東方紅魔語り
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紅霧異変
Part14 『本来』の仕事
「うっわぁ……なんだアレ……止まれ!止まってくれ!お願いッ!!」
聞いてくれ。いま、凄まじくマズイ状況になっている。
魔理沙より早くレミリアの場所へ着いてしまった俺は、そこで幻想郷ルールを思い出し、唯一持ってる攻撃手段であるスペルカード、『ドッペルゲンガー』を使った。
不意打ちをして霊夢を奇襲、慌てた所にレミリアお嬢様が一撃で終わりというコンボを狙ったが……まさか、こんなスペルカードだったとは。
「くっ!攻撃が当たらない!」
「耐久スペルよ!にしても、あんたんとこのメイド、どんな教育してんのよ!」
「私だって知らないわよ、あんなメイド!!」
レミリアと霊夢が二人がかりで謎のメイドに向かって弾幕を張っているが、メイドにその攻撃は擦りもしていなかった。
それもそうだろうな、何故ならば……
あれ、幻だし。
どうやら『ドッペルゲンガー』の効力は、人間の姿をした幻を作り出して戦わせる。と言ったものらしい。
耐久スペル。20秒耐えないとその幻は消えないし、更に俺の姿が向こうに視認できなくなる。
……一枚目のスペルカードが耐久スペルって、どういうことだってばよ。
さて、ではそろそろ、なぜ俺が慌てているのかお答えしよう。それは……
「レミリアお嬢様に攻撃しないでくれ!お願いだから!」
敵味方関係なく、目についたもの全てに幻は攻撃している。しかもルナティッククラスの弾幕で。
……これでもし問題でも起こしたら解雇決定じゃねぇかコラァ!!!
「お願いだお嬢様に霊夢!無事に帰還してくれ!魔理沙か咲夜に殺されかねない!」
霊夢とレミリア、魔理沙と咲夜を敵に回せば、俺の体は原型を留めないだろう。更に万一生きていたとしても、主人公勢には助けを求められず、レミリア達は敵対する関係になってしまう。
よく考えたら、アレはフランが作ってくれたスペルカード。相手を倒す事しか考えられてなくても不思議は無い……。いや、使いこなせない自分が悪いんだけどね。
「なんだなんだ?こりゃどういう状況だ?」
と、入り乱れる戦場に魔女服魔女帽の女が現れた。
更に
「大丈夫ですかお嬢様……って、誰なのあのメイド?」
銀髪メイド服の女が乱入した。
……魔理沙と咲夜さんじゃねぇか!!魔理沙が来ることは分かっていたけど、咲夜さんは想定してなかったぞ!
霊夢とレミリアが謎のメイドと戦闘している所へ、魔理沙と咲夜が助けに来、謎のメイドの駆逐と利害一致で四人共闘する……俺ラスボス側の立場じゃねーかッ!!
「なんだコイツ!?攻撃が当たんないぞ!」
「耐久スペルを使用してるっぽいけど、そんな攻撃には見えない……となると、このメイド自体がスペルカードの効果だったり?」
「咲夜、あんなスペルカードを使う奴に心当たりは?」
「いえ……そういえば妹様が、有波にスペルカードを作ってあげたと言っていました」
「ふぅん……ってことは、関わってる可能性があるってことね」
「はい」
ヤベェ、もう既にばれかけてる。
スペルの効果もあと僅か。もし切れたら俺の姿は白昼の中に晒される……いや今は夜だけど。
「見つけ次第殺っときましょうか?」
「そうね……戦力として投入して私達に牙を剥いているのなら、生かしとく必要も無いわけだし」
死刑★決定!
よし、逃げる手筈を整えるか。まずは急いで部屋に戻って荷物を取って……。
いや、まずはスマホの写真フォルダにフランの写真を思う存分取るか。うん。
そうと決まれば即座に決行。速度を100に。
「でも……もし殺したりしたら、」
ん?何やら話の流れがおかしいような……まあいいか、目指すは地下室!最後に記念として写真を撮ってやるぜ!
