ザンネン6……何か悪いの?
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三話
◇マヤ
私の乗るピット艦。その機体の上にある円形ハッチが開くと、そこへ運ばれる。各ピット艦に搭載されたそれぞれの機体も同様で、各機ピット艦の上へ運ばれた。
そして、カタパルトへ出た≪アッシュ≫達がそれぞれの武装を抜くと、背後のハッチ部分から電流が溢れだす。その電流がピークに達した時。各機は弾かれるようにして宇宙
(そら)
へと躍り出た。
◇
作戦宙域に到着した私達を出迎えたのは、今まで記録や映像でしか見たことのないような、現実味のない銃撃戦だった。
「わぁお。すんげぇとこに来ちゃったな」
スルガがおちゃらけた様子で言うが、その表情は少し強張っている。他のメンバーも同様で、その様子を咎める者はその場にいない。
「生きて帰れるのか……僕達」
イズルの何気ない一言に、アサギが目元をピクリと動かし、反応してしまう。今まで抑制していた恐怖心が、再び心の中に芽生えてしまったのだ。
「GDF本部作戦指揮官。ジョン・スミスです」
{MJP機関。スズカゼ少佐です}
GDF本部。そこで指揮を行っていた男性が、ゴディニオンのブリッジにいるスズカゼと通信回線を開いて連絡をとっていた。
「スズカゼ少佐。1から6号機。秘匿コードDelta-41地点にて戦闘開始をお願いします」
「了解。≪アッシュ≫各機、Delta-41地点にて戦闘開始」
「≪アッシュ≫各機、緊急停止しました」
スズカゼが指示を出すが、なぜか≪アッシュ≫達はその場に停まってしまった。
「ア、≪アッシュ≫が勝手に!?」
「うわぁぁぁぁぁ!勝手に動いちゃダメなのら~!」
勝手にピット艦へ戻ろうとする≪アッシュ≫に振り回され、アサギとタマキが悲鳴をあげる
『それは君たちの生存本能だ。君達が戦おうとしなければ、ジュリアシステムは
防御行動に移るんだ。』
シモン司令がそう伝える。
「お願い………」
私達が、戦おうとグリップを握る。するとアッシュたちは、猛スピードで加速、
そのまま前進する。
「なんだこれ!? 反応が良すぎだろ!」
その反応の良さに、誰もが驚く。まずはタマキのローズ3、パープル2のシールド
展開の指示とともに、ローズ3がシールド展開、ウルガルの小型機を弾き飛ばす。
「レッド5、ブルー1、ブラック6、シールド展開!」
敵の一団へ突撃していく三機を見たケイは、再び遠隔操作で同様のシールドを展開させる。
≪レッド5≫は何発かくらいながらもハンドガン型の銃で敵機を撃ち抜いていき、≪ブルー1≫は敵の攻撃を刀で斬り払いながら敵に接近していく。そして≪ブラック6≫は
「邪魔です!」
片手に刀を、片手にはライフルを持ち近距離、中距離戦で着実に敵を減らしていく
着実に敵を減らしていき、ついに集団のど真ん中に辿り着いた≪レッド5≫の背後を、爬虫類を連想させるような、黒い体に緑色のラインを発光させた敵機が接近する。だが……
「ッ!」
≪パープル2≫の右側にいた、黄色をメインカラーとし、右腕がライフルとなって≪アッシュ≫、≪ゴールド4≫が、右腕のライフルを構えて、そのライフルの上に頭部を移動させて狙撃モードとなり、その敵機を撃ち抜いた。
≪ゴールド4≫の狙撃は、フレンドリーファイアどころか掠ることすらさせずに敵機を次々と撃ち抜いていき、地味だが一機ずつ、着実に減らしていく。≪ブラック6≫もまた、この狙撃によって数度助けられたことやら
「急げ!彼らが時間を稼いでくれている間に撤退だ!」
≪アッシュ≫各機が「ウルガル」の機体を次々と撃墜している中、ウンディーナ周辺にて交戦していたGDF軍は、この機を逃すまいと撤退を始めた。
その間、≪レッド5≫≪ブルー1≫≪ブラック6≫≪ローズ3≫の四機は、敵部隊の中を派手に動いてターゲットを自分達だけに絞らながら敵の数を減らしていき、危うい場面を見つけた≪ゴールド4≫はそれを援護。そして≪パープル2≫は、各機に敵が来る位置を教えたり、≪ゴールド4≫に狙撃する位置を指示する。
