恋のレッスン
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第一章
恋のレッスン
辻井奈央は八条学園高等部普通科で教師をしている、科目は倫理である、他の社会科の授業も出来るが主にこちらが専門だ。
実家は禅宗であり幼い頃から厳しく育てられてきた、僧侶の資格も持っておりいざとなれば髪を剃って出家も出来る。
染めていない綺麗な黒髪は伸ばしているがいつも後ろで縛ってまとめている。流麗な形の眉にアーモンド型の二重の黒目がちの瞳を持っている。細面で鼻は高く薄い唇は大きめだ。一六〇そこそこの背でスタイルはグラビアイドルの様に整っている。
その容姿は実に見事だ、だが。
生徒達は奈央についてだ、よくこう言うのだった。
「真面目だよな」
「そうそう、性格はいい人だよ」
「そのことは間違いないよ」
「人格者だよ」
少なくとも卑しい人物ではないというのだ。
「どんな生徒にも公平でな」
「親切に教えてくれてな」
「意地悪なこともしないし嫌味も言わない」
「自分自身にも厳しいしな」
「薙刀部の顧問の時も凄く熱心で」
「絶対に暴力も罵倒もしないし」
そうしたこととも全く無縁だというのだ。
「清潔でね」
「いつもきちんとしてて」
「早寝早起きらしいし」
「贔屓は絶対にない」
「凄い人だよ」
評価は高い、しかしなのだ。
それでもだ、彼等は歯に何かが挟まっている口調だった。そしてその口調でいつもこう続けるのが常だった。
「真面目過ぎるんだよ」
「あんまりにもな」
「冗談言わないし」
「それにあれは駄目これは駄目とか」
「言ってることがお坊さんなんだよ」
「実家が実家だけに」
「本当に」
まさに禅宗の僧侶の様だというのだ。
「何についても」
「厳しいよ」
「厳し過ぎるよ」
「面白みがないんだよな」
「ユーモアもね」
「何か折角綺麗なのに」
「着ている服も軍服みたいな感じで」
全く隙がないというのだ。
「何もかもがな」
「あまりにもね」
「真面目過ぎて厳しくて」
「どうもなあ」
「尊敬出来る人だけれど」
「レディーなのに」
それでもというのだ、それが奈央だった。
とにかく奈央は真面目過ぎた、美人で人格者だがあまりにもだ。それで生徒達は奈央を教師として、人間としては尊敬していても。
それでもだった、こうも言うのだった。
「まあ俺達生徒だからな」
「そうした話はな」
「よくないけれど」
「それでもあえて言うと」
「その辺りをな」
言うと、というのだ。あえて。
「恋人とか奥さんにするとな」
「相当辛いな」
「浮気とか絶対に許さないしな」
「不純異性交遊大嫌いでな」
「服装のチェックも厳しいしな」
奈央は生活指導もしている、それもやはり厳しいのだ。
「帝国海軍レベルだからな」
「兵学校だよ」
赤煉瓦の監獄とさえ言われていた、今の海上自衛隊幹部候補生学校も制服のチェックはどの国の軍隊よりも厳しい。
「兵学校の教官レベルだからな」
「あれ何か幹事付っていうらしいぜ」
「江田島の赤鬼青鬼っていうんだよな」
「あえて目茶苦茶厳しいっていうけれどな」
ちなみに幹事付の人達はまだ茶目っ気があるらしい、本当に恐ろしいのは部隊で士から一尉まで這い上がった人で真面目一辺倒な人らしい。
「あの人そのレベルだからな」
「素でな」
「日常がそうだからな」
「そうした人だからな」
「奥さんとか恋人とかにするとな」
「大変だぜ」
「本当に禅宗のお寺みたいになるぜ」
ここでも奈央の実家の話が出る。
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