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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
  私の弟

六王。

それは、アインクラッド内で最強の六人のプレイヤー。

全プレイヤーの憧れでもあり、力の象徴でもある。

彼らは、常に攻略の最前線に立ち、全体を統括、コントロールしなくてはならない。

そんな六王の中でも、特に異彩を放っているのが、《冥王》である。

その名が人々の耳に入るようになったのは約半年前。

その理由は、あまりにも凄惨なものだった。

PKK(プレイヤーキルキラー)

それが、そのプレイヤーに与えられた名だった。

そのプレイヤーが行ったことは、その名の通りPK、つまりプレイヤーを殺したプレイヤーを殺すこと。

一番最初に殲滅されたのは、下層フロアを根城としていた、しがないオレンジプレイヤーギルドだった。

いつものように弱者プレイヤー達を囲んでいた。

だが、突如現れたプレイヤーがそれを阻んだ。

彼は、瞬間移動と錯覚するほどの高い敏捷値でオレンジプレイヤー達を翻弄し、その刀身の長い短刀で次々とオレンジプレイヤー達の首を切り落としていった。

それは一方的な虐殺だった。

恐慌し、命乞いさえしたプレイヤーでさえ、彼は躊躇いもなく眼前にひざまついている首を撥ね飛ばした。

その、戦闘を通り越した一方的な虐殺は、一週間で軽く三桁を超えるという前代未聞の凄まじい犠牲者を出した。その正確な数は今に至っても定かには分かっていない。しかし、二百人には達しているもう達しているという噂もある。

その一方的な虐殺、そしてオレンジプレイヤー達を一瞬で地獄、冥府に突き落とす様は、いつしか人々から畏怖、尊敬、嫉妬、感嘆、様々な感情からこう呼ばれるようになった。

冥界を統べる王。

《冥王》と。










「ろ、六王がこんなとこをウロウロしてるわけないじゃない!どうせ名前を騙ってビビらせようってコスプレ野郎に決まってる。それに、もし本当に《冥王》だったとしても、この人数でかかればたった一人くらい楽勝だわよ!!」

ロザリアが顔面を蒼白にした後、我に返ったようにヒステリックな声で喚いた。

だが、男達の誰もが蒼白な顔面を力無く左右に振るだけで、その場から一歩も歩こうとはしなかった。

その気持ちは、レンの後方に突っ立っているシリカにも解る。

なにしろ《冥王》の数ある伝説には、数十人の命を一瞬で刈り取ったという話は枚挙に暇がないからだ。

もし本当にレンが《冥王》ならば、たかだか十人ぽっちの犯罪者どもなぞ、居ないも同然のように殺すだろう。

それを知ってか、ロザリアは唇を噛み、どこか壊れたような笑みを浮かべる。

「だ、第一、こんなガキが《冥王》なわけないじゃない!」

その声に勢いづいたように、オレンジプレイヤー達の先頭に立つ大柄な斧使いも叫んだ。

「そ、そうだ!!六王なら、すげぇ金とかアイテムとか持ってんだぜ!オイシイ獲物じゃねぇかよ!!」

口々に同意の言葉を喚きながら、賊達は一斉に抜剣した。

無数の金属がぎらりと凶悪な光を放つ。

「レンくん……無理だよ、逃げようよ!!」

シリカはクリスタルを握り締め、必死に叫んだ。

ロザリア達の言う通り、いくらレンが強くてもあの人数相手に勝ち目はない。

だがレンは動かない。武器を実体化させようともしない。

そのレンの様子を諦めと取ったか、ロザリアともう一人のグリーンを除く九人の男達は武器を構えると、猛り狂った笑みを浮かべ我先にと走り出した。

短い橋をドカドカと駆け抜け──

「オラァァァ!!!」

「死ねやァァァ!!」

俯いて立ち尽くすレンを半円状に取り囲むと、剣や槍の切っ先を次々にレンの小さな体に叩き込もうとした。

──が


前奏曲(プレリュード)憤怒(ラース)


