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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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ワールド・カタストロフ~クロスクエスト~
  Round《1》~スタート・オブ・カタストロフィング~

 
前書き
 はじめにご注意をば。

 この『ワールド・カタストロフ』……通称『トーナメント編』のコンセプトは、《理不尽》です。参加してくださった方々のキャラクターを貶めたり、登場人物が相手をけなしたり、キャラ崩壊があったりします。
「こんなので俺のキャラが負けるわけねぇ!!」
「そんなのひどすぎるだろ!!」
 とかいうとんでもない展開もあったりするので、ご了承ください。

刹「参加してくださった全ての方々に、感謝と謝罪を込めて」

 あ、今回『神話剣』勢の活躍はないです。ないったらないです。期待してくださっていた方々、もしいらっしゃったのでしたら、ごめんなさい……。
刹「というかこのコラボを『神話剣』で行う必要性」 

 
 その日。SAO経験者たちの元に、一枚の招待状がばらまかれた。

『デュエル大会やるぜよ。やりたい奴カモン』

 仮想世界の戦闘狂どもは沸き立ち、当日には用意された結晶を使い、ホームとしているVRMMO……多くのプレイヤーが《アルヴヘイム・オンライン》である……から専用のフィールドへとダイブした。

 このデュエル大会の裏に、一体何が存在しているのかを、知りもせずに――――


 ***


 ワールド・カタストロフ~クロスクエスト~

 
 ***

 
 SAOにおいて、《タツ》というプレイヤーネームを名乗っていた青年は、今現在今一よく分からない状況に眉をひそめていた。

 タツの本業は《神》である。ギリシアの主神《ゼウス》の系列に連なる天空神系統主神の属性を持った、全知全能の神のうちの一人だ。

 だがしかし、水晶宮の戦神(オーディン)が、魔剣の覇王に知恵比べで敗北した様に。

 普遍的な『神々の王』(ヤハウェ)が、自らの血族(バァル)の生存を悟れなかったように。

 この全知全能の青年にも、やっぱり理解できないことはあったのである。

 そう――――目の前で、にこにこ手を振っているカソック姿の青年という、奇怪な存在の事を。

「……誰ですか、あなたは」
「僕かい? そうだなぁ……通りすがりのチーターさ」
「ふざけないでください」
「ふざけてないよー……まぁ、正直なこと話しちゃうと、このデュエル大会の主催者さ」

 そう言って、青年は肩をすくめる。はりついたドヤ顔が異常に腹立たしい。基本的には感情に疎いタツだが、この男はどうも許せなさそうである。

 発作的に、能力を使ってしまった。

「『お前は死んだ』」
「おっと。【僕」「は」「死なない】」

 カイン、と金属のような奇妙な音を立てて、タツの異能――――《真実の言霊》が弾かれる。あらゆる防御機構をぶち抜き、絶対の効能を及ぼすはずの能力が、だ。
 
 師たるギリシアの天空神、ゼウスより賜った、あらゆる事実を記録し、全てを己のモノとし、その本来の使い手を無効とする《全知全能》のスキルをも、この男は無効としたのだ。

「覚えておくといいよ。『正直者』は時に『大噓吐き』よりもなお達が悪いのさ。僕の権能――――なのかな? はね。キミ達『創造された者』の干渉を受け付けない」
「それすらも無効化される筈」
「甘いね。神々ですらあくまで人の創造物でしかない。厳然たる『人』である僕は、『神』であると同時に被造物たりえないのさ」
「……意味が解りません」
「分からなくて結構。分からせるつもりがあって言っているわけじゃぁないしね。それに、僕はキミが気に入った。実に気に入ったよ、茅場辰鳴」

 己の、人の名前を知っている――――

 そのことに、さしたる驚愕は湧かない。それよりも、どうやったらこの男を殺せるのか。そのことが頭の中を駆け巡っていた。

 単純な異能はどうも効かないらしい。ならばその能力すらも無効とする結界を張り巡らせて、こいつを封じ込めてから悠々と殺すか。その状況ならば、自分だけが能力を使える――――

