する物を探してみるが皆無だったために諦めて息を吐く。そして何かあと少しで喉から声が出てきそうな顔のゼノヴィアを見る。
ゼノヴィアは以前にルドガーと一緒にエクスカリバーを探していた時の事を思い出していた。しかし、あと少しと言うところで中々出て来ずに苛立っていたが遂に探していた言葉が見つかりパッと顔を輝かせて喋りはじめる。ゼノヴィアは、成績は良いが実はアホである。
「ルドガーは、自分は愛する一人の為に全てを壊してきた、大罪人だと言っていた」
「そう言えば、あのリドウという男もルドガー君が自分の欲望の為に平気で罪のない人を殺してきた人間だと言っていましたわね……」
「で、でもルドガー先輩は優しい人ですうぅぅ。こんな僕でも受け入れてくれました」
ゼノヴィアの言葉にそう言えばとばかりに思い出したリドウの言葉を言っていく朱乃。そんな朱乃にギャスパーが反論の声を上げるが勿論、朱乃とてルドガーという人間がそのような事をする人間には思えなかった。しかし、それを聞いていたリアスはそれもあり得るとルドガーのある発言を思い出していた。
「ルドガーは黒歌を傷つけるようなら誰であろうと俺は容赦しないと言っていたわ。それにお兄様に言った『世界も絆も幾らだって壊してみせる』なんて発言もあるわ……。ルドガーはゼノヴィアの言う通りのことをしてきたのかもしれないわね」
リアスの発言を聞いて黙り込むグレモリー眷属達。確かにそうだ、彼等もそのルドガーの発言をしっかりと聞いていた。その時は比喩的な発言だと思っていたが、それが過去に裏付けされた物だとすると話は違う。ルドガーという人間の異質さが今更ながらに感じられ、リアス達は今まで見ていたルドガーは何だったのだろうと自問自答を繰り返す。
そんなリアス達の様子をしり目にアザゼルは情報を整理していく。
「ヴィクトルが本当に十年後のルドガー・ウィル・クルスニクだとすると“世界の破壊者”って言っていたのもあながち嘘じゃねえってことか……しっかし、未来から来た自分なんて信じられねえな。本当にあれはルドガー・ウィル・クルスニクなのか?」
「それは間違いないにゃ……全く同じ気を持っている人間なんていないはずなのにルドガーとヴィクトルは同じだった。だから、ヴィクトルがルドガーだっていうのは間違いないにゃ。ただ……」
「ただ?」
「ルドガーは暖かく感じるけど……ヴィクトルはまるで氷みたいに冷たく感じたにゃ」
アザゼルの疑問に実際に気を探って調べた黒歌がまだ若干俯きながら反論する。
実際にルドガーとヴィクトルが“ルドガー”という人間であることは間違いない。しかし、その中身まで一緒というわけではない。それを示すように黒歌は些細ではあるが大きな違いに気づいていた。
そのことは二人が同じ人物でありながらも違う選択をしてきたという事を示していたが黒歌はまだその真意にまでたどり着けない。今は、ただただ、ルドガーが居なくなったことに悲しんでいるだけだから。
「ずっと傍に居てくれるって約束してくれたのに……ルドガーの嘘つき…っ!」
「……姉様」
顔を覆って泣き始める黒歌に白音は優しく寄り添う。白音は自分がかつて黒歌に置いて行かれた時もこんな状態だったと思い出し、少しばかり因果応報という言葉を思い出してしまったが、だからと言ってここで姉を突き放してしまうのはあの時自分を支えてくれた人達への裏切りになると思ったのと、やはり悲しみにくれる姉を見放せないという理由で優しく姉の背中を撫でる。
「あいつ何やってんだよ……自分の恋人を泣かすとか何考えてんだよ、ルドガー…っ」
そんな姉妹の様子にイッセーは歯噛みしながら今はどこに居るかも分からないルドガーに文句を言う。早く、帰ってきてこの人を泣き止ましてやれよ、笑顔にしてやれよと心の中でルドガーに叫びかけるが当然のことながらその想いが伝わることは無い。そのことに歯がゆさを覚えイッセーはギュッと痛い程に自分の拳を握りしめる。そんな様子をアザゼルは見つめ面倒くさそうに息を吐き出す。そしてこうやって導いてやるのも教師の仕事かと思い口を開く。
「ルドガーって人間のことがある程度分かった所でお前達に聞くぞ。
で、お前達はどうするつもりなんだ?」
アザゼルの言葉に誰一人として答えを返せずに茫然とする。そう、これからどうするかを彼等は考えられていなかったのだ。ただ、悲しみにくれるだけで何もなさずに立ち止まっている状態なのである。それをアザゼルは指摘したのである。何も答えられない彼等に対してアザゼルは少し追い打ちをかける様に話を続ける。
「俺はルドガーと大して話したことがねえから性格とかはよく分からねえがな、今回ばかりは断言させてもらうぜ。ルドガーはお前らを……自分の女を守る為に離れて行った。何も行動していないお前達と違ってな」
「私を……守る為?」
「ちょっと考えれば簡単だろう。今の自分達じゃ絶対に勝てない敵が自分を狙ってきてんだ。敵の狙いが自分なんだ、仲間を守る為なら離れるのが一番簡単だ」
アザゼルの言葉に押し黙る黒歌。黒歌も頭では分かっていたが感情を優先させて自分が依存していた相手に置いて行かれたことに嘆き悲しんでいただけなのだ。ルフェイも置いて行かれた時点で感づいていた。しかし、それを認めてしまえばルドガーが戻って来ることは無いと分かっていたために決して認めようとしなかったのだ。
