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ルドガーinD×D (改)

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二十七話:迷子には気をつけような?


走り続ける。ただ、ひたすらに走り続ける。それが今の俺の状況だ。
バルパー達を追っていったイリナとゼノヴィアが心配なのでとにかく必死に追いかける。
それにしてもあの二人足が速いな。距離が全然縮まらないんだけど……。

それだけ必死だってことか。たく、もう少し自分の命の心配をしろよな。
失ったらもう二度と帰ってこないのに、なんでそうも簡単に危険な所に突っ込んでいくんだよ。……それだけ自分の信じる物が大切だってことか。

俺にとってのエルみたいなものか……はあ、それだと責めるに責められないな。俺も大切な者の為なら危険な所に突っ込んで行くだろうからな。仕方ない、とにかくフォローだけはしっかりとしよう。そう決めたところで俺達は町はずれにある人通りがほとんどない山に近い所に出る。

そこでようやく二人の足が止まる。そのことに俺は安堵するのではなくむしろ警戒する。
敵を追っていた二人が止まったという事は理由としては二つ程考えられる。一つ目は敵を見失った為に追う事が出来なくなった場合だ。これなら別に問題は無い。俺としてはすぐにでも引き返したいからその理由になる。

だが、もう一つの理由の場合だと厄介だ。二つ目の理由は敵と戦闘になったということだ。敵が弱い奴なら問題は無いんだけど……そう上手くいくことはないんだろうな。そして嫌な予感っていうのは良く当たるものだ。ほら、今回もその例に漏れずに―――


「ほう、恐れずに俺のとこに来るとはな。その度胸だけは褒めてやろう」


高圧的な声と威圧感を感じて空を見上げる。するとそこには十枚の漆黒の羽を広げ月光を背に受けながら佇む男の姿があった。一目で強者と分かる佇まいに長い間戦いの中に身を置いてきたと分かる鋭い空気を出す男。……間違いないな。ゼノヴィア達から聞いた今回のエクスカリバーの強奪の首謀者であり、聖書にもその存在が記される堕天使の幹部―――


「「「コカビエル!」」」


「いかにも……俺が今回の事件の首謀者であるコカビエルだ」


邪悪、そうとしか言い表せないような笑みを浮かべ俺達を見下ろして来るコカビエル。
その笑みの余りの気味の悪さにイリナとゼノヴィアが冷や汗を流す。
まあ、そうだろうな、今のイリナとゼノヴィアの実力じゃ逆立ちしたって勝てない。

俺だって骸殻なしじゃまず勝てない。しかもクォーターじゃ足りない、ハーフ骸殻以上は無いと確実には勝てないな。どうする? ここでハーフを使って一気に倒してしまうか?
……いや、今は無理だな。俺だけならともかく今はイリナとゼノヴィアもいる。

守りながら戦うのは流石にしんどい。スリークォーター以上を出せば瞬殺も可能だろうけど時歪の因子化(タイムファクターか)の影響も考えたらそこまでやる必要は無い。今はとにかくここからイリナとゼノヴィアと一緒に逃げ出すことを優先しよう。そこまで考えたところで何やらコカビエルから感心したような声が聞こえて来た。


「ほう、そこの男は自分達の実力を正確に判断出来ているようだな。しかも、この俺を倒せるとも思っている。実に面白い、すぐにでも貴様と戦いたいのだが……まだ、舞台が整っていない。どうせやるなら最高の舞台でやらねばな」


好戦的な笑みを浮かべて俺に話しかけてくるコカビエル。
俺はそれに対してただ、黙って睨み返すだけだ。
しばらくその状態で睨み合っていたがこのままではらちがあかないと思った俺の方から口を開く。


「そうか…それなら、俺達は帰らせてもらうぞ」

「まあ、待て、折角来たのを土産もなしに帰らすわけにもいかんだろう?」


そう言ってニヤリと笑い、大量の光の槍を宙に生みだすコカビエル。
くそっ、結局戦わないとダメか。これだから戦闘狂は嫌いなんだよ。
今度、美候とアーサーに会ったら八つ当たりにトマトをぶつけてやろう。
食べ物を粗末にするな? 大丈夫だ、全部あいつらの胃の中に叩きこむつもりだから問題は無い。