「やだなぁ、全能の神候補ともあろうものが、僕の術中にしっかりはまっちゃって」
「……!?」
「単純な話さ。なぜ今、キミは僕を殺したがっている? 別に僕みたいなウザくてよく分からない存在何て、さっさと無視しちゃえばいいじゃない。デュエル大会、エントリーしてくれてるんだろ? キミほどの人物ならば、早めに到着して、他の剣士達を徹底的に叩き潰す為にさらなる修練を積むだろう」
「……それは……」
「それに、友や強者との戦いでのみ発露するはずの君の感情はどうした? さっきから揺れ動きっぱなしだ。僕と言う唯々小ズルい事しかできない《弱者》に、どうして君は戸惑っている?
 単純な話だ。キミは僕を超えられないのさ。キミと僕には『願われる神』と『願う人』という、絶対的な立場の差が存在しているからだ。僕は人に在って人に在らず。だがしかし、《銀の司祭》の設定を知る一介の読者として、神々に願うだけの力なら持っている。
 キミはね、僕と言う下位の存在が、上位存在であるという矛盾した状態に気付けていないのさ。僕は下位存在を全て従えることができる。対して、上位存在すら跪かせることができる」

 何を言っているのか。

 何がしたいのか。
 
 理解できない。この長いくせ毛を垂らし、へらへらした笑いをうかべた不気味な男は、一体何の目的で自分に話しかけてきたのだ。

「……結局、俺に何の用なんです?」
「うーん、せっかく色々設定を語ってあげたのに……全部知ってるからいいって? 残念、存在しないことは知らないだろ? まぁ、今は僕も【存在している】わけなんだけど――――そこが、キミに話しかけた理由さ」
「……?」

 やはり理解はし難かった。確かに、この男の持つ技能は、タツの知るあらゆる技術と異なるようだ。目にしたものなら即座に己のモノと出来るはずの《全知全能》が、この男の技能を感知できていない。異常事態だ。そんなことはあるはずがないのにもかかわらず。

「僕はね、存在していない場所から来た、存在していない存在だ。キミに触れるためには、この世界に存在しなくてはならない。存在しない技術を使っているならば、キミが干渉できないのは道理だろう?」
「……ですが、もう貴方はそれを使ったはずだ。ならばなぜ俺の力で掻き消えないのです」
「単純。言ったろ? 『存在していない』ってね。まぁ、今は僕はキミと話す為にここに居る。そのためにはこの体を守らなくてはならない。ちなみに先ほど使ったのは、単純に君が「存在していたけど『偶然にも』気付いていなかった技能」の再現さ。その内使えるようになるよ。期待していたまえ――――とまぁ、そんなところで本題だ」
「長かったですね」
「ごめんね」

 くふふ、と、青年は不気味に笑った。

 ――――気味が悪い。

 柄にもなく、そう感じることができる、笑いだった。

「今ね、この世界に、いちゃぁいけない奴が紛れ込んでるんだ。招待したつもりもないのにね。『何だろうね、なんか来たね』って言いたかったね。言ったらアーニャに呆れられるからやめたんだけど。というかコレ、相手側が最終的に良い奴だっていう展開のフラグだよね。でもこの台詞オク○レサマじゃなくてカ○ナシに対する言葉だよね。まぁ《奴》は名のある川の主やカオ○シみたいな良い奴じゃなくて、手に負えないくらい最悪の悪い奴なんだけど――――」
「……」
「とりあえず、そいつを止められるのはキミだけだと思うんだ」
「俺が手を下すまでもない。世界中の雑魚や、俺の世界から他にリンが参加しているから、彼が止めるでしょう。少なくとも俺が知っているプレイヤーの中では最強の一角だ」
「無理だね。彼は絶対に無理だ。彼は強いけど、『プレイヤー』なんだ。《奴》はキミの知る限り己を除いて最強であり、僕の知人でもある、かのルーク・マレイドですら、《プレイヤー》として存在した過去があったが故に絶対に倒せない相手だ。
 キミがあくまで『茅場晶彦』の弟であるならば、残念だけど止められないだろう。キミの《全知全能》がスキルとして存在し、君に【Lv1000】という浮遊城のための概念が存在していたならば、《奴》には決して勝てない」
「『無かったこと』にしてしまえば良い」
「そうしたら君は此処に存在していられないよ。『このセカイ』がキミを拒絶(シェリダー)する。キミはそれに対抗できない。キミが己の力で、奪えないモノが存在していることに気付いていないからだ」
「理解ができない」
「構わない。そのために僕がいる」

