戦国異伝
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第百九十七話 龍の勘その二
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「我等のところには来られませぬか」
「では我々は、ですな」
「ここでこのままですな」
「守っているだけですな」
「そうじゃ、それだけでよい」
まさにと答えた長政だった。
「義兄上はそうして我等を助けて下さるからな」
「それでなのですが」
ここで家臣の一人が長政に問うた。
「お聞きしたことがありますが」
「上杉が退いた後じゃな」
「追いますか」
謙信のその軍勢をというのだ。
「そうしますか」
「いや」
長政は家臣のその言葉に首を横に振って答えた。
「それはせぬ」
「追われぬのですか」
「追って攻めて勝てる相手か」
謙信がというのだ。
「それが出来るか」
「それはとても」
「無理です」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「勝てぬわ」
「では、ですか」
「ここはですか」
「追いませぬか」
「追えばかえって危うい」
謙信相手にはというのだ。
「だからここはな」
「この城に留まりですか」
「追わないのですね」
「そうじゃ、そしてじゃ」
そのうえでと言う長政だった。
「上杉の軍勢が去った後でな」
「その後で、ですか」
「うむ、加賀を収める」
この国一国をというのだ。
「この城より北をな」
「わかりました、では」
「その様に」
「ここは堪え」
「追わずに」
「そうしてな、下手に手出し出来る相手ではない」
それが謙信だということをだ、長政はわかっていた。それで彼が去っても追うことはせずにというのである。
「加賀を収めるぞ」
「では」
「ここは」
家臣達も長政の言葉に頷いた、実際に長政は城を守り続け謙信の攻めも防いでいた。確かに謙信は強かったがだ。
そしてだった、信長が信玄を破ったその時にだ。不意に。
謙信は城攻めの時にだ、不意にだった。
ぴくりと眉を動かしてだ、すぐに家臣達に言った。
「城攻めは止めます」
「!?何故でしょうか」
「このまま攻めれば陥ちますが」
確かに長政はよく守っている、しかし劣勢は明らかだった。それで上杉の者達はこう謙信に言うのだった。
「それでもですか」
「城攻めはここで止めるのですか」
「甲斐の虎が敗れました」
信玄、彼がというのだ。
「そして織田の軍勢は信濃から春日山を目指しています」
「何と、武田が敗れたのですか」
「そして織田が信濃からですか」
「春日山に攻め入る」
「そうして来るのですか」
「そうです、尾張の蛟龍が迫ってきます」
その春日山城、即ち越後にというのだ。
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