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緋弾のアリア-諧調の担い手-

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始まりから二番目の物語
  第六話




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《???・???》


瞼を閉ざすのも、開くという事も、そこに居た世界と己を遮断する点では変わりない。
閉じるならば、暗い闇の世界へ。開いたのならば、明るい光の世界へ。

そして今、己は長い歳月を掛けたかの様に光の世界へと帰還する。


―――――――――。


……解らない、理解出来ない。
一体どれ程の刻を暗い世界の中で過ごしてきたのか、最早検討がつかない。

ぐちゃぐちゃと、様々な物が頭の中でごちゃ混ぜになっている。
何を考えればいいのか、何から始めればいのか、それが解らない。脳の容量の整理が追いつかない。

まるで何十年もの間、思考という歯車が動いていなかった様に上手く噛み合わない。
錆び付いた機械を強引に動かす様な感覚。

今、俺は何処にいるのだろうか?不意に打って出た疑問。
ゆっくりと氷を溶かす様に、一滴の油を注す様に、俺の思考回路は動き始めた。

今いる此処がどこなのかを、上手く回らない頭で考え始める。
自問自答を繰り返すが、出される回答は不明。もうしばらく硬く処理落ちした思考を動かし続ける。馴染ませる。

次に身体を動かす。否、僅かにしか動かす事が出来なかった。
何たる不便だろうか。身体がまるで比喩ではなく、鉛の様に重たい。

錆び付いた機械を動かす様な感覚。それが正しく、俺自身の身体に適応されていた。
頭に感じるのは柔らかな枕の感触。そして身体全体に感じるのはシーツの滑る様な感触。

そして浮き沈んでいた意識を、徐々に外界へと向けて行く。
耳を通して、少しずつ壊れたラジオの様にノイズ混じりに世界の音が聞こえてくる。


『……さ、て……そ……な』


耳元より、いっそう近く誰かの話し声が聞こえてくる。それと同時に、言い知れぬ不安を感じ取った。
まるで背筋が凍る様な、ぞっとする感覚だ。その声はノイズ混じり判別が難しいが、恐らく女性のものだろうか。

長年耳が聞こえていなかったかの様に、近くで聞こえた声は爆音の様に耳を通して頭に響く。


「…う、る……い」


口から出たのは、囁く様なか細い、呻き声。
口を開いて言葉を発しようとするなり、喉に痛みを覚えて、咳き込んだ。

まるで長い間、口を開いていなかったのか唾液すら出ない。

涙が溢れて、俺は瞳を開いた、刹那―――

眩しく、きらきらと世界は光っている。だが、その光は直ぐに刺す様な痛みへと変わった。
瞳を開くのが“久しぶり過ぎた”。あまりに久々で、それ故に視覚が過敏になっている。

すぐさま、俺は瞳を閉じた。


「―――大丈夫ですか?」


聞き覚えのない、透き通る様な女性の声。
俺はそれに答える事が出来ずに、頷いて返答を返した。

身体を起こして貰い、咳き込む背中を優しくさすってもらう。

瞳を開く事が出来ない為に、何処の誰かは解らない。
もしかしたら、病院の看護婦とかであろうか。だが、病院特有の消毒液の匂い等はしない。

「…お水です、飲めますか?」

口に何かの容器が当たっている。

俺は頷く事で返答をする、水が口の中を潤して喉の痛みを流し込んでいく。
それを咳き込みながらも、飲み干す。


「……あり、が……ございま…」


少し時間が経過したので、俺は再び瞼を開く。
痛みは薄れたが、視界はまだぼやけたままだ。

徐々に、焦点が合う様に視界の靄が消えて行く。そこは俺の部屋であった。

キョロキョロと視線を動かすと、見知った人間の姿がある。中には涙を湛えている人もいる。

そして、見た事のない瑠璃色の瞳が特徴的な女性が俺の傍に控えていた。
おそらくは、この人が俺を介抱してくれた人だろう。

そんな風に、朧気に世界を観察している時の事だった。


「…起きるのが遅いわよ、このバカ時夜ッ!!」


目覚めてから数瞬の事。
涙を浮かべる芽衣夏ちゃんに、俺は目覚め頭の罵倒を受けたのだった。


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