互いに足りないものを補うかのように戦う彼らは、まるで一つの生き物となっており、普段「ザンネン6」とバカにされているとは思えないほどの戦いっぷりを見せていた。
「≪ローズ3≫、ミサイル発射!」
「了解!」
この≪ローズ3≫のミサイルが決め手となり、ウンディーナ周辺にいた敵の先鋒は壊滅状態となった。
「ウンディーナ基地、第3起動歩兵連隊。外惑星方面軍第21連隊。撤退完了しました」
GDF本部にて戦況を見守っていたジョン・スミスはホッとしたようにため息を吐き、本部の重鎮達は、この作戦を成功させた立役者である≪アッシュ≫とそのパイロット達に感嘆の声を洩らした。
「撤退完了よ。帰還して!」
作戦の成功を見届けたスズカゼが、≪アッシュ≫各機に指示を出した。
一方。激しい戦闘を終えたチームラビッツとシロウは、ウンディーナ基地の真上で合流した。そして、指示の通り帰還しようとしたのだが……
「ん?まだ人が……」
「私が確認する」
イズルがウンディーナ基地内に人影を見つけて、言葉を洩らす。
その言葉を聞いたケイが、≪パープル2≫の管制システムを利用して、その人影をズームしてモニターに映す。するとモニターには、ウンディーナ基地内に取り残された民間人の姿が映された。
「本当だわ。こちら≪パープル2≫!ゴディニオン。応答してください」
確認したケイは、急いで通信回線を開き、ゴディニオンのブリッジに民間人が取り残されていることを伝える。
「ッ!……GDF本部。まだ民間居住区に人が残っています」
「……もう無理です」
「しかし!」
「引き上げてください。彼らが乗る船はもうありません」
そういうジョン・スミスの表情は苦汁に満ちており、声も震えていた。
このことに気付いたスズカゼは、言いたいことを飲み込んで、シモンの方を見る。シモンはただ首を振るだけで、何も答えてくれなかったが、それだけで答えを理解したスズカゼは、悔しそうな表情で俯く。そして顔を上げると
「1から6号機。帰還しなさい」
いつもの表情、いつもの声で、そう命令を下した。
その命令に、仕方がないと≪アッシュ≫各機は帰還しようとしたのだが……≪レッド5≫だけが動かないのを見て、怪訝な様子でイズルへ通信を開く。
{イズル?}
{どうしたの?}
{帰還しろって………}
{帰還しますよ?}
{何やってんだよ}
アサギ達にそう言われるが、イズルは俯いたままで表情が見えない。だが
「まだいるだろ……」
と、低い声で言う。
普段のイズルとはかけ離れた様子だが、今この場でそれに気付く者はいない。
「あの人達を助けるにはここにいる敵を倒すしかないのよ!?」
{無茶だ!たったこれだけの数で……}
「無茶しなきゃ……」
アサギの言葉を遮り、イズルは
「ヒーローになれないだろ!」
と、叫んだ。
普段見せないイズルの叫びを聞いた私達チームラビッツは
「……キャラじゃな~い」
「それお前のキャラと違うだろ」
「なんだよその熱血」
「どこの熱血教師ですか!?」
「ヒーローって本気だったの……」
と、総ツッコミだった。
{来るわよ}
{お前のせいで戦うしかなくなったろうが}
そう拗ねたように言いながら、アサギはいつでも戦えるように身構える。他のメンバーも同様。いつでも戦えるように、それぞれの武器を構えた。
{どうして撤退しない!敵の主力部隊とまともにやりあう気か!}
「もう戦うしかありません」
攻めるような口調で言うジョン・スミスに、スズカゼは諦めたような声音で言う。
{どうやったら勝てるんだ}
{やっぱり、逃げた方がッ!}
アサギが敵の数を見て呟き、スルガがヘタれた声音で言う。
通信越しに聞こえているはずの会話のはずだが、今のイズルには聞こえていなかった。なぜなら、今イズルの心の中では、二つの本能がせめぎ合っているからだった。
「逃走」と「闘争」。似ているが、全く正反対の意味を持つ言葉。この二つが、今イズルの中でせめぎ合っているのだ。
