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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第4部 誓約の水精霊
  第7章 遭遇

グリフォンと馬を足して、二で割ったような姿のヒポグリフの一隊は、飛ぶように街道を突き進んでいた。

馬の体に鳥の前足、嘴をもつヒプグリフは三隊の幻獣の中で一番足が速い。

おまけに夜目も利く。

したがって、アンリエッタ追跡隊に選ばれたのである。

十数名ほどの一隊は、怒りで燃えていた。

敵は大胆にも、夜陰に乗じて宮廷を襲ったのである。

まさか首都、それも宮廷が襲われるとは夢にも思っていなかった。

しかもさらわれたのが即位間もないという若き女王アンリエッタである。

宮廷と王族の警護を司る近衛の魔法衛士隊にとって、これほどの屈辱はない。

混乱で出発が遅れたが、敵は馬を使っている。

ヒプクリフの足は馬の倍は速い。

追いつけぬ道理はない。

隊長は激しく部下を叱咤した。

「走れ!一刻も早く陛下においつくのだ!」

一塊になってヒポグリフが、大きくわなないた。

何かを見つけたに違いない。

隊長の合図で、炎の使い手が炎球を前方に向けて発射した。

その明かりに照らされ、前方百メイルほどの街道に、疾走する馬の一隊が確認できた。

その数およそ十騎ほど。

隊長は凶暴な笑みを浮かべた。

この屈辱は何倍にもして返してやる。

「まずは馬を狙え!陛下に当てては取り返しがつかぬ!」

ヒポグリフ隊は一気に距離を詰め、次々に魔法を発射した。

騎士が唱えた土の壁の魔法が敵の進路をふさいだ後、間髪入れずに攻撃の嵐が始まった。

炎の玉が、風の刃が、氷の槍が、敵の騎乗する馬めがけて飛んだ。

どう!と地響きを立てて馬が次々に倒れていく。

隊長は先頭の馬の後ろに、白いガウン姿の女王アンリエッタを確認した。

一瞬ためらった今は非常時だ。

怪我で済めば幸いとしなければならない。

お叱りなら後で何度でも受けてやる。

神妙にお詫びを口の中で呟いた後、隊長は風の魔法で、先頭の馬の足を切り裂いた。

騎乗した騎士と女王が地面に投げ出される。

歴戦のヒプグリフ隊は、容赦なく倒れた敵の騎士たちにとどめの魔法を打ち込んだ。

風の刃が憎い誘拐犯の首を裂き、氷の槍がその胸を貫いた。

隊長自らも、倒れて動かない。

先頭を走っていた騎士にひときわ大きな風の刃を見舞った。

その首が切り裂かれる。

致命傷だ。

勝負は一瞬で決した。

隊長は満足げに頷くと、隊を停止させる。

そしてヒポグリフから飛び降り、草むらに倒れた女王に近づこうとした瞬間……。

倒したはずの騎士たちが、次々に立ち上がった。

驚く間もなく魔法が飛ぶ。

敵を全滅させたと思い込み油断していた。

部下とヒポグリフたちが倒されていく。

あ、とうめきを漏らし、杖を振ろうとした隊長の体を、巨大な竜巻が包み込んだ。

竜巻に四肢を切断され、一瞬にして薄れゆく意識の中、隊長はとどめを刺したはずの騎士が立ち上がり、切り裂かれた喉をむき出しにして微笑んでいるのをはっきりと見た。




ウェールズは杖を下すと、草むらに近づき、倒れたアンリエッタに近づいた。

アンリエッタは草むらに投げ出されたショックで、目を覚ましたらしい。

近づくウェールズを信じられない、といった目で見つめた。

「ウェールズ様、あなた……、いったいなんてことを……」

「驚かせてしまったようだね」

アンリエッタは、どんな時も肌身離さず持ち歩いている、腰に下げた水晶光る杖を握った。

それをウェールズに突きつける。

「あなたは誰なの?」

「僕はウェールズだよ」

「嘘!よくも魔法衛士隊の隊員たちを……」

「仇を取りたいのかい?いいとも。僕を君の魔法で抉ってくれたまえ。君の魔法でこの胸を貫かれるなら本望だ」

ウェールズは自分の胸を指し示した。

杖を握るアンリエッタの手が震え始めた。

その口から魔法の詠唱は漏れない。

代わりに漏れたのは、小さな嗚咽だった。

「なんでこんなことになってしまったの?」

「僕を信じてくれるねアンリエッタ」

「でも……、でも、こんな……」

「訳はあとで話すよ。様々な事情があるんだ。君は黙って僕について来ればいい」

「わたし、わからないわ。どうしてあなたがこんなことをするのか……。なにをしようとしているのか……」

どこまでも優しい言葉で、ウェールズは告げた。

「わからなくてもいいよ。ただ、君はあの誓いの言葉どおり、行動すればいいんだ。覚えているかい?ほら、ラグドリアン湖畔で、君が口にした誓約の言葉。水の精霊の前で、君が口にした言葉」