 アルマですら手こずる相手。そんなものが存在するとは、にわかには信じがたい。彼は全ての世界を無に帰す必殺の力を持った、地上最強の生命体だ。あらゆる嘘を真実に変える力ならば、間違いなくタツよりも上手。神すら殺す、絶対の強者だ。

「僕は存在しない存在だ。だけどね、そんな僕ですら、一度だけこの世界に存在した経験がある。まだアーニャを見つけられていなかった頃の話だ……《奴》は『■■■』。その事実を■■しにやってくる。当然本来の僕なら無視できる。僕の《上位存在》としての力だけで、難なく消せるだろう。けどね、今の僕には無理だ」

 この体を見給え、と、青年はその場で一回転して見せた。ドヤ顔を決めた。ウザい。

「今僕は、この世界に存在している。《世界捕食(ワールド・プレディート)》は簡単だけど、捕食した後に吐き出すのに時間がかかる。終了したら即座に片付けよう」
「つまり俺に、その『■■■』とやらと戦う為の時間稼ぎをしろと?」
「そう言う事」
「……調子に乗っているのでは? 俺は異能に頼らずとも、あなたを殺せるんですよ」
「やってみるといいよ。無理だ」

 次の瞬間。

 タツの両腕に、大型の爪が出現していた。《牙爪(~タスク~)》のスキルによって生み出される、一撃必殺のクロー。 

 それは、いともたやすく青年に突き刺さり――――そのまま、『何事もなかったかのように』透過した。

「な……ッ!?」
「ほらね?」

 嗤う青年。

 それを無視して、次の一手を打つ。

 ――――《全知全能》、発動。

 可能ならば、相手の『攻撃無効』の概念を封じ込めてしまいたい。しかし、いったいどういう事なのか、本来ならば固有のそれすら含む、あらゆる技能を封じるはずの《全知全能》のエクストラ効果が、敵対者の能力を封じ込まない。

 代わりに、先ほどの斬撃とは比べ物にならない威力の技を繰り出すことにする。

 アクセスするのは《アンダーワールド》。《夜空の剣》の記憶解放。

 《黒の剣士》の心意――――『仲間の思いを受け取る』ことにアクセスして――――

「『消えろ』」

 握りつぶす。お前たちの絆が何だ。知らぬ存ぜぬ、見えぬ聞こえぬ。その力は唯々我に振るわれるためだけに在れば良い。

 ――――書き換えていく。

「――――《スターバースト・ストリーム》」

 空を蓋う、真黒な星たちが降り注いだ。星屑たちは、嗤いを隠さない青年へと突き進み――――

 無視された。

「馬鹿な……」
「ね? 言ったでしょ? 体質でね……キミが奪えないことのうちの一つ。『個性』さ。君は己の感情を保有せず、あらゆる力を「ああ、そうですか」程度の認識で使いこなす。それ故に、「使えていない」のさ。その力を。キミはね、再現できても、使用できない。すべての記憶や感情をまさぐって、表面上その感情を再現したとしても、オリジナルすら超える完璧な模倣は、それであるが故に『不完全』なんだ。
 忘れるな。僕もキミも、絶対に全知全能には成れまい」
「戯言を……」
「何がだい?
 そうだな……ご享受しよう。キミの師である天空神、ゼウスは、大の女好きで有名だ。彼は下半身で生きている、アサチュンのサーヴァントさ。サーヴァントじゃないけど。
 絶勝の槍を持った神、オーディンを知っているだろう。彼は自分よりも有能な存在が大嫌いだ。どれだけその手で有能な人物を殺めたか。
 有名どころではないけれど、インドのブラフマーと言う神格がいる。嫁馬鹿三主神が筆頭は、奥さんのストーキングのためだけに頭を増やした過去がある。僕の憧れの神だ」
「……」

