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とある英雄の逆行世界

作者:大城晃
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幼年期編
第7章
  出会い―ブリテンの少女―

 
前書き
超久々更新です。 

 
20XX年8月29日


「だめっ!」


 少女が自分の手を弾いて少年との間に割って入った。少女にそんな顔をさせたのは“何”なのか、そして自分が少年と“右手”で握手をしようとした時に感じた“不吉な予感(ちょっかん)”は何だったのか。ほとんど何も分からない。私の直感が伝えてくるのは“少女”に私は護られたのだろうという事、ただひとつだけだ。


「…ごめんなさい」


 私がつい呆然としていると、少女が申し訳なさそうにして謝ってくる。私が気にしていないと言おうとした時、少女は少年のほうを向き右手を伸ばし――


「当麻」


――蒼い雷を少年に向けて放った。




 時は十数分前にさかのぼる…。





 夏休みも終盤に差し掛かったある日の事、美琴と当麻は学園都市の自然公園の近くにある、屋敷を訪れていた。


「…でっけえなー」

「…確かにねぇ」


 美琴と当麻の前に立つのは武家屋敷といった佇まいの日本家屋。学園都市の中ということで考えると大変に珍しい建物だ。

 なぜ美琴と当麻がこんなところに来ているかといえば話は夏休みの士郎と凛との出会いまでさかのぼる。まぁ一言で言うとすればこの屋敷、今日から美琴たちの家ということになるのだ。


「そんなところに突っ立ってないで、入るわよ。当麻、美琴」


 美琴たちの後ろからそう声をかけるのは、赤の似合う美しい女性。名を衞宮凛という。今日から美琴たちの保護者となる人物で9月から学園都市で教師として働くことになっている。


「「はーい、凛さん」」

「ん、じゃ入りましょうか」


 そう言って三人が門をくぐり玄関に向かって歩いていると玄関が開いて一人の男性が出てきた。
 
 オレンジがかった髪の長身、日本人とは思えない印象の男性…凛の夫である衞宮士郎だ。


「お、着いたな。お帰り凛。美琴、当麻、ようこそ我が家へ。歓迎するよ」

「これからよろしくお願いします。士郎さん」
「よろしくお願いします士郎さん」

「ただいま士郎。セイバーは?」

「道場のほうにいるみたいだな。とりあえず三人とも入ったらどうだ?」


 そう言うと士郎は自然な動作で荷物を受け取ると、三人を玄関の中に招き入れたのだった。




 いったん荷物を置くと四人は屋敷の敷地内にある道場に向かっていた。屋敷に一緒に住むことになるアルトリア・セイバーに美琴と当麻を引き合わせるためだ。
 

「セイバーさんってイギリスの人なんですっけ?」

「ええ、そうよ。本人はブリテンって言うほうが気に入ってるみたいなんだけどね」


 凛は美琴の質問にそう答えると美琴の手を取って歩き出す。


「なぁ美琴、ブリテンってどこの事だ」

「イギリスの事ね、イギリスはグレートブリテン島を国土とする国だから」

「ふーん、そっか。確かに美琴に習った覚えはあるな」


 当麻は美琴の答えに納得したという風に頷く。本当にどっちが年上かわからない状態だ(見た目は明らかに当麻が年上なのだが)。

 ちなみに美琴の隣を歩く当麻は右手を美琴と左手を士郎とつなぐ形で歩いている。
 四人の年齢差も相まって町を歩けば家族連れと見られること間違いなしの光景である。


 そんなこんなで話しているとすぐに道場に着く。屋敷の敷地内であるのだから当然といえば当然の帰結である。

 士郎は当麻の手を離すと道場の中に入り声をかけた。


「アルトリア、三人が到着したぞ」


 道場の中心に正座をして座るのは十代半ばと思われる少女だった。

 肩にかかるくらいの金糸の髪、白のブラウスに群青色の膝丈スカート、妖精と思ってしまえるくらいに整った容姿。
 それだけならば消えてしまいそうな印象を受けるだろうが、少女が持つ存在感がそんな印象を欠片も感じさせなかった。

 少女は士郎の呼びかけに振り返るとゆっくりとほほ笑んだ。


「すいません。もうそんな時間だったのですか。リン、お帰りなさい。それと…二人がミコトとトウマですね。はじめましてアルトリア・セイバーです。アルトリアとお呼びください」


 流暢な日本語だ。彼女の容姿から考えると少々違和感が感じられるかもしれない。
 だが美琴はその時、容姿だとか流暢な日本語だとかそういうものに一切驚いてられる余裕がなかった。


(なんて、量の力の塊なのよこの人は!)


 美琴が驚いていたのは少女-アルトリアの存在そのものだ。

 AIM拡散力場の超密度の集合体。美琴から見たアルトリアはそういう存在だった。要は能力者の能力が自我と質量をもってその場に存在しているような状態。
 どうすればそんなことができるのか美琴には想像もできなかった。

 いや、知識としてならば一応存在している。

 魔術や教会方面の知識としてだが。―天使や神、そう言った存在をこの世に下ろす方法が一応魔術の中には存在する。現実的にはほぼ不可能だと思われるだが目の前にその実例と思われるものを見てしまうと信じざるを得ない。


「はい、上条当麻っていいます。こらからよろしくお願いします」

「あ、み、御坂美琴です。よろしくお願いします」


 美琴は混乱の極致といった状態であったが、反射的に自己紹介を済ませる。
 美琴の様子に少しいぶかしげにしながらもアルトリアは静かに微笑むと右手を差し出した。


「ええ、よろしくお願いします。美琴、当麻」

「はい、よろしくお願いします、アルトリアさん」


 その手に応えるように当麻が右手(・・)を差し出す。

 それを見て美琴が思い出すのは前世(今もか?)で自分が繰り出した能力が当麻の右手によって掻き消される(・・・・・・)光景。

 その後の美琴の動きは迅速だった。
 常識の埒外の速度をもって二人の間に割って入り二人を引き離す。
 士朗や凛でさえも反応できない速度。それに目を見張る士郎や凛をしり目に美琴は当麻へと右手を向け、そして―


「当麻」


 ―全力で能力を行使し、蒼い雷を当麻に向かって放った。




 そして時間は冒頭に至る。 
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