戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百九十五話 長篠の合戦その十
「ではよいな」
「このまま戦い、ですな」
「そして、ですな」
「織田に勝ちますか」
「どうしても飯はな」
それは食わねばというのだ。
「駄目じゃからな」
「食わねば力が出ませぬ」
内藤が言う。
「それは」
「だからじゃ、しかし」
「はい、我等の場合は」
「攻めて忙しい」
それで、というのだ。
「それで干飯になっておるしな」
「しかも慌ただしく食っていますな」
「それも仕方がない」
彼等の状況ではというのだ。
「攻めておるからのう」
「そうですか、では」
「飯は食え」
とにかくというのだ、このことは。
だが、だ干飯を食うそれはなのだった。
「今は粗末でも仕方がない」
「それでもですな」
「勝ってから美味いものをふんだんに食え」
こう言ってなのだった、信玄も干飯を食ってそうしてだった。水を急いで飲みそうしてだった、自ら陣頭に立ち采配を振るう。
そうして必死に戦いだ、昼を過ごし。
そして夕刻近くになってもだ、まだだった。
柵は倒れていない、それを見てだった。
馬場がだ、苦い顔で言った。
「倒せぬのう」
「はい、柵が」
「全くですな」
「近寄ることも出来ませぬ」
「到底」
「うむ、鉄砲だけではない」
こう兵達に言うのだった。
「弓矢に長槍も使ってな」
「川もありますし」
「中々」
「考えおったわ、しかしな」
それでもと言ってだ、そのうえで。
馬場も何度も攻める、しかし。
そうしてもだ、柵は倒れず武田の軍勢も攻めきれずにいた。そしてその武田の軍勢を見てそうしてだった。
加藤清正がだ、苦い顔で福島に言った。
「これだけ鉄砲を揃え弓矢も長槍も使っておるのにな」
「それでもじゃな」
「武田の兵は然程減ってはおらぬ」
このことを言うのだった。
「しかも主な将帥はな」
「死んでおらんな」
「ここから見る限りな」
全く、というのだ。
「死んでおらんな」
「武田信玄が自ら陣頭に立って采配を取っておる」
「それだけにな」
「強くてじゃ」
それで、というのだ。
「兵も減らず将帥も死んでおらぬ」
「そういうことか」
「しかも武田にはあの者もおるぞ」
加藤はここでだ、柵の向こうで今も戦う幸村を見て言った。
「真田がな」
「十勇士もじゃな」
「あの者達が疲れずに攻めておるからな」
「中々のう」
「強い力で攻めればかえって死なぬ」
力負けしないからだ、だからだというのだ。
「あの者達も同じじゃ」
「そういうことじゃな」
「それでじゃ」
それ故にというのだ。
ページ上へ戻る