翌朝、八神さんが眼を覚ましたのだが、其処からが大変だった。
「はやてちゃん、この人たち誰なの?
いまいち言ってる事があやしいんだけど」
「えっと……その……」
石田先生にそんな質問をされて返答に困っている八神さん。
無理もないと思う。
なにせ八神さんから見れば、名前も知らない女性二人と男性一人、自分と同い年ぐらいの男の子、さらに自分より年下に見える少女が一人がベットの傍で眼を覚ますのを待っていたのだ。
そして石田先生が怪しむのも無理はない。
その原因が俺達に対する質問の受け答えなのだが、このやり取りで怪しむなという方が無理だ。
昨晩、俺達が八神さんを病院に運び込んだ後、質問されるのは当然の流れであった。
特に八神さんの担当医である石田先生にとっては気になるところだろう。
ちなみに俺の事は
「八神はやてさんを運んでいる彼らに病院の場所を聞かれたので案内しただけです」
という事で偶然道で出会った子供という事にした。
もっとも時間が夜中であり、そんな時間に小学生が出歩いている事自体を怪しまれたのは諦める。
問題は彼女達、本人達曰く八神はやてを守る守護騎士たちである。
「で貴方達ははやてちゃんとどういう関係?」
「我らは守護騎」
「ごほんっ!! 八神さんの親戚で訪ねてきたらしいんですが」
ポニーテールにした女性の言葉を遮るように咳払いをして話を捏造する。
彼女が俺を軽く睨むが
「そうですよね?」
それを無視して頷くように眼で合図する。
それに一番最初に反応してくれたのはショートヘアーの女性。
「は、はい。実はそうなんですよ」
「はやてちゃんの親戚?
聞いた事もないのだけど」
そりゃ嘘だから聞いた事もないでしょう。
とにもかくにも話ははやてが眼を覚ましてからということで
「と、ともかく詳しい事はね」
「は、はい。あるじゃなくてはやてちゃんが眼を覚ましたら説明しますので」
と誤魔化せたかも怪しい会話でその場を凌いだのだ。
当然医師の方々から見れば怪しい人物達と八神さんを放置するわけにもいかなかったのか交代で医師が部屋に同席していた。
まあ、こんな受け答えで信用を得る事が出来るとは微塵も思ってもいないが
そのあと八神さんが目覚めるまでの間に
「飲み物を買ってきますよ」
という言葉と共に眼で合図し
「なら私も」
「ああ、付き合おう」
病院の廊下をショートヘアーの女性とポニーテールの女性と共に歩きながら話しをする。
「はあ、いくつか注意しておく事があるから部屋にいる彼女と彼にも伝えておいてもらいたいんだが、念話の類は使えるよな?」
「はい。問題なく」
「なら頼む。
えっと……」
そしてこの時まだ名前も聞いてない事に気がついた。
俺としても八神さんの事ばかり気にしていて完全に抜け落ちていた。
「ちゃんとした自己紹介が遅れたな。
この地を管理している魔術師、衛宮士郎だ
名前を教えてもらえるかな?」
「主はやての守護騎士、ヴォルケンリッターの将、シグナム」
「同じくヴォルケンリッターのシャマルです。
部屋にいる女の子がヴィータ、男性がザフィーラです」
四人の名前を確認し、最低限医師の方々に話すとまずい事は伝えておく事にした。
間違えて彼女の守護騎士だの言おうものなら下手をすればそのまま警察を呼ばれて身元確認される。
彼女達が身元書確認できる物を持っているとは思えないし、絶対に面倒な事になる。
最悪、魔眼の暗示という手もないが、これは奥の手だな。
それに暗示をかけるには対象人数が多い、夜勤をしていた医師に看護士の方々。
対象全員が集まる機会などないし、暗示をかける相手に漏れがあれば、話の食い違いも出てくるのであまり使いたくはない。
「まずこの世界だが、魔術や魔法の存在が公になっていない。
守護騎士や魔法に関することに関わる話は八神さんの家に帰ってからにしてくれ」
「心得た。
あと私達としても色々聞きたい事があるのだが」
「魔術についてか?」
「ああ」
シグナムさんの得体の知れないモノが気になる気持ちはわかる。
だがそんな話をこんなところでするわけにもいかないし、八神さんが眼を覚ませば多少なりとも説明は必要になるだろう。
「魔術についてはあとでちゃんと説明する。
今は八神さんが眼を覚ました後、誤魔化す事を考えてくれ。
もし警察を呼ばれでもしたら厄介だからな」
「あ、はい。わかりました」
全ては八神さんが眼を覚ましてからという事で保留にしたのだ。
まあ、というシグナムさん達と秘密の会話をかわし、夜は明け冒頭に戻る。
冒頭に戻るのだが、八神さん本人から言わせれば自分の知らない間に事態が進んでいるのだから理解が追いつくはずがない。
その時
「え?」
