戦国異伝
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第百九十五話 長篠の合戦その八
「さすれば、ですな」
「わしが出る」
信玄は自ら立って言った。
「よいか、後詰も全て出してじゃ」
「全ての兵を繰り出し」
「そのうえで攻める」
「そして御館様も」
「出る」
戦の場にというのだ。
「わし自ら兵達と共に攻めるぞ」
「そうされますか、それでは」
「勘助、来るか」
「お供させて頂きます」
「それではそれがしも」
「それがしもです」
本陣に残ってい家臣達も信玄に続く。
「今こそ」
「皆で攻めましょうぞ」
「そして織田の柵を倒し」
「本陣まで攻め入りましょう」
「負ける訳にはいかぬ」
信玄もまた信玄の事情でだ、そうなのだ。
「それでじゃ、よいな」
「はい、さすれば」
「皆で」
「攻めるぞ」
こう言ってだ、まさに六万の兵全てでだった。
武田の軍勢は織田を攻めにかかった、そして織田の軍勢が鉄砲を放っているそこにだった。
織田の兵達は馬に乗るその大きな男を見てだ、思わず我が目をこすってからそのうえで唖然として言った。
「信玄入道じゃ!」
「武田信玄が来たぞ!」
「総大将自ら来たぞ!」
「あの兜は間違いないわ!」
信玄のその兜も見て言うのだった。
そしてだ、織田家きっての猛将である柴田もだ、信玄の姿を認めて言った。
「間違いないのう」
「うむ、信玄公じゃ」
織田家において柴田と並ぶ武の看板の佐久間も頷く。
「あの兜はな」
「遂に来たわ」
「そうじゃな、ではどうする」
「攻めるしかないわ」
例えだ、相手が信玄でもだというのだ。
「あの御仁が自ら来てもな」
「そうじゃな、それしかないな」
佐久間も柴田のその言葉に頷いて答えた。
「結局のところは」
「うむ、それではな」
「撃つか」
「うむ、このままじゃ」
鉄砲をというのだ。
「そして騎馬隊に矢を放たたせぬ為にな」
「こちらも矢をじゃな」
「放つ」
「そして柵に長槍を出し」
「柵に近寄せぬ」
「そうしてですな」
「このまま防ぐのじゃ」
信玄の攻めをというのだ。
「それが勝ちじゃ、しかし」
「しかしか」
「ここは」
「徳川殿の方じゃな」
彼等と共に戦っている彼のこともだ、信長はここで言った。
「徳川殿はどうなのか」
「徳川殿の兵の数は少なくじゃ」
柴田は佐久間に言う。
「鉄砲も少ない」
「それでじゃな」
「そこを攻められてな」
そして、というのだ。
「柵を破られるやもな」
「ううむ、言われてみればな」
佐久間も柴田の言葉に頷いて言う。
「そのことはな」
「考えられるな」
「大丈夫であろうか」
「気になるな、ではな」
「うむ、物見を行かせてな」
確かめようと話してだ、実際にだった。
徳川の戦の様子が確かめられる、実際に徳川の軍勢は兵の数も鉄砲も少ない。だがそれでもその中でだった。
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