「忘れる訳がありませんわ。それだけを頼りに、今日まで生きて参りましたもの」

「言ってくれるね、アンリエッタ」

アンリエッタは、一字一句、正確にかつて発した誓約の言葉を口にした。

「……トリステイン王国王女アンリエッタは水の精霊の御許で誓約いたします。ウェールズ様を、永久に愛することを」

「その誓約の中で以前と変わったことがあるとすればただ一つ。君は今では女王ということさ。でもね、他の全ては変わらないだろう?変わるわけがないだろう?」

アンリエッタは頷いた。

こうやってウェールズの腕の中に抱かれる日のみを夢見て、今まで生きてきた自分だった。

「どんなことがあろうとも、水の精霊の前でなされた誓約がたがえられることはない。君は己のその言葉だけを信じていればいいのさ。あとは全部僕に任せなよ」

優しいウェールズの言葉の一つ一つが、アンリエッタを何も知らない少女へと戻していく。

アンリエッタは子供のように何度も頷いた。

まるで自分に言い聞かせるように。

それからウェールズは立ち上がる。

部下の騎士たちが近づいてくる。

よく見ると、その胸や喉には致命傷と思える傷がついていた。

しかし……、彼らはそれを気にした様子を伺わせない動きを見せていた。

彼らは倒れた馬を確かめ始めた。

しかし、すべて事切れている。

すると、次に彼らは草むらの中へと、一人、また一人と一定の距離をとって、消えて行った。

待ち伏せの陣形だ。

何らの意思の疎通の素振りもないままに、ウェールズを含む一行は統一のとれた動きを見せていた。

まるでそれ自体が一個の生命体のように。




風竜で飛ぶウルキオラたちは、街道上、無残に人の死体が転がる光景を見つけた。

風竜を止め、その上から下りた。

「ひどい…」

ルイズは呟いた。

焼け焦げになった死体やら、手足がバラバラにもがれた死体やらがたくさん転がっている。

血を吐いて倒れた馬とヒプグリフが、何匹も倒れた。

女王を追ってきた貴族たちだろう。

「生きてる人がいるわ!」

キュルケの声で、ルイズが駆けつける。

腕に深い傷を負っているが、命に別状はないようだ。

「大丈夫?」

モンモランシーを連れてくればよかった、とルイズは後悔した。

このぐらいの傷なら、彼女の水の魔法でなんとかなるかもしれない。

「大丈夫だ……、あんたたちは?」

「私たちもあなたたちと同じ、女王陛下を追ってきたの。いったい、何があったの?」

震える声で、騎士は告げた。

「あいつら、致命傷を負わせたはずなのに……」

「なんですって?」

しかし、それだけ告げると騎士は首を傾げた。

助けが来たという安心感からか、気絶してしまったらしい。

ウルキオラの顔色が変わる。

探査回路が、こちらへの飛来物を教えた。

ウルキオラは、両腕を横に広げ、両手の人差し指から虚閃を放とうとする。

その瞬間、四方八方から、魔法の攻撃が飛んできた。

虚閃が魔法を包みこむ。

虚閃が魔法攻撃をかき消し、そのまま直線上の木々をなぎ倒していく。

草むらから、ゆらりと影が立ち上がる。

一度死んで、アンドバリの指輪で蘇ったアルビオンの貴族たちであった。

キュルケとタバサが身構える。

しかし、敵はそれ以上の攻撃を放ってこない。

なにか理由があるのだろうか。

緊張が走った。

その中に、懐かしい人影を見つけ、ウルキオラは目を細めた。

「ウェールズ」

やはり、彼だった。

クロムウェルは水の精霊から盗み出したアンドバリの指輪で、死んだウェールズに偽りの命を与え、アンリエッタを攫おうとしたのだ。

ウェールズが一歩、歩み寄る。

「久しぶりだね、ウルキオラ君」

微笑しながら呟いた。

「アンリエッタを攫って、どうするつもりだ?」

「おかしなことを言うね。どうするも何も、彼女は彼女の意思で、僕につき従っているのだ」

「なんだと?」

ウェールズの後ろから、ガウン姿のアンリエッタが現れた。

「姫様!」

ルイズが叫ぶ。

「こちらにいらしてくださいな!そのウェールズ皇太子は、ウェールズ様ではありません!クロムウェルの手によって、アンドバリの指輪で蘇った皇太子の亡霊です!」

