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魔法少女リリカルなのは 絆を奪いし神とその神に選ばれた少年

作者:レゾナ
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第五話 懐かしき再会

誘拐事件が起きた翌日……全は普通に、登校していた。

というのも、あんなのは全にとって造作もない事の為、普通に登校出来るのだ。

しかし、アリサ達にとっては異常な事だった為学校に来てはいないようだ。

その証拠に全が登校するといつもいるアリサ達の姿がない。

全はそれを確認した後、自身の席に座る。

「おい、神楽院」

と、教科書などを机の中に入れようとすると高宮が話しかけてきた。

「なんだ、それと俺の名前は橘全だ。そこを履き違えるな」

「そんな事はどうでもいい」

そんな事って……と全は呆れるが別にいつもの事なので無視する。

高宮は全の机をダンッと叩くと

「お前、アリサ達に何をした?」

と、宣った。

「何の事だ?」

「しらばっくれるな。今日、アリサ達が来ていないだろう。忍さんに聞いてみたら「……何でもないわ」って言ってたけど、お前が何かしたんだろ?」

こいつは何を言っているんだ。

一番初めに感じた感想がこれだ。

「何でそれで俺が何かしたと結論づけるんだ?俺が何かしたという証拠も何もないだろう。それはそっちの勝手な妄想だ。その身勝手な結論で俺を悪者呼ばわりされてもな」

「うるさい!お前が何かした以外に、アリサ達がこんな風に登校してこないなんてありえない!お前が何かしたかに決まってる!」

─────はぁ……。

こんな面倒くさい事に巻き込まれるのはごめんなんだが……そう全は心の底から思った。

ブゥゥゥン……ブゥゥゥン……。

「ん?」

と、全のポケットで何かが震えた。その何かを全は取り出す。

全が取り出したのは携帯電話。画面にはメールが届きましたと書かれてある。

表示させると、差出人は月村忍だった。

本文には『今日の午後、家に来て』とだけ書いてあった。

「『了解』、と……」

それだけ打ってメールが送信されたのを確認すると全は携帯をポケットに仕舞う。

「聞いているのか!?」

全はまったく聞いていなかったが、おそらく全をずっと罵っていたのだろう。

「いや、まったく聞いていない。聞いても関係はないしな」

それだけ言って全は教科書などを机の中にしまっていく。

「…………~~~!!!」

高宮は顔を赤くするが、そろそろ先生が来そうな時間だったので納得いかないといった顔で自身の席に座る。

─────ホント、面倒くさい……あんな奴に、()()()()()()()()()()のか……。

そんな事を考えながら、全は授業の準備に取りかかった……。























学校が終わり、全の足は月村家に向かっていた。

以前にも、一度だけ月村家に来た事はあったので迷う事はなかった。

月村家に到着すると、門の前にメイドが一人立っていた。

「お待ちしておりました、全様」

「全様ってのはよしてくれ。そういうのは俺には合わない」

「しかし、全様は二度に渡ってお嬢様を助けてくれました。ですので、変える気はありません」

「……はぁ、わかりました。どうぞ、好きに呼んでください」

全は諦めたかのように両手を上げる。降参のポーズだ。

「わかりました。以降も全様と呼ばせていただきます。それでは、忍様がお待ちですので。恭也様もお待ちです」

「わかりました」

そう言って全は迷う事なくメイドさん……ノエルの後をついていく。

そうして全は屋敷の中に足を踏み入れ、ノエルは一室の前で足を止める。

「この中で忍様方がお待ちでございます」

「……………」

全は無言で扉の取っ手に手をかけて、ゆっくりと扉を開ける。

中で待っていたのはノエルに言われた通り、椅子に座っている月村忍とその隣に寄り添うように立っている恭也だった。

「待っていたわ全君」

「ああ、本当に待った」

そう言って恭也はゆっくりと全に近づいて……全の頬を殴った。

「っ!」

全はその殴打をわざと喰らった。自分にはその殴打を受ける責任があると思ったのだ。

「あの後、お前の事を忘れるまで、なのはは……なのははずっと泣き続けていた。ある時から泣かなくなり、しきりに知らない人間の事を話すようになった……」

「あの時ほど、後悔した事はなかったよ……お前からの忠告を俺は甘くみていた……」

「それは私も思ったわね」

忍と恭也は本当に全の事が心配だったのだ。

「あの時……お前から説明された記憶削除の対象外になる方法、お前から全ての真実を聞くこと……」

そう、それこそが全の内に巣食う神からの記憶削除を受け付けないようにする唯一の方法。

その存在を認知し、頭の記憶を管理する部分にプロテクトを作っておく。全の内に巣食う神がいる、という事実を知っていれば自動でこのプロテクトは作成され、以降どんな方法をもってしても神はこのプロテクトを破れない。