「あの運命が」
レミリアの言葉がそこまで聞こえたところで、風景が切り替わった。
よし着いた。ここは地下室前の階段だな。
さて、レミリアが最後に呟いた言葉は気になるが……まあそれはいい。それよりも……。
「なんだ……?これは……!?」
地下室へ向かうための階段の前に、血と肉のオブジェがあった。
肉で作られた山は、真っ赤な血で彩られている。そしてその山の頂点には、同じく真っ赤な少女が座っていた。
無邪気な笑みを浮かべ、不気味な赤い瞳をゆらりと動かし、片手で猫の毛を撫でるように肉の表面を撫で、自らを象徴するような七色の双翼を携える『悪魔』。
名は……フランドール・スカーレット……。
俺が心酔するその少女は、血を片手で汲み取り、口の中に流し込んだ後、僅かに顔を歪ませた。
「うーん……やっぱり不味い。まるで泥と毒を混ぜ合わせたような味がする」
フランドール……なぜ彼女がこんな所に居るんだ?確か、力が強すぎるから異変中は地下にいるんじゃ……。
「ねぇ?有波」
寒気がした。
普段ならば笑顔になって返事する所だが、なぜか今回は笑えない。
フランドールはゆっくりと首を傾げ、呟いた。
「貴方の血は……美味しいの?」
直後、視界が金色に染まった。
消えた。
先程まで猛威を振るっていたメイドは、それこそ空気に溶けるようにして消えていった。
私の隣に浮かぶ博麗の巫女は一呼吸おき、呟く。
「やっぱりスペルカードだったみたいね。制限時間が過ぎたのか、術者が死んだのかは分からないけど」
……いや、単純に制限時間の方だと思う。有波は弱いけど、今の流れ弾に当たって死ぬほどではないだろうし。
妖精達より弱いとは言ったけど、あの能力がある限りは死なないと思う。
そう色々考えている中、レミリアお嬢様が博麗の巫女に近付いた。
守るかどうか迷うが、レミリアお嬢様自身から近付いているのだから問題はないだろう。
守るのは必要最低限でいい。
「……博麗の巫女、一つ話があるわ」
「……何よ」
博麗の巫女は警戒を解いていないのか、お嬢様に対して僅かに距離を取っている。その巫女の背後にいる魔女に至っては、いつでも弾幕を張れるように魔力を練っていた。
だが、潰されるリスクがあるにも関わらず、お嬢様はその場から動かなかった。
「私の能力は『運命』を操れる力……応用すれば、未来と過去を見る事もできる」
唐突に切り出されたのは、自らの能力についてだった。
なぜ自分の能力を明かしてしまうのか、私には分からない。目の前にいるのが敵だという事を忘れていらっしゃるのか……。
「それが何よ?」
流石におかしいと思ったのか、博麗の巫女は戦闘態勢を崩し、レミリアに近付いた。
今なら攻撃を当てる事ができるだろう。それも致命傷の一撃を。
だが、お嬢様は動かなかった。
お嬢様は代わりに紅魔館を一瞥し、改めて博麗の巫女に向き直る。
「博麗の巫女と魔法使い……教えるわ。この紅い霧を出した理由と、ここに貴女達を迎え入れた理由を」
この紅い霧を出す理由?
確か、『太陽を覆い隠すため』だった筈。それをこの二人に教えた所で、なんのメリットがある……?