「では、俺はグレモリーと赤龍帝に挨拶でもしてくるとしよう……また後で貴様らの学び舎で会おう。……もっとも、この槍の雨から生きて帰ってこれたらの話だがな」

「二人共伏せろ!」

「「わ、わかった」」

「はあああああっ!」


コカビエルが腕を振り下ろすとまるで雨のように光の槍が降って来る。
俺はすぐさま二人を伏せさせてクォーター骸殻になり、襲い掛かる光の槍の群れを槍で薙ぎ払い、撃ち落とし、叩き潰し……と、兎に角がむしゃらに二人に当らないように防いでいく。

そしてやっと光の槍の雨が終わり辺りにもうもうと立ち込めていた土煙が消えた頃には俺達の立っている場所以外は地面が抉れたり消し飛んだりと散々な状況になっていた。堕天使の幹部……流石にその名前は伊達じゃないみたいだな。そう思い、骸殻を解きながらコカビエルが浮いていた場所を見てみるが案の定コカビエルは既にいなかった。

さっきの口ぶりからして間違いなく部長とイッセーの所に行ったんだろうな……。
どうする、俺も二人の所に援護に行くべきか? ……いや、その必要はないか。

コカビエルはさっき挨拶と言っていたから恐らくはそこで戦闘を始めるつもりはないだろう。でないと俺とここで戦わなかった意味がなくなる。それに舞台……何かしらの準備を進めているんだろうな。場所は駒王学園……そこにリドウもいるんだろうな。


「ルドガー…今の姿は一体何だ?」

「ゼノヴィア無事だったか。それと…骸殻の事か? ……俺の一族に伝わる力だ」

「凄まじい力だったな。君が敵だったらと思うとゾッとするよ」


ゼノヴィアに骸殻について聞かれたので答えると、イリナに手を貸して起こしながら苦笑いで敵だったらと思うとゾッとすると言われた。……いるんだよな、敵にもその骸殻能力者が。そう思うと思わず顔をしかめてしまう。

そのことに気づいたイリナがめざとく訳を聞いてくる。イリナはこういうところに機敏だな。
気づいたら人の懐に入ってきているって感じだよな。それで思わず、色々と喋ってしまうというわけだ。まあ、今の俺みたいにな。


「あいつも…リドウも同じ一族―――骸殻能力者だ」

「え! あの変な人も!?」


驚くイリナに黙って俺は首を縦に振る。厄介なことにあいつは才能だけはあるんだよな。何であいつみたいなやつがハーフ骸殻になれたんだろうな? ……まあ、考えても仕方がないか。あいつは同じ骸殻(呪い)を背負った俺が倒す、それだけだ。他の奴らには荷が重すぎるからな。

一人で全てやろうってわけじゃないけど俺以外じゃ倒せない。
それにコカビエルだっているんだ。あいつも俺以外じゃ倒すまではいけないだろうし……まあ、まだコカビエルなら上手く連携をとって戦えば今のイッセー達ならなんとか相手にはなるかもしれない。あいつらもしっかり強くなっているからな。


「さてと……イリナ、ゼノヴィア。駒王学園に向かうぞ」

「分かったわ!」

「ああ」

そして三人で勢いよく走りだそうとしてはたと足が止まる。
そして三人揃って顔を見合わせる。……不味い、このパターンはあれだろうな。
俺が初めてこの世界にきた日にも起きたあれ―――


「「「ここがどこだか分かる(か)?」」」

「「「………………」」」

「と、取りあえず、街を目指して走ろう!」

「そ、そうね」

「そ、そうだな」


どうも、また俺は迷子になったみたいです。
何とか今度は迷わずに目的地につけるといいな……取りあえず連絡だけは入れておこう。





本来であれば警備員位しかいないであろう時間帯にオカルト研究部の面々と生徒会の面々は薄ら暗い校舎の中にいた。そして彼等が集まることになった元凶たる存在コカビエルとバルパーは一切隠れる素振りも見せずに堂々と運動場にて何やら怪しげな実験を進めていた。

その様子を校舎の中から見るリアス・グレモリーは自分達の学び舎で好き勝手やられていることに納得がいかず悔しそうに唇を噛みしめながらつい数十分前にコカビエルが言っていた言葉を思い返す。


「退屈だから戦争を引き起こすだなんて……絶対にさせないわ!」


コカビエルは彼等の前で堂々と宣戦布告したのだ。駒王学園を中心に暴れまわり魔王であるサーゼクス・ルシファーを誘き出しそれをきっかけとして再び戦争を引き起すのだと。
ただ己の欲望の為に、戦いたいが為に、退屈な現状を打破するために、己が楽しむために、彼は泥沼の戦争を再び引き起こそうと言うのだ。