八神さんが何かに驚いたような声を上げる。
「はやてちゃん?」
それに首を傾げる石田先生。
シグナムさんに視線をやると頷いたので念話で話しかけたのだろう。
「えっとこの人達私の親戚で」
「親戚……ほんとだったのね」
石田先生の気持ちもよくわかります。
あの誤魔化し方では真実だという方が驚くのは当たり前だ。
「遠くの祖国から私の誕生日のお祝いに来てくれたんですよ。
その来てくれるとは思っておらんで……その……驚きすぎたというか………その…………そんな感じで、なあ」
八神さんの表情が引き攣ってるし、石田先生は信じられないようで首を捻っている。
……誤魔化すのは無理かもしれない。
「は、はい。そうなんですよ」
「その通りです」
苦笑しながら同意するシャマルさんと表情も変えずにきっぱりと頷くシグナムさん。
二人の性格がよくわかる。
もはや誤魔化す事は無理だろう感じているのでそんな関係ない事を考えながら現実逃避する。
八神さんも同じ心境なのか引き攣った笑顔を浮かべていた。
そして、信じられない事が起きた。
この誤魔化しでなんと、信じてくれたのだ。
恐らく八神さんに信用があるおかげだろう。
でなければ絶対に信じるはずがない。
それから病院を後にする俺達はそのまま八神さんの家に向かい、ソファーに座り向かい合っている。
もっともシグナムさん達は始め座る事を拒んだのだが八神さんのお願いで座る事になった。
そして、改めてお互い自己紹介をする。
「じゃあ、士郎君はシグナム達の仲間やないんやね?」
「ああ、シグナムさん達とは昨日会ったばっかりだ」
どうやら八神さんは自己紹介するまで俺もシグナムさん達の仲間と思っていたらしい。
その辺はシグナムさん達と出会ってすぐに気を失ったのだから仕方がないのかもしれない。
その後、そのままシグナムさん達の話になった。
話の内容をまとめると
・シグナムさん達は『闇の書』と呼ばれる本の守護騎士
・主は『八神はやて』
という二点。
もっともこれは俺という完全に信用におけるかわからない人物がここにいるためだろう。
しかし、この守護騎士プログラムといったかサーヴァントとどこか似ている気がするのは気のせいか?
続いて俺の魔術の説明になったのだが、気になったのが八神さんだ。
今までとは違う非日常。
混乱しているのではないかと思い
「八神さん、大丈夫か?
混乱しているなら後日説明するけど?」
「八神やなくて、はやてでええよ。
それに細かいところはようわからんけど、混乱はしとらんから大丈夫や」
「了解した。なら説明するよ」
意外にもしっかりと受け入れていた。
そして俺も魔術に関して説明を行うが、俺が話せる事もたかが知れている。
シグナムさん達が俺を完全に信用しきれていないと同じように俺も信用しきれいていない。
当然話した内容も
・魔術というシグナムさん達が使う魔法とは違う神秘を使う
・この地の結界を張り管理している管理者という立場
・魔術は物を複製する投影が使える
の三つだ。
投影に関しても実際に見せてしまったので簡単に説明したが、どれくらいのレベルで出来るかなど詳しい事は一切話していないし、勿論宝具に関してはなどは触れてもいない。
それに多少の信用のためならいいかと思ったのも事実だ。
もっとも俺自身の魔術に関する事ははやてにはあまり関係ない。
どちらかというとシグナムさん達に俺の事を説明する意味合いが高い。
そして、シグナムさん達と俺の話を聞いたはやてはというと
「はあ、やっぱり全部は理解できへんけどいくつかわかった事がある。
士郎君が魔術師やちゅうこと。
そして、闇の書の主として守護騎士皆の衣食住、きっちり面倒見なあかんという事や」
…………いや、そういう問題か? これって。
まあ、確かにシグナムさん達は行くところがないし、はやての家に住むのは間違いないんだろうけど。
「幸い住むとこはあるし、料理は得意や。
士郎君、悪いんやけどそこの棚からメジャーとってもらえるか」
「……あ、ああ」
はやての言葉に首を傾げながらもいわれるまま台所の棚からメジャーを取り出し渡す。
「ありがとう。
ほんじゃ、皆のお洋服買おうてくるからサイズ測らせてな。
士郎君。今日って時間あるか?」
「ん? 十二時から予定があるが、それまでなら」
十二時からは翠屋のバイトが入っている。
「なら悪いんやけどお買いものにつきあってくれん?」
「ああ、かまわないぞ」
俺の返事にはやては満面の笑みを浮かべて
「ほなちゃちゃっと測ってしまおう」
「「「「…………」」」」
はやての行動に呆然としながらメジャーで測られる四人とその光景を呆けた顔で眺めてている俺であった。