少年と女神の物語
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『造られし神殺し』編
第百五話
「会長、各部活の予算報告、まとめ終わりました」
「そこに置いておいてください。出していない部活はありましたか?」
「ありません。文化祭の方は期限まであと二日あるので出ていないところもありますが」
まだ期限になっていない以上、強制したりするのははばかられる。とはいえ・・・このままにしておくのもなぁ・・・・
「他はもう出ていますか?」
「各クラスからは出ています。教師陣が出店したものは融資によるものなので当然来ていませんけど」
ついでに言うと、まだクラスの物はチェックしきれていない。
「では、会計さんは各クラスの物のチェックを進めてください。庶務さんは念のために、まだ出ていない部活の顧問へ連絡を」
「分かりました」
「行ってきます」
庶務さんが生徒会室から出ていくのを視界の端でとらえながら、各クラスから提出された書類のチェックに移る。レシートと報告書とを比較しなければいけないのでちょっと面倒だ。とはいえ、普段から提出された物を少しずつやっていたので泣きたくなるほどはたまっていない。
今日役員が全員集まってまで仕事をしているのは、部活やクラスから一気に提出されたのが原因である。まあ、そうでなくても全部まとまってからやらないといけない書類もあるからどうせこの時期は忙しいんだけど。
ちなみに、仕事の割り振りとしては会長が各役員がまとめた書類の最終チェック。
副会長は基本そのサポートで誰か忙しい人がいるのならその人の手伝い。基本副会長は生徒会経験者がなるから、慣れていない人がいる年はその人の手伝いになるけど、今年はいないのでそちらの仕事はない。
書記さんは文化祭の際に集まったアンケートや生徒会から提供したものがどれだけ使われたのかをまとめて来年以降どれだけ準備するのかの参考用と報告用の資料をまとめている。
会計こと俺は部活動が部費をどのように消費したのか、文化祭用の費用を各部活やクラスがどれだけ消費したのかのまとめに、レシートと部室を回って調べた購入物が一致するかどうか、などをまとめ、来年はどれだけ配分すればいいかを簡単にまとめる。
庶務さんは先ほどの様に誰かから頼まれたことをやったり、今日活動している部活があればそちらの部長さんに話を聞きに行ったりしている。
俺や会長からしたらもう毎年恒例の、他の三人も二回目であるその作業はかなりスムーズに進んでいた。文化祭の部活からの報告についてはまた集まってからやるしかないが、まあそこまで時間はかからないだろう。
「そういえば」
と、庶務さんが帰ってきて書類をファイルにとじ始めたところで書記さんが話を始めた。
「どうしました?」
「いえ、会計さんのクラスの三人は相変わらずですか?」
三人、と言うのはエリカとリリアナ、それに護堂のことだろう。そして、相変わらずと言うのは・・・
「ええ。相変わらず二人は護堂のことを警戒してる感じですよ」
こう答えるのが正解であろう。いくら俺の記憶と食い違うとはいえ、現状がそうなっているのだからそう答えるほかない。
「そうですか・・・こっちのクラスの万里谷さんも相変わらずおびえている感じなんですよね。何かあったんでしょうか・・・?」
「さあ?少なくとも、護堂は悪い奴ではないんですけどね」
むしろ、あの四人は一緒になって神にすら挑む位なんだから、強いきずなで結ばれていたはずなんだけど・・・何故か、ある日を境にこうなった。あの四人だけでなく他の人間もそう認識していたため、何かしらの・・・と言うかまつろわぬ神によるものと考えていいだろう。幸いにも、ウチの家族については俺とアテが変な感じがした際に抵抗したら影響を受けず、全員にかけられていたものも解いたから無事なんだけど。
とはいえ、自分たち以外の人間がそろって違う認識をしている・・・知に富む偉大なる者で見てすらそう思っているという現状はかなりの違和感だ。だからって他人のことに干渉しようと思うほどのことじゃないから放置しているんだけど。
「はぁ・・・昨日草薙君とリリアナさんが一緒に歩いているところを見た人がいたり、今朝草薙君と万里谷さんが一緒に登校しているのを見たりしたので、もしかしたらって思ったんですけど・・・」
「まだみたいですね・・・とはいえ、今もリリアナと護堂は一緒にいるみたいですし、時間の問題じゃないですか?」
「そうだといいんですけど・・・なんだかギスギスしていますし」
確かに、少し同じクラスにいづらい部分はある。だけどまあ、あいつらも違和感を感じ始めているくらいだからもうちょいだろう。
そんなことを考えながら俺は仕事に戻り、書記さんもまた自分の仕事に戻った。
◇◆◇◆◇
「すいません、お待たせしてしまって」
「気にしないでください。俺の方から頼みごとをしたんですから」
生徒会室の戸締りをしながら、俺と梅先輩はそう会話を交わす。
最後に生徒会室の鍵を閉めてから、ならんで帰路に就く。もう暗いので家まで送ることにした。
「では、こちらが頼まれていたものです。あなたの名前で世界中の様々な組織に要求して集めました」