「……………………………え?」

自分より幼い少年の体を凶刃が抉る音はいつまで経っても、シリカの耳を震わせなかった。

思わず瞑っていた目を、おそるおそる開けてみると、そこには驚くべき光景が広がっていた。



刀身が消失していた。



男達の手に持っている剣呑な光を宿していた武器は、その中程から断ち切られていた。

その元凶は誰の目にも明らかだった。

先刻まで、何もなかったレンの周囲の空間に色鮮やかな赤のライトエフェクトに包まれた糸のようなものが、浮かんでいた。

やがてその赤い光は消え、その本体となる糸のようなものはすぐに見えなくなった。

「………糸…………?」

そう呟いたシリカの声は、小さく、掠れていたが、男達が完全に沈黙していたため、レンの耳に届いたようだ。

幼い少年は、場にそぐわないのんびりとした声を発した。

「おー、惜しいねー、シリカねーちゃん。正しくはワイヤー、だよ」

「ワイ……ヤー……………」

半ば呆然と繰り返したシリカの言葉に、レンはのほほんと頷く。

「そっ、お手軽なギロチンってとこかな?」

もうシリカはただただ頷くことしかできなかった。

男達に至っては、完膚なきまでに戦意を失ったようで、地面にへたりこんでいる。

「チッ」

不意にロザリアが舌打ちすると、腰から転移結晶を掴み出した。

宙に掲げ、口を開く。

「転移──」

だが、その言葉が終わらないうちに、ロザリアの後ろから転移結晶を取り上げる小さな手があった。

「はい、これはぼっしゅー」

レンだった。

「……は……………?」

「……え……………!」

シリカとロザリアは、思わず先刻までレンがいた場所を見た。

だが、その場所には凄まじい圧力が加えられたような二つの足跡があるだけだった。

「な……なん…………どう……………」

不明瞭な言葉を列挙するロザリア。訳すとすれば、なんで、どうやって、だろう。

シリカ達のリアクションを見て、うんうんと満足そうに頷き、袖口に手を突っ込み、濃紺の結晶を取り出した。

本当何でも出てくる袖口だ。そのうち、某青猫型ロボットの扉型転移装置でも出てきそうだ。

「これは、僕に依頼したおじさんが全財産をはたいて買った回廊結晶、黒鉄宮の監獄エリアが出口に設定してある。これで牢屋(ジェイル)に跳んでもらうよ。後は《軍》が面倒見てくれるでしょ」

他の男達と同じように地面に座り込んだまま唇を噛んだロザリアは、数秒押し黙ったあと、紅い唇に強気な笑いを浮かべ、言った。

「……もし、嫌だと言ったら?」

その問いに、レンはわざとらしく(あご)に手を当てて、困ったふりをしながら即答した。

「んー、そだね。手足をぶった切って、芋虫みたいな姿にしちゃおっかなー」

レンのあまりにも冷徹な言葉に、ロザリアの笑みが凍りつく。

なまじ、のほほんとした顔を崩さずに言うから、余計に怖い。

「………やりたきゃ、やってみなよ。グリーンのアタシに傷をつけたら、今度はあんたがオレンジに──」

ズッバアァァァァン!!