ルドガーは自分の為なら簡単に命を投げ出す。そのことは以前自分が人質に取られた時に分かりきっていたことなのだ。そんな彼が自分を守る為に動いている以上はヴィクトルが死ぬか自分が死ぬかのどちらかまで帰って来ることは無い。そしてヴィクトルに勝てる確率は現状0%なのだ。故に彼女はその可能性を認めたくなかった。だが認めてしまった以上はそのままにしておくことなど出来ない。
「どうしてそれにお兄様や美候さん、ヴァーリさんまでついて行っているのですか?」
「他の二人は知らねえが……ヴァーリは戦うのが生きがいだからだろ。それと……それだけの覚悟を持ってルドガーについて行っている。今のお前らと違ってな」
アザゼルの厳しい言葉にイッセー達はムッとするものの何も言い返せない。全て事実だからである。自分達はルドガーが居なくなってすぐには探したがそれ以降は諦めて何もせずに立ち止まっていただけなのだ。何もしようとせずにただ無為に時間を過ごしていただけという事実にイッセーは自分を殴りたくなった。諦めが悪いのが強さだと言われて自分自身もそうだと思っていた。
だというのに自分はそれを言ってくれた相手を追う事を諦めていた。今回の事でもそうだが、心のどこかで実力においても追いつけないのだと思っていた節がある。思い返せば、自分は諦めなかったが自分自身の力で勝ったと言えるものは何一つない。いつも、仲間が、ルドガーが助けてくれていたのだ。そのことに自分は甘えていた。諦めなければ自分が勝てるではなく、誰かが来てくれるにいつの間にか変わっていたのだ。
そのことに今更ながらに気づいてイッセーは唇を血が出る程に噛みしめる。情けない。ただ情けない。でも……そのことに気づいたのならもう悩むことは無い。イッセーはリアスの方を向き、覚悟を決めて口を開く。
「部長―――ルドガーを連れ戻しましょう」
その言葉に目を見開くリアス。そしてリアスが何かを言う前にアザゼルが意地悪く口を挟んでくる。
「連れ戻せるのか? あいつはお前らより何倍も強いんだろ?」
「今のままでダメなら強くなればいい。それでもダメならまた強くなればいい。
俺はあいつを連れ戻すことをもう絶対に諦めない! あいつが俺の友達だから!」
「謎の多いルドガーを信じられるのか?」
なおも揺さぶりをかける様にアザゼルが聞いてくるが、覚悟を決めたイッセーの心は揺らがない。イッセーは選んだのだ、何があっても、もう絶対に諦めないことを。そしてその覚悟はイッセーに新しい強さをもたらした。それは―――
「信じることを信じ続ける。それが本当の強さだ!
俺はあいつを何があっても信じ続けてやる!」
信じる強さ、例え何度裏切られたとしても決して信じることをやめない強さだ。
その返事にアザゼルは面白いとばかりにニヤリと笑い、他の者達にも顔を向けた。
そして再び同じ質問を投げかける、今度はしっかりと返って来るだろうと確信して。
「で、お前達はどうするつもりなんだ?」
「私達グレモリー眷属はルドガー・ウィル・クルスニクに多大な恩があるわ。その恩返しも兼ねて、必ず連れ戻してあげるわ。あんなにイチャイチャしていた彼女と離れるなんて絶対に辛いでしょうしね」
そう言って、黒歌の方にウィンクをするリアス。彼女も迷いは消え去っていた。イッセーの言葉が全員の迷いや不安を消し去っていたのだ。ルドガーを連れ戻せば自分達もヴィクトルの脅威にさらされるだろう。しかし、それが何なのだろうか。
我が身の安全が脅かされることを恐れて遠ざかる者を果たして仲間と言うであろうか? いや、言わない。相手が苦しんでいるときは一緒に苦しんでやり、相手が喜んでいるときは一緒に喜びを分かち合う。それこそが真の仲間なのだとリアス達は今ここで決めたのだ。
そして黒歌もまた立ち上がり涙を拭く、いつもであれば彼が拭いてくれるが今は居ない。それでも彼女の顔は先ほどより晴れやかであった。
「私も赤龍帝ちんに賛成にゃ。会いに来てくれないなら―――こっちから会いに行くだけにゃ!」
「私もお兄様とルドガーさんに会いに行きます!」
黒歌に続いてルフェイも覚悟を決めて兄に会いに行くことを決意する。
そんな様子にアザゼルは満足げに頷き、こいつらなら鍛えがいがありそうだと思い、教師という仕事も案外面白いなと笑みを浮かべる。そしてふと思い出した波乱を呼びそうな事を口にしてしまう。
「そう言えば、ヴァーリの奴はルドガーをかなり気に入っているみたいだからトロトロしてたら盗られちまうかもな」
黒歌の目に尋常ならざる炎が宿った。
~その頃のルドガーは~
「な、なんだ? 急に悪寒が……」
「あら、もしかして風邪? 私が温めてあげようかしら、もちろん裸で」
「結構だ!」
後書き
テイルズの名言をちょいちょい入れていくのが作者のスタイル。
因みにシンフォニアが好きなんでシンフォニアが多めになってます。
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