だからこそ、今でもこうやって忍と恭也は全と過ごした記憶を覚えているのだ。

「俺たちはそれを聞いて後悔はしないと言ったが……正直、何度も挫折しそうになった……」

「それでも……また、お前と出会える日を待っていた。こんな形で、再会はしたくはなかったがな……」

恭也はすまない、と言って元いた場所へと戻る。

全も立ち上がり、席に座る。

「急にすまんな……どうしても、俺たちに黙って去っていったお前の事が許せなくて」

「構いません。これは、俺の罪ですから」

そう言って殴られた箇所をさする全。

全にもわかっていた。自分が真実を話し、それによって苦しんできた人がいるのを全は知っていた。それでもこの人たちの覚悟を見た。

だからこそ、話した。彼女達の家族には全てを話した。

家族の方からの罵りや暴力は甘んじて受けようと思っていた。

「それじゃあ、交渉を始めましょうか……単刀直入に言うわ。全君、すずかとアリサちゃんの護衛について欲しいの」

「…………は?」

全は少し考えて呆けてしまった。

それもそうだろう、いきなり護衛についてほしいと言われたのだから。

「全君の事を信頼しているのよ。全君の強さは恭也や士郎さんも認めてる。その腕を見込んで頼んでいるの。さすがに登校中は無理かもしれないけど、下校なんかは護衛出来るでしょ?」

「い、いやちょっと待ってください。それは、アリサの親御さんからは了承を得ているんですか?」

そう、こんな事を勝手に決められてはアリサの親御さんも迷惑に感じるのではないかと思っているのだ。

それに、そんな事になっては常にアリサ達を守っているSPの面目も丸つぶれになると思っているのだ。

以前にもそのような任務を経験したからこそ、そのように全は考えたのだ。

「大丈夫よ。アリサちゃんのお父さんからも『是非!』って言葉を貰ってるから」

「は、はぁ……」

おいおい……と小さく呟いて全はこめかみに右手の指を置いた。

頭が痛くなっているのだろう。

「それに……アリサちゃんのご両親だって貴方に会いたいって言ってたわ。「あの時のお礼もしないといけない」とも言ってたけど?」

そう聞いた瞬間、全の顔が強張る。

「……アリサ達が覚えていない事でお礼、と言われてもね……」

「あ……ち、違うのよ全君。そういう意味で言った訳じゃなくて」

「いえ、いいです。先ほどの話、お引き受け致します。詳しい話はまた」

そう言って全は早足で部屋を出て行った。

部屋に残ったのは忍と恭也、ノエルだけだった。

「……私、言葉を間違えちゃったわね」

「仕方ないさ。あれは体験した事のある奴にしかわからない。体験した事のない俺たちはあいつの事を全てわかってやる事が出来ないんだからさ」

「それでも、見ていて歯がゆいのよ……すずか達から聞く話は全君の話じゃなく全く知らない男の子の話……聞いていて虫唾が走ってたわ……お前は全君の居場所を奪っているんだって……」

「相手にもその自覚はないんだからそれも仕方ないさ。ま、それも全君の内に巣食う神の仕業だろうが」

「それに、全君の中の神を追い出したとしても記憶は戻らない」

「どうすれば、あの時の笑顔が溢れる全に戻るんだろうか…」

恭也のその問いに答える事は、その場にいる誰も答える事が出来なかった……。











『マイスター。なのはさん達の記憶を戻す術はないのですか?』

帰り道、首にかけているシンが全に話しかける。

「知っていたら、とっくの昔に実行している。そもそも奪っているのは神だぞ?神様に対抗出来るのは神様だけだ」

『しかし、今のマイスターは神と同等の力を持っています。それでなら』

「出来るかどうかは、もうどうでもいいんだ。あいつらが、幸せであるなら……」

『マイスター……』

シンは自身のマイスターの事が心配でならなかった。

今の全は彼女達の記憶が戻る事を望んでいない。

それも仕方ないとシンは知っている。前世ではどのような方法を用いても記憶が戻る事はなかったのだから。

だからこそ、シンは歯がゆい気持ちに苛まれていた。何も出来ない自分に。

(これでは、マイスターのお母様に顔向け出来ない……)

シンは、これほど何も出来ない自分に少しだけ、情けないと思った。 
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