 一応尊敬する神々の、よく分からない黒歴史を暴露された。呆れてものも言えない。そんな事知ってるし、だからなんだというのだ。

「彼らの根源に何があったと思う? 僕の根源に何があると思う?
 言おう。《感情》だ。ゼウスはあくなき肉欲が。ヲデンは頂点を目指す物欲が。ブラフマーは果てなき愛情が。アフラ=マズダには世界を救うという超越論が。アンラ・マンユには憧れが。太陽神ラーには不信が。《吸収者》アモンには欲望が。バァル=アダドには王になるという野望が。黄金の地のグにも、鳥神マケマケにも、《感情》がある。あの普遍的なものであるはずのヤハウェにすら、嫉妬と焦りという感情が存在した。
 ちなみに僕も、アーニャという少女を死ぬほど愛している。彼女のために僕は死のう」
「……ご享受、どうも。生憎ですが、興味が無いですね。使える力は使える力。それに代わりは無いでしょう?」
「当然。それを知っているならば十分だ。キミは時間稼ぎの壁になるがいい。全て僕が片付ける」
「……馬鹿にしているのですか?」
「まさか。僕はキミを高く評価している。総合戦闘能力ならば明らかに君の方が上だろう。唯、僕が間違いなくオカシイ存在である事と、キミがその本来の力を発揮できていないが故に、君は僕に勝てない、と言っているだけさ。その僕が確実に勝つための犠牲に成れ、とね。
 損はさせないよ。キミはこの戦いで、さらに強くなるだろう。あくまでも搾取し、『使うだけ』だったキミから、己の『セカイ』を統治するための礎を持ったキミへと、ね」

 そう言って、青年はタツに背を向けた。この場を去るつもりなのだ。何がやりたいのか結局分からなかった。

 青年は最後に、ちらりとこちらをふりかえって、たった一言、こういった。

 せいぜい――――尊い犠牲になるといい。


 
 ***



 大変長らくお待たせしました。

 現在より、第一回《ワールド・ブレイク・トーナメント》を開催いたします。主催は《不存在存在》アスリウ・シェイド・マイソロジーと、《確定存在》アーニャ・ヤヨイ・ザドキエルアルター。

 システムは懐かしの《ソードアート・オンライン》のモノで動いておりますが、心意システムを始めとした超越技能も行使可能となっております。

 参加プレイヤーは、敗退まで控室とコロシアムを行ったり来たりするだけで、外に出ることはできません。また、控室には、その部屋の所持プレイヤー以外入ることはできません。

 デュエルは完全決着モードで行われます。スキル等々の技能は、選手入場前の《支度時間》を除き、カウントが0になり、デュエルがスタートしてから使用可能となります。それまでは理解の及ばない謎の力(ご都合主義)で、参加者の皆様の能力はすべて封じ込められますのでご了承ください。

 なお、HPが0になっても、観客席の『同行者』の席近くに吹っ飛ばされるだけなのでご安心を。なお、デュエル中に被った損失は、身体の部位破壊を除いて、本大会終了まで継続いたします。武器の損失などをなされた場合でも、当店は一切の責任を負いかねます――――

「……ってなんじゃそりゃ!」

 響き渡るアナウンスを聞きながら、シャオンは思わず絶叫した。ワケが解らん。仲間の手助けもしてもらえないし、何より武器のメンテもできないという事ではないか。というか何だ『当店』って。変だろ。店じゃないだろ。

「……うん。大切に使おう」

 愛剣の柄を撫でると、シャオンはそう誓った。

 ――――しっかし、もうここから出られないのか……。

 自分にあてがわれた控室を見渡す。ダークトーンで統一された、近未来的なこの部屋は、どこかGGOのBoB選手控室を思い出させる。周到なことにモニターもなく、外部の様子も見れなければ、他の選手の試合も見れない。対策を立てないように、という事なのだろうか。

 だが問題はない。対戦相手であるルスティグの対処方法なら、既に考えて来てある。何もさせずに、切り刻めばいい。

 ようはいつも通り、トップスピードで振り切ってしまえばいいのだ。

 問題なのはそこではない。客観的に見ればどうでもいいことだが、シャオンにとってはかなり重要なことである。

「……フローラに、会えないってことかー」

 恋人のフローラも、当然のように応援に駆け付けてくれている。エントリーの時に、選手と観客はそれぞれ別の場所に引き離されたので、あの時に「頑張ってね」という言葉と、応援のキスをもらったっきりだ。