ロザリアの言葉は、凄まじい音に阻まれた。

口をつぐんだロザリアが、思わず足許を見ると、爪先三センチほどの地面に深々とした爪痕が刻まれていた。

「それじゃ、遠慮無く逝く?」

俯いたロザリア、そしてへたりこんでいる男達を見て、レンは言った。

「さてっと、おばさん達自分の足でコリドーに入る?それとも芋虫の姿で?僕的にはどっちでもいーけどねー」

もう、だれも強がりを言う者はいなかった。

全員が無言でうなだれるのを見て、レンはワイヤーを器用に袖口に仕舞い、濃紺の結晶を掲げた。

「コリドー・オープン!」

のほほんとした声が、シリカの耳に響いた。










三十五層の風見鶏亭に到着するまで、二人はほとんど無言だった。

言いたいことはたくさんあるはずなのに、シリカの喉は小石が詰まったかのように言葉が出てこない。

二階に上がり、レンの部屋に入ると、窓からはすでに赤い夕陽が差し込んでいた。

その光の中、溶け込んでいる紅いコートの少年に向かって、シリカはようやく震える声で言った。

「レンくん………行っちゃうの……………?」

しばしの沈黙、シルエットがゆっくりと頷いた。

「うん……。五日も前線から離れちゃったからね。すぐに、攻略に戻らないと、ね…………」

「……そう、だよね………」

本当は、連れて行って、と言いたかった。

しかし、言えなかった。

レンのレベルは聞いたところによると89、自分のレベルは45。その差44──。残酷なまでに明確な、二人を隔てる距離だ。

レンの戦場に付いて行っても、シリカなど一瞬でモンスターに殺されてしまうだろう。

「……あ………あたし…………」

シリカはそこでぎゅっと唇を噛み、溢れようとする気持ちを必死に押し留めた。それは二つの涙へと形を変え、ぽろりと頬にこぼれた。

その涙をふわりとすくい取る、幼い手があった。

思わず顔を上げたシリカの目と、思いの外接近していたレンの目が合った。

少年の吸い込まれそうな闇色の瞳は、しかし穏やかで、ほっとするような暖かさがあった。

「なんで泣くの?シリカねーちゃん。一緒に戦えないだけで、会えないわけじゃないんだから」

「………………え…………?」

「レベルってゆーのは、ただの数字だよ。この世界での強さは単なる幻想。僕がそのことに気付いた時には、すでに遅すぎたけどね」

一瞬、レンが浮かべた自嘲めいた哀しい笑みの真意をシリカが測りかねていると、レンは穏やかな笑みを浮かべた。

「……だから、僕とシリカねーちゃんが友達ってゆーことは、変わらない、でしょ?」

「うん……うん!」

相変わらずのレンの笑顔を見て、シリカはようやく心からの笑顔を浮かべることができた。

「さてと、そんじゃピナを生き返らせなきゃね」

「うん!」

頷き、シリカは右手を振ってメインウィンドウを呼び出した。

アイテム欄をスクロールし、《ピナの心》を実体化させる。

ウィンドウ表面に浮かび上がった水色の羽根をティーテーブルに横たえると、次に《プネウマの花》も呼び出す。

真珠色に光る花を手に取り、ウィンドウを消すと、傍らに立つレンが言った。

「その花の中に溜まってる雫を、羽根に振りかけるんだよ。それでピナは生き返る」

「解った………」

水色の長い羽根を見つめながら、シリカは心の中で囁きかけた。

ピナ……いっぱい、いっぱいお話ししてあげるからね。今日のすごい冒険の話を……ピナを助けてくれた、あたしのたった一日だけの弟の話を。

両眼に涙を浮かべながら、シリカは右手の花をそっと羽根に向かって傾けた。 
 

 
後書き
なべさん「始まりました!!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「はい、今回もおはがき紹介いきますよっと」
なべさん「はいー、今回送ってくださったのは、初登場の月影夜葬さん!」
レン「内容は?」
なべさん「うむ。なんとすばらしきかな、応援メールだった」
レン「なんと」
なべさん「まだ出てない六王が楽しみですーだと」
レン「すばらしい」
なべさん「やっとのことで、シリカ編が終わったので、次回から新しい編が始まります。そこで一気に出そうと思ってますよー!!」
レン「いいの?一気に出しちゃって」
なべさん「ぃんだよ。こーゆーのは一気にやっちゃった方がいいんだから」
レン「それはただ単にめんどくさかったからじゃ……」
なべさん「(無視)はい、月影夜葬さん!ありがとうございます!こんな駄文ですが、ご贔屓をよろしくお願い致します!」
レン「自分で駄文って言うなよ……」
なべさん「自作キャラや感想も待ってます!!」
──To be continued── 
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