私は分かっているつもりだった。お嬢様の霧を出す理由なんて。
だが、次の言葉は、私が予想していなかった答えだった。
「この霧は、異変解決に来る貴女達を誘い出すためのもの。そして、呼び込んだ理由は……」
お嬢様の口から放たれる、その一言。
「フランドール・スカーレット……少し気の触れている私の妹と、満足するまで遊んであげてくれないかしら?」
その時、紅魔館の何処からか、破壊音が聞こえてきた気がした。
「あ、あああぁぁぁぁぁ!!」
咄嗟に真横へ飛んだ。
視界を包んだ金色はフランの髪の毛だった。俺の首元に突き立てようとした牙が空気を掻っ切る。
床を転がり、フランの方を見ると、その赤い瞳と目があった。
まるでレーザーサイト。照準を定めようとしているその目は、俺ではなく、俺の背後にある壁を映し出していた。
フランがにっこり笑う。
直後、背後の壁が四方八方に爆散した。
無数の瓦礫が襲いかかってくる。
「耐久度を100に!!」
耐久度を上げ、とりあえず耐える戦法に出た。フランが物理攻撃しかしてこないのなら、これも有効だろう。
しかし、
フランの背後に出現した眩い閃光を見た瞬間に、この判断は間違っていたと気付く。
数秒後、俺の身体は空を舞っていた。
鋭い痛みが腹部を襲う。
俺が無力化できない唯一の攻撃……弾幕だ。
「ゴ、ガハッ!?は、はあ!はあ!」
壁に叩きつけられ、呼吸が激しく乱れる。
ただし、休んでいる暇はない。
「そ、速度を100に!」
とりあえずこの場から逃げる事にする。フランから逃げるなんて許されないとは思っているが、このままここに居れば、俺の命は風前の灯と化す。
心の中で謝りながら、俺は地面を蹴った。
風景が切り替わ……
「速い早ーい!凄い凄い!」
フランがすぐ横にいた。
まさか……このスピードに食らいついてきた!?
バカな……光の速度で動いていた魔理沙に肉薄した速度だぞ……!?
「はい!!」
フランの手から発せられる光に当たり、脇腹に痛みが走る。
バランスを崩した俺の肉体は、いとも簡単に地面に崩れ落ちた。
「がっ……防御力を100に!」
そのまま光の速度で床に墜落した。
床を破壊し、巨大なクレーターが生じる。空気が押し出され、全てが衝撃波として壁を吹き飛ばした。
「あ、ぶねぇ……」
防御力を100にしてなければ、地面に激突した際にお陀仏だっただろう。
フランは……あの衝撃波に耐えられるとは思えない。何処かに吹き飛ばされたかもしれない。
あぁ世界中のフランファンよ、申し訳……
「あー、痛い痛い。びっくりしたなー」
俺の頭に一つの文字が表示された。
『杞憂』
まさにそれ。
俺の前方に、少し汚れのついたフランが歩いていた。目立つ外傷は見受けられない。
隕石クラスの衝撃波ですら、吸血鬼をどうこうする事は出来ないのか……。
フランの背後から紅い弾幕が姿を表す。上空、左右、あらゆる方向から逃げ場を無くしていく。
ルール上は逃げ場はあるのだろうが、ゲームと現実は違う。弾幕が目に入ってこない。あまりの迫力に、もはや身体が追いついてこない。
やれる事は、ただ一つ。
死なないように、生きる。
「生命力を……100に!」
直後、弾幕が降り注いだ。
肉が削げ、骨が消し飛び、形を無くしていく。
痛みはない。麻痺しているのか、寒さも暑さも無い。
破壊された箇所は即座に再生していく。生命力=再生力のようだ。
死ぬが、再生していく。
無限だ。フランが飽きるか、俺が諦めるかしなければ、俺の肉体は無限に再生していく。
ただし此方の精神的苦痛の方が強い。正直……耐え切れる気がしない……。
「凄いすごーい!全く壊れない!」
フランは止める気配がない。となると、後は俺の精神力の戦いとなる。
……俺の余命、あと何時間かな……。
諦め掛けた。
直後、
フランの周囲に白い光が現れた。
