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もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?

作者:海戦型
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外伝 苗っち、貧乏巫女との馴れ初め

 
前書き
もう一つ出てきました。これで最後です。 

 
 
夏の日差しが差し込む地上だが、森の中だとその光はさほど地上まで届かない。森の木々はいつでも太陽の光をより多く浴びようと葉を茂らせ、それがカーテンになるからだ。

うちの神社にでっかいご神木でも植えて日傘代わりに出来ないだろうか、と考えた少女は直ぐその思考を放棄した。傘代わりになるほど大きな木を用意する金も植えるスペースもない。それに木は管理が面倒だし秋になれば掃く葉っぱの量がとんでもない事になるだろう。どこぞの向日葵畑の妖怪に頼めばどうにかなるかもしれないが……まぁいいか、と考え直す。

「折角宴会に丁度いい形してるんだし無理に変えなくたっていっか」

自己完結したその少女――博麗霊夢は麦茶で喉を潤し、煎餅をばりっと齧った。
今日も今日とて働きたくないで御座る、という訳ではないが、働く必要性を全く感じないのだから何もせずにダラダラしていたってしょうがないというものだ。

――と、いつものようにぼうっとしていた霊夢はふと夏の纏わりつくような空気に乗って感じたことのない雰囲気を感じた。

新参者の妖怪か何か?と疑問に思って立ち上がる。
この神社は時々馬鹿者の襲撃を受けることがある。そうした奴らというのは大抵がこの世界乗る折るを正しく理解していない愚か者で、霊夢はそうした奴らに一々懇切丁寧にスペルカードルールを初めとしたいくつかのルールを教えてあげなければならない。
もっとも喋って理解してくれるものはごく少数で、大抵は体に教え込むことになるのだが。

その気配に意識を向けた、その瞬間――



 ぞ く り



「―――ッ!?」

反射的に懐の札に手を伸ばした。お祓い棒は家の中にある。取りに行けば大した時間にはならないが、その行為は無駄であると「勘」が告げていた。
彼女の「勘」は並の人間の勘とは訳が違う。それは100%に近い的中率を誇り、一緒の予言化未来予知の域に達しているもの。博麗の巫女が博麗の巫女たる所以とも言われるその「勘」が、告げている。


何かが来る。

この幻想郷に、化物より化物染みた、神より神掛かった、人の匙で測れない存在が。


ぽたり、と地面に霊夢の汗がしたたり落ちる。落ちた汗は太陽光で摂氏100度以上にまで熱せられた石畳に落下し、やがて蒸発した。だが、彼女は汗をぬぐうでもなく唯一点の虚空を穴が開くほど凝視した。
彼女は今まで途方もない力を持った相手に、”弾幕ごっこ”でという条件付きではあるが勝ってきた。そして自分の”能力”を使えばごっこ抜きでも叩き伏せる自信がある。それは「博麗の巫女」が異変という事件を解決する為に持っていなければならない力であり、その力があるからこそ彼女は幻想郷内部で特別といえる地位に立っているのだ。

だが気が付くと、手が震えている。異変解決のスペシャリストにして幻想郷の抑止力である彼女の手から、震えが消えない。
今までたったの一度も感じたことのない心の乱れ。不安。抑圧。束縛。恐怖。戦慄。
そう言ったモノを寄せ集めて塊にしたような、空間を拒絶するような存在感が正面から押し寄せていた。

人も妖も妖精も霊も鬼も悪魔も、神や聖人ですら打ち負かしてきた彼女の身体が戦うことを拒絶している。次の瞬間に自分の足場がすべて消滅するかのような言いようのない畏れ。

相手は間違いなく現れる。博麗大結界にも異常は感じないのに、相手は結界をすり抜けてやってきているのだろうか。……あり得ない話ではない。大結界を維持している”八雲紫”と同等の力を持っていればそれも可能だろう。
だから、今から来るのは――この幻想郷すべてを取り仕切る大妖怪と同等か、若しくはそれ以上。