しかし、アンリエッタは足を踏み出さない。

わななくように、唇を噛みしめている。

「……姫様?」

「見ての通りだ。さて、取引と行こうじゃないか」

「どういう意味だ」

「ここで君たちとやりあってもいいが、僕たちは馬を失ってしまった。朝までに馬を調達しなければならない。道中危険もあるだろう。魔法はなるべく温存したい」

タバサが呪文を詠唱した。

『ウィンディー・アイシクル』。

タバサの得意な攻撃呪文だ。

あっという間もなく、何本もの氷の矢がウェールズの体を貫いた。

しかし……、驚くべきことに、ウェールズは倒れない。

そして、見る間に傷口はふさがっていく。

ウルキオラは超速再生か?とも思ったが、アンドバリの指輪の力だと感じ取った。

傷口がふさがった際に、魔力の流れを感じなかったからだ。

「無駄だよ。君たちの攻撃では、僕を傷つけることはできない」

その様子を見て、アンリエッタの表情が変わった。

「見たでしょう!それは王子じゃないわ!別の何かよ!姫様!」

しかし、アンリエッタは信じたくない、とでもいうように首を左右に振った。

それから、苦しそうな声でルイズたちに告げた。

「お願いよ、ルイズ。杖を収めて頂戴。私たちを行かせて頂戴」

「姫様?何をおっしゃっているの!姫様!それはウェールズ皇太子じゃないの!姫様は騙されているんだわ!」

アンリエッタはにっこりと笑った。

「そんなことは知ってるわ。でも、それでも私は構わない。ルイズ、あなたは人を好きになったことがないのね。本気で好きになったら、何もかも捨てて、ついていきたいと思うものよ」

「姫様!」

「これは命令よ。ルイズ・フランソワーズ。私のあなたに対する、最後の命令よ。道を開けなさい」

杖を掲げたルイズの手が、だらんと下がった。

アンリエッタの決心の固さに、どうにもならなくなってしまった。

歩みを始めた一行を呆然と見守る中、ウルキオラが立ちふさがった。

なぜ立ちふさがったのか、ウルキオラ自身もわからなかった。

しかし、止めなければならないと、本能が呼びかけているのだ。

「寝言は寝て言え、アンリエッタ」

アンリエッタの肩が、全身が、震えている。

「恋も愛も理解できない。人間とまともに付き合ったことがないからな。だが、それが愛ではないことはわかる。ただの戯言だ。冷静になれ」

「どきなさい、命令よ」

精一杯の威厳を振りしぼって、アンリエッタが叫ぶ。

「人間風情が、俺に指図するな」

ウルキオラの冷徹な言葉に、ルイズとタバサ、キュルケは唾をのんだ。

「……殺すぞ?」

ウェールズが風の魔法を放つ。

ウルキオラが放った虚弾とぶつかり合い、相殺された。

その刹那、ウルキオラに水の壁が襲いかかる。

それを片手で受け止めた。

杖を握ったアンリエッタが、震えながら立ちすくんでいた。

「ウェールズ様には、指一本たりのも触れさせないわ」

水の壁はウルキオラを押しつぶすかのように動く。

次の瞬間、アンリエッタの前の空間が爆発する。

アンリエッタが吹き飛んだ。

エクスプロージョン。

ルイズが魔法を詠唱したのだ。

「姫様といえど、ウルキオラには指一本触れさせませんわ!」

髪の毛を逆立て、ぴりぴりと震える声でルイズが呟いた。

ウルキオラが水の壁をかき消す。

「なるほど…よほど死にたいらしいな」

霊圧を開放する。

辺りの木々や、地面が戦慄する。

ウルキオラの霊圧で、呆然と成り行きを見ていたタバサとキュルケが呪文を詠唱した。

アンドバリの指輪で復活したアルビオン貴族も呪文の詠唱を開始する。

「お前たちは周りのカスどもをやれ。俺はウェールズとアンリエッタをやる」

「了解」

「わかったわ」

タバサとキュルケが答える。

「いい?姫様は殺しちゃだめよ?」

ルイズがウルキオラに忠告した。

「ああ」

ウルキオラvsウェールズ&アンリエッタ。

タバサ&キュルケ&ルイズvsアルビオン貴族十数名。

悲しき戦いが、始まった。 
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