吉原桃源郷・闇と光とお前と
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第壱話・吉原にて
ポツリポツリと又、雨があいつの涙のように降り出す。あぁこれで何度めだろうかと思い
ながら俺は吉原の街を行く。
ここは、男の桃源郷、「吉原」花魁たちが「私を買っていただけないでしょうか?」と、
聞いてくる。
「うい~す。アソビにきました。」
「ようこそ、おいんでくんなまし。あら、トリさんじゃないですか。御久方ぶりです。」
俺が挨拶をしながら、店の中に入ると出迎えてくれたのは、ここを取り仕切っている、
上方の花魁、火の華だ。
「それにしても、今日は雨ですね。こういう日には、虚しくなって嫌ですよ。」
「そうですねぇ。で、今日はおアソビに?」
「あぁそのつもりだが、品定めをさせていただく。」
「はい。どうぞ。おあがりください。」
俺は、10人ほどの中から、今宵の戯れの相手を探す。火の華がいろんな女を勧めて
くるが、やはりあいつには勝てない。
「じゃぁ、この女にする。」
「はい、わかりんした。」
仕方なく、決めた女が、いそいそと、準備をするために、奥の部屋へと向かう。そし
て、俺もアソビ場へと向かう。半刻程すると花魁がやってきた。準備は万端みたい
だ。
「ここに、座れ。」
「はい。」
俺は花魁を隣に座らせる。
「まずは、酒をついでくれ。」
「はい。」
という感じのせわしない、やりとりを半刻程たしなんでいたとき、ほとんど喋らない
でいた花魁が急に口を開いた。
「その~?貴方様には、お好きな人などはいたのでしょうか?」
俺はコイツはバカだと、思った。普通この時代では、女が男にそういう、恋愛関係の
事を聞くなどご法度だからだ。
「まぁいたな。でも、さらわれちまった。」
「さらわれた?」
「あぁ。そうだ。5年前あいつは、人攫いにあってな。吉原へ連れ込まれたらしい。」
「そうでありんすか・・・。だから、わっちらの顔を見ようとしないでやんすか?」
「あぁ。そうだ。」
「その好きな人と重ねてしまうから?」
「あぁ・・・」
「それにしても、お前はあいつとよく似ている。美希とな。」
「そうでありんすか。では、顔を見ておくんなまし。」
「あぁ。そうさせていただく。」
そう言いながら、娘の顔見る。あいつと似ている。
「なぁ、お前って美希じゃない・・・よな。」
「いいえ。私は、美希よ。トリ君。」
俺は言葉を失った
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