 できれば、一戦ごとに彼女に癒してもらいたかった。

 だが。

「無い物ねだりしても仕方ない、か」

 最速で全てのプレイヤーを抜き去って、優勝してしまえばいい。

『それでは、第一試合、プレイヤーネーム《シャオン》VS《ルスティグ》を開始いたします。お二人はコロシアムに強制転移させますので、四十秒で支度をしてください』

 古典的なネタを、先ほどからアナウンスをしているどこか機械的な少女の声が発する。

「ソードユニゾン」

 使用可能になった、スキルを起動。強敵相手にしか使わないスキルではあるが、今回の対戦相手達は全員がツワモノ。手加減をしていては勝てないだろう。

 シャオンの三対六本の剣が、一対二本の剣へと練り上げられる。強化されたその二刀を握って、気合いを入れ直すシャオン。準備に抜かりはない。

 あとは、この戦いを楽しむだけだ。

「《白夜の道化師》ルスティグ――――ひとっ走り、付き合えよな!」

 視界が、純白に染まった。


 ――――次の瞬間、もうそこは闘技場(コロシアム)だ。古代ローマのコロッセウムチックな作りのそこは、しかし近未来的な素材で造られているようにも見えた。

 空は青い。雲一つない快晴である。観客席に観客(プレイヤー)達の姿はない。当然だ。彼らは彼らのために用意された別の場所で、参加者のデュエルを見ているのだから。

 けれども、決して静かではない。

 確かな緊張感が、音となって鳴り響いている。

 シャオンが立っている、コロシアムの右ゲート。そのちょうど反対側にあたる左ゲートから、一人の少年が姿を現した。

 フード付きコートに身を包み、左右で色の違うズボンをはいた少年。フードで隠された顔、その頬の部分には、大きな星形のペイントが施されている。

 どこかピエロや詐欺師を彷彿とさせるその容姿――――柔弱そうな顔でありながら、確かな苛烈さを含んだその少年は、今回の対戦相手――――《白夜の道化師》《闇を駆ける薬師》の名をもつ男、ルスティグ……通称ルーグだ。

「……よー、どうだ、調子は」
「ばっちりですよ」
「そりゃーよかった。そうじゃなきゃ、振り切っても楽しくないからな」
「それはこっちの台詞です!」

 そう、心底楽しそうに笑うルーグ。今きっと自分も同じような表情をしているのだろう、とシャオンは予測する。

 カウントが始まる。

 さぁ。

 戦いの。

 ――――始まりだ。

 【デュエル!!】

「《SEED》―――《mode-Extreme-Accel》!!」

 スキル解禁と同時に、身体能力を飛躍的に高めるスキル、《SEED》を起動する。シャオンの両目がハイライトを失い、同時におのずから輝きを放ち始めた。コートの黒いラインにも光がともり、シャオンのステータスが上がったことを示す。

「――――振り切るぜ!!」

 鍛え上げられた敏捷値が唸りを上げる。恐るべきスピードでルーグに肉薄し、シャオンは《連二刀流》のソードスキルを発動させる。

 まずはあいさつ代わり。《ソードダンス・オーバースピード》……その三十五連撃だ。起動モーション以外の型を必要としない、神速の斬撃達が舞い踊る。

 斬る。斬る。斬る斬る斬る斬る斬る―――――速く。何よりも速く。

 その願いを込められた剣戟が、白き薬師を切り裂いていく。

「ぐふっ……」 

 やすやすと吹き飛んでいくルスティグ。《SEED》の効果によって、短い《連二刀流》のスキルディレイは無へと化す。ルーグを追いかけ、さらなる追撃。

 《神速剣》専用ソードスキル、《トライアルフィニッシュ》。高速の剣戟がルーグを襲い、さらにダメージを与えていく。コロシアムの壁にぶち当たり、吹き飛んでいくルーグ。

「せぁぁぁぁぁッ!!」

 壁を蹴り上げ、上空へと昇る。《連二刀流》上位ソードスキル、《フレアライド・ブースターハザード》。五十四連撃の光の嵐が、ルスティグを飲み込んで荒れ狂う。

 これで決まりだ――――

 そう、シャオンが確信した、その時。

 
 ビシリ。


 嫌な音が、走った。

「……!?」

 背筋に寒気が走る。ソードスキルを意図的にキャンセルし、敏捷値に物を言わせてその場を離れた。

 音の発生源は――――己の剣だ。

 《ソードユニゾン》を起こして、融合した剣に――――いつの間にか、亀裂が走っている。

「馬鹿な……!?」
「ふぅ……やっと、効いて来ましたね……!」

 土煙の中から、ルスティグが姿を現す。その身は――――驚くべきことに、無傷だった。そんな馬鹿な。シャオンの攻撃は、全てヒットしていたはずだ。薬を飲ませるような時間も、なかったはず――――

 そこでシャオンは、たった一つ、自分が見逃していた可能性に気が付いた。

 なぜ気付かなかったのか。

 ルスティグの《調合》スキルによって作られるアイテムは――――別に、『飲み薬』でも何でもないのだ。

 つまり、飲まなくても。飲ませなくても。

 降りかけるだけで、()()()()()()()――――

「今度はこっちの番です!」

 ルスティグが片手剣を引き抜く。ぬらぬらとその刀身が光っている。間違いなく《麻痺毒》が塗ってあるのだ。それもあの輝き。シャオンがSAO時代、一度も見たことがない色合いだ。リーサル毒よりもなお恐ろしい、最上位の麻痺毒……?

