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少女の加護

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10部分:第十章


第十章

「戦死した敵のパイロットは少ないようね」
 それはエリザベートからも確認されていた。
「もう何機も撃墜したのに」
「十機だ」
 口髭の男がそれに答えた。彼がジャンヌ=ダルク隊の指揮官なのである。
「卿は十機撃墜している」
「そうですか、そんなに」
 これは戦っている本人には気付かないものであった。言われてようやく気付いたのだ。見ればコクピットの撃墜カウンターにもはっきりとそう出ていた。間違いなかった。
「だが敵の戦死者はいないな」
「また戦場で、ということですか」
「敵もしぶとい」
 隊長は答えた。
「そう容易にはやられてくれん」
「そのようですね」
「そしてだ」
「はい」
 話はここで変わった。
「こちらに敵のエースが来た」
「エースが」
「シフル=ザーヒダン少佐だ」
「彼がここに来ていたのですか」
「どうやらな」
 義勇軍きってのエースだ。彼により屠られた戦友は数え切れない。エウロパ軍のパイロット達にとっては不倶戴天の敵の一人である。
「悪いがこちらに来てくれ」
「わかりました」
 エリザベートはそれに応える。
「彼が相手ならばこちらも」
 その整った目が強く光る。
「戦いがいがありますから」
「では頼むぞ」
 隊長は言った。
「彼は卿に任せる。強敵だがな」
「望むところです」
 それに対するエリザベートの言葉は堂々たるものだった。
「彼が相手ならば不足はありません」
 声も笑っていた。
「是非共向かいましょう」
「では宜しく頼むぞ」
「無論」
 エリザベートのエインヘリャルのバーナーのスイッチが入った。
「今からそちらへ」
「頼む」
 エリザベートは愛機を駆りそのまま好敵手のいる戦場へ向かう。そこには一機の黒いタイガーキャットがもういた。
「聞いているぞ」
 エリザベートのエインヘリャルに通信が入って来た。そのタイガーキャットからだった。言葉はラテン語だった。
「貴官がエリザベート=デア=アルプ少佐だな」
「如何にも」
 エリザベートはそれに答える。
「卿はシフル=ザーヒダン少佐だな」
「卿とは呼ばなくていい」
 ザーヒダンはそれに余裕のある口調で返す。
「連合には爵位はないしな。無論我々難民達にもだ」
「だからいいというのか」
「そうだ。そのうえで貴官に申し込みたいことがある」
「それは何だ?」
「一騎打ちだ」
 ザーヒダンはニヤリと笑ってこう述べた。
「エウロパ軍きってのエースである貴官と剣を交えたい。いいか」
「エウロパ軍には軍律がある」
 彼女はその申し出を聞いてまずは軍律を出した。
「敵から正々堂々たる申し出があった場合快く引き受けよと。そして正々堂々と相手すべしと」
「騎士道というわけか」
「そうだ」
 彼女は女ではあっても騎士だった。今騎士としてザーヒダンに接しているのだ。
「卿・・・・・・いや、貴官の申し出喜んで受けよう」
「有り難い」
 ザーヒダンはその言葉を聞いて満足そうに頷く。
「そうでなくてはな。戦いは互いの力を出し尽くして行うもの」
 彼は言う。
「だからこそ美しいのだ」
「それは同意だ」
 ザーヒダンを見据えて答える。
「だがだからこそ容赦はしない」
「容赦なぞ不要だ」
 ザーヒダンも言い返す。
「こちらは全力で貴官を倒したいのだからな」
「いいわ、それで」
 これこそエリザベートが待っていた言葉であった。
「では名乗りは終わりね」
「うむ」
「行くわよ、ザーヒダン少佐」
「こちらこそだ、アルプ少佐」
 互いの愛機がそれぞれ動きはじめる。銀河の中に二つの流星が巡り合い、ぶつかり合おうとしていた。

 
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