とにかく集めて
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第一章
とにかく集めて
友人であり薬剤師のアンナ=ボラスキにだ、ゲルマン=ビシェニスコは彼女の店に来た時にこんなことを言われた。
「あんたに頼みがあるのだけれど」
「おい、いきなりだな」
「だってあんたトレジャーハンターでしょ」
彼の職業からだ、アンナは言った。その癖のある肩の付け根までの赤毛を後ろで束ねた髪をかき分けてからだ。
目は青く顔にはそばかすが少しある、鼻は丸めで顔立は少し面長だ。小柄で少年の様な身体つきでこげ茶の上着とブラウンのズボンという格好だ。
ゲルマンは茶色の収まりの悪い髪をショートにしている、背は年齢の割には高めでトレジャーハンターらしく引き締まった身体つきだ、鳶色の目が元気で太い眉を持つ陽気な顔立ちだ。革の鎧に下は動きやすいが強い生地のズボンと厚革の靴だ。
その彼にだ、アンナは言ったのだ。
「これからお薬作るから」
「お客さんに頼まれたのかよ」
「ま、まあね」
アンナはここでは何故かゲルマンから視線を逸した。店のカウンターに座ってそうなっている彼女を立ったまま向かい会って見たゲルマンは妙に思ったがそれでもこの時はそれだけだった。
その彼にだ、アンナは顔を戻してからこう言った。
「それでお薬の材料を集めて欲しいのよ」
「報酬は?」
「私が出すわ」
「御前がかよ」
「この前貴族の人相手に大きな仕事をしてお金はあるから」
それで、というのだ。
「私が出すわ」
「あれっ、依頼主は御前かよ」
「それ最初から言ってるじゃない」
アンナは少し膨れた顔になってゲルマンに返した。
「そうじゃない」
「そいだったのかよ」
「そうよ、じゃあいいわね」
「俺が集めてか」
「その必要経費も全部出すから」
「食費とか旅道具の金もか」
「お金のことは何でも言って」
それこそ何でもだというのだ。
「だから安心してね」
「金のことはか」
「それで集めて欲しいのよ」
薬の材料をというのだ。
「今から言うやつをね」
「ああ、どんなの集めたらいいんだよ」
「まずは赤菫」
花だった、最初は。
「それと青兎の毛に」
「毛皮じゃなくてか」
「抜き取った毛で充分よ」
毛皮でなく、というのだ。
「別に兎殺さなくていいから」
「わかった、じゃあな」
「それと黄真珠とね」
「今度は海か」
「それと黒猫の爪に」
これもだというのだ。
「あと蛇の皮にキメラの翼の羽根」
「キメラのか」
「キメラは倒して手に入れてね」
「それが一番厄介か?」
「ええ、倒さないといけないのはこれだけよ」
そうして手に入れないとならないものはというのだ。
「お願いね」
「キメラ強いけれどな」
「あんたなら大丈夫よ」
一人でキメラを倒せるというのだ、ゲルマンは戦闘も出来るのだ。
「だからお願いね」
「ああ、金出してくるなら手に入れてみせるな」
「それと黄茜」
また花だった。
「それと教会の聖水よ」
「それで全部か」
「ええ、これで全部よ」
「それで俺はその全部を集めて御前に差し出せばいいんだな」
「絶対に頼むわよ」
アンナはゲルマンの目を真剣に見据えて言うのだった。
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