「シィッ!!」

 ルスティグが駆ける。シャオンほどではないにしても、彼もまた十分に速い。その場を避けようとして――――シャオンは、とっさに反対方向に飛んだ。

 直後、爆発。どこからともなく《手榴弾》が調合され、炸裂したのだ。

「なんてこった、薬以外までつくれんのかよ!」
「こういうお祭り騒ぎ限定ですけどね……!」

 麻痺毒のぬられた刀身が迫る。紙一重でそれを避けていくが、ルスティグはちょうどいいタイミングでダメージを与えるアイテムを調合して来る。正直言って邪魔だ。

 シャオンは防御力を完全にかなぐり捨てたステータスをしている。加えて、《SEED》の代償として最大HPを支払っている。今、シャオンは俗に言う『紙装甲』だ。ダメージを受けないようにするには、スピードが出しきれない……。

「そこっ!」
「くっ!?」

 一瞬の隙をついて、ルスティグが何かを投げ込んでくる。それは瓶だ。中に入っているのは、水色の液体――――

「ぐぁっ!?」

 それが降りかかった瞬間――――《SEED》が解除された。わずかではあるが、二本の剣の重みが増す。同時に――――HPバーの下に、アイコンがともる。

 《麻痺毒》《毒》《盲目》――――体から力が抜け、視界が黒く点滅する。

「どうです? 俺の調合した対《SEED》用薬品は」
「状態異常無効(メタ)無効化し(メタっ)てきやがったのか……!」

 《SEED》はその効果として、状態異常の打消しが存在する。トリッキーな戦法を組み立てるルスティグにとって、《SEED》は天敵の部類に入るだろう。

 だからまず、それを打ち消してきた。《SEED》を封印すれば、一応はシャオンに状態異常を食らわせることができる。

 まさかそんなことができるとは、思ってもみなかった。情報不足だ。

 武器の耐久値はかなり下がっている。《SEED》も封印された。打つ手なしか――――

「……なーんてな」
「え?」

 呆気にとられるルスティグに、ニヤリ、と笑いかけ。

「ユニゾン解除。ソードユニゾン」

 シャオンは呟く。

 融合していた六本の剣が、元の姿に戻った直後、再び融合する。そうして出来上った二刀を握って――――

「《シンフォニア・ハザード》!!」

 《神速剣》のソードスキルを打ち出す。

 麻痺毒に寄る行動制限よりも、なお速く。それができうるだけの、シャオンの力。

「ぐっ! ……ですが、今ので武器の耐久値は……!」
「甘い!」

 ルスティグがシャオンの手に目を向け、そしてその眼を見開く。

 ボロボロになっていたはずのシャオンの剣は、まるで新品のようになっていた。

 《ソードユニゾン》の服時効果。耐久値のリセット。これがある限り、シャオンの剣の耐久値を消すことなど、できはしない。

「《ディヴァイン・クロスラッシュ》!!」

 《神速剣》上位ソードスキルの十三連撃が、目にもとまらぬ速さでルーグを切り刻んだ。

「まさか……こちらも、情報不足だったとは、ね……!」
「お互い様だな――――決めさせて、もらうぜ!」
「させませんよ!」

 シャオンはうまく動かない体に鞭打って、二刀を構える。《連二刀流》上位ソードスキル、《ツインソード・トランズレイド》の二十二連撃が、ルスティグに襲い掛かった。

 ルーグもまた、調合したダメージアイテムや、薬によって攻撃を防ぐ。先ほど飲んだ薬で、彼の体に金属質の輝きが出現した。防御力を上げるアイテムだったのだろうか。

 だがシャオンの速さは、その先を行く。

「トップスピードじゃねぇけど……振り切るぜ……ッ!!」

 《ツインソード・トランズレイド》に続いて、《神速剣》のソードスキルを発動。十三の回転切りが、ルスティグを切り裂く。再びの《ディヴァイン・クロスラッシュ》だ。

 それが決まるのと、ルスティグの防御が切れるのは、ほぼ同時で――――


 シャオンの刃は、ルーグに突き刺さったのであった。

「あっちゃー……負けちゃいました」
「いやー、結構マジでヤバかったって。情報って大事だなー」

 そんなことを笑い合って――――直後、ルスティグが爆散した。

 【Fast-battle:winner is shaon!!】

 