その紫からでさえ、これほどの危機感は感じなかった。これほどのプレッシャーは感じなかった。
喉が干上がり、札を握る手が汗まみれになることだって無かった。
ありえない、と思った。私は死ぬのか、とも思った。まだ姿すら見せていないそのおぞましい存在に、しかし彼女の脚は決して後ずさることは無かった。

例え何が出てこようとも、自分は幻想郷を愛する博麗の霊夢だ。
その意志だけは、決して揺らぐことは無かったから。



ぴー……と、空間に切れ目が入った。



そしてその中から一人の少女が幻想の大地に足を置いた、その瞬間――霊夢は今度こそ体が凍りついた。

何故ならばそこにいたのは――彼女の想像からはとてつもなくかけ離れた存在がいたからだ。


「さあ本日も”(オードリー)のお悩み相談室”の時間がやってまいりました!本日も司会は私こと鳳苗!今回のゲストは飼い猫のぽんずで御座います!!」
「まーお」
「今回は何と『出張!幻想郷特設相談室』!神々の愛した大地こと幻想郷で適当に人を捕まえて無理矢理相談してもらおうと思います!!」
「ぅみゃお」
「んー?すぐ近くに第一村人がいる?……あ、ほんとだ」

そこからは不安も抑圧も束縛も恐怖も戦慄も等しく感じられず、ただ見知らぬ少女の無邪気な笑みが広がるだけだった。――何が起きているのかを一瞬見失って言葉が出ない私に少女は話しかけてくる。

「こんにちは!わたくし、見習い道士の鳳って言います!突然ですがお悩みをお聞かせください!!」

猫を引き連れてぺらぺら喋っていたその少女に呆気にとられた私は取り敢えず・・・

「誰も賽銭入れてくれなくて困ってるわ」

と、何故か切実な悩みを吐露したのであった。



 = = =



――幻想郷に訪れる存在には大まかに分けて3種類ある。

一つ、外の世界で存在を忘れられ、文字通り”幻想”となったもの。
二つ、そうなる前に幻想郷の管理者にスカウトされた、若しくは自力で入って来たもの。
三つ、妖怪の餌や次元の歪みの影響で、図らずして訪れてしまったもの。

なんだかお気楽には見えるがかなりの力を内包しているらしいことと、この状況に何の疑問も抱いていないように見える事。以上の2つから霊夢は彼女が二つ目に相当する存在だと当たりをつけていた。

ノースリーブのワンピースに着物を融合させたような黒を基調とした大人しめなドレス。服の後ろには太極の描かれた丸い金属製の円盤が2つ、猫又の尻尾のように垂れ下がってている。両腕は金属プレートの付いた手甲と堅苦しい腕輪を嵌めており、霊夢に負けないほど細身なその身体には正直不似合いだった。
首からは少し赤みの強い薄紅色のスカーフ。髪の長さは霊夢より少し長いだろうか?風になびかれて流水のように揺れる髪はカチューシャによってある程度固定されているらしく、ピンク色の花飾りと紫の子兎のぬいぐるみがどちらも映えている。

そんな彼女の話を座布団の上に座りながら聞いていた霊夢はすこしぼうっとした頭で彼女の言葉を整理した。

「へぇ、師匠に修行の一環としてねぇ」

次の煎餅を齧ろうと手を伸ばし、既に無くなっていることに気付いた霊夢は、受け皿の底に転がっていた欠片をつまんで口の中に放り込んだ。目の前でにこにこしている少女は現在博麗神社内の和室に自分が招待した。煎餅喰いたいという願望を達成できなくなった霊夢は「明日貰ってくるか」と気持ちを切り替える。
煎餅屋は私に金が無い事を知っていて、いつも焼きそこない等の商品にならないものを取っておいてくれる。昔妖怪退治ついでに助けてあげた頃からそうなのだ。そのことに嬉しさと同時にほんのちょっぴりの申し訳なさを感じるからこそ賽銭が欲しいのだ。

普段なら適当に喋って人里に送り出す霊夢だが、一度とはいえ自分の勘を完全に騙した彼女の事が心のどこかで気にかかっていた。ついでにスペルカードルール等は詳しくは知らない様子だったため、それも説明する気でいる。・・・賽銭を入れてくれたらもっと好待遇にする準備があるが。