光はフランを中心とした四方向に点として出現し、光と光を淡い青色の線がつないでいる。
それに囲まれたフランは訝しげな表情をしながら、辺りをキョロキョロと見渡した。
まるでフランを包囲しているような光は、俺とフランの間の空間を断絶しているかのように見える。
「はい、大人しくすることね」
何処からか声が聞こえてくる。
「あ、お前は……大丈夫か?かなり攻撃されてそうだったが」
「妹様!有波に何かされませんでしたか!?」
「咲夜、心配する方向が違う。どう見てもフランがボコボコにしていたでしょ」
その方向を見た瞬間、心の底から安堵するのを感じた。
レミリア・スカーレット。
十六夜 咲夜。
博麗 霊夢。
霧雨 魔理沙。
紅魔郷に出てくるトップシークレットが、ここにやってきた。
だが直後、その安心は絶望に変わる。
そう、この面子は俺のスペルの犠牲者だ。つまり、フランと共に俺を潰しにかかってくる可能性が高い。
あぁ神よ、いるならお救い下さ……あ、神って風神録の神奈子と諏訪子か。
……じゃあ無理だな、紅魔郷と風神録じゃ離れすぎてる。
速度を100にした移動じゃ追いつかれるのは事実。破壊を100にしてもかわされるだろうし、防御力をいくら上げても弾幕には耐えられない。
……あともう少し融通の効く能力が欲しかったところだ。
「有波」
色々な愚痴を頭の中で言っていると、レミリアが此方に歩いてきた。
ヤベェよ、このままじゃ殺される……吸血鬼に死んだふりって、効くのかな?
あぁヤバイ、レミリアの手が頭に……。捻り潰され……。
「ご苦労様、仕事を無事果たしてくれたわね」
レミリアは俺の頭をポンポンと叩いた。
だがそれだけだ。
俺の予想にある、頭ごと肉体を破壊する攻撃はこない。
というか仕事?俺は何もしてないぞ?
「フランがこうなるのは分かっていたわ。だからまあ、弱くても生き残るゴキブリのような貴方に、フランの相手をしてもらうことが目的だったのよ」
ゴキブリて……。
つまり俺の仕事は、はなからフランにボコボコにされる事だったんですね。
……先に言えよ!
「とりあえず、フランの破壊衝動は貴方を叩き潰して満足しただろうし、次は遊んであげる事ね」
その言葉と共に、霊夢と魔理沙、咲夜がフランの前に出た。
主人公三人衆……確かにこれなら、フランを満足させれるな!!
うん!
「ほら有波、行くわよ」
「……え?」
俺も参戦?
いや無理だよ?見てたよね?俺がボッコボコにされてたの知ってるよね?
仕事終わったって言ってたじゃん?なんで残業?
「さて吸血鬼のガキ、こっちは暇じゃないんだから、サッサと潰されなさいよね」
「霊夢!てめぇフラン様になんて口を」
「有波だっけか?お前さっきまでやられていたのに、なんだその忠誠心……」
おっと失礼。つい本音が……。
……ん?なんだ、この音?
何かに亀裂が入ったような、変な……。
「へぇ、遊んでくれるの?」
見てみると、フランの周囲の空間に黒い亀裂が入っていた。
直後、フランを囲っていた何かが完全に砕け散る。
「結界が……?なんで?」
「フランの能力は、あらゆるものの破壊。結界なんて意味ないわ」
フランの背後に弾幕が展開され、それを合図に霊夢と魔理沙、咲夜とレミリアが飛び上がる。
そして弾幕は降り注いだ。
主に俺へ。
「……ふっ」
ここ一番の笑顔を作って、また俺は弾けた。
後書き
メイドの正体→スペルカード。
ね?オリジナルキャラでは無かったでしょう?
フランと本気でぶつかろうと思ったんですけど、そうすると主人公が死んでしまうので、主人公にはサンドバックになってもらいました。
便利ですねぇ主人公の能力。生き延びる事に関しては、幻想郷の誰よりもあるんじゃなかろうか。
まあ今回はここら辺で。
次回も、ゆっくりしていって下さいね!
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