 ***


 
 所変わって、第二闘技場。

 そこで、デュエル大会の第二回戦が開幕しようとしていた。

「相手の実力は未知数だ。無茶はするな」
『了解』

 方や、白い包帯のような拘束具に身を包んだ、黒髪の少女。その手に一丁ずつ握られているのは、本来ならばSAOには存在しない武器――――《銃》。

 彼女……クロエの相棒である金属生命体、《クリス》が、その身に宿す技能、《変身(ターン)》によって変貌した、クロエだけの武器。銘を、《錆びた銃(ラスティ・ポンプ)》。

「うーん、対戦相手は可愛い女の子か! いいねいいね、おねーさん興奮してきたよ!」

 対するのは、真紅のファッションで決めた、槍使いの少女。満面の笑みを浮かべて、非常に楽しそうだ。

 だが、その気楽そうな体からまき散らされるのは、圧倒的なツワモノの気配。名前は《ラン》。正式なプレイヤーネームを知っている人間はいない。PKKを生業とする《オレンジバスター》が、復讐を防ぐために行う『偽名システム』による弊害だ。

 そんな事情など関係なしに、デュエルは幕を開けようとしていた。

 カウント開始――――

「本気出していくからね! 本気で来てよね!」
『……私が本気を出したら、貴女は死ぬでしょ?』

 ランの言葉に、クロエが冷たく言い返す。するとランは可愛らしく頬を膨らませ、むくれた。

「ああっ、ひっどーい! おねーさんはそんなにヤワじゃないんだから!」
『おねーさんって……そんなに私と年も変わらないでしょうに』
「そこ突っ込んじゃダメなところだよ!? アリウムみたいなこと言わないでよ! ねぇ!」

 あくまでも冷徹に突込みを入れるクロエに、泣きそうな顔になってしまうラン。

 だが――――

 【デュエル!!】

 閃光が瞬くと、瞬時に空気が変わった。

「疾ッ!!」

 恐るべきスピードでランが攻撃する。愚直に、しかし黙視できないスピードで。唯のプレイヤーが相手をしたのであれば、これだけですでに撃滅されていただろう。

 だが、規格外なのはクロエも同じだ。

『……ッ!!』

 ダダダダダダッ!! という軽快であり重厚でもあるサウンドが鳴り響き、クロエの銃が火を噴く。二丁銃術による弾幕の嵐。
 
 クロエが持つスキル、《処女銃(ヴァージン・ブラスト)》が擁するソードスキル、《シェル・ザ・シザース》。十三の弾丸が、相手を切り刻む。

 クロエには特殊な技能がある。彼女を救った『ドクター』を名乗る人物、彼の手によって授けられた《電子干渉(スナーク)》のスキル。別に能力名はかのルイス・キャロルの小説とは関係が無い……と思う。

 とにかく、その能力の内容は、『鋭敏化された感覚で電子空間に干渉し、狙ったところに攻撃を当てること』が可能となる、というものだ。

 つまり、この能力込みで放たれるクロエの攻撃は、全てが必中。外れることなどあり得ない――――のだが。

『!?』
「どこへ消えた……!?」

 銃からクリスの驚きの声が聞こえる。一瞬、クロエにも分からなかった。

 ランが、視界から姿を消していたのだ。瞬時にスキャンをかけ――――絶句する。とっさに、()()()()()突き出されてきた槍を回避。

「あちゃー、外れちゃった」
「そこっ!」

 ダァン!
 
 《錆びた銃(ラスティ・ポンプ)》が火を噴く。必中を以て放たれたその銃撃は、しかし外れてしまった。

 残念そうな顔をして、ランが一瞬で姿を消したのだ。銃弾よりも、なお速く。

 ――――どこへ行った!?