そしてこの現象は、イズルだけではなかった。
(戦え……護れ……戦え……護れ……)
私もまた、二つの本能がせめぎ合っていた。
「闘争」と「守護」。言葉も意味も違う二つが、今私の中にあった。そして――
(逃げろ……)
「戦え!はぁぁぁぁぁぁ!」
(護れ……)
「戦えッ!がぁぁぁぁぁぁぁ!」
珍しく雄叫びを上げると、≪レッド5≫と≪ブラック6≫の二機が、敵の本体に突撃していった。
自身達を囲む敵の群れを次々と撃破していく二機だったが
「イズル!右!マヤ!上から!」
「「ッ!?」」
≪レッド5≫はハンドガンを、≪ブラック6≫は片手に持っていたライフルを破壊された。
丸腰になった≪レッド5≫だが、勝手に自らのピット艦へ武器の射出要請を行う。
「勝手に!?」
驚くイズルだが、その間にも次々敵が襲ってくる。
「HEPキャノン!最大出力で発射!」
≪レッド5≫からの要請を受けたピットクルーは、その指示の通りに武器を射出する。
その間、敵機を殴ったり、腰部に装着された小型のマシンガンで敵を牽制したりして、ピット艦から射出された武器が届くまでの間、上手く立ち回っていく。
一方《ブラック6》は、片手の刀で敵機を撃破していくが敵の攻撃でおれてしまう。
「ッ!勝手に武器を?」
≪ブラック6≫もまた、機体が勝手に武器の射出要請を行い、その事に私が驚愕する。
その間も敵機が襲ってくるのだが、両脚についているアーマーシュナイダーでなんとか敵機を撃破する
「アグニ、最大出力で発射!」
≪アッシュ≫が出撃した時と変わりないスピードで射出した。
後ろから援護射撃を行う≪ゴールド4≫≪パープル2≫≪ブルー1≫の間を通り抜け、敵の隙間をギリギリですり抜けていき、≪レッド5≫にはHEPキャノンが。≪ブラック6≫にはアグニが装備された。
≪レッド5≫は側面の装甲を開いて周囲に機雷をばら撒いて近い敵機を片づけると、レーザーを放って機雷を逃れた敵機を撃ち抜いていく。
≪ブラック6≫は、腕に直接装着されたアグニを、敵が固まっている方向へ向け、トリガーを引く。アグニから発射された強力なエネルギーの塊は、射線上にいた敵を塵も残さないくらいに蒸発させながら進んでいき、この部隊のリーダーらしき巨大な機体の一部すら蒸発させた。
この戦闘をモニターで見ていたゴディニオンのブリッジクルーとGDF本部のジョン・スミスと他の重鎮たちは、呆然とその圧倒的な戦いを見ていた。ただ、シモンだけは、僅かに笑みを浮かべて目の前の光景を見ていた。
やがて、突撃してきた主力部隊の先頭部分を全滅させられた「ウルガル」の部隊は、木星方面へと撤退していった。
撤退する「ウルガル」を見て、イズルは唖然とした表情で戦いを止めると、≪レッド5≫は関節部分から火花を散らしながら停止し、アグニを放とうとした≪ブラック6≫も、発射しようとした態勢のまま停止した。
「敵機、撤退しました」
「≪アッシュ≫全機、残存確認」
ゴディニオンの観測機を監視していたクルーは、驚いていた表情をすぐに引っ込めて、状況を報告する。
「敵機ウンディーナを離脱。木星方向へ向かっています」
「放棄するはずだった基地を……護った?」
予想以上の戦果に、GDF本部の重鎮達は驚愕の表情になる。
初出撃で「ウルガル」の部隊を撤退させ、放棄するはずだった基地を結果として護った自分の教え子達の戦果に、スズカゼもまた驚愕の表情を浮かべた。
「やった……?」
自分達の成し得たことに呆然とし、このことを信じられないような声音で呟く。
他の皆も同様で、呆然とした表情で固まり、撤退していく「ウルガル」の部隊を見ていた。
私は、ウンディーナ基地にいる民間人を護れたことを誇りに思い、また、自分の中で確かに起こっている変化に、戸惑いの表情で自分の手を見た。まるでそれが、自分のではなく他人の手なんじゃないかと疑うような表情で。
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