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日向の兎

作者:アルビス
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1部
  35話

次の試合が油女 シノとザク アブミという組み合せだと確認してから、私は少し頭を冷やすために顔を洗いにいった。
二次試験が始まってから私は一体どうしたというのだ?
確かに以前から何かしら考え込むと周囲が見えなくなるという事はあったものの、白眼の死角から投げられたものでもない手裏剣を回避できない、自制しなければならない程に思考を巡らせる、というのは我が事ながら異常と言わざるをえない。
一体、どこからだ?どこから私の異常は始まった?
一次試験では特に異常は無かった。親父殿の言葉がありはしたものの、二次試験も序盤は問題無かった。
となると、考えられるのはサスケと戦った辺りからか。
ならば問うべきは、何故あのタイミングであそこまで深く思考する事を選択したのか?
確かに直前にリーから戦う理由を問われた事はあったものの、普段の私ならば見えていたものを回避できないような無様な事にはならん。
では、あの時通常ではなかったことは一体なんだ?
直前の戦闘でのダメージ?いや、違う。あの音の忍との戦いでは無傷だった。
サクラという気に入った人物が傷付けられた?それも違う。サクラが私のミスによって傷付いたならともかく、彼女自身の戦いにおいて傷付いたのであれば動揺などはしない。
残る異常は……サスケか?
確かに大蛇丸の仕込んだであろう呪印は類を見ないようなタイプのチャクラだったが、幻術系の類とは明らかに違うチャクラだ。
確証はないが、あのチャクラ以外に異常というべき事は起こっていないのだから恐らくそうなのだろう。
大蛇丸の呪印……少し調べる必要があるな。まずはサスケの症状から文献を漁り、それでも無理なら多少なりとも協力してもらうか。
私の身体が傷付くのは構わないが、私の在り方が揺らぐ事だけは断じて認めるわけにはいかない。そうとも、私は強くあらねばならないのだ。




私が試験会場に戻ると既に第二試合は終了しており、第三試合の発表が始まっていた。
中央の電光掲示板には砂の忍、カンクロウの名前と私の名が記されていた。
ふむ……これは最悪ともいうべき組み合わせか。
「一応言っとくじゃん。怪我する前に棄権しな」
「あ、ああ……気遣いは感謝するがそれには及ばん」
私の目の前に立ったカンクロウは、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら私にそう忠告した。なんというか返事に困る忠告だな。
強いて言うならば、今の私は種を知っている手品を自信満々に魅せられてしたり顔をされているという気分だ。
傀儡使いとは基本的に使い手は姿を晒さず、傀儡に仕込んだ忍具で不意を突き続ける攻撃によって相手仕留める。傀儡は至る所に仕込みを備え、想像もつかないような攻撃をする事がその強みだ。
しかし、裏を返せばそれしかないとも言える。
傀儡の攻撃自体はそれ程強力な物はない。忍具の射出、毒霧、仕込み刀による刺突、どれもアカデミーの生徒でも出来るような事だ。
つまり、白眼で仕込みどころか構造まで見えている私にとって、傀儡など脅威には当たらない。
加えて、傀儡を操るチャクラ糸は柔拳で断つことも容易い。幾らチャクラ糸が繋ぎ直す事が出来るとはいえ、その間の傀儡は文字通りただの役立たずになる。
そんな相手にあんな自信満々の表情を見せられて、私に一体どんな反応をしろというのだ?
とはいえ、本体は後ろの包帯に隠れて、傀儡を本体のように動かしている技量には敬意を払おう。
命無き物体を生きているかのように見せるというのは傀儡の真骨頂であり、究極的な本質とも言えるな。
これを演劇やらとして見たならば拍手を贈るのだろうが、残念ながらこれは戦いであり、白眼で丸分かりのせいでなんとも悲しい事になっている。
「それでは両者ともよろしいですか」
「当然じゃん」
「無論だ」
「では、始めてください」
試験官の合図と共に、カンクロウ改め彼の傀儡は後ろの包帯に隠れた本体を傀儡のように明らかな隙を見せつつ脇に置いた。
「速攻で終わらせるじゃん」
彼はそこで傀儡を本体と誤解した私が攻撃してきたところを、傀儡で捕まえようと考えているのだが、わざわざ突っ込んでやる事もない。
結果、カンクロウ側もカウンター狙いなので仕掛ける訳にもいかず、数秒間沈黙が続いた。
「…………」
「…………」
「なんで来ねぇじゃん?」
「……私の名前をもう一度見てみろ」
「日向ヒジリ……あぁ」
やっと彼も理解したようだ。他の血継限界ならば兎も角、日向と言えば三大瞳術というのは常識に近いものがある。
そして、白眼の能力は程度に差はあれ、そのおよそは知れ渡っている。
ましてや仮にも同盟国の砂隠れの里だ。白眼の特性である透視、経絡系の認識、全方位への視界くらいは知っているであろう。
ならば、何故私が攻撃しないのか?そして、この状況が一体どういう状況なのかも理解している筈だ。
「一応聞くが……この戦いに勝ち目があると思うか?」
「…………」
彼はまだ包帯の中に隠れながらも、幾らか考えを巡らせている。だが、妙だな。
彼の感情が妙だ。この後の戦いを想定して考えを巡らせて諦めの感情を抱くのは理解できる。仕込みは全て知られている傀儡師ほど手詰まりなものはない。
だが、何故結果を想定した後の感情が打算なのだ?考えて浮かんだ結果が敗北なり勝利だろうが、その後に一体何を計算しているのだ?
私がそれに対して考えているとカンクロウは包帯から姿を現して、試験官に棄権するとの意を伝えた。




「ヒジリと傀儡使いなんて酷い組み合わせもあったもんだよね」
私が試験場の上に位置する観戦用のスペースに戻ると、テンテンに声をかけられた。
「ん、ああ……そうだな」
「ヒジリ、どしたの?」
「いや、最後の最後で少し気になることがあってな」
「ふーん、まぁヒジリが何考えてるかじゃよくわかんないけど、考えすぎは良くないよ?」
「……それもそうか」
「そうそう、ヒジリは難しい事じゃなくていつも通り変な事を考えてる方がいいって」
「変な事とはなんだ」
「だって、ヒジリの考える忍具って見たこともないようなのばっかりだし、使い熟すのだって相当難易度の高いのばっかりだし、そんな物をポンポン作り出す考えを変なのって言わずなんていうの?」
「むぅ……」
「まぁ、私はそういうのに助けられてるから有り難いけどね」
「それはどうも。で、君はもう試験への準備は終わったのか?」
私が手伝った段階ではまだ少し準備する箇所が幾つかあったのだが、どうしたのだろうか?
「うん、この試験場で使えるように糸を少し減らした代わりに針を調整しておいたから、調整は射出時の角度を弄るだけだったからね。
いやーヒジリの忍具でもこれの使い勝手は最高だよ」
「私としては作るだけ作ったが持て余した不良品だったのだがな」
実際、作って使ってみたのはいいが、私にとってはかなり使い勝手が悪く、いっそ破棄してしまおうかと考えた程だ。
テンテンに渡した忍具 蜘蛛の糸は相手の行動を制限するために作ったのだが、使い方を少し誤れば使い手の動きも封じるようなものだからな。
さて、彼女は一体どのようにして扱うのか……作り手としても興味が尽きないな。




 
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