 《電子干渉》のスキャンを掛ける。それによって、種が割れた。

 ランの反応が、恐ろしいスピードで移動しているのだ。クロエの能力で必中とするには、『狙わなくてはならない』。だが、ランは今、その『狙う』という行為を完全に封じているのだ。いくら感覚を加速したとしても、それはあくまで『体感の感覚』を間延びさせているだけだ。狙えても、それは『必中』につながってくれないのだ。

 せいぜい止まるのは、攻撃の瞬間か。だが、先ほどの加速を見れば、彼女に銃撃を当てるには、こちらもダメージを受ける必要がある。ほとんどダメージを受けない身ではあるが。

 だが、そんな面倒なことをしなくても――――移動しているというのなら、対処方法はある。

『……』

 《錆びた銃》を頭上に向ける。ソードスキル、発動。

『《ボイルズ・グラビティ》』

 ドドドドドドドドドッ!!

 鳴り響いた音を形容するには、この擬音がふさわしいであろう。《錆びた銃》の銃口から、数えきれない量の銃弾が発射されたのだ。それは真っ青な空を漆黒で覆いつくし――――重力を纏って、落下を始めた。

 オールレンジ攻撃。避けられる相手などいない。

 その全てが、大地に突き刺さったその時――――

『なん、で……ッ!!』

 クロエは、柄にもなく目を見開いていた。

 反応が、消えていない。ランが、まだ生き残っている。

 恐ろしいのはそれだけではない。彼女の反応の在りかだ。

 ランは、今――――

「はっはっは――――! 甘いよッ!」

 クロエの、足元の地下に潜っていた。

 ドォン! という音を立てて、地面から喜色満面のランが姿を現す。その手に持った槍は、信じられないスピードで突きこまれてくる。

 紙一重で避け、反撃の銃弾を撃ち込む。《処女銃》ソードスキル、《クライ・アストレア》。正義の女神の名を冠するその銃弾は、ワイヤーを引き連れていた。対象に打ち込まれたそれは、その者をバラバラに引き裂くだろう。

 だが、難なくその一撃はランに避けられる。もう理解が及ばない。人知を越した速さである。どういう構造をしているのか。というかどう考えたら地面の中に潜って避けようとか考えつくのか。

 そもそも――――どうして、自分のスキルと、その攻略法を知っているのか。

 分からないことだらけだ。きっと自分では理解が及ばない、そんな奇怪な存在なのだろう。

 だが。

『負けない』

 決して。

 銃をだらりとぶら下げる。体の力を抜いて、落ち着かせる。感覚を鋭敏化。思考の加速開始、《電子干渉》。

 そして――――

 上空から、信じられない速度で落下してくるランに向けて。

『《処女喪失(ロスト・ヴァージン)》』

 必殺の一撃をたたき込む。

 その銃撃は、驚くべきスピードで突き進み――――

「いったぁぁぁぁぁいっ!」

 ランを打ち抜き、涙目にさせて。

 そのHPを、一撃で0にした。

「うっへぇ……痛いよぉ……はじめてのいたみって奴?」
『……』
「ジョークも受け取ってくれないのね……」

 うえーん、と呟いて、強敵(ラン)は消滅した。

 単純に、ランが次に行うであろう行動を予測しただけだった。上空に飛び上がった彼女は、落下攻撃をしてくるだろう、と。

 上空では、地中や地上のように、自由に動き回ることができない。そんな状態の彼女になら、集中力の全てを費やしたクロエの銃弾は、確実に命中するだろう。

 こんなレベルの戦いを、あと何度繰り返すのだろう。

「難しすぎるな」
『それでも、勝つ』

 そう、心に決めて。

【second-battle:winner is Kuroe!!】 
 

 
後書き
 《牙爪》スキルのカタカナ名のルビ化や、SUの耐久値リセット設定付与、読みやすさを優先しての読み方替え等、勝手にやってしまった事が多すぎた。申し訳ありません。

 そんなわけではじまったコラボ編、『ワールド・カタストロフ』! 『カタストロフィング』なんつー現在分詞(?)は存在しないと思いますが、まぁそこは気分と語呂とノリです。
刹「教養の無さがにじみ出ています……」

 さて、次回は本当ならばリオンVS???とハリンVSリュウだったのですが、ご都合主義によって、先にリンVSセモンをやっちゃおうと思います。こっちの方がリオンVS???が書きやすいので。
刹「独善的ですね……というか私、今日愚痴しか言ってないじゃないですか!
  とにかく、次回もお楽しみに!」 
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