そんな事をリアスは決して許さない、いや許してはならないのだと自分に言い聞かせる。リアスは誇り高く、正義感の強い女性だ。
故に彼が行おうとしていることを阻止することに迷いはない。迷いはないのだが……。


「私達に出来るのかしら……」


自らの実力がコカビエルを止めるに値するとはどう客観的に考えても思えなかった。
何も彼女に才能が無いわけでも力が無いわけではない。彼女は間違いなく才能にあふれている悪魔だ。力だって同い年の悪魔と比べれば上位に入るだろう。しかしながら、今回は相手が悪すぎる。

かつての戦争を生き抜いた歴戦の猛者であり、悪魔にとっての弱点である光を十二分に使いこなす堕天使の幹部なのだ。潜って来た修羅場の数が違いすぎる。
それを前にして呑気に勝てると思えるほど彼女は驕ってはいない。
何より、以前の『レーティング』の時より彼女は自分の弱さを痛感しているのでなおさらだ。


「部長……」

「っ! 何かしら、イッセー」


俯くリアスにイッセーが近づき声を掛ける。彼女はそれに対して慌てたように顔を上げ彼の顔を見る。そしてその顔つきに思わず、息をのむ。彼の顔は気合に満ち溢れており彼女が漂わせていた悲壮感を一瞬にして打ち消してしまった。彼は自分が失敗するなどとは欠片も思っていなかった。いや、彼にとっては成功や失敗などは二の次だ。彼は心にある強い信念を持っている。それは―――


「できる、できないじゃないんです。やるか、やらないかなんです!
 やる前から諦めてどうするんすか!」


「イッセー……そうね。私が間違っていたわ。まずはやらないとダメね」


そう言ってイッセーに微笑みかえるリアス。それに対して満足げに笑うイッセー。
そんな様子を見て彼は本当に成長したものだと彼女は嬉しく思う。
そして、それもこれも今この場にいない彼がもたらしたものなのだろうと考える。

ルドガー・ウィル・クルスニク、オカルト研究部、唯一の人間にしてオカルト研究部一の強さを誇る彼が今ここに居ないのは正直に言うと痛すぎる。
しかし、居ないものはしょうがないのだ。居るもので対処していくしかない。

それに彼に頼りすぎるわけにもいかない。自分達は仲間なのだ、困った時は頼り合う存在であって片方にだけ頼るという存在であって良い訳は無いと彼女も彼も思っている。
だからこそ、彼が必ずここに来ると信じて戦う。


「リアス、結界を張り終わったわ」

「……悪いわね、ソーナ。結界を張るのを全部そっちに任せて」

「いいわよ。それに私達は貴方達にそれ以上のものを任せてしまっているのだし……」


ソーナ・シトリーは若干悔しげに顔を歪ませる。彼女達、生徒会のメンバーは学校の外へ戦闘の被害が及ばないように結界を張るのが仕事であるが、彼女としては自分の友であるリアスが自分達が安全な場所に居る間に危険な場所に行くということと、それに自分も一緒についていけないことに歯がゆさを感じていた。何もしていないわけではないのだがそれでも友が死地に赴くのに何とも思わない程彼女は冷徹ではない。
そんな彼女の心境を察したのかリアスは彼女に挑戦的に微笑みかける。


「大丈夫よ、ソーナ。私には頼もしい眷属がついているんだから」

「リアス……そうね。それなら問題は無いわね」


その微笑みに負けてソーナもまたリアスに微笑み返す。そしてそれを皮切りにリアスは歩き出す。そう、今からコカビエルが待ち受ける場所に行くのだ。彼女は自らの眷属達の前で立ち止まりゆっくりとその顔を見まわしていく。

彼女の懐刀である『女王』の朱乃、今回の件で一番気合が入っているであろう『騎士』の祐斗、緊張からか小刻みに震えながらも目には強い意志を宿らせる『僧侶』のアーシア、いつもの様な無表情に見えるが近しい物が見れば気合が入っているのだと分かる表情をしている『戦車』の小猫、そして、この眷属の精神的支柱になりつつある唯一の『兵士』イッセー。そんな彼らを見て満足げに頷いてから彼女は大きく息を吸い込んでから声を出す。


「行くわよ! みんな!」


「「「「はい!」」」」


彼女達は今初めて本当の意味での戦場に足を踏み入れた。

 
 

 
後書き
新たなトマトネタが欲しい。
トマトの神様でも降りてこないかな(´・ω・) 
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