「そーなんです。師匠曰くヤクモさんには話しを通してるらしいですよ?」

目に前には未だ食べきっていない煎餅を小動物のようにちびちび齧っている少女――苗というらしい――が自身の身の上話をしていた。何でも大きすぎる力をコントロールできるようにするための修行中なんだそうだ。煎餅寄越せ、という目で睨んでみたら半分分けてくれたので少なくとも魔理沙よりはいい奴っぽいな、と勝手に分析する。

ふーん、と適当に相槌を打った霊夢はふとある疑問を抱いた。
幻想郷の管理者である大妖怪・八雲紫はいつも胡散臭さを服にして纏っているような女だが、親しい存在以外には結構礼儀をわきまえている。そして神出鬼没の彼女に直接コンタクトを取れる存在となると彼女の師匠は相当徳を積んだ仙人なのだろう。ならば紫はその相手に敬意を払って礼儀を以て直接内部に迎え入れるとか、使いを出すとか、そういったことをしそうなものだが・・・

「まぁとにかくあれね。言っておくことがあったの忘れてたわ」
「?」

首を傾げる苗。これは別に言わなければいけない決まりがある訳でもないのだが・・・幻想郷に住む身として、やはり言っておいた方がすっきりする。


「ようこそ幻想郷へ。此処は全てを受け入れるわ」
「・……それじゃ、遠慮なくお邪魔しまーす!!」
「なーお」

笑顔でそう告げる。入ってきた理由が何であれ、ここはそう言う場所だ。


こうして2人の少女は出会った。

霊夢は知らない。このたまたま出会っただけの付き合いが、彼女の想像以上に長いものになることを。
  
 

 
後書き
・能力一覧
(禁止中)程度の能力
(禁止中)程度の能力
(禁止中)程度の能力
魔法を使う程度の能力
仙術を使う程度の能力

禁止能力とは・・・太公望が「便利な力にすぐ頼るようでは成長しない」と原則使用禁止にした。彼女自身の身が危ない時のみ使用を許可されているが、他人の為に使うことに関しては特に制限されている。このあと彼女は人を救うことがいかに大変かを学ぶことになるだろう。

・装備一覧
New劈面雷(へきめんらい)・・・黄竜真人から譲り受けたナックル型宝貝。パワーに優れる炎モードと速度に優れる雷モードが存在する。劈面雷を苗の小さな手でも装備できるようダウンサイズさせたものであるため本物より少しばかり出力が低い。
(※黄竜真人の所有していた宝貝は実際には名称不明であるため、この設定はオリジナルである)
陰陽鏡(いんようきょう)Ⅱ・・・赤精子から譲り受けた腕輪型宝貝。空間に複数の鏡を展開する宝貝で、赤い面はビームを放ち、白い面は光などのエネルギーを反射若しくは吸収する特性がある。性能より使いやすさを重視して腕輪型に変えられている。そのため鏡の性能はオリジナルに劣り、展開できる鏡も8枚まで。
なお、真実の姿を映しだし、偽りの姿を封じる能力もある。
(※この設定は原作封神演義、藤崎竜封神演義、仙界伝封神演義のものを混ぜたものである)

兎の髪飾り・・・太乙真人が開発した非常用通信機。ミッ○チルダの魔法技術を応用しているためデバイスの一種ということになる。幾つかのギミックが仕込んであるが直接戦闘には使えない。
???・・・現在使用禁止中。

また、ぽんずの宝貝は一部を借りることが出来る。

仙桃×5・・・仙人界でいくつか失敬した桃。鬼には絶対渡さない。
お金・・・太公望から渡されたお小遣い。幻想郷でも使用できるもので、心なしかちょっと量が多いような気がする。
道士服・・・見る人が見れば道士だと分かる服。かなり汚れが付きにくくて丈夫に出来ているが替えがない。
釣竿・・・太公望と普賢真人から貰った魚を釣れない竿。価値が分かる者には垂涎モノの逸品。 
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