ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語
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第一部 はじまり
動き出す物語
第三話 自覚
前書き
茅場の説明シーンは飛ばさせていただきます。
フードだけのGMが姿を消した後の広場は阿鼻叫喚の巷と化した。
泣き叫ぶ女性、喚く男性。その間を駆け抜けてマルバは走る。MMORPGはこれが初めてだが、RPGは昔から好きで何度もやっているから、RPGの勝手は知っているつもりだ。デスゲームと化したゲーム世界でも、プレイヤーの強さを決定するものは通常のPPGと何も変わらない。レベルが全てだ。生き残るためにはレベルを上げるしか無い。
「ちくしょおおおおおおおおおぉぉぉぉぉッ」
輝く刃が敵を切り裂く。
「なんで、なんで僕ばっかり!!」
返す刀がコンボを生み出す。
「こんな目に……遭わなきゃいけないんだ……ッ!!」
三連撃が決まり、ソードスキルの発動が終わる。短い硬直時間を強いられたマルバに、もう一体の敵の牙が迫る。
「……!」
紙一重で躱すマルバ。だが突進を避けきれずに1メートルほど飛ばされる。一瞬の浮遊感。それはあの瞬間にも似ていて……
「う、うわああああああぁぁぁぁ!!!!」
ほんのちょっと削れたHPゲージは死に一歩近づいたことを示していて。
「いやだあああああああ!!!」
見えない死神の鎌が迫ってくる気がして。
「死にたくない……ッ!!!!」
死にたくない。こんなところで死ぬのはごめんだ。どうせ死ぬなら……自分が生きた意味が欲しい。それは、マルバが普通の人生を送っていたころ散々願ったことであって。
「僕は……ッ」
この世界なら、もしかしたら……命をかけてやれることがある気がして。自分が生きた証を残せる気がして。
「僕は。この世界で……」
そうだ。この世界のクリアを達成すれば、それはたくさんの人を救うことになる。それこそ、この偽物の世界でマルバが残した、他のだれのものでもないマルバ自身の証となるだろう。そのためには……
「生きなくちゃ。なんとしてでも。こんなところで死ぬわけにはいかない。」
一気に頭が冷える。攻撃態勢を取る野犬のモンスター二匹が急にはっきりと見えた気がした。
「……ッ、」
マルバは短剣を逆手に持っているため、肉弾戦に近い間合いでなければ攻撃できない。一気に間合いを詰めつつ得物を順手に持ち替える。その勢いを殺さずに、
「はあっ!」
一閃。ソードスキルによる攻撃ではないため、敵を一瞬怯ませる程度にしか効かない。モンスターの左上のHPゲージが一割ほど減るのを確認すると同時に距離をとって迎撃態勢をとる。攻撃を受けて怒り狂った一匹が突っ込んでくるところに、突進系基本技『レイジスパイク』を打ち込む。モンスターの自重にマルバの体重と突進するスピードが加算されたダメージはモンスターの肩あたりに強ヒットし、断末魔の叫び声と共にモンスターはポリゴンの欠片となって消滅する。
そのまばゆい消滅エフェクトの中から次の一匹が飛び込んできた。その鼻っ面を籠手の左手で殴りつける。驚いたことに籠手には当たり判定が存在するらしく、一割に満たない量ではあるがモンスターのHPゲージが減少する。
マルバが衝撃を受け止めきれずにたたらを踏む間にモンスターは再度攻撃態勢をとった。
再び腰を低く落とし、右手のナイフを腰に構える。スキル『リニアー』の構え。ぐおぉっと叫び飛びかかってきたモンスターをサイドステップで躱し、その横っ腹に刺突を打ち込む。モンスターのHPが残り一割まで減少した。
突進を躱されて硬直しているモンスターに背後から滅多打ち。モンスターはあっけなく砕け散った。
「はあ、はあ、はあ……っ」
この世界では必要ないはずの呼吸を落ち着かせようと、マルバは深呼吸する。もしこの世界で自分の生きる意味を見つけられるのなら、この世界でこんな馬鹿げたデスゲームをするかいがあると言ってもいいだろう――そんなことを考えながら。
後書き
少しオリジナル設定が入りました。
レイジスパイクは片手剣の突進系の技です。また、リニアーは細剣の基本技です。ナイフは刺突にも斬撃にも使える小型武器なので、下位スキルは共通しているという設定にしました。
……単に良い感じの短剣技を思いつかなかったという理由もあることにはありますが……w
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