「ありがとうございます」
差し出されたそれを受け取り、歩きながら中身をみる。そこに記されているのは『どんな理由で消えたのか不明なまつろわぬ神』のリストだ。とりあえず、そこそこ昔までさかのぼって調べてもらった。当然名前も分からないものだらけなのだが、多少は霊視の情報も載っているので何の神なのかはなんとなく知ることができる。
「ですが、こんなものを一体どうするのですか?」
「いえ、ちょっと気になることがありまして・・・ウッコと戦う前にも赤銅黒十字の知り合いに水神が出たって言われて言ってみたんですけど、その時には消えていたので・・・もしかしたらって思ったんですよね・・・」
そう返事をしながら知に富む偉大なる者を使ってカンピオーネの側近の頭の中を除き、今いるカンピオーネによって殺された者に斜線を引いていく。ヴォバンとアイーシャだけは一切分からないんだけど、まあ仕方ない。それにしても・・・
「結構いますね、不明な神」
「まあ、普通は分からないものですから。偶然霊視が降りるか、それこそ武双君のようなカンピオーネの方々が戦いでもしない限り分かりませんよ」
「まあ、見た目の特徴から分かる場合もありますし、自分で名乗っちゃうやつもいるんですけどね」
名乗れないやつも、まあいるんだけど。真神とかしゃべれないだろうし。
他にも、シヴァの様に顕現した理由からその神の正体が分かるやつだっているし、無三殿大神の様に一つの礼として名乗るやつもいる。ウィツィロポチトリはあれを呼び出すために行われていた儀式からその正体を知ることができたし。
かと思えば、ウッコの様に別の名を名乗るやつもいるし、オオナマズの様に名前からは予想もつかない姿でいることもある。ヒルコに至ってはその歴史が深すぎて霊視した情報からは全く予想がつかなかっただろう。ナーシャが内側から直接見たから分かったようなものだ。
まつろわぬ神と言うのがそんなものだからこそ、このリストの中に『正体不明』と言う文字が多く見られるのだろう。
「とはいえ、さすがにこれだけじゃ新しいカンピオーネが誕生したかどうかなんてわからないか・・・」
「・・・そんなことを疑っていたのですか?」
「はい」
はっきりと返事をしながら、一応リストをかばんの中にしまっておく。カグツチやアンリ=マンユ、アグニと言ったビッグネームもいるみたいだし、何かの役には立つかもしれない。
「・・・確かに、新たなカンピオーネがいるのだとしたら、最近になって増えてきた原因不明のことも納得できますが、いくらなんでも突拍子なさすぎます」
「だからこそ、念のためなんですよ。そんな奴がいた時に対処するための物です」
「・・・つまり、武双君はそんな人がいると思うのですか?」
「直感的には、いるかもなぁ・・・って感じです」
「なるほど、了解しました」
そう言いながら梅先輩は携帯電話を取り出し、どこかへメールを送った。おそらく正史編纂委員会関連だろう。俺たちカンピオーネの勘はバカにならないから、本当にそうなる可能性もあるし・・・何より、その勘が働くのは戦いが絡んだ場合のみ。そりゃ、警戒もするだろう。問題は相手がカンピオーネだった場合、中々そうだと気付けないことなんだよな。
・・・まあ、なんとかなるか。最悪先手を取られたとしても力押しで。
「そう言えば、話は変わりますけど・・・」
と、そこで梅先輩は少しもじもじとして・・・数秒の間を置いてから、顔をあげてこっちをまっすぐ見る。
「クリスマス・・・は、例年通りですよね?」
「はい、家族と過ごす予定ですね」
大体のイベントは家族で過ごすのが基本なので、自然とそうなる。今年もい部からずっとであろう。
「では・・・二十三日は空いていますか?」
「二十三日ですか?そうですね・・・はい、空いていますよ」
「では、ちょっと買い物に付き合ってもらえませんか?」
買い物、か・・・
「いいですけど、何を買うんですか?」
「いくつか生徒会の備品を買い足しておきたいんですもうガタがきている物も多いですし、武双君に直してもらえないものもありますから」
金属のみでできている物やハサミやカッターと言った刃物は俺が即席工場で直したり補充したりするし、そうでなくても唯一の男でなので色々と直してはいるのだが、それでも限界はある。
聞けば、既に費用を学校から受け取っているのだとか。まあ、そういうことなら・・・
「・・・まあ、口実なんですけど」
「ですよねー・・・」
と、返事をしようとしたところで悪戯っ子の様な笑みを浮かべてそう言ってきた。ヤバい、すっごく可愛い・・・
「えっと、そう言う事なのですが・・・ダメ、ですか?」
そして、表情は一転。頬を赤らめながら身長の関係で上目づかいでこちらを見てくる梅先輩。これは・・・
「全然ダメじゃないですよ。予定もないですし、梅先輩と一緒ということなら喜んでご一緒します」
そう返事をすると、梅先輩は花が咲いたように一気に笑顔を見せてくれて、さっそく当日の予定についての話が始まった。
それにしても・・・あの表情は、ズルイ。ものすごくドキッとした。
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